銀の守護聖 
別世界・もう一つの物語(2)
 

**新たなる闇の守護聖**

 「しっかし水くせーよな、黙って行かなくてもいいのに・・。」
謁見の間にいるというのにゼフェルはぶつぶつ文句を言っていた。
まだゼフェルたち3人の他には地の守護聖であるルヴァしか来ていなかった。
「そうとも思いますが・・・クラヴィス様らしいと言えば、らしいとも思えますし・・。」
「冷やかされるのがいやだったんじゃないの?」
ルヴァの後ろから、ひょいと顔をだして夢の守護聖、オリビエが笑うように言う。
「冷やかすって・・・そんなこと誰もしやしませんよ。・・・そうですね、幸せを祈って・・・」
「あんたはお人好しだからな。闇の守護聖を冷やかせれるなんてそんなときしかないぜ?」
「ゼフェル!」
「ま、まー、それは冗談としてだ・・・・」
少し言い過ぎたかな?とゼフェルは反省しながら周りを見、ちょうど入ってきた水の守護聖リュミエールをみつけるとつかつかと歩み寄った。
「なー、リュミエールさんよ、あんたクラヴィス様と一番仲よかっただろ?何も聞いてなかったのか?」
「いえ・・・あの方は、ご自分のことは何一つ話してはくださいませんでしたから。」
少し悲しげな表情でリュミエールは答えた。
「ふ〜〜ん・・・・」

−コツコツコツ−
金の髪のアンジェリーク、この宇宙の女王と補佐官であるロザリアが姿を現した。
−ザッ−
集まった守護聖全員直立不動で言葉を待った。
「皆様方、すでにご承知とは思いますが、闇の守護聖クラヴィス様は、昨日聖地を離れました。」
ロザリアが静かに口を開いた。
「皆様にはよろしくとのことでした。」
「・・って、それだけか?」
思わずゼフェルは1歩歩み出て文句を言う。
「ゼフェル、陛下の御前なのだぞ、控えないか。」
光の守護聖、ジュリアスがたしなめる。
「いいのよ、ジュリアス。」
「しかし、陛下!」
アンジェリークはにっこり笑って付け加えた。
「堅苦しいのはよしましょう、っていつも言ってるでしょ?」
「しかし・・・けじめというものが・・・」
「あれ?ところでオスカー様は?」
ジュリアスのことなど無視して、言いたいことを言うゼフェル。
「急に呼び出したのはそのことなのです。」
「クラヴィス様のことではなくて、か?」
「私から話します、陛下。」
ロザリアが1歩前に出て、守護聖一同を見渡してからゆっくりと口を開いた。
「炎の守護聖オスカー様は、今、新たなる闇の守護聖を迎えてここに向かっております。」
「ええー?」
その言葉に全員驚いていた。
「し、しかし、クラヴィス様が闇のサクリアを無くしたわけではないのに・・・ですか?」
いつもゆっくりと話すルヴァにしては珍しく早口だった。
「新宇宙もそろそろ守護聖をたてる時期に入ってます。ですので・・・」
「ひょっとして、ひょっとしたら、闇の守護聖の交換?」
オリビエがひらめいたように言った。
「ええ、そういうことになるでしょうね。」
にっこりと微笑むと女王は続けた。
「ちょうど闇のサクリアを保持している人物が見つかったのです。新宇宙では初めての守護聖でしょう。まだ完全に力が覚醒してないらしく、クラヴィス様ほどの力はないようですが、発展途中の新宇宙では思いもかけなかった幸運です。」
「ということは〜・・・あっちではクラヴィス様が首座につくわけ・・・よね?」
その光景を想像でもしているのかオリビエが上目使いで言った。
「間違いないと思いますわ。」
ロザリアが付け加えた。
「新宇宙のアンジェリークにとって、これほど心強いことはないでしょう。」
それも想い想われてる人なのだ。
「おめでたいことじゃないの〜〜!」
ぱん!とオリビエが手を叩いて喜ぶ。
「で、オレたちの宇宙の闇の守護聖となる人物はいつ到着するんだ?」
あんたはいつもおめでたいよ、と目でオリビエに言いながらゼフェルがロザリアに聞く。
「そろそろ到着すると思うのだが・・・」
ロザリアの代わりにジュリアスが答える。
「あ・・・それで全員集合というわけか。」

