〆〆 その34・事実は闇の中 〆〆

 「さて、この扉の向こうに災いの王と悪魔の娘がいるわけですが、本当にこのまま入 っていいんでしょうか?」
ハートレーが私に確認した。
「彼らには普通の攻撃は一切効 かないのです。暗闇の森のデルファイが見せてくれた方法は、邪悪なる者を殺す方法で した。それなのに、私たちはそれに必要なアイテムを1つも持っていません。今ならま だ反対側の壁のボタンを押し、寺院の外に出る事ができますが・・・。」
「今更ごちゃごちゃ言ってんじゃねー、『銀の十字架』を捨てた時にもう決まってんじ ゃねーか。俺たちゃ全員運命共同体よー!!」
ピアースはそう叫ぶと扉を開けた。
そして、思った通りそこには災いの王が待っていた。


「おやおや、こちらにみえるとは、なんと光栄な!」
気持ちの悪いほど紳士的だった。
「先日は、失礼致しました。何しろ寺院は週末ずっと予約で一杯でしたので・・・。 あのような所にご案内致しまして。」
「なーにが『ご案内』だよ!あんなこぎたねー所に放り込みゃーがって!」
王は、ピアースの文句など耳に入らないとでもいうように、全く無視し、話を続けた。
不老不死を望んだ結果の呪いでこうなったこと、だが、バンパイアとしての生活にもう 耐えられなくなったこと。肉体は、そうして生きてはいるが、精神はとっくに死んでい る、など。
いろいろ話し、最後には、マントの下から木の杭を取り出し、表情も変え ずに、自らの心臓に深々と突き立てた。
「災いは過ぎ去った。我、夜と抱擁せん。」
王が霧の中にかき消えた後、レベッカが、脅えながらゆっくりと出てきた。
「あの人は?」
心配顔で、消え入りそうな声でそう言った彼女には、王の事以外何も関 心がないようだった。全くの無防備状態。
「愛してるのね、彼を。」
私にはそんな彼女がいじらしく思えた。
レベッカは、そう言った私をしばらく見つめていた。そして、自分の指から指輪を外す と私に差し出した。
「これ・・私に?」
それは見事なダイアモンドだった。
「痛みを和らげてくれるわ。」
彼女はにこっと、だが、弱々しく微笑んだ。
「あの人は・・・逝ってしまったのね。」
「・・・・。」私は黙って頷いた。
「そう・・・・」
悲しい顔はしていたが、王の死を予期していたかのように彼女は落ち ついていた。
そして、彼女もまたいろいろ話し始めた。
王は彼女にとって保護者なのだということ。王妃こそが冷たい心を持つ悪魔であり、彼 女の両親を殺させたこと、彼女の死を望み「『悪魔の娘』が死ぬように」とペンで書い た結果、自分が死んだということ。そして彼女自信はペンとは関係がないが、保護者に ついていくだけで、その災厄は受けている、ということなど。
そして、彼女もまた消え去った。
彼女の腹違いの弟『ベラ』を頼むと言い残して。


本当ならその部屋で手に入れた指輪で『王の日記』を読んでわかるのだけど、しっかり覚 えていた私は、『運命の手』という合い言葉を言い、奥にある門を開けた。
通路の先の小部屋には、銀色に輝く呪いのペン『コズミック・フォージ』が浮いてい た。
でも、誰一人として触ろうとしなかった。
「こいつのせいで、みんな呪われたってことか?」
「正確に言えば『これで書いたせいで、』です、」ハートレーが訂正した。
「んなことわかってるよ。」
「それは、分かっているんだが・・・言う人毎に言うことが違ってて・・・何がなんだ か・・ツェナ、説明してくれよ。」
「えっ?でも、私もあまり・・」
「じゃ、分かったことを少しまとめてみませんか?この城の謎を解くために来たんです から。」
みんな、ハートレーに賛成した。頭がごちゃごちゃになっていて、誰の言い分 が正しいのか、どれが真実なのか分からなくなっていた。でも、もしかしたら正しい事 は1つもないかもしれないけど。

