〆〆 その28・夢?現実?翔と実験! 〆〆

 「なかなかスリルがあったね、翔。」
「馬鹿か、お前は。鬼饅頭にでも見つかったら保護者共々呼出しだぞ。」
「えへへへ、ごめ〜ん。」まだ朝早かったせいか、誰にも見つからず学校を出ることができた。
「それよりさっきの話の続き。お前どうして学校になんかいたのか本当に覚えがないの か?」
ショウとこうして2人並んで帰るのも久し振り。
「うん、全然。」
「考えられることは、やっぱり1つって事か?・・・だよなぁ・・・Tシャツにキュロ ットだろ。それに素足だもんなぁ・・。」
ショウは改めて私の恰好を見た。何も履いてなかったので、ショウに私のげた箱から上 靴を持ってきてもらってそれを履いている。
「でも、やっぱ、有り得ないよなぁ・・・。」
考え深げに私の足元を見ている。
私だって分からない。何で学校になんかいたのか、全然覚えがないんだから。
いくら考えても朝起きた覚えは全くないし、学校へ来たなんてことも勿論覚えがない!

「おい、家はこっちだぜ。それまで忘れたわけじゃないだろ?」
ショウは、いろいろ考えていて、ぼけーっと歩いていた私の腕を引っ張った。
曲がり角にも気付かず、まっすぐ行くところだった。
「ご、ごめーん、ちょっと考えてたもんだから。」
「どうする?おばさんには部活だって言っちゃったから・・・俺んちにでも来る?」
「ん、そうする。」
「何か朝飯作れよな。お前のせいでまだ食べてないんだぞ。」
「材料はあるの?」
「材料ってがらかよ、どうせろくなもん作れないだろ?」
「なら頼むなよ!」
と、私は思わず口調が強くなってしまった。
「お前腹へってんだろ?どうせ作って食べるんなら1人分も2人分も一緒じゃないか。 自慢じゃないが、胃袋は丈夫にできてんだ、俺。ま、冷蔵庫には、材料がぎっしり入っ てるから、適当に頼むな。口に入りさえしりゃいいからさ。」
「ひ、ひどぉ〜い!いくらショウだって言っていい事と悪い事とあるわよ!いいわよ、 もう!私、頭痛がしてきて部活休んできたって事にしちゃうから!」
「あっそ、話したい事あったんじゃなかったっけ?」
「・・・ショウだって知りたいんでしょう?」
「まっな。」
「ぷっ、あっははははは!!」
一瞬、見つめ合った後、私たちは、2人同時に吹き出してしまった。

ショウとはだいたいいつもこんな感じ。色気もそっけもない。友達からはよくからかわ れるけど、んー、兄貴と妹って感じ。
「おばさんに見つかったら見つかったでいいか、とにかく俺も腹へったよ。寝てたとこ を起こされたもんな。そのまま出てきちゃったし。」
「ごめんね、よ〜し、釉唯にまっかせて!腕によりをかけて作ってあげるから。」
私はショウにウィンクすると腕を捲くるふりをした。
「はいはい、期待しないでおくよ。」
「何よ〜・・それぇ?」
「はははははっ。」
少し恨めしそうな顔で睨んだ私を、ショウはまたしても思いっきり笑った。


