〆〆 その23・熱くなってるやつ 〆〆

 結局行くところがなく、またしても玉座の前、あの高慢ちきな女王の所へ来ていた。
残る道は玉座の後ろ、それしかない。が、横から通るわけにもいかず女王に頼んでみる ことにした。

「贈り物を私の前に置け!」
再び女王は高飛車に命令した。
「ほいよ。」
ピアースが前回やめたあのクィーク・エグのくれたアクセサリーを差し出 し、側の戦士がそれを女王に手渡す。
「ありがとう。」
しげしげとアクセサリーを見る。
「ムムムム・・・ヨイヨイ。オオオ、なんと美しい!」
「ほら見ろ、あんなもんだって。」
こちらを向いているピアースがしてやったという顔をして舌を出して笑っている。
「アァー・・それにこれを見ろ!」
どうやら女王はすっかり気に入ってくれたらしい。
・・と思ったのだけど、やはり女王は女王、それなりの審美眼はあったらしい。
「おや?!ちょっと待て!・・・これは只の安物ではないかっ!」
−ガキーン!−
床に投げつけると怒り始めた。
「私達をだまそうとしたのか?!侮辱しようというのだな?!」
「そ、そうじゃないって」
ピアースもその勢いに押されてしまって慌てて言い返した。
が、女王は全く耳を傾けない。
「私は贈り物の謝罪を要求する。」
玉座から立ち上がるとピアースを睨み付けている。
「謝罪するか?」
「あ、ああ」
ついうっかりとでもいうのかピアースが思わず返事をした。
「よろしい。謝罪を受け入れよう。それと3,000GPの寄付を要求する。」
「な、なんだってぇ?」
どうやらピアースは頭にきたらしい。
完全に理性がすっとんだ顔つきだ。彼の暴言を止めようと私が小声で忠告するのも全く 聞かず続けた。
「黙って言うとおりにしていりゃ、調子にのりゃぁがって!いいかげんにしろよ、この アマ!!!」
「ぶ・・無礼な!!えぇーい、成敗してくれようぞ!!」
すでに険しくなっている顔を怒りでより一層真っ赤にし、その手にスピアを持つと側の戦士と一緒に襲いかかってきた。

さすがアマズール族の女王とそのおつき達だ。その攻撃も呪文も半端じゃない。だいた い私達は疲れ切っている。肉弾戦では押され気味は当然かも?
「ツェナ、呪文だ、呪文!、まだ使えるだろ、あの呪文!」
「えっ、あの呪文って?」
「ほれ、あの、強力なやつ!窒息死させちまうやつだってば!」
「ああ、あれね、まだ使えそうだけど、こう攻撃が頻繁じゃ避けるのに精一杯で精 神集中してらんないわよ!」
勿論こう言っている間でもお互いに攻防は続いている。
「俺が攻撃は防いでやるから、一つここは頼むぜ、ツェナ!」
「オッケイ!防御よろしくねっ!」
なんとか攻撃の届かない部屋の隅まで来ると私は荒 くなっていた息を整え、精神を集中し始めた。
この魔法は相当な集中力を要する。なん といっても敵全員を一度に窒息死させるものだから、集中力が足らずに失敗してバック ファイアでもしたなんていったら目も充てられないからね。私の魔法で全員お陀仏だな んてことになったらあの世でみんなに合わせる顔がない!!
目の前ではピアースが私の 分まで攻撃を防いでくれている。その信頼を裏切るわけにもいかない。
そして私は呪文を唱え始める。
その魔法を放つ前に、私はみんなに向かって叫んだ。
「行くよぉっ!」
とっさに全員彼女達から離れる。
その一瞬を逃さず一気に放つ、「ASPHIXIATION!!」

