銀の守護聖 
別世界・もう一つの物語(3)
 

**思いもかけない自信喪失**

 「しかし、新しい闇の守護聖が女性だとは思わなかったな。」
翌日、ジュリアスの執務室。
「はい、ジュリアス様。私も向こうへ行ってから知り驚きました。」
「そうであろう。貴公から報告がなければ、皆と同じように私もあの場で驚いていたであろうな。」
頷きならがオスカーはセクァヌと会ったときの様子を思い出していた。

「オスカー様?」
新宇宙の女王の宮殿、その謁見の間。入っていったオスカーを見るなり女王補佐官であるレイチェルが声をあげた。
「ん?なんだ?」
見ると女王であるアンジェリークも驚いた顔をしている。
「何か?」
「あ、いえ、なんでもありません。それよりお役目ご苦労様です。」
にこりと微笑むアンジェリーク。
最初にみせた驚きの表情が気にはなったが、たいしたことではないと判断し、オスカーは早速用件に入る。
「で、急がせるようで悪いんだが、早急にオレたちの宇宙へ迎えなければならないんだ。新しい闇の守護聖はどこに?」
「はい。もうここの聖地には来てもらっています。宮殿内の部屋にいますので、私が案内します。」
レイチェルがオスカーに歩み寄りながら言った。
「悪いな。」
オスカーはアンジェリークに礼をするとレイチェルと共に謁見室を後にした。

そして・・・・・

−コツコツ−
部屋をノックする。
「どうぞ。」
中から若い女性の声がした。
おそらく女官が返事をしたのだろうと思ったオスカーは、開いた扉から中を見て一瞬、まさかと思った。
中には女性が一人。ちょうどレイチェルと同じくらいの少女が微笑んで立っていた。が、両の目は閉じられている。
目が不自由なのか?とも思ったが、それよりも、『守護聖=男性』との概念がある。オスカーはまさかと思いつつレイチェルを見た。
「オスカー様、こちらが闇の守護聖となるセクァヌです。」
(なにーーー?!)
レイチェルの言葉に思わず目を見張るオスカー。
「セクァヌ、こちらがあなたを迎えに来られたリモージュ陛下の宇宙の炎の守護聖であるオスカー様です。」
「初めまして、オスカー様。セクァヌと申します。よろしくお願い致します。」
今一度軽く微笑み、オスカーに丁寧に礼をとるセクァヌに、守護聖が少女であったことに驚きはしたもののすぐ落ち着きを取り戻したオスカーは、いつもの調子で言った。
「オスカーだ。よろしくな。」
(それで、最初オレをみたときレイチェルもアンジェリークも驚いたのか。おそらくオレが迎えだったことに不安を抱いた・・・・か?)
そんなことを考えながら。
「それでは、私はこれで。後はよろしくお願い致します、オスカー様。」
「ああ。ご苦労。」
(変なことしないでくださいね!)
去っていくレイチェルの目はそう語っていた。

