〆〆 その15・訳の解らない難しい話 〆〆

 「やったぁ!泉だよ!!」
暗闇の中、先頭を行くホトが叫ぶ。
行き止まりになっていたそこは、光り苔で、ぼんやり明るくなっていた。
スミッティのおやじさんから、体力と魔法力両方回復してくれる泉があると聞いて、捜しまわっ ていた私たちは、とっても嬉しかった。
勿論、重い荷物はおやじさんに預かってもらってたけど、暗闇の中の 戦闘でへとへとに疲れ、魔法力も尽きかけていた私達は、泉に駆け寄ると、さっそく順番に飲ん だ。
そして、そこを拠点として、まだ行ってない採掘場の探索を進める。そ こまで行くのに、暗闇を通らなければならないけど、慣れれば、どおってことはない。
(でもやっぱり、あまりいい気分はしない。ジャイアント・アントは、よく出 るし。)

 「これで、四隅全部に割れ目を入れたことになるんだが・・、さ〜て、この大き な亀裂に思いっきりのみを入れてみようか。」
ピアースがじっとその亀裂を見ながら呟く。
私達は、最初に亀裂を見つけた所にまた来ていた。
最初に来たときは、のみを手に入れてなかったから、結局、割れ目を入れるのは、 ここが一番最後になってしまった。
さて、どうなるか・・?みんな黙ってピアースの一撃を待っている。
これでもしも割れなかったらどうしようもない。期待と不安で、みんな押し黙っている。 心なしか中に閉じ込められている巨大な頭もそれを期待しているかのように見えた。
「お〜し・・いっちょやったるか!!ということでぇ・・ほい、あとは任せたぜ。」
くるっと向きをかえるとピアースはコルピッツにのみを渡した。
のみを受け取ったものの唖然とするコルピッツ。
「だってそうだろ?誰が考えたってあんたの方が力がありそうだ。あんたはドラコン、 俺はひ弱なエルフだぜ。まっ、頼まぁ。」
すっとコルピッツの後ろに下がり両腕を頭の後ろに組み壁にもたれかかるピアース。
コルピッツはそんなピアースを見、苦笑してからダイアモンドの亀裂に向き直った。
「では・・・」
短くそう言うと大きくのみを振り上げ、一撃を加えた。
−−カキーーーーンっ!!−−
−−ピシピシピシッっ!!・・・パーーーーーーーンッ!!−−
亀裂が四方に走りダイアモンドは見事に砕け散った。
そうしてその破片は煙だけ残して消え去った。
なぜ消え去ってしまったのか・・・?がっかりしてしまった。ダイアモンドが手に入る事も 期待したのは、私だけじゃないと思うんだけど・・・
もっともそれよりも自由になった頭の方に関心は集中してるけど。
「ついに自由だ!」
中に閉じ込められていた嬉しそうに頭が話し始める。
巨大な頭・・老人の・・そう、老魔法使いのそれと一見して判断できた。
痩せた青白い瓜実顔、白く長い口髭、その白髪もおそらく肩があれば肩に届くくらいの長さ。 白く太い眉、その下にはぎらぎらと光る鋭い目。そうした彼の唇だけは異様に赤い。
そこから放たれる言葉に私達全員、彼を食い入るように見つめ、身動きもしないで、じっと耳を傾けていた。
ではなく、動けなかったと言ったほうが正しいのかもしれない。
異様な風貌のせいか、それとも彼の魔法にでもかかってしまったのか、とにかく 私たち全員、返事をすることさえ忘れて立ちつくしていた。
そして彼はそんな私たちにお構いなしに話し続けた。

「お前達のことは知らぬ。しかし全てが始まったときより、お前達が来るということだ けはわかっておった。わしに残された時間は短い。見ての通りわしの体は遠き昔に滅び 去った。こうしてここに留まれるのも昔のわしの力があってこその話。しかし、それも もはや、ついえようとしておる。それゆえ大事な事、お前の探索の足掛かりとなること だけを話そう。1つの物語じゃ。お前、そしてお前の後に従う者たちへの警告とするが よい。」
ゾーフィタスと名乗ったその魔法使いの半身はコズミック・フォージ、つまり 災いをもたらすペンについて語った。それに纏わるこの城で起こったできごとを。
ピアースに言わせると何を言ってるのかさっぱり分からなかったという話。頭がごちゃごち ゃになった長い長い話。

彼の低く、そしてしわがれた声は私達を捕らえて放さなかった。
彼にとりつかれてしまったかのように動くことも返事をすることも忘れ、ただ 立ちつくして。
頭の働きさえも止まってしまっていたようで、彼が何を言 いたかったのか、はっきり分からなかったほど。
(単に私がばかだという事かもしれないけど。)

