〆〆 その10・絶景かな〜?! 〆〆

 私達はクイークエグから合言葉を教えてもらい、船長の部屋のドアの前に来ていた。
「兄弟ぇ、合言葉を言ってくんなぁ。」
中からまたしてもドスの利いた声が響いてきた。
「スケルトンクルー」
先頭に立つターマンが落ち着いて答える。
−−ギギィー−−
ゆっくりとドアが開いた。
恐るおそる入ったそこは、本当にこぎたない部屋。
むせ返る酒と男達の汗と体臭。
私は吐き気がしそうなのを必死に堪えていた。
テーブルの上は金貨が山になっており、トランプとジョッキが氾濫している。加えてそこにい るメンバーの悪さ!
無法者が群れをなしている感じ。
テーブルを囲んでいるのは、盗賊、おいはぎ、山賊、海賊、人殺しの面々・・その視線が私達に集中し死のような静寂が辺りを包んだ。
どうしようか・・と困惑しているといきなりでっぷりとした、こぎたない男が前に立ちはだ かった。
でも何と言ったらいいのか・・・センスの悪いおじさんだと思った。どうやら船長のよ うに見えるんだけど、真っ赤な燕尾服、真っ白なひだ付のシャツ、真っ青なズボン、真っ黒な帽子、 60センチくらいの巻き毛の黒髪、片目は黒い眼帯をしており肩には緑色のオウムのぬ いぐるみ・・そして本来右手があるところにはカギ爪がついている。
部屋に充満している臭いだけでもたまらないのに、その脂ぎった顔を見ただけで、吐き気は、増す ばかりだった。
でも、ここで吐いてなんかいられない。
ここにいる全員からは、明らかに友好的とは言い難い雰囲気が漂っていた。
その男はゆっくりと私達に近づくと、うすら笑いを浮かべながら話し始める。
「おいらぁマティー船長だぁ・・・ちっと待ったぁ、うすのろぉ!!新入りはぁ、勝負 に勝たねぇ限りぃ、仲間に入れねぇんだぁ!戦闘か、ちっと文化的なやつか・・そうよ 呑み比べだぁ・・どっちがいいんだぁ?」
いかにものんべらしく舌なめずりをしてじっと私たちを見ている。
「おい、呑み比べだってよ!誰か酒に強い奴、なんているのか?俺様はだめだぜ。」
ピアースが少し心配そうにみんなを見回した。
「俺もまぁまぁだと思うが・・・あいつは底無しのような気がしてちょっとやばい気が するんだが・・・。」
腕には自信たっぷりのターマンも、酒には、少し自信がないようだ。
もっともいかにもウワバミのアル中でございといった感じのその男が相手じゃ、そう 思うのも当然と思うけど。
「私が受けましょう。」
そう静かに言ったのは意外にもコルピッツだった。
ドラコンがアルコールに強いなんて知らなかったけど、いいかもしれないと思ったのは私だけでは ないみたいで、全員無言の賛成。
「では呑み比べといきましょうか。」
「おう、おいらの好きな勝負でい!・・・いっちょ呑むかぁ・・・一杯50GPだ。」
コルピッツがお金を出すとなみ々と注がれたジョッキが運ばれてきた。
「ゴキュッ、ゴキュッ、ゴキュッ!!」
すっと上品にそのジョッキを持ち上げると、一気に飲み干す。
「ゴキュッ、ゴキュッ、ゴキュッ!!」
それを見て、負けじと男も一気に飲み干す。
「なかなかいけるじゃないかぁ、兄弟ぇ。それ、もういっちょ!!」
「ゴキュッ、ゴキュッ、ゴキュッ!ゴキュッ、ゴキュッ、ゴキュッ!!ゴキュッ、ゴキ ュッ、ゴキュッ!!ゴキュッ、ゴキュッ、ゴキュッ!!」
あっという間にテーブルの上は空のジョッキで一杯になった
。しかしまだ2人共止める気配は全くない。
「ゴキュッ、ゴキュッ、ゴキュッ!ゴキュッ、ゴキュッ、ゴキュッ!!」
「おめ、ちっと青くなってねぇか、兄弟ぇ?」
「ゴキュッ、ゴキュッ、ゴキュッ!!ゴキュッ、ゴキュッ、ゴキュッ!!」
見ている私達が疲れてきそう・・・まだまだ続きそう。
「ゴキュッ、ゴキュッ、ゴキュッ!!ゴキュッ、ゴキュッ、ゴキュッ!!・・・」
どのくらい続いただろう・・コルピッツももう限界のような気配。
船長は・・・と言えば・・あまり変わらないみたいなんだけど・・。
「う〜ん、強ぇなぁ、兄弟ぇ・・・気に入ったぜ!」
−−ドタッ!!−−
そう言ったと思ったら、男はイスごと後ろに引っ繰り返った!
「やったぁー!!」
ホトがばんざいしてる。私もつられて彼女と抱き合って喜んだ。
「やったね、やったね!!」
「ふ〜・・・なんとか、ですね。もうギリギリ限界ですよ。」
コルピッツが苦し気に微笑んだ。
 

