〆〆 その35・戻ってみれば・・・[完] 〆〆

 「おい、お前達、何してるんだ?」
不意に大きな声がし、私はびっくりして振り向いた。そこには、鬼饅頭こと鬼頭先生が立っていた。どうやら、教室の入り口のような所 に立っていた。
私は答えるのも忘れて、周りを見回した。
私がいたのは、ベラの部屋ではなく・・・パソコン・ルームの隣の準備室、先生の席に 座っていた。
机の上のうんず君は・・・電源が入っている。
「す、すみません、先生。戸が開いていたので・・・。」
ふと気がつくと隣にはショウがいた。
「いつ来たんだ?」
私たちがイスを離れると先生が代わって腰を掛け、私たちを見た。
「えっ・・いつって・・・い、今。」
「は、はい・・少し、前です。」
私は、どうやってこの場を切り抜けたらいいのか、困 っていた。
また学校に出ちゃったし、それも、よりによって鬼饅頭に見つかるなんて!
生活指導部の鬼饅頭は、この学校で、一番恐れられている先生。この先生に捕まった らただでは済まない。
「少し前?・・・俺が少し前ここに来たところなんだぞ。」
「ですから、その後・・です。」
ショウもかなり緊張しているらしい。
「その後か・・・?」
どうも先生は納得しないらしい。
「じゃ、何で寝てたんだ?」
「何で・・って言われても・・・眠かったから、つい。」
「2人して・・か?」
先生は私とショウの顔を交互に見ている。
「パソコンに電源が入っていたので、つい、見に入ってしまって・・それで・・・。」
「すると、何か?座って10分もたたないうちに居眠りしてしまうほど、寝不足 なわけか?」
「昨日、徹夜で勉強してたので・・。あの・・・小石川と一緒に。」
「課題がたまってて・・・教えてもらってたんです。」
「ほ、ほお・・2人で徹夜か?どこでだ?」
先生の顔が一段と険しくなった。
「家の人は、知っているのか?」
ドキン!心臓が大きく鳴った。もし、家に連絡されたら・・2人ともどこにもいなか った事がばれたら・・・そうだ、家の方はどうなってるんだろう?私は、今更ながらど うしたらいいのか、どう説明したらいいのか、と考えたら頭に血が上って何も分からな い状態になってしまった。だって、どう考えてもあんな事信用してくれるおめでたい人 がいるとは考えられない。
「あの・・・小石川の家と僕の家は、親戚同様のつきあいなんです。ですから、昔から お互いによく、泊まったり・・・」
ショウが一生懸命説明している。
「分かった、分かった・・・他の奴ならともかく、江崎、お前のことだ、 間違いはないだろう。それに、ここで寝るくらいだからな。はははははっ。」
それまで厳しい顔をしていたのに、急に大声で笑い始めた。
なんとか、この場をしのげそうだと、私たちは、ほっとした。
さすが、学校一の秀才、優等生!私だけならどうなっていたか・・・。
今日は、素直にショウの猫っかぶりによる、(本人は、こっちが本当だと言ってるけど)信用度に感謝 するのだった。
「ところで、江崎、ちょっと教えてくれないか?」
パソコンを指した。
「パソ通を始めようと思ったんだが、どうもよく分からないんだ・・。」
「はい、えぇっとですねぇ・・・・。」
ショウは先生に教え始めた。
鬼頭先生は、パソコン部の顧問ではなく、生徒指導部の主任なのだ。学校にパソコンが 導入されるまで、パソコンはいじった事はないと言っていた。教師が全く知らないでは いかん、とか言って始めたらしい。それで、同僚に聞くよりもいいらしく、ショウにはよく 聞くということ。


鬼頭先生の用事も終わり、私たちは家へと向かった。今度は、2人とも上靴だ。
「よかったね、ショウ、でもあんなとこに出るとは思わなかった。それも鬼頭先生がい たなんて。」
「感謝するんだな、俺に。」
「何でよう?」
「俺が昨日、制服に着替えろと言わなかったら、私服のままだろ?こうはいかなかった ぞ。それと、やはり俺の信用性だな。普段行いがいいと、こういう時、ものをいうんだ ぞ。釉唯、何かおごれよ。」
「何で私がショウにおごらなきゃいけないの?」
私の責任じゃないのに、と腹が立ってきた。
「それに、学校はなんとかなったけど、お母さん達は・・・?昨日、いつも通りなら多 分、夜食の差し入れがあったはすだよ・・・」
私は歩きながらショウの顔を覗き込んだ。
「そうだな・・それがあった。俺がいないのは、帰ったと思うだろうけど、お前までい ないんじゃーな。」
ショウも考え込み始めた。
「駄目だよ、ショウ。だって玄関にはショウの靴があるよ。」
「そっか、そうだな・・・・・・信じないよな・・・話しても。」
「信じるわけないよ!」
「私だって未だに信じられないのに。」
「俺もだ。」
いつのまにか家の近くの角まで来ていた。
でも、そこでしばらく立ち止まったまま、私たちは考え込んでいた。