 「わしはゾーフィタスとして知られた魔法使いの半身じゃ。お前の目の前にある骨、 それが元はゾーフィタスだったのじゃ。120年ほど前、わしはコズミック・フォージ の探索にたずさわっておった。災いをもたらすペンにしてこの世界の全ての仕組みを書 き表すために用いられたものじゃ。ペンの話をするには、そのペンが盗まれた祝福され た祭壇、すなわちサークルの話をせねばならん。
ペンの力を開放しないために、ペンは聖なるサークルの内側でのみ使われねばならぬ、 という規則が書き記されておった。サークルからペンを取り出し、この規則を破るため にはどうにかして例外を作らなければならなかった。
ペンの力を開放し、そのうえ書き記された規則には反しないような例外が必要だったの じゃ。そこで、おそるべき例外が作り出された。
すなわち、もしサークルの中以外でペ ンが用いられた場合、それを使ってなにかを書いた者はまさにその書き記したことを自 らに対する災いとして受ける。そして、災いは新たなる世代が過ぎ去るまで、百と二十 年の間その者を苦しめ続け、その後に開放の時がやってくる。ペンをサークルから取り 出すためにこの災いを呼ぶ例外が作られたのじゃ。
こうしてわしの骨がここに横たわっているのも、わしの行ないによる災いの結果じゃ。 しかし、その災いの時は、お前がここに来て、わしを開放することによって過ぎ去ろう としておる。
さて、聴くがよい、遠い昔に起こった事件の顛末を。そして、この先お前が賢く、正し く振る舞う為の手掛かりとするがよい。
わしはゾーフィタス、魔術と力を持った偉大なる魔法使いじゃった。一度力を持った者 の常としてわしはその甘美な味に酔いしれ、味わうほどにさらなる力を渇望するように なった。それがゆえに、わしはわしと同じほどの渇望を持つ者と汚らわしい同盟を組み 2人して世界の制覇を夢に描いた。
かのペンの噂を聞きつけた時、それを手にすることで、我等の勝利が不動のものとなる ことは明らかであった。そこで、我等はコズミック・フォージを手にする為の計画を練 り始めた。しかし、ペンをサークルから奪い取ったまさにその時、我等は災いが即座に 降り注ぐという事を知る羽目になったのじゃ。
かつてゾーフィタスであったわしは、この運命を逃れようと決意した。そして死せる定 めの魔法使い、ゾーフィタスなる者が宇宙の全ての摂理を知り、それによって恐ろしい 破滅の運命から逃れる術を学べるようにと、かのペンを用いて書き記したのじゃ。確か に、わしは全てに関するあらゆる知識を手に入れた。そしてそれが故にわしは二つの別 々の生き物に切り離されてしまった。
この世界の全てのものは2つに別れる性質をもっておる。あるか、ないか、その二つの 状態が共存しなければならないのじゃ。ところが、わしはこの世の全ての知識を一つの ものとして手に入れてしまった。わしは全てを知り、同時に何も知らない状態でなくて はならなくなったのじゃ。そして、わしは2つに別れた。
『善』を知るものが『悪』をも知るがごとく知ることができるものは、全て2つに別れ る。そして分けることができないものは、決して知られることはない。
人は永久に知ることを捜し求め、それゆえ散り散りに別れてゆくのじゃ。これぞ知識の 本質。そのありようで、お前の心の中でもそれに変わりはない。何かを知る時、考える 時は、信じる時、心に話し掛ける時、その仕組みがどうなっておるかは、これとなんら 変わりはしない。
残された時間はわずかじゃ、しかし、まだ告げねばならぬことがある。
ゾーフィタスであったわしは死んだ。しかしながら、わしの半身、今1つのゾーフィタ スは死んではおらん。そして、わしがお前を助けたように、もう1つのわしはお前を苦 しめるじゃろう!
かの者の知識は完璧ではない。なぜならその半分はわしが持っておるからじゃ。かの者 の歩みはたよりなく、常に半分は正しく、半分は誤っておるじゃろう。精神は暗く淀ん だ水たまりの中を漂っているに違いない。わしのごとく、かの者もまた気がふれておろ う。
しかし、お前はかの者を見いださねばならぬ。なぜなら、わしがペンとその理由を知り お前に語ったように、かの物は『場所』と『時間』を知っておるからじゃ。だが『それ が何か』は知らぬ。それはお前がかの者から見つけださねばならぬのじゃ。
コズミック・フォージの宿命、運命の手とペンはかの者と共にある!
これでわしは自由じゃ・・・」

言いたいことをぺらぺらとまくし立てると、幻影はすっとその姿を消した。




〆〆to be continued〆〆


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