「・・・目が?」
レイチェルがドアを開けたまま去っていったのを確認すると、オスカーは改めてセクァヌを見ると同時に、次に気になっていた事を思わず口にした。
「あ・・・す、すまない。気を悪くしたら許してくれ。」
「いえ、大丈夫です。それに私、盲目ではありません。」
ゆっくりと開けた瞳は大粒な灰色の瞳。
ほっとして数歩近づくオスカーの目に、セクァヌのその瞳が窓から差し込む光で金色に映る。
と、すっと閉じてしまう。
どうしたのだ?と思っているオスカーに、セクァヌは理由を話した。
「光に弱いのです。ですから戸外のみならず明るい部屋も苦手で、それに、閉じている事が多いので、そうでなくともこうしていることが癖になってしまってます。どうかお許しください。」
「・・・お嬢ちゃん・・」
気の毒さを感じ、思わず声をかけるオスカー。
「え?」
閉じられたセクァヌの瞳が、驚きの表情と共に開き、そして、一呼吸おいてからゆっくりと言った。
「セクァヌで結構です。」
「ああ・・すまない。オレのポリシーというやつでな、お嬢ちゃんくらいの年頃の女の子はそう呼ぶことにしてるんだ。女性を名前で呼ぶのはレディーだけなんでな。」
「そうですか・・・女性としてはまだ一人前ではないから?」
「あ、いや・・・・そう言ってしまっては身もふたもないというやつだが・・・まー、オレの守備範囲ってやつでな。」
なかなかはっきりと言うんだなと思いながらオスカーは続けた。
「守備範囲・・・それはオスカー様の恋のお相手ということでしょうか?」
再びゆっくりと目を閉じる。
「女性は全てその枠内で見ていらっしゃるということですか?」
「は?」
(はっきり言うなんてものじゃない、これは・・・結構きつい性格のようだ。)
思いもかけないことを聞かれ、オスカーは即答できなかった。
「それは、つまり、私は守護聖としても認められていないということなのですね。」
静かに言ったセクァヌのその言葉に、オスカーは呆然としていた。
まさかそんな風にとられるとは思いもしなかった。
「あ、い、いや・・・決してそのようなことは・・・」
たとえ迎えに来たばかりで正式な守護聖の座はまだ受けていないとしても、それは確実なのである。そして、闇のサクリアの保持者であることには違いない。人間的な成長は別にして、サクリアを持っている限り、守護聖そのものとしては、半人前も一人前もない。
(オ、オレとしたことが・・・・まずいことを言った・・・ということになるんだろうな・・・)
しばしの沈黙の間、オスカーは何を言うべきか分からず困っていた。
「くすっ・・・」
「ん?」
オスカーに対してではない、自嘲ともとれるセクァヌの笑いにオスカーはどうしたのかと思う。
「申し訳ございません。どのような呼び名でも私が私であることに変わりはないのに、失礼な事を申し上げました。お許しくださいませ。」
「あ、ああ・・・い、いや、オレの方こそ。」
確実にオスカーはセクァヌにおされ気味だった。4、5歳ほど年下のはずなのに、彼女の持つ雰囲気は、それ以上に感じられ、威圧感をも受けていた。
「レイチェル様が中庭の東屋でお茶の用意をして待っていらっしゃると思います。オスカー様はどうぞそちらへ。私はいま少し荷造りをしてから参ります。」
「あ、ああ・・・それでは・・・。」
まるで逃げ道が見つかったような思いで、オスカーは部屋を後にした。
通常なら女性を、たとえ守備範囲外の少女であっても、その女性を一人にしてそこを後にするようなことは決してありえない。
それに、いつもならそれまでに、オスカーを見つめるその眼差しに熱いものが宿っているはずだった。が、今回だけは違っていた。いつもの調子が全く出せないばかりか、完全にセクァヌの雰囲気に飲み込まれていた。
しかも、「もしかしたら嫌われてしまったのか?このオレが?」その考えがオスカーのプレイボーイとしての自信を粉々に打ち砕いていた。

「どうしたのだ、オスカー?」
黙りこんでしまっているオスカーにジュリアスが声を掛ける。
「あ・・いえ、なんでもありません。」
「そうか。・・・そう言えば、午後、セクァヌも含め、皆で一緒に茶などどうか、とリュミエールが言ってきたが。」
「お茶会ですか・・・どちらかというと出席したい気分ではないのですが、ジュリアス様もご一緒されるのでしたら。」
「そうか?私は貴公なら喜んで出席すると思ったのだが。あ・・いや、そうだな、皆と一緒よりも日の曜日にでもゆっくりと誘った方がいいのであろうな。」
「ジュリアス様?」
まさかジュリアスにそんなことを、しかも執務室で言われるとは思ってもみなかったオスカーの声は上ずっていた。
「ははは・・・冗談だ、気にしないでくれ。」
「じ、冗談って・・・ジュリアス様・・・・」
ジュリアスに聞こえないような小声で言うオスカーは、冷や汗をかいていた。
(オレはまだ何もしてないぞ?ジュリアス様までオレが迎えにいったことに何か勘ぐっているのか?・・・そんな生易しいお嬢ちゃんじゃないようなんだぞ、彼女は。)

そして、いつも通りの一日が始まった。

 

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