「まずは、人間関係ですね・・・王と王妃、これはいいとして・・レベッカは王の 愛人であり、牧師とアニーとの子ども。聖職者が禁戒を破ってできた子どもなので、悪 魔の子だった、と。王妃の愛人としては、蛇になったミスタファファスとレベッカ の父である、牧師、それとゾーフィタスもそうみたいな感じですね。」
「ミスタファファスは単にあのくそ女にからかわれただけだろ?」
どうもピアースは王妃が気に入らないみたい。
「そうかもしれません・・・ですが、この際、それはあまり重要な事ではありません。 最後にレベッカが言った彼女の『弟』ですが、彼は、王妃とレベッカの父との間にでき た子どもということで・・彼もまた悪魔の子、というわけですね。以上がこの城の主だ った人物ということです。」
ハートレーは自分が持っていた紙に書きながら説明した。
「全く・・・120年も続いていた呪いも最後は自分でケリをつけたなんて、なんかあ っけなくてよ、拍子抜けしちゃったぜ。」
ピアースがため息をついた。
「でも、もし彼と戦うという事になっていたら、どうなっていたか分かりませんよ。そ れに、私たちがゾーフィタス達を倒してきたから、王も、決心したのかもしれませんし ね。」
死者の殿堂で会った時も、どんな攻撃もものともせず、涼しい顔をしていた王。たと え必要なアイテムを持って戦ったにしても、デルファイの見せてくれた幻影どおりに事 が進んだとはかぎらない。
「だけど、分かんないことだらけだよ。」
ホトが耳をぴくぴくさせた。
「だって、人の関係はなんとなくわかったけど、それぞれ勝手なことばかり言ってて さ・・・整理しようにもできないよ。」
「そうですね、王妃は、レベッカに殺されたと言ってましたが、レベッカは、それは王 妃がペンで書いたため呪いがかかって自分でナイフの上に転び死んだ、と言ってました し。」
「そうだよ、王妃はレベッカが王を誘惑し、狂わせたなんて事も言ってたけど、レベッ カは、王は自分の保護者だって言ってた。それにさ、王妃が言ってた『王の子ども』っ て・・どうなったんだろう?レベッカとの子どもなら、レベッカが言いそうなものだけ ど・・・弟の事は言ってもそんなこと一言も言わなかったし。その弟ってのは、 レベッカによると、王妃と彼女の父との子どもなんだけど・・王妃はそんなこと一言 も言わなかったよね。」
ホトが今までの事を思い出しながら確かめるように言った。
「ん、でも一応、王妃なんだから、立場上、愛人がいたなんて言えないだろうし、それ に、王以外の人の子を産んだなんて・・・言えるわけないよ。それに、私には、 レベッカは悪魔の子とは思えない。」
私は彼女のくれた指輪を見ていた。
「姿はあんなふうに産まれてしまったけど・・。」
「そうですね・・・・」
ハートレーは大きくため息をついた。
「結局、私たちは、この城の謎を解きあかしに来たのに、何1つとして分かっていない。未だに謎に包 まれたままだということですね。」
「よけいこんがらがっちまったぜ。」
静かにみんなの話を聞いていたコルピッツが、ペンを見つめながら言った。
「この『コズミック・フォージ』とかいうペンの事も実際のところ、何なのか。どこから持ってき たのか。何故こんなものがあるのか。それに、これで書いたことは、必ず実現するらしいのです が、呪いを伴うため、私には、結局書いたようにはなっていないとも思うのですが。」
「書いた奴の周囲の人間までもその呪いに巻き込んで・・だ!」
ピアースが舌打ちした。
「ちょっと、それってもしかして、あたいたちも・・もう?」
ホトのその言葉で初めて気づいたのではない、薄々みんなも感じていた。ただ 誰もそれを口にしなかっただけで・・・。
ピラミッドとか森とかいろんなとこへは確かに行ったのだけど、全て城に関係してる場所だり、出口はどこにもなかった。
一旦城に入った以上呪いはその者の上まで及ぶというのか。そういえば、海賊たちやクイーク・エグ 達も、この地域以外の事は一言も言っていなかった。私たちも彼らのように、このまま この城に囚われたままなのだろうか・・?
それに私とショウは・・・この世界から出れるのだろうか、そして、それは、いつ?
B.C.Fはこれで一応、エンディングを迎える。でも私たちはどうなるんだろう?
確か、続きがそのうち出るとか、ゲームでのエンディングには出ていた。とすると・・?
期待と不安の両方。
でも一度、元の世界に帰りたいと私は心から思っていた。


それぞれが思いに耽り、しばらくシーンとなっていた静けさを破ったのは、他ならぬピアースだった。
「いつまでもこうしてても始まんないぜ。まだやるべき事はあるんだ。行こうぜ!」

私たちは、ペンをそのままにし、レベッカに教えてもらったとおり、その裏側、真後ろ の壁を通り抜け、彼女にもらった鍵でドアを開けた。
そこには、1匹の黒い竜が部屋の中心にあるイスに座っていた。
その竜こそ、レベッカの腹違いの弟、彼女の父である牧師と王妃との間の子ども、『ベラ』なのだ。
ベラは、何があったのか知っていたらしく、その表情は悲しみに満ちていた。
彼は、私 たちに気づくと、意を決したように、だが、ゆっくりと立ち上がった。
「コズミック・ロードを追ってみる気はないかね?」

 
 


〆〆to be continued [Game Clear]〆〆

 

前ページへ 目次へ 次ページへ