〆〆 その22・アマズール族の女王 〆〆

 そして、再びピラミッド3階の門の所に来た。
「さ〜てと・・ここであのへんてこな像を、と。」
ごそごそと取り出すピアース。
「んーとぉ、でもってこれをどうすりゃいいのかな?」
一同顔を見合わせた、が、誰一人として、どうすればいいのか分からない。
「門の中には誰もいないようだしなぁ・・」
ぶつぶついいながらピアースは像を紋章の前でくるくる回していた。

と・・・
−ギ、ギ、ギィーーーーー−
「へっ?開いちまったぜ、おい?!」
「ラッキーとしかいいようがないな、ま、とにかく開いたんだ。入ろうぜ。」
意外な展開に少しあっけにとられているピアースを横目にターマンがアーチをくぐって行った。
私達も彼に続いて入り、ピアースも慌てて像をバッグにしまうと追い掛けてきた。

階段を上がると中央に葦を編んで作られた玉座に険しい表情で、警戒心も露な少女が腰を掛けていた。
彼女は凝った頭飾りをつけ小さな骨とビーズ玉でできたネックレスをいくつも首に巻いている。
そのすぐ両横では数名の女戦士が大きな扇で彼女を扇いでいた。そして大きな気味の悪い仮面を付けた別の女が、彼女の右後ろからこちらをじっと見つめていた。
敵なのか味方なのか、判断が出来ないので私達は暫く立ち止まったままだった。

「私はアマズール族の女王!」
りんとした声が辺りに響きわたった。かなりきつい口調だ。
「我等の聖地に来たのはだれだ?」
「俺たち別に怪しいものじゃぁ・・」
といいかけてピアースは口を噤んだ。勝手に入ってきたんだから怪しいものじゃないなんてことが通るわけない、と私は思った。多分ピアースもそう思って黙ってしまったんだろう。どうしようか、どう言おうか思案しながらお互いの顔を見合わせていた。
「こういうときはやっぱり僧侶様の出番だよな。なんてっても僧侶ってのは言いくるめる事がうまいからな!」
勝手にそう決めつけるとピアースはハートレーを前に押し出した。
「・・・」
ハートレーはそんなピアースに何か言いかけたのだが、次の女王の質問に遮られたしまった。
「石を取りにきたのか?」
先頭に立ったハートレーを睨むようにして、女王が聞いてきた。
「石?・・・いいえ。」
何のことか分からずとっさにそう答えるハートレー。
女王の質問が続く。
「供物は持って来たか?」
「『はい』って言っておけよ、こういう場合その方がいいんだぜ。」
返事に困っていたハートレーにピアースが耳打ちした。
「はい。」
「贈り物は私の前に置け!」
「あ、はい。暫くお待ち下さい。」
私達はこちらを振り返ったハートレーとぼそぼそ相談し始めた。
「やっぱりここは出さないといけないんでしょうね。なんにしましょうか?」
「何でもいいんじゃないか?俺様のバッグには贈り物になるようなものなんて何一つないぜ。ホトかツェナ、なんかないか?」
「え、えーとねぇ・・・」
私は慌ててバッグの中を調べ始めた。
「アミュレットかなんかなら贈り物になるだろうけど・・私はこんなのしか持ってないよ?」
私はクィーク・エグが宝物の場所を教えてくれたお礼だと言って置いていった、たった一つのアクセサリーを取り出した。
「でもこれ、あまりいいものじゃないみたいなんだけど・・。」
「これなどどうですか?命のアミュレットなんですが、見た目はかなり美しい代物ですよ。」
コルピッツがバッグの中から取り出した。確かに綺麗だ。
「だめだって!!もったいないだろ?買うと高いんだぜ。いつ入り用になるかわかんねーし!」
ピアースが大反対した。
「これでいいんじゃねーか?」

そう言いながら私の手からアクセサリーを取った。「でもぉ・・相手は女王様だし・・」
「そりゃま、一応、な。でもまだ子供みたいだぜ。いいものかどうかなんてわかるもんか。」
確かに年令的には私とそう違わないような感じがする。でもなんといっても女王なのである。それくらいは判断できるんじゃないだろうか、などと考えながらバッグの底にあったANKHに気付いた。
「これにしよう、この黄金の十字架みたいなやつ。ファラオのミイラが落っことしていったやつだけど。」
「なんかこれも勿体ないような気がするんだがなぁ・・。」
私からANKHを取り上げると相変わらずぶつぶつ言っている。
「おお、それか?見事な黄金じゃのぉ。これに持ってまいれ!」
目敏く見つけた女王が命令した。
ピアースは仕方無い、といった感じで女王の前に差し出した。
「ありがとう。」
横にいた戦士から手渡されると意外にも彼女は礼を言った。
なかなか素直なとこもあるじゃないと見直していると後ろの仮面の女に囁いているのが聞こえた。
「言ったろ?根性無しだって!最初っからわかっていたのさ!」
「おい、てめぇ・・」
怒り出しそうなピアースを何とか止め、そこを去ろうとした私達の後ろで女王の声が聞こえた。
「マウムームーは今宵生け贄を求めておいでだ。」
振り返るとまた何か言われそうなのでそのまま進んだ私達だった。
「マウムームー・・ねぇ・・・なんだろ?」
ホトが呟く。
「生け贄だなんて、なんか縁起でもないけど・・まさか私達の事じゃないよね?」
「そ、それこそ縁起でもないわよぉ!」
私は思わず寒気で身震いがした。

玉座から右に行っても左に行っても、只ピラミッドの外壁に出るだけ。残る道は玉座の後ろの通路だけだった。
さて、どうやって通してもらおうか、などと相談している私達のところに女王の後ろにいた気味の悪い仮面をかぶった少女が近づいてきた。
「シーーーーっ!取引しない?」
指を口に当てるとそっと囁いた。
「取引?」
私は彼女の顔を思わず覗き込んでしまった。
「そう、あたし、あんたたちの味方よ。」
「味方?」
「そう、役に立つもの持ってるわ。」
そういうとあれこれ道具を出し始めた。
「でも今のところほしいものはないし・・」
「そうだ。さっき女王が言ってたマウムームーって何のこと?」
私がそう聞くと彼女は玉座の方をちらっと見るとキッと私を睨んだ。
「シーーっ!マウムームーに聞こえてしまうわ!」
「だからそのマウムームーって?」
「シーーっ!聞こえるって言ってるでしょ?・・まったく!・・・欲しいものがないんじゃ仕方無いわねぇ・・・じゃ、これ、フット・パウダー、これなんか持ってないでしょ?買っておいてそんはないわよ。」
彼女はお面を少しずらすと、ピアースにウインクした。
私たちが「いらない」と言っているのに、仮面の下が結構可愛い女の子だと分かったピアースはにこにこ顔で買ってしまった。
「ありがとう、お兄さん!熱くなってるやつには気をつけてね。」
ピアースに投げキッスをし、そう言い残すと、彼女は女王の方へ帰って行った。

「ピアースっ!」
いつまでも彼女の方を向いてデレーっとしていたピアースをホトが睨む。
「な、なんだよ、ま、まぁこれも俺様の勘ってやつさ!きっと要る時が来るって!」
あたふたとバッグにしまうとピアースはさっさと歩き出した。

 


〆〆to be continued〆〆



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