銀の守護聖 
別世界・もう一つの物語(15)
 

**束の間の再会**

 「皆様、謁見の間へおいでくださいませ。闇の守護聖様、まもなくおつきでございます。」
−ガタタッ−
女官の知らせで全員謁見の間に急ぐ。
そして、全員揃ってから少し後に姿を現したアンジェリークやロザリアと共に、今か今かと待つ。

−コツコツコツ−
4歳になったばかりのその小さな闇の守護聖は、オスカーを伴って、謁見の間へ入ってきた。

「・・ち、ちびオスカー?・・・。」
一目見るなり思わずゼフェルが声に出す。それはそこにいた全員思っていた。
小さいながらも堂々と歩く鎧姿のその様は決まっていた。
前方をきっと見据えたアイスブルーの瞳はオスカー譲り。そして、髪は、セクァヌ本来の髪のものと同じ黒髪。

アンジェリークの面前まで歩み出ると、ひざをつき、丁寧にお辞儀をする。
「ジフィードと申します。お目にかかれて光栄でございます、女王陛下。」
アンジェリークはにこっと笑って答える。
「よろしく、ジフィード。」
「はっ。」
「さすがセクァヌだぜ・・・しつけが行き届いてら・・・」
「そうだな。ゼフェルよりよほど大人みたいだな。」
「んだとー?」
−ガン!−
喧嘩になりそうだったランディーとゼフェルの頭を小突いてオリビエが睨む。
「見てごらん。」
「え?」
「ん?」
必死になってこの日のために覚えた言葉を言ったのだろう。言うべきことを言った後、小さな闇の守護聖は、あふれ出てきた涙を必死に堪えていた。
「かわいいもんじゃない?」
オリビエはにこっとして言った。
「あらあら・・・・・」
その愛らしさに思わずロザリアが駆け寄って抱き上げる。
「かあさま・・かあさま・・・」
ロザリアの温かさに耐え切れなくなったジフィードが泣きながらセクァヌを呼ぶ。
「ジフィード・・・」
そのいじらしさにロザリアはぎゅっとジフィードを抱きしめた。

−ヒヒヒヒヒーーン!−
と、その時、宮殿の外でセクァヌの愛馬、イタカの嘶く声がきこえた。
「かあさま!」
びくっとしてジフィードは外を見る。涙で潤んだアイスブルーの瞳で、壁で見えるはずのない外を見つめる。

「なんだ、どういうことなんだ、これは?」
どうも様子がおかしい、とオスカーはロザリアを見る。
アンジェリークの計らいで、親子3人、聖地で暮らせることになっていた。が、今のジフィードの様子は単に母親の胸が恋しいだけではないように思われた。
しばし沈黙のあと、アンジェリークは悲しげに瞳を閉じ、ゆっくりと口を開いた。
「彼女は族長として生きることを選んだのです。」
「どういうことですか、陛下?さきほど彼女と会ったときにはそのようなことは一言も言ってはいなかった。それに、族長と言ってもそれは・・・」
驚きの表情でオスカーは聞く。
「そうです、彼女がそうであった頃からもう100年以上がすぎています。でも、彼らは覚えていたのです、彼女を。そして、再び国が揺れ動いている今、彼女にはそれを見過ごすことができなかったのです。ここで平和に暮らすことより、国のために、人々のために戦うことを選んだのです。人々がそれを望み、彼女はその期待に応えたのです。」
「そ・・・・んな・・・・オレは・・・」
「オスカー!」
咄嗟に追いかけようとしたオスカーをアンジェリークはとめる。
「しかし、陛下!」
悲痛な表情で叫んだオスカーに、アンジェリークは片方だけのイヤリングを渡す。
「これは・・オレがお嬢ちゃんに・・・」
「片方をあなたに返してくれと頼まれました。あなたの傍に置いてほしい・・できたら身につけていてほしい、と。」
それはアイスブルーの石をその先端につけた銀製のイヤリング。
「『勝手なことをしたこんな私を、もし、オスカー様が許してくださるのなら、そして、それでも私を愛してくださるのなら、どうか、探してください、この生が終わり、生まれ変わった私を。』・・それが彼女が私に頼んでいった言葉です。」
「セクァヌ・・・・」
オスカーは震える手で、アンジェリークの手からイヤリング取ると、ぐっと握り締めた。

「オスカー様・・・」
その日から1月が過ぎた頃、ベッドで寝ていたオスカーは、セクァヌの声を耳にしてがばっと起きた。
「・・・・・逝ったのか・・・・・。」
セクァヌの死を感じ、こめかみをぐっと掴んでしばしオスカーは悲しみに沈む。
−バサッ−
そして手早く着替えると、オスカーは闇の中、馬に乗って森へと向かった。セクァヌと駈けぬけたあの森へそして、お互いを確認しあったあの泉のほとりへ。

 

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