  
勝負がついたので、他の男達ももはや何も言わない。
それぞれが今までやっていたことをし始めた。
私達はそんな中、部屋の探索を開始した。
ふとみると、船長は部屋の片隅にあるソファで、いつの間にか寝てしま っている。

なぜだか部屋の中央にガラス張りの檻があった。
そこを調べてみるとなんと中に海賊らしい男のの死骸が横たわっている。
「なんでこんなもん、このままにしておくのかねぇ・・・気がしれないよ。見せしめだ かなんだか知んないけど・・・。」
ホトがなにやら1人で呟いている。
「あ、あれ?恰好がさっきのマティー船長とかいうやつに似てるね・・・かぎ爪もあ るし・・・そうだっ!あれ結構いいかもしれない!」
「何が?」
私の質問など聞こえてないようだ。バッグから鍵を出すとガチャガチャやり だした。
「う〜んと・・これでもないし・・・これ・・かな?・・・」
−−ガチャッ!−−
「やったね!!銀のカギで開いたよ!」
「だからそれが何なの?」
と聞いても、またしてもホトに無視されてしまう。
どうやら中に入っているものにホトの意識は集中してるらしい。
「あれ?開けた途端灰になっちまったよ?!どうなってんだい?」
「本当!」
いきなり外の空気に触れたせいだろうか、扉を開けた途端に、その海賊 らしい男の身体は、原型も留めない灰になってしまった。
SUEDE DOUBLETとTRICPRNE HAT、緑のオウム、 眼帯、かぎ爪。
それがそこに残っていたもの。
「まっ、とにかく貰っておこう・・何かの役にたつだろうからね。ツェナ、しまっておいておくれよ。」
返事もしないうちに投げてよこした。
「ん、もうホトったら!」
死人の灰の中にあったアイテム・・・ちょっと(結構)気持ち悪い感じがしたけど、そんなことも 言ってられないと思って、しぶしぶバックパックにいれた。

そして、奥には船長の寝室があった。いつの間にかここへ移動してきたらしく、 大きないびきをかいて寝ている。
「ちょっとやばいよ。」
小声で言ったのも聞かず、ホトは奥に宝箱を見つけると船長が寝ているのをいいことに 入っていってしまった。
「お前ぇらそこで何してんでぃ?」
酔い潰れていると思ったのだけど、そこは腐っても鯛?気配を感じたのかがばっと 起きだしてまった。
「おーい!野郎ども!」
彼は大声で仲間を呼び寄せた。

折角友好的(?)に入ったというのに、結局戦うことになってしまった。
彼らは百戦錬磨、戦いも趣味。
多少酔っていたのが良かったのか悪かったのか、とにかくなんとか勝ちはした もののこっちも随分負傷してしまっていた。

そう、結局ねぐらにいた全員倒さなければならなくなってしまったから。

宝箱の中身をいただいて、(まったくどっちが盗賊なんだか。)さてどうしようか、、 と傷の手当てをしながらしばらくそこで休み、鐘楼の上の鍵のかかった 部屋へはまだ行ってないはずだ、ということを思い出した私たちはそこへ向う事にした。

