〆〆 その31・死亡中のファーストキス 〆〆

 沼地で人間の顔の2m近くある芋虫に会い、彼に水キセルの引き取り番号を調べてほ しいと頼まれた。
ゲームをしているときも思ったんだけど、やっぱりこれってアリスから来てるのよね?
つい、まじまじと見てしまった。
とっても紳士的な芋虫さんだった。
彼はたばこが吸いたくて吸いたくて仕方がないのだけど、『預かりの島』のマイ・ライに 水キセルを預けていて、しかもその引き取り番号をすっかり忘れてしまったの。
そこで、例のワインの瓶が活躍した。
一旦沼地から川に出て、ミノス島のほぼ対岸にある『ビンの神託所』と書いてあるところで、 芋虫のおじさんからもらったメモを中に入れ、コルクの栓で蓋をして、流す。
そして、『忘れ物の島』へ行き、そこで流した瓶が流れつくのを待った。
そう、その名の通り神託所にメモを入れて流すと、忘れた事 がそのメモに書かれて、忘れ物の島にお告げとして流れ着くという仕組みなの。

私たちはさっそく流れてきた瓶を拾い上げ、『預かりの島』に行き、マイ・ライにそこ に書かれている通りの番号を言った。
が、「引き替え番号は?」というマイ・ライの問いに何度「『38ー23ー36』」と 答えても「そんなの知らない。」の一点張り。
いろいろ言い方も変えて言ってみたのだ けど、どういう訳か彼女は理解してくれなかった。
それで、頭にきたピアースは、私たちが交代で交渉にあたっているすきに、なんと盗みを働いたの。
私は何度か注意しようと思ったのだけど、かえってマイ・ライに見つかると余計やばいし、ピアースも言うことを聞いてくれそうになかったので、良心の咎めを感じながらほかっておいた。
でも、案の定、何度目の盗みだったろう、ついにマイ・ライに見つかった。
彼女は私たちが引きつけ役をしていると思いこみ、いいわけにも全く耳を貸さず、攻撃をしてきた。
当たり前と言えば当たり前なん だけど、いいとばっちりよね?
確か、ゲームの時もマイ・ライは番号を理解してくれず、結局は殺して倉庫の鍵を手に入れた事を思い出した。
かわいい子なので、かわいそうにも感じたのだけれど、向こうは全く聞く耳持たないし、状況が状況なので、背に腹は代えられぬ、と言うことで、倒してしまった。
「もうちょっと素直なら俺様のタイプなんだがな。」
倒れたマイ・ライの顔を覗き込むようにしてピアースは呟いた。
「何言ってんの?だいたいピアースが悪いんじゃない?」
彼女の袋から取り出した鍵を ピアースから受け取りながらついつい私は文句を言ってしまった。
「まっ、済んじまった事はしょうがねーよ。」
でも、ピアースは、全く気にしてない様子でどこ吹く風。

とにかく、その鍵で倉庫を開け、『水キセル』を手に入れるとさっそく芋虫のおじさんに届けに行 った。
彼はお礼にと「小さくなれる物だ。機会があったら試してみなさい。」とか言っ て『赤いキノコ』を3つばかりくれた。
あとでこれは大活躍することになる。それとも う1つ、あった方がいいアイテム『お香』、それを芋虫のおじさんがタバコとの親交 を深めるため沼の奥に入ってしまわないうちに買わなくてはならない事も忘れていなか った。
奥へ入っていったら、もう会えないのだから。
だから、抜け目なく水キセルを渡す前に買っておいた。
「何でそんな物買うんだ?」と言ったピアースだったが、「『死者の島』で使うの。」と言ったらなんとなく分かったらしい。

『死者の島』は門があって建物には入れない。そこで一旦お城への出入口の船着き場に 行き、そこの紋章が彫ってある例のところで角笛を吹いてカロンを呼んだ。
ピアースは できるなら避けたいようだったが、そうしないと死者の島の門の鍵が手には入らないと 話すと観念した。
でもカロンがいる間ずっと階段の方まで避難していたらしい。
受け取った3つの『遺灰の壷』のうちカロンは2つを手元に残し、残りの1つは、「死 者の島のあるべき所に戻してくれ」という言葉と共に門の鍵と一緒に私たちに返してく れた。
そうしていよいよ、『死者の殿堂』へ足を踏み入れる事になった。
そこは、手強いモンスターばかりの所。
とにかくゲーム後半の山場なのだから、気を引き締めなくちゃ!と自分に言い 聞かせながら、私は鍵で門紋を開けた。