「失礼致します、オスカー様と闇の守護聖様、お着きでございます。」
女官のその言葉で、全員定位置に立ち、扉に注目する。
「おい、どんな奴かな?オレ達より年下かな?もしかしたらまだガキだったりして・・・」
「しー、ゼフェル、声が大きいですよ。」
マルセルがたしなめる。
「けっ!お前だって興味津々のくせに!」
「ゼフェルっ!」


そして、オスカーに手を引かれて入ってきた人物を見て、そこにいた全員、いや、正確には女王とロザリア、そして、ジュリアスを除いて驚いた。
新たなる闇の守護聖は、女性、しかも女王やロザリアとさしてかわらないと思われる少女。
それは、宇宙創始よりこのかた、何代交替しても、宇宙を統べるのが女王であったのと同様、守護聖はずっと男性だったからである。

「セクァヌと申します。女王陛下におかれましては・・・」
挨拶の言葉もその驚きでほとんどの守護聖の耳に入っていなかった。
「・・・オスカーに/オスカー様なんかに/迎えに行かせて大丈夫だったのか?」
思わず数人の頭にそんな考えも過ぎっていた。


「でもまさか女だとはなー・・・」
顔見せも終わり、私邸への帰路、ゼフェルはセクァヌを思い出しながら呟いた。
ぴん!と背筋を伸ばしているのに、両目は臥せがちで、控えめな性格にみえたその少女の腰まである銀の髪が、黒い衣装に映えていたのが印象的だった。
今回は本当に挨拶だけで、言葉も交わさなかったが、その表情は、やはり闇の守護聖だからなのか?と思わせるおだやかさがあった。アンジェリークの見る人を幸せにする微笑とは違うが、確かに静かなやすらぎを感じさせる微笑を持つ少女だった。
「私も驚きました。」
リュミエールもそんな少女を思い出しながら言う。
「さすがの私もね〜〜〜」
やはり思い出しながら言ったのは、オリビエ。
「珍しく全員の意見が揃いましたねー。」
ルヴァがにこにこと頷く。
「で、なにか?またあんたが教育係か?」
ゼフェルがルヴァに聞く。
「さーどうでしょうねー?リュミエールあたりの方がいいんじゃないですかー?

語尾を延ばしたのんびり口調で、ルヴァは答えた。
「さて、どうなのでしょう?女性ですし・・・・」
リュミエールが微笑みながら答える。
「めそめそ泣かなきゃいいんだけどな。」
「ゼフェル!」
小さく呟くように言ったゼフェルの言葉にマルセルが怒鳴る。
「だって女なんてすぐ泣くんだぞ。見ず知らずのこんなところへいきなり連れてこられて・・・・訳分からなくてよー・・心細くならない方がおかしいってもんだろ?」
それは言葉の悪さとは裏腹の、ゼフェルの思いやりだった。
ゼフェルは自分の苦い経験から心配だった。自分の時とは違って前任の守護聖との諍いはないが・・・引継も何もない。何をどうしたらいいのか全くわからないはずだ。おそらく自分がどういう立場なのかもはっきりとは自覚してないはず。
「ゼフェル〜〜・・」
「な、なんだよ・・・?」
目を潤ませて自分を見ているルヴァに、ゼフェルはぎくっとする。
ルヴァにとってみれば、自分が世話をしたわがままいっぱいで反抗することしかしなかったゼフェルが他人の事を気遣っている。そのことが、嬉しくて仕方なかった。
「成長したんですねーーーー。」
「ば、ばかっ!普通言うか?そんなこと?」
顔を赤くしてゼフェルはルヴァを怒鳴りつける。
「でも、確かにそうだよね。あんたたちはまだ3人組でいられるけど、あの子は・・・・」
あごに手をそえ、オリビエは何やら思案していた。
「そうだねー、あたしが目一杯お化粧やらなんやら教えて、楽しく面倒みてあげるよ。」
「それって、一方的にオリビエ様が楽しむんじゃ・・・?」
無理矢理お化粧させられたときの事を思い出してマルセルが恨めしそうに言う。
「キャハハッ♪ばれちゃった?でもね、自分が綺麗になって喜ばない女の子はいないよ♪」
「でもさ・・・・オスカー様が迎えに行ったんだよな・・・・」
ランディーが思い出したように呟く。
その言葉で全員の脳裏にはセクァヌとオスカーのシーンが浮かぶ。

