〆〆 その30・ガイドはばっちり♪ 〆〆

 門をくぐって左の泉は傷を癒し、体力を回復してくれ、右の泉は魔法力の回復をして くれた。
泉があるので、魔法力が無くなるのを心配する必要もなく、戦闘の時は、ふんだんに呪 文をかけまくった。
もっともそうしなくちゃならないほど強敵ばかりだった事も確かなんだけど。
向こうも強力な呪文をどんどんかけてくるので、いわば、呪文のかけあいって感 じだった。


一応ミノス島全ての探索が終わる頃には、ショウも戦闘に大分慣れてきたらしい。
「まだグレーター・デーモンの呪文が身体に残ってるのか?」とピアースに散々厭味を 言われながらも。
一応ショウは元剣道部員だから、最初から多少は剣の振り方も様には なっていた。
あとは、切るという実践と武器になれる事。
でも例えモンスターといえども『切る』って事には随分抵抗があったようだけど。やっぱり いくら男の子でも気持ちが悪いからなんだろうと思う。いくらこの世界ではそうしなくちゃいけないと思っても。
真っ赤もいやだけど、まっ青な血が、切った途端吹き出てくるってのもいや。
ショウと何とか暇を見て話そうと思ったのだけど、いつもピアースが私の横にぴったり くっついていてどうしても話す機会を作れない。
ホトは、少し困惑気味の私に笑いかけてくれるだけで、助け船も出してくれそうにないし。
そんな状態が続くうちに、気がつくとショウの横にはいつからか、いつもホトがいるよ うになっていた。
ショウもまんざらでもないようで、私は、そのうちショウと話そうと も思わなくなってしまっていた。
ううん、まるっきりその反対で無視するようになってしまっていた。

ミノスでの探索は亡者の島だけあって、まるっきり墓荒らし。
気は進まなかったけど、色々な武器や防具があるし、これから先必用なアイテムもあるので、徹底的 に調べた。
そして、見落としはないかよーく確認したあと、いかだに乗って川を下った。


いかだの終点である、サイレンの入り江でサイレンの姉妹達の質問に、ミノスの亡者の 塚で手に入れた本に書いてあったとおり、『われらをときはなつ狂気』と答え、『水の 翼』を首尾良く手に入れた。
これは、水面すれすれの所を浮かんで移動できるアイテム で、その名前の通り、小さな翼がついた金具。
履いている靴に、取り付ければいいだけという便利なアイテム。
全員それぞれサイレンの姉妹達から受け取るとさっそく自分の靴に取り付けた。

「じゃ、川周辺の探索といこうか!」
ホトが早く試してみたくてしょうがないみたいに催促した。
私も川の上を歩くなんて事は初めて。なんとなく恐いようなわくわくするようなそんな気が混在する。
そして、そぉっと水面に足を運んだ。
「うわぁ〜・・」
水がかかるか、かからない程度に浮いている。思わず感嘆の声を出してしまった。
それにしてもなんとなくおかしな気分。もし、明るければ川の中まで見えるんだろうなぁ、、などと思いながらそろりと歩き始める。
パーティーの中で一番心配したのは、コルピッツ。と言っても彼の事だから、別に 恐くてではない。
ドラコンである彼の身体は人一倍大きい。そして、その翼は、とっても小さいのである。
「もし、駄目だったら私は泳いで行きますから。」なんて言ってから水面に出た。
『案ずるより産むが安し』と昔から言うけど、その通りで、きちんと水面に立っていられた。
「なかなか力があるんですね。」
なんてコルピッツにしては珍しく笑っていたけど、なぜあんな小さな翼だけでバランスが取れるのか・?本当に不思議なアイテムだ。

『瓶の神託所』『忘れ物の島』『預かりの島』その他諸々の小島、ショウと復習! したばかりだけあってよく覚えていた。
その度にピアースやハートレーから何の事か、 どう言う意味か、と聞かれたけど。
ショウはターマンの振りをしているつもりなのか、何も言わないし、私に話しかけてもくれなかった。

見つけた宝物は、預かりの島のマイ・ライ、ちょっとアマズール族を思い出させる、かわ いい女の子なのだけど、彼女に売ったり使ったりした。
預かりの島があるってことは、 この対岸を探せば沼地に続く小道が見かるはず。なんと言っても辺りは暗くほんの少 し先しか見えないため、進行状況はばっちり覚えているのに、探索は思うように進まなかった。

「だいたい今どっちを向いているのかわからねーんだからなぁ・・・。」
最初は珍しくて面白がって歩いていたピアースもだんだん頭にきたらしい。
「まったく!今俺達は、北か南か?それとも東か?西か?どっちに向かってんだよう?!」
文句を言いながら、相変わらす私の横を歩いている。


「げぇっ、『死の川』ってここに彫ってあるぜ。カロンといい、やっぱあの世につなが っている川だったのか?どうも気味の悪い川だと思ったぜ!」
「えっ、何処、何処?」
慌てて私は彼に聞いた。
「ここだって。」
彼の指さした所を見る。確かに書いてある。
「それがどうしたんだ?ツェナちゃんはもう分かってるんだろ?」
不思議そうな顔をして私を覗き込んだ。
「ん、そう。だから確認したの。つまり、『死の川』って書いてあるのは死者の殿堂の 島の裏手だから、だいたい位置がわかるの!」
「ふーん、そうなのか・・・。」
今一納得してないみたい。
「だから少し北に来すぎたって事ね。ええっと、とすると、こっちが西だから・・。」