「ツェナ、ツェナ、おい、目を開けろよ・・・ツェナ!」
「きゃっ!」
その声で気がついた私は目の前のショウ顔にびっくりしてしまった。
「『きゃっ!』はないだろう?心配したのに・・・。」
ほっとした顔と少しふてくされ た顔が混ざったような表情のショウだった。
「そうだよ、ツェナ、リサレクションを飲ましたのになかなか目を開けないもんだから 焦ってたんだよ。」
ホトがターマンの後ろから覗き込んだ。
「えっ、リサレクションって・・私また死んだの?」
起きあがろうとして、上体をターマンに抱きかかえられているのに気づいた。
「あ、あの・・・もう大丈夫だから。」
顔から火でも出ているように熱くなっていくのが自分でも分かった。
「あ、ああ・・」
ショウはその腕を私から離すと立ち上がった。私もすかさず立ち上がる。
「大丈夫か、ツェナちゃん?」
ピアースが心配そうに近づいてきた。
「ん、ごめんね。大丈夫よ。」
私はピアースに笑いかけた。
「一番いい所を奴に取られてしまったが、お次は絶対俺様が助けてやるからな。」
なんとなくピアースが不機嫌だ。私がどうしてだろう?と思っていると、ホトがピアー スをからかった。
「せっかくのチャンスだったのにね、残念でしたぁ。」
「ちぇっ・・」
舌打ちをし、不機嫌極まりないというように、腕を頭の後ろで組み、 壁にもたれかかった。
「ちょっと、ちょっとホト、どうしたの?私が死んでる間に何かあったの?」
確か戦闘に入った時でもそんな気配は全くなかったように思えた。なぜ不機嫌なのか私には全く 分からなかった。
「・・・鈍いね、あんた。」
ホトは少し呆れたという顔をして私の顔をじっと見た。
「は?」
「あのね・・・あんたの事でごきげん悪いんだよ。・・だったら理由は決まってるじ ゃないか!」
私をみんなから少し離れた所に連れていくと、少し声を低くして言った。
「・・・」
それでも分からないという顔をしている私にホトは頭にきたようだった。
「あのねっ・・」
つい大声でいいかけたホトは、慌てて声を小さくして続けた。
「あんた、死んだんだよ。」
「ん。」
私はこくりと頷いた。
「だけど、あたいたち全員魔法力使いきってしまってたし、そうでなくても最高の呪文 だよ、『リサレクション』は。到底そこまでの回復は見込めない。次から次へとモンス ターは襲ってくるしさ。」
「スクロールがあったでしょ?」
私の記憶に間違いがなければ、リサレクションのスク ロールがあったはず。
「今回死んだのは、あんただけじゃないの。」
「実は・・・あたいもなんだよ。後は、ピアースもだし、ハートレーもなんだよ。」
「じゃ、じゃ、ターマンとコルピッツだけ残ってたってわけ?」
私はびっくりしてしまった。たぶん今の私はこれ以上大きくならないだろうと思うくらい目を見開いているに違いない。
「そう。それで・・スクロールもあんたを助ける前に使いきってしまってたって事な んだよ。で・・残っていたのが・・・。」
「確か・・ターマンはポーションを・・・・持ってたんだよね。」
ようやく私は意味が分かってきた。
頭の中に、ショウが私に口移しでポーションを飲ませている様子が浮かぶ。
「えっ、ええぇぇぇぇっ!!」
今度は私が大声を上げた。ホトが慌てて私の口を押さえた。
「そんな大声出すことないだろ!」
「だって、だって・・・・ファースト・キスだったのに。まさか、こんな・・こんな・・・・・」
恥ずかしさとくやしさといろんな想いが重なり、私は混乱してしま った。
こんな場面で乙女のファースト・キスを失うなんて思ってもみなかったから。そ りゃー相手がショウだってことには・・一応・・文句はないけど。と言うよりやっぱり嬉しい・・って 言った方があってるような気もしないではないけど。でも、でも・・・・。
「ツェナ、今はそんなこと気にしてる場合じゃないよ!」
ぼーっと突っ立っている私をホトが叱咤した。
「気持ちはわかんないこともないけどね。あたいも女の子だしね。でもあのときはああするより他ないんだしさ。それにあんた・・・・」
最後の方は声が小さくなってしまって聞こえなかった。気のせいか元気がないようにも感じた。
「それに?」
「もう大丈夫だろ?ツェナ、どっちに行けばいいんだい?」
私の質問には何も答えず、みんなを促したホトは、いつものように明るかった。
「ええと・・」
どうもまだ頭がさっきのショックで固まっているらしい。もう一度ここへ入って来たところから整理してみようと私は思った。
とりあえず、今はさっきの事は横に置いておいて。
今はそれどころじゃないと言うことくらい分かっているつもりだから。


