〆〆 その29・2人仲良くWIZの世界へ 〆〆

 「ツェーナ、いいかげんに起きなよっ!」
「えっ、今の声は?・・・『ホトの声』だ!もしかしたらまたゲームの中に戻って来れ た?」
そう思いながら、まだ眠りがたらないのかぼーっとしている頭をトントンと自分 の拳でたたきながら目を開けた。
目の前には、そう確かにフェルプールの愛らしい顔を したホトがいた。
周りを見ると、やはり、いるいる、コルピッツにハートレー、ピアー ス・・・
「えっ?ターマンは?・・・ああ、いたいた、まだ眠ってるみたい。」
彼は戸口の横の壁にもたれてうつむいている。多分寝ているのだろう。
戸口の横という事は、またいつものように見張りでもしていて、 コルピッツとでも交代してから寝たんだと思う。
それでなきゃターマンが私より寝ているわけないから。
そんなことを考えている間に、ホトが彼を起こしに行った。
「ほら、ターマンも起きた、起きた。」
ホトは彼の肩を自分のスピアの握りの方でつっついた。
「う、う〜ん・・・」
珍しくまだ寝が足りないような感じで目を開けたターマン の顔を見て、私は心臓が止まってしまうほど驚いた。
「ショ、ショゥ?????」
兜をかぶっているのではっきりとは見えないが、確か に今までのターマンの顔じゃない。震え上がってしまうような鋭い目つきじゃない。
あれは・・・あれは、確かにショウの目だ。・・ショウの顔!!

「な〜にすっとんきょうな声出してんだい、ツェナ?まだ寝ぼけてんのかい?」
ホトが私の方を振り返り笑った。
「だって・・・・」
確かに今までのターマンじゃない、ショウに違いない。一緒にいたからシ ョウまで引き込まれちゃったのか?でも、他のみんなは違っているとは感 じないみたい。
もしかしたら私の目がおかしくなってしまったの?そう思った私は目をごしご しと擦った。
そしてもう一度ターマンを見てみようと目を開けた時、そこにはショウの 顔のドアップがあった。
「おい、釉唯・・・だよな。」
小声で確認するように言った。確かに声もショウの物である。
「ショウ、やっぱりショウなの?」
私も声を低くすると確かめるように聞いた。
「ああ、やっちゃったらしいな、俺達。異世界へのスリップってやつを。夢だとは言い がたいぞ。」
ショウは自分の服装を指している。鎧兜に身を固めた武士である。
「さっきからつねってみても目は覚めないしな、痛みはまともに感じるのに。・・・ だっけどホントになるとは・・・・・」
「やっぱり信じてなかったんじゃない?」
「信じろって言う方が無理なんだよ!」
「でもこれで、分かったでしょ?」
「ああ・・」
とショウが言いかけた時、2人の間にピアースが割って入ってきた。
「おいおい、急に仲良くなって2人で内緒話なんかしちゃってさ。どうしたんだ?」
「えっ、あの・・・そうじゃなくって。」
私は顔が赤くなってくるのが自分でもわかった。
「あの・・・」
何と言うべきなのか分からない。
「ターマンもターマンだぜ。今まで散々ツェナちゃんを苛めておいて、今更気を引こう っても遅いんだぜ。何と言ってもツェナちゃんには、もう俺様がついてるんだからな。」
ターマン、いやショウは話の内容が理解できず、じっとピアースの顔を見ている。
「ツェナちゃんのナイトは俺様って決まってるんだもんな。」
そんなターマンなど全く無視し、私の方を向くと、にこっと笑った。
「あの・・・でも、ターマンじゃなくって・・。」
何と言ったらいいのか、私は困惑して口籠もってしまった。
「ターマンはターマンだろ?・・今更やさしくしたって遅いんだって!」
ピアースは口を尖らせている。私がターマンの肩を持ったと思い、気に入らなかったようだ。
ターマンは今まで寝る時も兜を脱いだ事がない。その事が幸いしてか、どうやら中身が 変わっている事には気付かないらしい。
そう言えば、身長もだいたい同じくらいだし、体格とかは鎧でわからないし、ラッキーと言えばラッキーなんだろうけど・・・。
「そんなことどうでもいいよ。さぁ、そろそろ行くよ。鍵も手に入れたしさ。」
ドアでホトが手招きしている。コルピッツとハートレーはもう部屋の外に出ているらし かった。
「ミノスの鍵でしょ?・・それと遺灰の壷はなかった?」
私はとっさに聞いた。
「あったよ。ハートレーが持ってる。ミノスの鍵かどうかは知らないけどさ。」
「その鍵であの建物の門を開けれるのよ。そうすると確か回復の泉があるから、他の部 屋を調べる前に、そっちに行った方がいいよ。なんと言っても手強い相手ばかりだから ね、この辺は!」
「ふ〜ん・・よく分かる・・・、あれっ?ツェナ、あんた、記憶が戻ったのかい?」
はっとしたようにホトは私に駆けよった。
「ん、そうみたい。だからずっと前みたいに案内できるよ。ある程度、だけど ね。」
私は頷くと自信を持ってホトにそう言った。
「そいつはすげーや!これでもう百人力だな!!」
ピアースもびっくりしたように、そして嬉しそうに言い、私の肩をポン!と叩いた。
「じゃ、行こうよ。ハートレー達も喜ぶよ、きっと。」
くるっと向きを変え、ホトは飛び出すように部屋から出ていった。
そして、その後に続くように私達も腰を上げ戸口に向かって歩き始めた。
ピアースは本当ににこにこして私の肩に手を回し、リードしてくれている。
それはそれでとっても嬉しかったんだけど、今の私にはターマンことショウの事が心配だった。
ショウは黙って私達の後をついてきている。私が初めてここに来た時のように、きっとショウも何が何だか分からず、不安に違いない。少しでも状況を教えてあげたいのに、と心の中では焦っていた。