鐘楼の中央は、吹き抜けになっている。だから鐘をならす為のロープに、1人ずつぶら 下がって渡り、その部屋に行かなければならない。
落ちれば間違いなく死んでしまう。たぶんペッシャンコ!
私は、下を見ないようにして、「1、2、3っ!」とかけ声をかけてからロープにぶら下がって なんとか渡った。
本当は足はガクガク・・身体は緊張で半硬直状態だったけど、ターマンへの意地で ロープにぶら下がった。
まるで、ターザンみたいだったんだけど・・できることなら、2回はやりたくない。
最も最初にピアースが渡った時に、鐘の音で蝙蝠を起こしてしまったらしく、そいつらと戦った後だったけど。
しかも、巨大蝙蝠や、バンパイア蝙蝠だったので、結構苦労した。
鈴のカギでドアを開けると、中には重いロープ・・が一巻きのみ。
ホトは、ご大層なことをしてたったこれっぽっちかい?とか言って、カッカしてた。
多分鐘楼のロープのスペアなんだろうね。これもすっごく丈夫そう。
で、それとかぎ爪と合わせて地下1階のアーチの向こうに広がっていた渓谷を 渡ろうということになったのだけど・・・。
(ゲ、ゲー・・あんな所をロープに伝って渡れって?冗談じゃない!!)
私は、その話を聞いた途端、顔から血の気が引いていくのがわかった。
だって、底がまったく見えない千尋の谷・・・。あんなとこ渡るなんて・・しかも たった1本の(結構太いけど)細いロープを頼りにして・・・。
冗談だ、と言うのを期待してたけど、どうやらみんな本気らしい。別の意見は出そうもない・・。
それしかお城を出る手立てはないようだから、仕方ないと言ったらそうなんだけど ・・・ああ・・・神様!!!!!!
私は足取りも重く、みんなの後を歩いていた。
しかも、もう一度ターザンして・・・・。

 「さ〜て・・・渡るとするか!」
ピアースがみんなを見渡す。
カギ爪をつけたロープは渓谷の向こう側の大きな岩にうまいこと引っ掛かっている。
コルピッツが強度を確かめるために引っ張ってみたが大丈夫のようだ。
「私が先に渡ってみます。皆さんはその後来て下さい。」
返事も待たずコルピッツはひょいとぶら下がるとロープを伝っていった。
足元は底がみえない、落ちたらひとたまりもないのは確か。
「お次はあたいだよ!」
勢い良くホトがロープに手をかける。
「じゃ次は俺が。」
ターマンもさっさと渡って行った。
「ツェナ、大丈夫か?顔色が悪いぞ。」
ピアースが黙って渡って行くみんな後ろ姿を凝視している私を心配そうに覗き込んだ。
そう私はもう真っ青!!だってこんなところをロープ1本にぶら下がって向こう側まで辿り着くな んて・・・途中で力がつきたら・・・と考えただけでも足がすくんでしまう・・。
でも渡らないわけにはいかないだろうし・・・。
「ツェナ、これを付けてみて下さい。」
ハートレーがロープの一部分を切ったものを渡してくれた。
「な、何ですか、これ?」
「まぁ、命綱ってとこですよ。上に滑車がついているでしょう、で胴体にしっかりつけ ておけば落ちることはまずありませんから。なんなら私が引っ張っていってあげて もいいですよ。」
「なかなかいいもの作ったじゃないか、ハートレー。引っ張っていくのは俺様にまかせ なって。なっ、ツェナ!!」
「・・・す、すみません・・私の為に・・。」
私はすっかり恐縮していた。
「ちょうど部品がありましたからね。じゃ、後はおまかせして先に失礼します。」
ピアースに微笑むと彼はロープを渡っていった。
「じゃ、ツェナ、行くよ!!」
「は、はい、お願いします。でもなるべく自分の力で行きますから。」
「分かってるよ!」
少し身体に食い込むようで痛かったけれど無いよりはうんと増しだ し、私の為にわざわざ作ってくれたんだから・・と私は勇気を振り絞って渡り始めた。
といっても、全身は強張ってしまっている。震える手足を叱咤するように、私は、ぎゅっと 口元を引き絞ってロープに手をかけた。
下を見ればめまいがして、失神してしまうかもしれない。私は一生懸命ロープを手繰っ た。
でも、目の前にピアースがいることはとても心強く思えた。
「もう少しだよ、ツェナ、頑張れ!!」
「うん、ありがとう、ピアース。」
元気一杯に返事をしたつもりだが、声はほとんど出ていなかった。
もう少し、もう少し、と自分に言い聞かせながら、徐々に身体に食い込んでくる ロープの痛みを多少なりとも感じながら、ひたすら手繰り続けていた。
目の前に広がる山肌を睨みながら・・・
「あ・・あとどのくらいこうしてればいいの?・・」




〆〆to be continued〆〆

 
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