「で、結局考えられることは、やっぱりウィザードリィの世界に入ってたって事になる わけか?」
一生懸命作ったわりには、トーストとハムエッグそれにカフェオーレとなっ た朝食だけど、ショウの家のダイニングで食べながら謎の整理をしていた。
「だけどなぁ・・・そんな非現実的なことがホントに起こるかどうか・・・・。おい、 トーストもう一枚な。もちょっと焦げ目にしてくれよ。」
「ん、もう!調子がいいんだから!」
ぷうっとふくれながらも、仕方なく言われた通りにした。
なんといっても夏休みの課題のわからないところをまた聞かなくちゃいけない ので、ここは素直に従っていた方がいいというわけだから。
「それで、やっぱりうんず君が出入口になるのか?」
「ん、そうみたい。それしか考えられないよ・・・確か昨日つけっぱなしで寝ちゃった のよ。でも、向こうから見た夢の中では、お母さんが電源切ちゃったから家には戻 れなくなって、その代わり電源が入れっぱなしだった学校のうんず君から出れたんじゃ ないかなぁ?」
「う〜ん、昨日戸締りしたとき、全部切ってあったかどうかなんてはっきり覚えてない しなぁ、、部活の終わる時間より遅く迄いたから、慌てて戸締りしたし。確か に釉唯が寝てたとこのはメニュー画面になってたからな。あっ、釉唯、りんごあっただ ろ?」
「はいはい、剥けばいいんでしょ、剥けば。」
テーブルの上に食べ物が無くなるが早い か、あれこれ注文してくる。ふん、今のうちだけだからな、と思いながら冷蔵庫から、りんごを取り出した。
「果物ナイフは?」
「そんなもん、普通の包丁でいいだろ?」
「だって、私果物ナイフでしか剥いたことなもん。普通のなんて大きすぎて怖い気がす る。」
「だっめだなぁ・・・それくらい慣れておけよ、ほら、かしてみな。」
ショウは私からりんごを取り上げると、ス、スッと剥き始めた。
「なかなかやるじゃない、ショウ。」
「まぁな、お袋も親父も忙しくて俺1人の方が多いからな、自然と自分で何でもやるよ うになるさ。」
「じゃ文句言って食べなくても初めっから自分で作って食べればよかったじゃない。」
「たまには他人の作ってくれた物が食べたいんだよ。たとえまずくても美味く感じるん だって。」
「まずくって悪かったわね。・・・」
「あん?」
小声で文句を言ったのに、それが聞こえたのか、ショウはりんごを剥く手を止めてこっちを見た。
「なんでもない。」
「ふ〜ん・・・ほい、お前の分。」
剥き終わったりんごの半分を私にくれた。
「サンキュっ!!」
しゃくっ、しゃくっとりんごを食べ始めた。
「とにかく、今晩宿題を見てやるって事でお前ん家行くよ。それでもう一度つけっぱな しにして寝ればわかるだろ?」
「だけど本当になるのかわからないし・・今晩なるとも限らないし・・・。」
「こうなったら実験あるのみ!!わかったか?」
「・・・・」
ショウは私の返事がどちらでも、もう決めてかかっているようだった。
昔からこう思ったら絶対しないと気がすまない性格なんだから。
でも・・いくら幼なじみとは言え、男の子の目の前で寝ろなんて〜。
もし、もしもよ、よだれなんかたらして寝てたりしたら・・・
・・・ああ・・・・・最悪ぅ・・・・・・。



 午後8時、もうそろそろショウが来るはず。
塾へ行って、夕御飯をすませてから来るって言ってたから。
私は自分の部屋でショウの来るのをじっと待っていた。
うんず君は私の部屋にはなく応接間にある。私の部屋に置くと深夜までゲームをするといけない という親の計らいで。
「こんばんわー。」
玄関でショウの声がした。
「あら、ショウ君いらっしゃい。悪いわね、今年は受験で大変でしょうに釉唯の勉強ま で見てもらって。」
「かまいませんよ、僕は。たまには息抜きも必要だし、それに復習にもなるし。」
「そーお、釉唯もショウ君くらいやる気になるといいんだけど。」
「釉唯だってやる時はやりますよ、きっと。部屋ですか、釉唯は?」
「ええ、そうよ。お願いね。」
「はい。お邪魔します。」
トントントンと階段を上がってくる音がする。
「ったく、あの猫っかぶり!!いつもあの調子で、真面目でしっかり者で通っ てるんだから。私にはとても・・。」
−コンコン−
ドアをノックする音。私がまだぶつぶつ言ってるうちに、早くも上がってきた。
「どーーぞ、開いてるわよ。」
私は少しふてくされていた。ドアの方とは反対に机に向かったままだった。
そんな私には全く構わず部屋に入ってくると、窓際にあったもう一つのイスを引き寄せ 横に座った。
「宿題、進んでるか?」
「えっ?宿題?」
私はそれどころではなく、机には向かっているものの夢の事をずっと 考え続けていたのだった。
「せっかく来たんだし、まだ眠くないだろ?どうせなら宿題を片付けた方が・・」
溜め息が出てきた。
「まったく、この優等生がっ!」
「何か言った?」
「ううん、別に。・・・うちにまで制服できて、優等生だなって言ったの。」
「塾から帰って来てそのままで夕食を食べて来たからな。釉唯が待ってると思って。」
「・・・勝手に言ってればぁ・・・。それにとてもじゃないけど、宿題なんかする気にはなれないよ。」
「そうだろうな・・・じゃ、も一回整理してみるか、これ使っていいな。」
ショウは机の上にあったレポート用紙を開くとメモりだした。
「お前、何時まで起きてたんだ?」
「12時は覚えているんだけど、それから・・わからない。」
「じゃ、12時過ぎでいいや。」
「で、ウィザードリィの夢ん中って事だな。」
「そう、で、次に気がついたら部室だった。その時の事はショウも知ってるとおり。」
「そうだな。で、その時の服装だけど、昨日と一緒だったんだな?」
「ん、そう。ミッキーのワンポイントの白いTシャツにブルーのキュロット。」
「それに素足だったんだったな。」
「ん、そう。」
「他に昨日はしてて今朝なかったものとか、その反対なものとかは?」
「・・・別に思いつかないけど・・・・・・・。」
「どうやって学校に行ったのか、全然記憶がないんだよな。」
「ん。」
「・・朝の話から全然進展ないな、やっぱり。」
ショウはメモを鉛筆でトントンと叩いている。
「うんず君見てみたか?」
「あっ、まだ。」
「じゃ、行ってみようぜ。」
「あっ、もしも昨日のような事があるといけないから、制服にでも着替えておけよ。上 靴も履いてな。」
言うが早いか、自分のバッグを持つと部屋から出て行った。勝手知っ たる何とやら。
全く!何でも勝手に決めるんだから。私は怒れてきたけど、一応、ショウの言うとおりに着替えてから応接間へ行った。