「『下手な考え休むに似たり』ってな。覚悟を決めて、行こうぜ。」
ショウが歩き始めた。私は慌てて走ってついていく。


家の外には誰もいなかった。そぉっと門を開けた。
「わんわん!」
犬のルーが尻尾を振って犬小屋から飛び出してきた。
「しーっ!ルー!静かに!!」
私は小声で言い聞かせた。お母さんに聞こえたかな、と 焦っていた。
誰も家から出てこなかったので、私はそぉっと玄関を開けた。
ショウも後からついて来 た。

と・・・そこには、私のお母さんと、ショウのお母さんが、仁王立ちになってい た。


あれからどんなに怒られたかは言うまでもない。2人していなくなったものだから、そ れぞれの友達という友達に電話したり、思いつくところを片っ端から探し、昨夜は一睡 もしなかったことや、そんなに勉強を押しつけた覚えはないのに、一体何が不満で姿を 消したのか・・・など、お母さん達は泣きながら怒っていた。
今日中に戻らなかったら出張中のお父さんに連絡し、捜索願いを出すつもりだったということも。
勿論あの話をしても信じてもらえず「未だに理由を話してくれない」と言われる度に私は困って いる。


それと、学校での噂。どこからどう流れたかは知らないが、朝、鬼饅頭が来たら2人で 寄り添って寝ていた・・・とか、抱き合っていた・・・とか、酷いのになると、それに つけ加えて、2人とも裸だったとか・・・もう散々噂の種になってしまった。
「『他人の噂も75日』っていうから。」
なんてショウは全然気にしてないみたいなのだけど・・・。

今日も今日で、おばさんが旅行へ行ったとかで、ずうずうしくお昼ご飯を食べにきてい る。
「じたばたすればするほど、疑われるんだぞ。面白いから余計にからかわれるし。」
それは分かってはいるんだけど、でも私は女の子なのよ、そんなに簡単には・・・割り切れるわけないじゃない。
「だいたい、こんな噂がたってしまって・・・もうお嫁にもいけないって・・・。」
「ぶほっ!」
ショウが吹き出した。
「釉唯、お前、嫁に行くつもりだったのか?」
「な・・・何よう・・・失礼ねぇ・・・・」
私は、がたっと立ち上がった。
「噂なんか立たなくったって・・お前が、嫁さん?」
笑いを堪えきれず、大声で笑い始めた。
『立たなくったって、行けるわけない』と言いたいようだった。
「・・・・・」
そんなこと言うなんて・・・もう怒りも最高潮、ぎゅっと握りしめた拳がぶるぶる震えるほど。
「そ・・・そんなに笑う事じゃ・・・」
「噂を気にする奴なんか、ほかっておけ。」
もう少しで、ダイニングテーブルを思いっきり叩き、自分の部屋へ走り込むところだった私は、ショウの言葉でとどまった。
「なんなら俺がもらってやるよ。」
呆気にとられている私に、今自分が言ったことはすっかり忘れたかのように、茶碗を差 し出した。
「お代わり、山盛りだぞ。」



あれから、2人の間は何の進展もない。噂は自然消滅し、(でもおかげで公認の仲?) 今、ショウは希望の大学に無事入り、私は同じ大学に入ろうと必死で勉強中(?)。
2人の間は相変わらずの只の幼なじみってとこだけど、私も気にしてない。(全くと言 ったら嘘になるけど)
でも一時よりは、また昔みたいによく会うようになった。と言っ てもいつも「誰もいないから」と言って食事に来るのか、「こんな問題も解けないでよ く俺と同じ大学を受けるなんて言えるな。」と文句を言いながら私を教えに来るか、の どちらかだけだけど。(デートの『デ』の字もでない。)
そして、その度にあのことが話題になる。そう!B.C.Fの世界・・ホトやピアース 、それにコルピッツ、ハートレーと一緒に探検したあの時の話。
何故あの世界に行けたのか、そして、帰って来れた のか、ということは、今もって謎のままだけれど。

そして、あの続きが出るのを、今か今かと私は待っている。
もしかしたら、また行けるかもしれない。その時の為に、次が出たら早速買ってコンプリートしなくては!と思っ ている。
向こうはきっと、ベラと一緒に宇宙船に乗り込んだ時のままだろう。
あのとき、たまらなく眠くて、宇宙船に乗るとすぐ寝てしまったから。

「ホト、ピアース、コルピッツ、そしてハートレー・・・待っててね!」
(それと・・・ショウと一緒ってのもいいけど、あのターマンにも会いたいな。)
そのうち、そう、もうすぐ会える・・・もうすぐ・・・。

 



【THE END】

 
最後までおつきあいくださり、本当にありがとうございました。
 
前ページへ 目次へ