不安そうなセクァヌをオスカーがやさしく見つめる。
「心細いか?お嬢ちゃん?」
「オスカー様・・・・」
「大丈夫だ。陛下をはじめ聖地にいる人たちはみんないい人ばかりだし、なんといってもオレがついている。お嬢ちゃんを悲しませるようなことは絶対させない。だが、それでも、寂しいと感じたときは、いつでもオレのところへ来ればいい。オレはいつだってお嬢ちゃんの味方だぜ。」
「オスカー様・・・」
不安げだったセクァヌの顔が明るくなる。
そして、ここで女殺しの微笑をみせ、オスカーはゆっくりと手を差し伸べる。
おずおずと差し出したセクァヌの手をやさしく握り締め、もう片方の手を彼女の肩にまわし、そっと包み込む。
「行こうか、オレのお嬢ちゃん。」
そして、2人は仲良く馬上の人・・・・・・・・

「けっ!やってらんねーぜっ!」
ゼフェルが小石を蹴飛ばして怒鳴った。
ゼフェルほど正直に感情は表さないものの、思わず全員その手のシーンを頭にえがいてしまい、なんとなく割り切れない気持ちになる。
「でも、さっきの様子じゃ、さほどそうでもなさそうだったけど・・・・」
オリビエのその言葉で、全員思い出す。
確かにオスカーに手を引かれて入ってはきたが、オスカーに頼り切っているような雰囲気はなかった。
「んなのみんなや陛下の前だからじゃねーのか?」
う〜〜〜ん・・・・しばし全員考え込む。
「でもまっ、とにかくみんなで盛りたててあげようよ!慣れないこの地に一人ぽっちってことは確かなんだからさ!」
「一人ぽっちなんかであるもんか!」
にこにこ微笑みながら言ったオリビエをゼフェルがちらっと睨んで言う。
「オレたちがついてるだろ!」
「なかなか言うじゃない、ぼうやも?!」
「う、うるせー!」
少し顔を赤らめて横を向いたゼフェルをオリビエは満足そうに見る。
「そうですね、どうでしょう?さしあたって明日の午後、サロンでお茶会など?」
「いいんじゃない、それ?」
「いいですね!」
「ええ〜〜?!お茶会ぃ〜?」
リュミエールのその提案にオリビエとマルセルが即答で賛成したというのに、甘いものが苦手なというよりそういうのは好きでないゼフェルが口を尖らせて文句を言う。
「大丈夫ですよ、ゼフェルの口に合うから〜いおせんべいを持っていきますから。」
にこにこと言うルヴァを思わずゼフェルは睨みつけていた。

なんだかんだ言っても、誰しも新しい守護聖のことを真剣に考えていた。
幼いときから守護聖になるべく育てられたのならまだしも、急に言われ、見ず知らずのところへ連れてこられる。家族や友人だけでなく生まれた星も捨てる。それがどんなに心細いことか、どんなにつらいことか、口には決して出さないが、全員身にしみてわかっている事だった。
しかも、あまりにも急な事で、彼女にはそういったことへの確かな覚悟もできていないに違いない。

1日でも早くここでの生活に慣れる事を祈りつつ、しばらくはまた女王試験の時のように、彼女をとりまいていろいろハプニングがあるかもしれない。そんな予感を全員感じていた。

 

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