銀の守護聖 
別世界・もう一つの物語(7)
 

**ゼフェル噴火**

 「だから守護聖なんて・・・守護聖なんて・・・・」
中庭でマルセルから話を聞いたゼフェルは、わなわなと拳を震わせながら怒っていた。
「守護聖が何様だってんだよっ!エエッ?!ルヴアッ?!」
またしてもゼフェルがなにやら大騒ぎをしていると聞いて、飛んできたルヴァに八つ当たりする。
「ゼフェル・・・・しかしですね〜・・・・」
「だいたい、サクリアが見つかっただけで、有無も言わさず連れて来やがって・・・オレ達は犬やネコじゃーねーんだぞ?」
「ゼ、ゼフェル・・・」
「たったそれっぽっちのことで、家族も友人も、故郷も、全部捨てなくちゃいけなくなるなんて・・・それで、サクリアが無くなればもうお払い箱、用はねーから帰れってもんだ!」
「ゼフェルッ!」
温厚なルヴァが思わず怒鳴る。
「だって、そうじゃねーかよ?それに・・時間の流れが違うんだ。・・帰ったって・・・知ってる奴なんかだ〜れもいやしない・・・。」
「ですが、ゼフェル・・宇宙の存続の為には・・・」
「なんだよ?オレはそんな冷たい人間じゃねーよっ!よく平気な顔して言えるな?!」
「・・ゼフェル・・・・」
話の内容を聞いたルヴァもさすがに今回はどう言ったらいいのか分からない。
マルセルが耳にしたのは後半部分、あと3ヶ月で好きな人と一緒になるところを引き離されてここへ来たということのみ。が、それでもゼフェルの怒りに火をつけるのに、そして、他の守護聖を沈み込ませるのに十分だった。

「皆様、何か?」
いつの間にかジュリアスとオスカー以外中庭に集まってきていた。ちょうどそんな時、近くを通りかかったセクァヌが声をかける。
「あ・・・・・。」
カンカンに怒って怒鳴りつづけていたが、思わず口篭もるゼフェル。
「ああ、すみません、今あなたのところへも、呼びにいかせようと思っていたところなのですよ。」
リュミエールの言葉に、何を言うつもりなのだ、と全員ぎくっとする。
「マルセルが特製のお茶を入れてきてくれましてね、おいしいんですよ、これが。」
機転を利かし、微笑みながら言うリュミエールに全員ほっとする。仮に、咄嗟のことで別になんでもない、と言ってしまったら、ほぼ全員揃っている今、その言葉は、セクァヌにだけ関係ないという意味になってしまうところであり、それは彼女の孤立感を強める結果になるのは明らかだった。
「マルセル様特製のお茶?」
「ええ、そうですよ。冷茶なのですが・・・」
すっかり冷めてしまっていたのを思い出し、リュミエールはくすっと笑って付け加えた。
「私もよろしいのでしょうか?」
「勿論ですよ。どうぞ。」
そっと手を差し伸べ、リュミエールは近くのベンチへ彼女を座らせる。
「おい、早くしろよ!」
その間にゼフェルとランディーは、あたふたと慌てて危ない手つきになってしまってるマルセルを急かしていた。
「はい、どうぞ。」
「ありがとうございます。」
マルセルからカップを受け取ると、セクァヌはこくりと一口飲んだ。
「本当ですね。とてもさわやかな香りがして、口当たりがいいし・・・」
「そ、そう?よかった。」
思わずマルセルはほっとする。ホントは冷やして飲んだ経験がないので、どんな味がするのかドキドキだった。
「でも・・・」
「でも?」
ぎくっとするマルセル。
「もう少し冷やしすともっと美味しくなるような気がします。」
「あ・・・そ、そうかもしれないね。うん、今度やってみるよ。」
慌てて返事をしたマルセルに、セクァヌはいつもの静かな微笑を見せた。
それを見て、そこにいた全員、その微笑の影でどれだけの涙を流しているのだろう、と思わずにはいられなかった。

「でも、結局どうしようもないんだよねー。」
リュミエールがセクァヌを送っていくのを見届けてからオリビエがため息をつきながら言った。
それは怒ってみてもどうにもならないことは、ゼフェルにも分かっていた。分かっていたが、たまらなかった。
「オレ、今度の日の曜日、彼女を公園へ誘ってみるよ。」
ランディーが閃いたように元気よく言う。
「思いっきり身体を動かすのもいいんじゃないかな?」
「なんだよ、それって犬とフリスビーか?」
馬鹿にしたようにゼフェルがランディーを見る。
「ぼく、今日帰ったら、お花を持っていってあげよう!」
「なに〜?ぬけがけだぞ、マルセル!」
「うんうん・・・みんないい子たちばかりですね。」
ルヴァが嬉しそうになんだかんだと言い合っている3人を見て微笑んだ。
「じゃー、わたしも彼女に似合うドレスでも見立ててあげようとするか。あとお化粧おしえてあげるって手もあるよね。」
「あ・・・じ、じゃー私は・・・・」
何にしようかと考えているルヴァをゼフェルは笑いながらからかう。
「あんたは本しかないからなー・・・あとお茶とせんべいか?」
「そうそう!」
ぽん!と拍手を打ってルヴァは目を輝かせた。
「一度釣りにでも誘ってさしあげましょうかねー?のんびりするのも時にはいいものですからねー。」
「あんたじゃないんだぜ?」
「おや、だめでしょうか?」
「女の子にそんなのダメに決まってますよ、ルヴァ様。」
ランディーも笑いながらたしなめる。
「それに、今度の日の曜日はぼくが誘いますからね、ルヴァ様も、オリビエ様もいいですね?」
「仕方ない、今度はさわやか少年に譲るか。まー、しっかりおやり少年!」
ぽん!とランディーの頭を軽く叩くとオリビエはウインクしてそこを立ち去った。
「仕方ないですねー、何かあの年頃の女の子の好きそうな本でも探してみましょうかねー。」
「ルヴァ!間違っても恋愛小説はダメだぞ!」
ゼフェルの声が歩き始めたルヴァに飛ぶ。
「あー、はいはい、そうですね、それは肝に銘じておくことにします。」
「あー、あぶねー・・・言わなかったらドボン!だぜ?」
ぷっ・・・あははははっ!
3人組は顔を合わせて思わず笑っていた。
「ともかく、今度の日の曜日はオレたちで楽しもうぜ。」
「え?ゼ、ゼフェルやマルセルも来るの?」
「あたりまえだろ。お前女の子苦手じゃないか?」
「そういうゼフェルだってだろ?」
「いいじゃない?みんなで仲良く楽しくやろうよ、ねっ!」
「なにをー?お前なんて、今日ぬけがけするつもりなんじゃないかー!」
「わー!ゼフェルー、暴力はんた〜〜い!」
「でも、さっきリュミエール様が送っていったから・・・・」
ランディーのその言葉で、マルセルに馬乗りになっていたゼフェルと乗られていたマルセルが一気に静かになる。
水の守護聖リュミエール・・・一見とてもやさしそうな女性に見える彼は、当たりがやわらかく、上品でもあるので、結構女性にももてる。楽士でもある彼の奏でる竪琴の音は、傷ついた心を潤す響きがある。
「す、すっかりリュミエール様のことを忘れていた・・・・。あの化粧お化けはいいとして・・・・」
勿論、化粧お化けとはオリビエのことである。
3人は思わぬ伏兵に青ざめていた。

 

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