私はみんなを西に誘導した。
そうして岸づたいに水面を歩き、ようやく沼への小道を見つ ける事ができた。
坂道を登り、沼にでようとぬかるんだ道を歩く。でも、私は沼の入り口には門 があり、その鍵を先に手に入れなくてはいけないことをすっかり忘れていた。
「なんだよう、ツェナ、行き止まりだぜ。この鍵は俺様と言えどもまず無理だ。という 事は、ここにいる誰にでも不可能って事だぜ。」
どうもピアースはこの川辺の雰囲気が好きじゃないらしい。
そりゃー私だって、ううん、他の人だってみんな好きになれる雰 囲気じゃないけど、ピアースは特にそうらしい。カロンに会ったときからいつもの彼ら しい明るさが消えてしまっている。
「ごめん、ピアース、鍵を先に見つけるの忘れてた。」
「しっかり頼むぜ、ツェナちゃん!頼りにしてるんだからな。」
「ホント、しっかりしてほしいぜ。」
ショウが口を挟んだ。
「ターマンに言われなくても十分反省してるわよっ!」
つい・・私はショウを睨んでしまっていた。


そして、再び来た道を戻り川へ出る。
「ねぇ、ピアース、確かどこかの宝箱で、釣り針と釣り糸、手に入れてたよね。」
「ああ、ちょっと待ってな。」
ピアースはごそごそと自分のバッグの底を探した。
「ほら、あったぜ。釣り針なんて危ないからワインの瓶に入れといたんだ。でもどうす るんだ、これ?」
釣り針と釣り糸を取り出し、私に渡そうとして閃いたようだ。
「もしかして、これとこれを繋ぐのか?で、何か釣るのか?こんな川に何かいるのか?」
ピアースは、くくっと釣り針に糸をつけてから私にくれた。
「サンキュッ。じゃあさ、ワインの瓶も一緒にくれる?まだ使わないから入れておいた 方がいいから。」
「ああ、いいぜ。やっぱこんなものも役に立つじゃないか、やっぱし俺様の感は大した もんだぜ。」
「あとで、もっと役にたつよ。なくてはならないアイテムなのよ、この瓶。」
私は瓶を受け取りながら意味ありげにウインクした。
でも確か、ピアースがこのワインの瓶を 割ろうとしたのを、私が止めたような気がするんだけど。
「ふーん・・・。で、何の役に・・・」
ピアースが言いかけた時だった。
「そんなこと今はどうでもいいから早く鍵を探しに行くぞ。どっちに行けばいいんだ、 ツェナ?」
いつのまにか真横に来ていたショウが、さっとその釣り針付き釣り糸の入った瓶を私の手から取ると、先に立って歩き始めた。
「こっちでいいのか?」
「えっ、あ、あの・・・」
私は慌てて周りを見渡すとショウの向かっている方向を確認した。
「ん、そう。そっちで間違いないわ。岩壁を気をつけて見ていって。確か『忘れ物の島』の壁に書いてあったマークを探すのよ。」
ショウも一緒にプレイしたんだから分かってるのに!私の記憶力を試してるな、と私は思いながら一応答えた。
「赤い『X』だっただろ?」
振り向きもせずショウは答える。
「そうだよ。そこから・・ええと、川の中心に向かって・・何歩だったかなぁ・・・」
(ああ、細かいところまで覚えてない!)思わず私は心の中で叫んでいた。
「印のあった地点から、東に3歩、北に1歩のところ!」
ショウのそう言った口調は気のせいか、きついような感じだった。
どんどん歩いて行ってしまうショウを私たちは、姿を見失わないように追いかけた。
「あったぞ、『X』だ!」
ショウのその声を聞くが早いか、私たちは全員走ってそれに近づく。
「ここから東に向かうんだな。」
そう言ってさっさとショウが歩き始める。
「1、2、3で、ここから北に1歩・・・ここでいいわけだな。」
みんなが見守る中、ショウはさっき私から取った釣り糸を投げ入れる。
そして、ゆっくりと引き寄せる・・・・・
・・・と・・・
糸がピン!と張った!掛かったらしい。
「なかなか重いぞ。」
そう言いつつ誰にも助けを求めようともせず、一人奮闘するショウ。
「よいしょっと。」
ようやくつり上げた。それはさび付いた古いロッカー。ロッカーの鍵はさび付いて壊れており、触るだけで簡単に開いた。
中に指輪が一個と『EAST EXIT』と書かれた鍵が入っていた。
これで沼地への門を開けることができる。
ショウは、空になったロッカーをぽいっと川へ投げ捨てると鍵をホトに投げ渡した。
「これで、沼地にも行けるね。」
ホトはにこにこすると飛び跳ねながら来た道を戻り始め、私たちも遅れないように急ぎ足でついていった。
でも・・いつの間にかショウとの間に距離ができてしまっていた。
どうしても普通に話せない。
どうしたらいいんだろう?・・そんなことを考えながら、私は歩いていた。

 


〆〆to be continued〆〆

 
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