応接間のサイドボードの横のパソコンラックにうんず君は座っている。
FM TOWNS 20F、もう古い機種になってしまったけど、私が初めて触ったパ ソコンであり、だからこそ、愛着がある。
「よいしょっと。」
私より先にうんず君の前に座るとさっそく電源を入れた。
「ウィザードリィが入ったまんまだな。宿題しながらやってたのか?」
「そ、そうじゃないけど・・・その前と言おうか、途中にと言おうか・・・気分転換に だってば。」
「はいはい、そんなもんでしょう。」
少し呆れ気味の顔、いや納得した顔。
私はイスを取られたので、エレクトーンのイスを持って来た。ちょっと高めのそのイス は、斜め後ろから覗くのに丁度いい。
「ん?」
イスを運びながらショウのバッグを蹴飛ばしてしまい、中に何か固いものが入 っている事に気付いた。
「何が入ってるの?筆記用具だけじゃないよね?」
持ち上げて中を覗き込んでみた。
「何、これ〜?」
「見ての通りだろ、ビデオだって。」
ひょい、と私からバッグを取り上げた。
「・・・もしかして・・・」
「そっ、証拠として写しておく。」
「そこまでやる?、普通?」
「やらなきゃ意味がないだろ?だいたいこんな事、マンガか冒険小説でなきゃ、起きる わけないんだからな。」
「信用してないんだっ!」
「信用してなきゃ、わざわざこんなもん持って来るかよ。」
「してないっ!」
私はだんだんむかついてきた。
「してるって!!」
何となく、ショウは私をからかって楽しんでいるようにも思えてき た。
「ま、いいから、いいから、どうせならウィザードリィやろうか?フロッピーは?」
ショウは私が怒っている事など、まるっきり無視している。
「横の棚の2段目のフロッピーケースの中。」
私は膨れっ面のまま答えた。
ショウはごそごそと探す。
「ウィザードリィでも何枚かあるんだな。どの辺からやる?」
「じゃ、死の川に入ったくらいのやつなかったかな?ミノス島って書いたのない?」
「ああ、あったあった。」
ショウはケースの奥の方から一枚取り出すと、Aドライブに入れた。
「だけど、いくら夢の中って言っても釉唯が魔法使いだとはねぇ・・・。」
ショウは 手を動かしながらぶつぶつ言った。
「じゃなくって、バード!」
「同じようなもんだろ?俺もそんな夢見てみたいよ。『ファイヤー!』とか言ってさ! 気分いいだろうな。」
「いいことばっかじゃないわよ、こっちもやられる事あるもん。現にミノの悪霊と戦った 時なんて、『ファイヤー・ストーム』で火脹れだらけだったんだからぁ・・後で治し ちゃったからどこもそんなにはなってないけど。」
「おい、釉唯、お前キャラのネーミングへんてこなもんにしたんだな。」
「えっ?」
「コルピッツにターマン、ハートレー、ピアース。ホト、それにツェナだって?・・・ 発振回路にダイオードの名前じゃないか、これ。いくら無線の勉強したからって、変な とこから取ったんだな。」
「ちょっと待って。」
私は画面を覗き込んだ。確かに画面にはそう出ている。
「そ、そんなはずは!!」
「つけてないって言うのか?」
「う、うん。それに・・・この名前、私の夢の中に出てきたメンバーよ。」
慌てて私はレビュー画面にしてキャラクターの様子を見た。
コルピッツがドラコン、ターマンがヒュー マン、ハートレーがラウルフ、ピアースがエルフ、ホトがフェルプール・・・そして ツェナが・・・・」
怖くなってきてそのコマンドが選べなかった。そんな私を見てい てショウは勝手にリターンキーを押す。
『ツェナ、バード、16才、ヒューマン、女。』
「これがお前だって言うのか?」
まだ夢の中のパーティーの名前は話してないのに、私 の態度でショウは気付いたらしい。
「そ、そうよ。私がツェナで、この人達と探検してたのよ。・・・でもなんで?」
いくら話し合ってもわけがわからなかった。結局半分くらい忘れてしまっていたその先 のゲームの進行状況を再確認するために、しばらくプレイすることにした。
そうするうちに、あまりにも興奮した為か、それとも疲れがたまっていたのか、いつの 間にか2人共うんず君の前で眠ってしまった。

 


〆〆to be continued〆〆


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