そして、一瞬ののち、そこには息絶えた彼女たちがあった。
モンスターなら、まだしも、いくら 向こうが襲ってきて避けられないと分かっててもやはり人間だといい気持ちがしない。
自分ながらその呪文の強力さを改めて思い知らされる。しかも相手は同じ年くらいか少し上。
「気にしない、気にしない!」
そんな私の思いが分かったのかホトがポン!と肩に手を 当てた。
「さて、先に進むよ!」
「う・・うん!」
そんな考えを振り切るように私も歩き始めた。
殺らなきゃ殺られることは十分承知しているから。

 玉座の後ろからは一本の真っ直ぐな道が延びていた。
「この道が外に繋がっているとはどう考えても思えないな。」
暫く立ち止まって考えてたピアースが呟いた。
「・・だろうねぇ、もしかしたら女王が言ってたマウムームーとかいうやつがい るんじゃないかい?確か生け贄を欲しがってるとかなんとか言ってたよね。」
「私が思うには彼女たちの祭っている神かなんかじゃないでしょうか・・。」
ハートレーもじっと道の先を見つめている。
「ここまで来たんだ。神だろうとなんだろうと行かない訳にゃいかんだろう。他に行く 所もないしな。」
ぐだぐだ言ってないでさっさと進めとでも言いたいようにターマンが ぶっきらぼうに言った。
「そうだな、ここで考えてても、な〜んにも始まんないからな。」
肩を少しすくめるとピアースは歩き始めた、が、少し弱気になっていた自分に気付いたのと、それをターマ ンに気付かれた、いや、もしかしたらみんなに、との思いが彼のいつもの慎重さを失わ せた。
「うわぁっ〜!!熱っつっつっつっ!!!」
一歩その道に踏み出した途端大声を上げ、 足を抱え道の手前に転がった。
履いていた足袋は焼け焦げ彼の右足の裏は真っ赤に焼けただれていた。
「ピアースらしくもないねぇー。大丈夫かい?」
ホトは駆け寄るとヒール・ウーンズの呪文を唱えた。
「あ、ああ、サンキュー、もう大丈夫だ。ははっ、俺様としたことが・・・ 。」
照れ笑いをしながらピアースは自分の頭をコツンとぶった。
「あたいやツェナならいつものことだけどね。」
「どうせ私はおっちょこちょいですよっ!」
私は腕を組むとふくれっ面をした。
「はははははっ!」
久し振りにみんなの明るい笑い声が辺りにこだました。
「わかってるじゃないか。」
笑いながらターマンまでがそう言った、が、その顔は、今ま での意地悪な顔ではなかった。
「その分いつも呆れるくらいの真剣さだからな。まっ、 いいんじゃないか?」
思いも掛けないターマンのその言葉で赤くなっていた顔が照れ臭 さで、私は益々赤くなってしまった。
「ど、どうせ私にはそれくらいしか取り柄がありませんよっ!」
再び全員どっと笑った。私もそれにつられて笑っていた。

「さてと、和気あいあいもいいんですが、そろそろ先に進むことにしましょうか。ピ アース、確かフット・なんとかいうものを仮面の女から買いませんでした?それが、」
「そうそう、俺様もそれを考えてたんだよ。『足のパウダー』ってんだからそいつが役 に立ちゃしないか、とね!」
自分より先に言われたくないとでもいうようにピアースがコルピッツの言葉に割って入る。
「とてもじゃないがこの真っ赤になった石炭の上は歩けそうもない が、多分このパウダーを足の裏に振り掛けりゃいいんじゃないかってね!」
ピアースは早くもバッグからパウダーをとりだすと自分の足に振り掛けていた。
「ちょっと実験!」
さっきのこともあり自分から言うわりには恐る恐るという感じが少 ししたが、とにかく焼けた石炭の上に足をそっと乗せてみたピアースだった。

「やったぜっ!!なんともないぜ!」
熱さを感じないのを確認してから両足でそこに立つ。
そして私たちは全員、そのパウダーをそれぞれ足の裏に振り掛けると燃える 石炭の道を先に進み始めた。




〆〆to be continued〆〆

 
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