〆〆 その33・エンディングまで駆け足! 〆〆

 十分回復したのを見計らって、私たちは芋虫のおじさんに貰った『赤いキノコ』を食 べ、小人になってネズミがあけたらしい壁の隙間から裏手へ脱出した。
牢番に『雄羊の ダガー』を見せれば、戸を開けて入ってくるので、隙を見てやっつけて外へ出ればいい んだけど、私は、みんながそのことを知らないのをいいことに、一度なってみたい小人 になる方を選んだ。

不思議の国のアリスもこんな気分だったのかな?なんとも言えない気分だった。キノコ はへんてこな味だったし、みるみるうちに自分が小さくなっていく・・・反対に周りが大 きくなっていったような気がして、目が回るような感じがした。
効き目はあまり長持ちしないから、慌てて走り抜けたので、あまり小人の気分を味わえなかったけど。
隙間から走り出た途端、体はぐんぐん大きくなった。今度は周りが縮んでいってるような感じ を受けた。
その後遺症とでも言うんだろうか、しばらくは、目が回ったような感じと目 の前で踊るピンクの像の幻影に悩まされた。変身酔い(?・・・だったのだろうか。
出てきたところの部屋は、蜘蛛や蛇がいるだけなので、無視してさっさと外に出た。


「わぁー・・・」
私は思わず感嘆の声を上げてしまった。
外は、今までの雰囲気とはがらっと変わり、薄暗さに慣れてしまっていた私たちの目に は、眩しすぎるくらい眩しかった。
そこは、森の真ん中だった。真っ青な空、木漏れ日が私たちに降り注ぎ、小さな動物達 が辺りを飛び跳ねていた。日の光がとても暖かく、私たちは久しぶりに心身共に和んだ 気がした。みんな背伸びをしたり、花と緑の香りを含んだ気持ちのいい空気を吸って楽 しんでいた。まるでピクニック気分だった。少なくとも敵の襲撃があるまでは。


「せっかくいい気分で、ピクニックと楽しんでいたのに!」
みんな同じ気持ちだったみたい。
その襲撃は、ここが呪われた場所だということを思い起こしてくれた。例外はない 。
天国から地獄へ突き落とされたような感じだった。
「アスフィジエイショーン!!」
せっかくの気分を害され最高に頭にきた私は、私にとって最高の敵全員を窒息死させる呪文を襲ってくる敵にかけまくった。
「すごいな、ツェナちゃん。」
ピアースも目を丸くしていた。
「俺の出る幕が全然ないぜ。」
私は、敵が視界に入るや否や呪文を唱えていた。

ここは、魔法の森、ここにいる間くらいは、木々や花の香りや木漏れ日を楽しみ、小動 物たちと遊んでもみたい、と思った。
その先は、そう、こことは対照的に、全く何も見 えない暗闇の森が待っている。
その後は、最後の砦(?)邪教の総本山、雄羊の寺 院へと行かなければならない。
そこでは、ゾーフィタスの歓迎も待っているし、それを 片づけることができれば、再びアラモ王とレベッカとのご対面なのだ。全て順調に行け ば、ということだけど。


エンディングはもう近い、私は今一度何が必用で何が不必要なのかを思い起こし、整理 した。
戦わないと決まった以上、不必要な重い荷物は無視した方が早い。
まず、『聖なる木杭』はいらないから、難破船へ行く必要はない。
『反射する岩』を真実の岩の下から掘り出す手間も省ける。
でも宝箱の中の『ティンカーベル』はフェアリーの女王に会うために必用だ。
本当は暗闇の森の奥深くにある洞窟に住んでいる『デルファイ』の事 はフェアリーの女王様に聞いて、初めて分かるんだけど。そして、彼が災いの王とレベ ッカを倒す方法を教えてくれるというわけ。
それと、雄羊の寺院での重要アイテムもくれる。


