〆〆 その26・川向こうは・・・あの世? 〆〆

 髑髏の両の目に手に入れたルビーの宝石を埋め込むと、すると、通路を睨み付けているような 顔が悪魔のような冷たい笑みに変わった。
「気持ちわるぅ〜・・・。ねぇ、ここ、入んなきゃいけない?・・・・・んだろうねぇ。」
ホトが少し気味悪そうに呟いた。
「先に尖塔に行ってもいいんだぜ。」
ピアースが来た道の方を指している。
「う、うん。でもいいや、折角開けたんだから入ってみようよ。」
「どっちみち入んなきゃなんないしね。あたいはいいけど・・」
気がつくとホトは私の方を見ている。
「そ、そうよね・・」
私は、慌てて返事をした。
「おい、大丈夫か、ツェナ?真っ青だぜ。」
「だ、大丈夫よ。」
そう言いながら自分が硬直してるのが分かった。
多分髑髏の障気に でもあてられたんだろう。
見た途端全身に水でも浴びせられたような気がし、ゾクっと寒気が走った。
自分では見えないけど、多分死人のように真っ青なんだろうと思う。血の気がさあ 〜っと引いていくのが自分でもわかったくらいだから。
「だ〜いじょ〜ぶよぉ。」
ようやく身体が動くようになった私は、自分に言い聞かせるようにそう言うと、開けるようにホトに目配せをした。
ホトは黙ってドアノブに手をかけて開けた。


そこからは、外に繋がっているのか水の香りが感じられた。

階段を下りると予想通り目の前には川が流れていた。
でも他にはなんにもない。船もなければいかだもない。ちょ うど小舟をつけるような船着き場のようなところはあるのだけれど。

「船でも来るのかなぁ・・・?」
ピアースが川の向こうを見ながら呟いた。が、辺りは夜のように暗く向こう岸(もし、あればだが)も何も見えない。
「この暗さじゃな、なんにも見えないぜ。」
「床に何やら描いてありますよ。」
ハートレーの言葉にはっとして全員床を見つめた。
そこには数多くの奇妙なルーン文字や印で飾られた円形の紋章が刻み込まれていた。
その内側には枠に収められた墓がボートで水の向こうに運ばれる光景が描かれている。
「これから判断すると、どうやら渡し船でもあるみたいですね。」
「だがいつ来るんだ?」
ターマンは少しいらついているようだ。
「三途の川の渡し守だったりして。」
とっさに変なことが頭に浮かび、思うより早く口に出て、私ははっと思った。
「何?それ。」
ホトがキョトンとしている。
「あ、あのね、べ、別にそう深い意味はないんだけど、只単にふと、そう思っちゃった だけでぇ。つまりその、死者があの世へ行く時渡らなくっちゃいけない川を三途の川っ て言うの。でも、深く考えないで。ね。第一、こんなとこにあるわけない し。」
慌てて弁解した。縁起でもないことだから。
「ふ〜ん、それってツェナ達の国の考えなわけ?でも結構いい線いってるかもな?」
「そうかもしれませんね、とにかくここを渡る答えは、まだ行ってない尖塔にあるよう な気がするんですが、一旦戻りましょう、城へ。」
「もう、ピアースもハートレーも変なとこで感心なんかしないでよ。縁起でもない!」
「はははっ!ようやく元気が出たみたいだな、ツェナ。その勢いだ。」
怒って膨らんだ顔がピアースのその言葉で照れ笑いに変わった。
「あ、あの・・・。」
「はははははっ」
何を言っていいのか分からず照れている私を見てみんなが笑った。
「ははは、じゃ、尖塔に行くよ。」
ホトのその言葉にみんな従った。
尖塔にこの川を渡るアイテムか何かのヒントがあるといいのだけど。


 まずリフレッシュの泉を飲み、そこから右側の階段を上がって行った。
階段が尽きるとスペードの模様がついている閂のかかった真っ黒なドアがあった。
スペードの鍵で開けて中に入る。
そこで私たちを待ち受けていたのは吐き気をもよおす腐臭 とその主のゾンビだった。
吐き気を押さえながらそのゾンビを倒し、私たちは部屋の奥 にあった宝物をいただくと階段を下り、反対側の階段を上がった。
上がったところの門を例の魔法使いの部屋で手に入れたSPIRE KEYで開け、 尖塔の最上階まで上がった。
そこには右側と同じ黒いドアがあった。

右側の時と同じようにスペードの鍵で開け、中に入る。
向こうと違い腐臭は全くない。
部屋は空虚で静まり返っていた。おそらく100年以上もの間ここには 誰も入ったことがなかったのだろう。
私たちはその時が止まっているのかと思うほど静 まりかえっている部屋を眺め回していた。