死者の殿堂に入る手前の小部屋にカロンから頼まれた遺灰の壷を安置し、ついでにお香 も炊いた。壷を安置することで、ドアは開いたし、お香を炊いた事で、侵入者を取り殺 そうとさまよっていた死者の霊も浮かばれ、彼らには襲われずにすんだ。
で、殿堂に入り、両側が墓室の狭い通路を進んでいる時に聞いた気味の悪い声と、吹き 抜けた悪魔の風のせいで、ほとんどみんなが恐慌状態に陥った。
そして、そこにまるで待っていたように巨大蜘蛛の集団が襲ってきた。
あの状態なら小さな蜘蛛でさえ恐ろしく見えただろう、それが自分の背丈より大きいんだからもうたまったものじゃない。
それでもなんとか時間がたつと同時に落ちつきを取り戻すことができ、敵を倒すことができた、ということなのだけど、ほとんどが死亡してしまうという事態になったということらしい。それに、ああ、私のファースト・キ ス・・・。


「ツェナっ!]
なかなか返事をしない私にしびれをきらしたらしいホトが叫んだ。
「ごめん、ごめん・・・えっとぉ、ずいぶん走って逃げてきちゃったみたいだけ ど・・」
どうやら恐慌状態の時に、通路の両側の墓室のうちのどれかに逃げ込んだら しい。
私は部屋の外へ出ると方向を確認した。
「同じようなとこばかりだからどっちなのかよくわかんないけど・・とにかく少し進 めば分かるよ。」
「じゃ、行こうか、もう十分休んだだろ?」
ショウがこっちに向かって歩いてきた。
考えないようにしようと思った私だったのだが、ショウの顔を見た途端、心臓が破裂す るかと思うくらい激しく打ち始めた。みんなに聞こえてしまうんじゃないかと思えたほ ど。顔は火が吹き出てるように熱いし。
「おい、通れないぞ。」
ショウは入り口の所で硬直したように突っ立っていた私の横をすり抜けるようにして通っていった。
「あ、あの、ありがとう・・ターマン。」
私は慌ててショウを追いかけ話しかけた。
「いいって、そんなこと。当たり前なことだし、それに今、お前に死なれたら、俺、お ばさんに会わす顔がないからな。それも、こんな所で。説明のしようもないしな。」
前方を見たままショウは言った。
「う、うん。」
恥ずかしさが甦り、私はショウの横をうつむきながら歩いた。
「でもさぁ、敵が蜘でよかったな。」
気がつくとすぐ後ろにピアースが来ていた。
「どうして?私蜘蛛大っ嫌い!それもあんなに大きいのよ。どこがいいの?」
後ろを振り向きざま聞いた。どうやらさっきの不機嫌さはもうないみたい。
「どこがって・・・あれがもしスケルトンだってみろよ。呪文と両方で攻撃してきてさ、 俺達あんな風だっただろ?きっとひとたまりもなかったと思うんだ。だけど蜘蛛って奴 は魔法なんか使えないからな。それに馬鹿の一つ覚えでとにかく糸で巻くんだ。そうし てるうちに俺達は普通の状態に戻れたし、まぁ、咬まれちまって毒に侵された奴は気の 毒だと思うけどよ。でもそれで何とかなったってもんじゃないのか?」
「そっ、スケルトンは呪文も攻撃もすごいもんね。全員おだぶつってとこだろうね。あ たいも蜘蛛はあまり好きじゃないけど、あん時は蜘蛛でラッキーだったと思うよ。」
ピアースの後に続いてきたのはホト。
「そうですね、その意見には私も賛成です。」
ハートレーがホトのすぐ後をついてきている。一番後ろにコルピッツが、後方からの攻撃に備えて、時々振り向きながら注意を払いつつ歩いてきていた。
「そうね、そういうことになるのかな。」
ようやく私は納得した、でも、やっぱり蜘蛛は大嫌い。見た目だけならスケルトンの方がまだいいなと思いながら歩いていた。


どうやら方向は正しかったらしく、鍵のかかった門で行き止まりとなった。
「ごめーん、また鍵を先に手に入れることを忘れちゃった。ちょっと戻らないと。」
私は舌を出し、ちょっと戯けてみせた。
「いつもの事だろ?」
ショウがいつものようにぶっきらぼうに言った。
「コルピッツ、来た道を戻ってくれ。」
狭い通路なのである、しんがりが先頭となって進んだ。
暫く通路を戻って行くと私がどの墓室だったか考えているうちにショウが「そこだ。」 と言った。
「すっごーい、ショウ。じゃなかった、ターマン。」
今のでさっきのことも頭から消えてしまった私は、ショウの顔を見て、2人だけに聞こえる声で言った。
「当たり前だろ、さっきこの辺りまでやったとこなんだからな。」
『さっき』とは、私達がこっちの世界に来る前の事だ。
「後は知らないぞ、俺。寝ちゃったからな。」
彼は、私に先に部屋に入るようにあごで指示した。
「この部屋だった?・・スケルトン軍団が出てこないよ。」
そう私が言った途端だった、何処から現れたのか、スケルトンとスピリッツの一団が襲ってきた。
「よく見つけたものだ。・・・お前達の為に私達はやってきたのだよ。」
頭に声ならぬ声が私たちの頭に響く。と同時に彼らは一斉に襲いかかってきた。

 


〆〆to be continued〆〆


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