一歩先も見えない暗闇は、本当に進みにくかった。でもなんとか『ティンカーベル』の 入った宝箱も見つけたし、デルファイにも会えた。
デルファイの質問にはきちんと答え ることも忘れていなかった。一言でも違った事を言うと姿を消してしまうから。
まず「我らは魅惑」次に「予言を求めて」最後に『代償を払うか?』と聞いてくるので 「はい。」と簡単に答え、財布を差し出すこと。
それとデルファイと話を始める前に忘れてはならないこと、それはその前に必要なものを買って財布を軽くしておくこと。
そうしないとごっそり取っていってしまうから。それを話した時、ピアースに「お前 ってけちだなぁ。」と言われてしまった。「どうしても必用なアイテムもくれるんだ ろ?」って。
でも、私だって言ってやりたい「そんなにお金を取って、どうするんだ?」って。だ って、デルファイは幽霊なんだから。


 予定してたことをすべて終えた。フェアリーの女王様からは回復のアイテムを一杯買 ってある。いらないものは売って身を軽くしてある。私たちは、最後の砦、『雄羊の寺 院』の入り口の横に立っていた。

「ここは会員制だから、お城で手に入れた『ヤギの仮面』をかぶらないと入れらせてく れないよ。でもそれ、呪われたアイテムだからね。すぐ取った方がいいよ。」
「ツェナちゃんの為なら、たとえ呪われたアイテムだろうと、何だろうと・・。」
なんて言いながらも気持ちの悪そうな顔をしながらピアースは仮面をつけた。
そして、私たちは、ピアースを先頭に入り口の前に立った。



 門の前に立つとすぐ門番が走り寄ってきた。
私たちは、ばれやしないかと緊張していた。
「おぉ、よくぞ参られた、我が兄弟よ。おお、もしかして今宵の儀式に生け贄をお連れ 下さったのか?」
彼は、ピアースの後ろに控えている私たちを見つめた。
「それに、もしかして、その中に処女がいるのでは?・・・師もさぞかし喜ばれる事で しょう。しばしお待ちを。」
門番は急いで鍵を開けた。私たちは彼の鋭い視線を感じながら中へと入って行った。

両側の深みから立ち昇る煮え立つ油の蒸気で、寺院は霧がかかったようだった。
細い通 路が目の前の谷へと続いており、その縁に立っている奇妙な衣装を付けた数多くの人影 は、何やら不気味なしぐさを繰り返していた。
それは、何とも言えない気持ちの悪い威圧感があった。

「あれ?通路の先がなくなってるぞ。」
仮面を取り袋にしまったピアースが気づいた。
「そうそう、デルファイに貰った『アラムの杖』を持たないと。でもあれも呪いのアイ テムだから気をつけて。」
ハートレーがアラムの杖を両手に持て先頭にたった。
もう少しで通路の先というところまで進んだそのとき、突然人影が実体化した。
その人影は、あの魔法使いのゾーフィタスそっくり。
それもそのはず、ゾーフィタスの気の狂った半身らしかった。
「生け贄よ、炎へ進むがよい。大胆なる子ども達は暗闇へと進まん。無敵なる雄羊の力 なかりせば、信仰は滅び、汝、地の底へ落ちん。」
人影はそう言うと再び何事もなかったかのように消え失せた。
「な・・・どういうことなんだ?」
「つまり、ここで、生け贄は、通路の横の炎の中に突き落とし、信者は、そのまま途切 れた通路を歩く。しかし、雄羊の力がなければ、生け贄同様、炎の中に落ちてしまう、 という事です。そして、その力というのがこの『アラムの杖』というわけでしょう、そ うですね、ツェナ。」
ピアースの疑問にハートレーが答えた。
「ん、そう。」
「では、参りましょうか。」
アラムの杖を前に掲げるとハートレーはゆっくりと歩き始めた。
私たちは、恐々道のない道を歩く。真下は、紅蓮の炎の溶岩。


