銀の守護聖
別世界・もう一つの物語
エピローグ(4)
 

**確かな心...続・恋敵(?)は息子**

 「だけどよ、本当に傑作っていうか・・なんていうか・・・」
公園でゼフェルはランディーとマルセルとで話していた。
「さすがのオスカー様も落ち込んでるみたいだよ。」
ランディーもくすっと笑って言う。
「だよな。まったく退屈しねーよな、ちびオスカーには・・・・とと・・・」
ゼフェルは口を押さえて、辺りをきょろきょろする。
「い、いないよな・・・」
それを見てマルセルがくすっと笑う。
「いないみたいですよ。」
「ふ〜〜・・よかったぜ。いたらやばかったもんな。」
「そうだよな、この前ちょうど近くにいたらしく、ものすごい勢いで怒ったもんな。」
その時の様子を思い出し、ランディーがくすくすと笑う。
「あいつガキのくせに結構やるもんな。下手すると大怪我だぞ?」
苦笑いしてランディーを見るゼフェル。
「さすがオスカー様とセクァヌの息子ってとこかな?オレも負けないように頑張らないと。」
「そうだぜ、うかうかしてると抜かれちまうぞ、ランディー?」
意地悪っぽい目でゼフェルはからかう。
「10以上離れてるのにそれはないんじゃないかなー?」
「でも、あいつが今のオレたちくらいになったらわかんねーぞ?」
「う〜〜ん・・・」
思わずランディーは考え込む。
「それって、オレがオスカー様くらいの年齢になったら分からないってことも言えるんだよな。」
「ん?」
ゼフェルはランディーを見てから付け加えた。
「ま、せーぜー頑張りな、剣少年。」
「なんだよ、それ?ゼフェルこそ機械いじりばかりしてないで少しは身体を鍛えたらどうなんだい?」
「オレ様は文化的なの。そんな野蛮なこと・・・・」
鋼の守護聖ゼフェルは、手先の起用さ、いわゆる文明、科学の力の源が保持しているサクリアである。それに従って機械いじりは大好きである。
「だけど、ゼフェルもあんまりジフィードをたきつけるようなことは言わない方がいいんじゃない?」
マルセルが心配そうな顔で言う。
「ジフィードってゼフェルに一番なついてるから、影響が大きいんだよ。」
「そう言えば、この前、オスカー様のことを『女の子なら誰でもいい女たらし』って言ってたけど・・あれってゼフェルの影響なんじゃ?」
「あ・・・あはは・・わ、わりぃ・・・つい口から出ちまったんだ。あいつそれ覚えちまったみたいで・・・・。」
「親子の仲悪くしてどうするんだよ?」
「そうだよー。せっかくこの聖地で親子一緒にいられるのに。」
マルセルの言葉で、3人思わず自分達の家族のことを思い出す。守護聖になる前、みんなと一緒に楽しく暮らしていた頃を。

「まー、なんだ・・今度よーく話とくよ。」
し〜〜んとなって沈んでしまった雰囲気を打ち消すように、ゼフェルが元気よく言った。


そして、その話題の親子は・・・・・

−カチャリ・・・−
夜遅く、オスカーは闇の守護聖の屋敷、ジフィードの部屋にそっと忍び込んだ。
(・・・守護聖であるオレがなんでこんな事を・・・)などど思いながら。
そして、問題のジフィードがセクァヌの片腕をぎゅっと握り締めて寝ているのを見てふっと笑う。
「まったく・・・最強のガードだな。」
起きはしないかと心配しつつそっとその手をセクァヌの腕から離れさせる。どうやらジフィードは完全に寝入ってしまっているらしく、びくともしない。
「オ、オスカー?」
その気配でセクァヌが目覚める。
「しーっ!」
ジフィードの手から開放されたセクァヌの腕を、今度はオスカーが握ってそこから離れさせると隣の彼女の部屋へと連れて行った。

−カキン!キン!ガキッ!−
翌朝、ジフィードは剣の音で目覚める。
「ん?かあさま?」
隣にセクァヌの姿がないことに気づき、がばっと飛び起きる。
「かあさま・・・?」
いつもなら部屋にいるはずのセクァヌがいない。
「ひょっとしてあいつに?」
ぎくっとして全身を緊張が走るジフィードの耳に再度剣の音が飛び込む。
−カキン!キン!−
「え?」
慌てて窓から外を見る。
そこではオスカーとセクァヌが剣を交えていた。
−キン!カキン!−
「・・・かあさま・・・」
初めてだった。いつもやさしく微笑んでいるセクァヌしか知らなかったジフィードは驚いて目を見張る。確かに女王陛下直属の近衛長であることは知っている。が、これほどのセクァヌは見たことはない。それに、ゼフェルからは『陛下とロザリア様の話相手』と説明を受けていたこともある。聖地に来る前一緒に暮らしていた頃、ジフィードに剣を教えてくれたのは母であるセクァヌではあったが、目の前で繰り広げられている光景、その張りつめた緊張感・・それは、ジフィードが初めて感じるものだった。
陽の光をはじき、黄金色に輝いて射るような視線を発する瞳、そして朝日を浴び、同じく金色に輝く髪を躍らせ俊敏に動く身体。周囲を包む張り詰めた空気。
そしてその彼女に対するオスカーの真剣な眼差し。熱を帯びたアイスブルーの瞳が鋭い視線でセクァヌの攻撃を捕らえる。
「・・・とう・・さま?」
−キン!−
剣の交差と2人の視線の交差。見つめあうアイスブルーと銀の瞳。その真剣さに、ジフィードは子供心にも思わず熱くなってくるものがあった。そんな真剣なオスカーを見たのもジフィードは初めてだった。そこに『女の子なら誰でもいい女たらし』のオスカーはいなかった。
−タタタタタ・・・−
思わずジフィードは自分の剣を握り締めると、階下へ、2人のいる庭へと急ぐ。
「とうさま!」
「ん?」
「ぼくもお願いします!」
「ああ。じゃー、かあさまと交代だ。」
真剣な瞳のジフィードを見て、オスカーは満足そうに微笑みながら答える。
−キン!キン!カキン!−

剣を交えればその人となりがわかる。小さいながらもやはり剣士の心をもって生まれたジフィードは、ようやくそれでオスカーを認めたらしい。剣を交え、互いを見つめ合う2人の真剣な眼差しの中に、お互いを思う確かな気持ちがあるということ、と、そして、それが自分にも向けられているということにも。

「まるでオスカーが2人いるみたいだわ。」
大きなオスカーと小さなオスカー、2人のアイスブルーの瞳がしっかりと相手を捕らえ、そして、そこに確かな心の交流があった。
セクァヌはそんな2人のオスカーの様子に微笑みながら、幸せを噛みしめていた。

かくして聖地での一騒動も終着となった。
が、オスカーの例の行動はどうあってもジフィードには理解できなさそうだった。『大きくなったらぼくはとうさまのような立派な剣士になる!でも、ぼくは大切な女の子を守るんだ。たった一人の大切な女の子を。かあさまのように素敵な子を。』

世間ではそれを一般的に反面教師という・・・。


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