と、何やら奇妙な光が部屋の中央に集まってきた。その光は徐々に人型を作り始め、ほ どなくして年老いてしなびた顔が見分けられるようになった。
霊魂とでも言えばいいのだろうか、彼は私たちが誰かもわかっていないらしかった。ただ気配で誰かが部屋に入ってきたのは感じているらしい。
部屋中を飛び交いながら独り言のように話し始めた。

その声は部屋いっぱいに反響し、不思議な音を作り出して、私たちは呪縛でもされてし まったように身動き一つつできなかった。ただじっと彼の姿を目で追いながらその話に耳 を傾け続けていた。

「ハロー?、ハロー?・・・・・ アニー、君かい?
見えないんだ、アニー・・・・・・・
アニー?
アニー どうして答えてくれないんだ?・・・
私を忘れてしまったのかい?
アニー、私が誰なのか覚えてないのかい?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
私は・・・誰なんだろうーーーーー
いや・・・覚えてる
私は・・・・ずっと昔、
聖なる職についていた。
信心深く人からあがめられる者だった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
覚えていない・・・
いや、覚えているぞ。アニー、愛しいアニー
私はお前の為に純潔の誓いを破った。
私たちは道を誤った。
アニー、私たちは罰を受けた。
私たちの娘!
この娘をどこかにかくさなければ!
やつらがやってきてどこかに連れ去ってしまう。
やめてくれ!!
その娘は悪魔なのだ!!
彼女は罪によってもたらされた。
アニー、私たちの罪のせいなのだ。
この娘は呪われている。そして私たちも。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
王様に見つかった。
王があの娘をつれていってしまう。
だが、彼ならあの娘を守ってくれる。
アニー、彼なら私たちも守ってくれる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
遠い遠い昔だ。
アニー、もはや私は、もういない。
何もない・・・・・
いや、角笛は持っているぞ。
忘れはしない、首の回りの寒気。
そして、光。私は光に向かって歩き始めた。
ああ、それなのに何かが私を引き戻す。
その時光から何かが出た。
手だ!
光から延びた手が何かを渡してくれた。
角笛だ!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
アニー、もう時間なのかい?
角笛を吹くときなのだね。
アニー、今行くよ。
さぁ、これから角笛を吹くよ。」

 亡者は暗い色の角笛を吹き鳴らした。
その音色は何とも形容しがたい音色で部屋中に響 き渡った。

「アニー、光が見えるよ。
私の為に光が戻ってきた。
アニー、光が戻ってきたよ。
サヨナラ、アニー。
これから光の方へ行くよ。」

その言葉を最後に亡者は突然姿を消した。
後には暗い色の角笛が大きな音をたてて床に 転がった。

その角笛をハートレーが大事そうに拾い上げる。
私は言葉が出なかった。
魔法使いの日 記に書かれていた実験はこの2人のことをさしていたのだ。
なんということだろう。恋人たちを引き裂き、1人は魂の抜けた生ける屍とし、もう1人は魂だけをこの世に縛 りつけておく。
なんという残酷さ。
たとえ禁戒を破った聖職者だったにし てもこれほどの処罰を与える権利は誰にもないはずだ!
彼は、たぶん斬首の刑に処せられたんだろう。
でもその時、光がこの人を迎えに来たんだから、たぶんこの人は、神に は許されていたんじゃないだろうか。
それをあの魔法使いが行けなくしたんだ。・・・
でも、今はきっと天国でアニーさんと逢っているよね。そう、思わないと・・やりきれ ない。
私の頭の中で消えていった亡者の言葉が何度となく甦った。
「『あの世への角笛』というわけですか。もしかしたらこれを吹けばあの川を渡れる かもしれませんね。」
じっと角笛を見つめながらハートレーが言った言葉に、私もはっとした。
「そうね、もしかしたら渡し守りが来てくれるのかもね。」
「それで俺たちをあの世に連れていってくれるってか?」
ピアースが少し戯けたように肩をすくめた。
「もう!へんなこと言わないでよ!『川の向こうに!』でしょ!」
「行きははよいよい、帰りは恐い、なーんて・・・戻って来れなかったらどうすんだよ ぉ?」
口を膨らまして怒っている私に、ピアースはいつともなしに不安げ。
「みんな今の亡者に毒されたんですか?他に行く道がない限り行くしかないんですよ、 私たちは!!」
「そうそう、行くしか、なっ!鬼がでるか、蛇がでるか・・・だな。」
「モンスターに決まってるだろ!」
どうもターマンが一言言うとホトは頭に来るらしい。
「ツェナ、起こった事は起こった事。あたいたちは今後こんな事ないようにするために も、道を進むべきなんだよ。」
「ん!そうだね!!」


沈んでしまった心を奮い立たせるようにして私たちは、再び地下3階へと下りて行った。

果たして川の向こうは・・・あの世なのかこの世なのか?

 


〆〆to be continued〆〆

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