「ふう、無事に渡れたようですね。」
アラムの杖にだいぶ体力を吸われたらしい。ハー トレーは、杖を自分の袋にしまうと、そこに座りこみ大きく息をした。
「大丈夫、ハートレー?」
私は彼に駆け寄った。
「大丈夫ですよ。少なくともツェナより体力がありますから、倒れるほどではありませ んよ。」
彼は、心配げな私に微笑んでくれた。
「鍵があったぜ。」
そうしているうちにピアースが宝箱の鍵を開け、鍵を見つけた。
「『選択の鍵』って書いてあるぜ。」
鍵をみながら私に言った。
「ん、左右どちらかを開ける鍵だよ。どっちでも同じ事だけど。」
「どっちでも一緒なら・・・そうだな、今日は、左にしよう。」
さっさと左側の鉄の扉へ近づくとその鍵で開ける。
「何で左?」
ハートレーが呪文で回復したのを見届けると、私はピアースのところへ行 った。
「別に理由はないけど・・なんとなくってやつさ。」
ピアースは笑ってそう答えると、扉を開けた。
−ギ、ギ、ギギギーーーーー-
「結構、重いなこれ。」
全員その部屋に入った。
「気をつけて、部屋に入る度に敵が襲ってくるから。」
案の定何処からともなく、寺院の衛兵がいきなり襲ってきた。
でも、そこは、難なく倒し、内側の通路に出た。そして、隣の部屋への入り口に向かう。
「通路から入った部屋には気をつけて。その部屋の隅がワープゾーンになっていて、い きなり違う部屋に飛ばされちゃうからね。当然、飛ばされたその部屋には敵がうじゃう じゃいるし。」
通路は狭く、気をつけないと奈落の炎の中へ落ちてしまう。私たちは、部屋のある方に 身を寄せるようにして、通路を通った。


寺院の建物は2つに分かれ、溶岩の谷を挟むようにして対称に建てられている。
2つを繋ぐ橋の役目をしている通路は、決まった部屋からしか行くことができない。
そして、その部屋までは、魔法陣を利用している。
しかも、その魔法陣は一方通行で、ワープして出た部屋からは、元の部屋に戻ることはできない、 内側の通路へ出て、隣の部屋に行くしか、進む道はない。
そして、そこからまたほかの部屋へワープする事となる。
「じゃ、あたいたち、もう戻れないってことなのかい?」
ホトが、心配顔で聞いた。
「大丈夫、2つの建物を繋ぐ通路のとこまでいけば、アーチで囲んであるところに押し ボタンがあって、それを押すと建物の外に出れるようになっているんだよ。言わば、非 常階段ってやつ。」
「ふーん・・・。」
炎の中へ落ちないように壁にぴったりくっついて歩いている私とは違って、身軽なホトは気軽に歩いている。
ピアースもそう。ちょっと太り気味のハートレーも何とか。
ショウ、つまりターマンも私みたいに恐々ってことはなかった。
コルピッツは自分が通った後、通路が落ちないかを心配して、最後に一歩一歩確かめるように 歩いて来ている。コルピッツが十分歩けるんだから、私がこんなに壁に張りつく必要も ないかと思うんだけど、どうも恐くて張りついてしまう。



何度目かのワープした時だった、そこには、『マインド・フレイヤー』が待ち受けて いた。
当然、身構えつつ魔法陣には乗るんだけど、相手が相手だった。出た途端、敵の 呪文にかかってしまった。
いきなりピアースが踊り始める。ホトが歌を歌いだし、ハートレーは、そこへ座り込んで 何やら説法を始めた。
「げぇーーーーー、そ、そんなぁ・・・。」
アスフィジエイションの呪文を唱えか けていた私だったのだが、呆気にとられて、呪文どころではなくなってしまった。
「アスフィジエイション!!」
不意に後ろで声がした。なんとショウだった。
が、姿を自由に消せる彼らは、2、3人しかそこにはおらず、全員倒すことはできなか った。
それでも後の残りは、コルピッツ、ショウとともになんとか倒すことができたの だった。
「す、すごいね、ショウ、いつの間に覚えたの?」
戦闘が終わってもピアース達は、正気に戻っていないので、コルピッツが1人ずつ呪文で正気を取り戻させているうちに、 2人で話をしていた。
「お前が森で散々言いまくってただろ?すっかり覚えちまったんだ。」
そういえば、侍は魔法使いの呪文は使えるはずだった。
「ふ、ふーん・・・。」
ショウに1つだけ勝っていたことが、なくなってしまった。
「どうしたんだ?いつもの元気がないみたいだけど。」
私が沈んでいるので、顔を覗き 込んできた。
「ううん、なんでも・・。っと、どうかな、みんな?」
かかった呪文が思ったより強力だったらしく、コルピッツは手こずっているようだ。ま だハートレーを治すのにかかっている。