 部屋の外に出ると、隣の部屋を調べ始めているかなと思ったコルピッツ達がグレータ ー・デーモンとにらみ合いをしていた。多分今出てきたのだろう。
「ぐおぉぉぉぉぉ」
グレーター・デーモンがその太い腕をかざし私達を襲って来る。
「一匹だけか。軽いな。」
そう言うが早いかピアースはさっと身を交わし攻撃の隙を 狙った。
ホトもアマズール族の女王を倒した時に手に入れた死のスピアを振り上げ向か っていった。そのスピアは上手くいけば一刺しで、相手を死に到らしめる事ができるもの。
それに普通のスピアなら両手でないと扱えないのだが、これはどういう材質かは分 からないが、とても軽く片手で扱える。最初は今までの癖が出て、どうも調子が悪 いと言っていたホトも今では、左手に持った楯の扱いにもすっかり慣れ、お気に入りの 武器となっていた。
手と足が武器のモンクのコルピッツは相変わらずだし、ハートレー もメンバーに回復呪文をかけながら、さっきの部屋で手に入れたビーストマスターソー ドを振るっている。
私も負けてはいられない、家に戻っておなか一杯おいしい物も食べ てきたし、お風呂も入ってきたし・・・という事で、絶好調!
でも、こうすごい攻撃をしてこられては、なかなか呪文を唱える暇がない、だから、得意の喉 とリュートでスリープの魔法でもかけてやろうと思い隅に身を寄せた。
リュートを奏でる・・・『眠れ、良い子よ〜・・・』な〜んちゃって・・・とても 良い子とは言えないけどね。
でもバードの奏でる歌はよく効くのだった・・・なんちゃって、ちょっとお調子づいて しまってるような私だけど、とにかくグレーター・デーモンはすぐ眠ってくれた。
そして、それ を逃すパーティーではない。すぐさま全員で攻撃!あっと言う間に御臨終、という訳。
「ふう・・・。」
リュートを奏でる手を止め私が一息付いたいると、いつのまにか横にショ ウが来ていた。
「・・・俺って侍なんだよな。」
考え込むように話し始めた。
「この刀で攻撃しなく っちゃいけないんだよな。」
刀を腰の鞘から抜き出す。ターマンの刀はよく手入れさ れていて、ムラマサ・ブレードとまではいかないにしても、キラッと光るその刃は、ち ょっと触れただけでも切れそうな感じ。
ショウはその刃をじっと見つめている。
「そう、ターマンは侍だから、その刀をとても大事にしてたよ。それに自分の腕に誇り を持ってた。すっごく強かったよ。魔法使いの呪文も使えるはずなんだけど、ほとんど 使わないで、いつもその刀ともう1つの脇差しでズバッ、ズバッとやっつけてたよ。」
「・・・やんなくっちゃ、ならないんだよなぁ・・。」
ショウは刀から目を離さずじっと見ている。
「そう!私もそうだったんだもん。ショウなら私より上手くできるよ。頑張って!!」
「俺、動けなかったんだ、今。でもすごいんだなー、釉唯。感心したよ。」
ショウは刀 を鞘に収めると私の方を向いた。
「慣れだってば。最初なんてもう全然だったんだよ、ターマンにいつもどやされてばか りで。あっ、ごめん、今はショウがターマンだった。」
「いいんだって・・・でも俺にそんなすごい侍の代わりがやれるのかなぁ・・・。」
「やるしかないっしょっ!!夢じゃないんだから、殺らなきゃ殺れちゃうよ。みんなに も迷惑かける事になるし。頑張って、ショウ!!」
私はショウの肩をポン!と勢いよく叩いた。
「ああ、そうだな。こうなったらやるしかないよな。」
「そう!慣れてしまえばこっちのもんよ!!」
「ふう・・・」
そうは思っても、つい溜め息が出たらしい。その気持ちは、私もよく分かる。
「魔法も時間があるとき教えてあげるね。」
私は少し得意顔になっていた。
「はいはい、お願いしますだ、先生様。」
「はははははっ!」
つい二人で声を出して笑ってしまった。やっぱり、ショウは私より立ち直りが早いみ たい。まぁ、くよくよしてても仕方がない状況なんだけど。
そんな私達のところにピアースが近づいてきた。
「どうしたんだ、ターマン、いつものお前らしくない。」
「あっ、ああの、グレーター・デーモンの術にかかって動けなかったんだって。」
とっさに私はごまかす。
「奴、そんな呪文かけれたっけ・・・まぁ、いいや。ツェナちゃん、行こうぜ。」
ピアースは、ターマンといたのがさも気に入らないとでも言うように、私の手をさっと取 るとぐいぐい引っ張っていく。
「ちょ、ちょっとそんなに急がなくてもぉ・・・。」
ショウともっと話そうと思ってい た私は焦った。
振り向いた私の目に写ったショウは、あっけにとられたようにまだそこに立ったまま。
「いいから、いいから・・・。」
ピアースはそんな私におかまいなしに歩き続ける。
「はははっ、妬いてるんだよ。」
ホトがそんな私達を見て笑った。
「うっせぇなーっ!」
いつもより強い口調でそう言い返したピアースは、門のところまで来るとようやく私の手を離した。
そして、鍵を袋から出して、その錠前に差し込む。
−カチン!−
「ようし、じゃ、泉の水で回復と行くか。」
ピアースは勢い良く門を開けると、再び私の肩を抱き中へと入った。



〆〆to be continued〆〆


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