と、ピアースがいきなり私の腕を捕まえた。どうやら一緒にダンスをさせるつもりらしい。
「ちょ、ちょっと待って・・・」
無理矢理踊らされそうになったとき、ショウが、私 の腕を掴むピアースの手を振りほどき、自分の方へ私を引き寄せた。
「いやだって言ってるだろ?」
ショウは、それでも私と踊ろうとするピアースを、思い っきり突き飛ばした。
「あ、ありがと。」
ピアースからかばってくれたのはいいけど、今度は、ショウにしっ かと抱き留められている。心臓がまた破裂しそうなほと大きく鼓動している。
「あ・・・ご、ごめん。」
ショウは少し顔を赤くして、慌ててその腕を解いてくれた。 「う、ううん。」
私は恥ずかしさでショウの顔が見れず、コルピッツの方を見た。

ようやくハートレーが正気に戻ったらしい。今度は、ハートレーがホトの治療にかかっ た。これでホトも大丈夫だ。
それにしても相変わらずピアースがうるさい。
私は、つ いに頭にきて、彼に治療の順番が来るまで眠っているように『スリープ』の魔法をかけ てしまった。でも軽くかけたので、すぐ目は覚ました。
「あ、あれ?俺、眠らされてたのか?」
どうやら眠ったおかげで、ピアースは正気に戻 ったらしい。
「なんか、夢を見てた気がするんだが・・・・。」
彼は、辺りを見回したり、頭をこつんと叩いたりして考えていた。
「そうですよ、眠らされたんですよ。きっと良い夢でしたでしょう?楽しそうでしたか ら。」
事情を知っているのにコルピッツは、わざと真面目くさってそう言い、私に笑い かけた。
「いーい気持ちで、ふわふわしてたような感じがしたのは覚えてるけどな・・・思い出 せねーや。」
頭をぼりぼり掻く。
「そうだ!おい、ターマン、お前が、何か俺様の邪魔したのは、覚えてるぜ。」
ピアースは、ショウを指さし、睨むように見た。
「おいおい、お前の夢の中まで責任持てないぞ。」
「違いない。」
ピアースは、ぺろっと舌を出すと大声で笑い、みんなもどっと笑った。
「さぁ、先を急ぎますよ。」
ハートレーのその声で、みんな再び気を引き締めると出口へと、次の部屋へと向かった。


3階でも出たけれど、4階の橋の真ん中でもゾーフィタスがでた。これで、3回目。
そして、これが最後になるわけだ。

ここで、ようやく私たちが侵入者だと気づいたゾーフィタスは、グレーター・デーモンを召喚 して、私たちを襲ってきた。でもここまで、戦ってきた私たちにとっては、そう強敵で はなかった。
予期していたより簡単に倒してしまった。
やはり狂った半身だからだろうか。
彼の『なぜ私を殺した?』という質問に『コズミック・フォージ』つまり、例の呪 われたペンだ、と答えると、訳の分からないことを言い、最後には『お前たちには決し て見つけれない。』と言い残して消えて行った。
まさか私が知っているとは夢にも思わないだろうから。


というわけで、その橋を渡りきり、壁に突進した。
私たちは壁をすり抜け、穴に落ちていった。
そうしてついに私たちは、災いの王とレベッカがいるところ、そして、呪いのペンが安置され ている『コズミック・フォージの社』の入り口に着いた。

 


〆〆to be continued〆〆

 
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