〆〆 その8・門の向こう側 〆〆

 王の部屋から隠し通路を通り再び祭壇の間へ出る。
ルーン文字と悪魔のような像が彫 り込まれた巨大な石の祭壇。グロテスクな像は奇怪な儀式の様子を演じており、その表 面には濃い赤色のシミがこびりついていた。
生け贄狩りの様子、そしてその儀式。
山羊のお面をかぶった邪心の神官(?)。祭壇に寝かされている犠牲者。
短刀を振りかざし、今にも彼女の胸を突き、その心臓を取りださんとしている。
それを見つめているかのような、異形の神の彫像。
周りを取り囲む犠牲者に五体満足な者は1人もいない。手足がない者、目をくりぬかれた者、 首の無い者・・全員が見るに耐えられない姿と化している。
恐ろしい物語を伝えるその残忍な彫像を見ているとなんだか寒気がしてきた。

でも、他に行くところもない。 私達は、回復の泉で体力、精神力ともに全員回復すると改めてシンボルの前に立った。
「これをあの本に書いてあった通りに押せばいいんだな。」
ピアースが自分自身に確認するように呟いた。
「そうでしょうね。ええと、ちょっと待ってください。もう1度確認してからの方 が・・」
ハートレーがバッグから雄羊の書を取り出した。
「おっ、サンキュッ!」
それを受け取るとピアースはぱらぱらとページをめくる。
「んーと、なになに・・つまりこれはぁ、まず『ヤギの頭』・・でまた『ヤギの頭』 お次は、『炎の宝珠』それから『魔法の杖』、んで最後にまた『炎の宝珠』っ てとこだな。ん。」
一言一言、言いながらスイッチを押していく。
「おい、違うんじゃないか?何も起きないぞ?」
腕を組んでじっと見ていたターマンが言った。
「・・・これでいいはずなんだがなぁ、前ここに来た時祭壇が上がってきただろ?だから今 度はこれで中に入ってくんじゃないかな?沈むって書いてあるんだし・・・。」
いつも自信たっぷりのピアースにしては少し不安そうな顔をして祭壇を見ていた。

−ギ、ギィー・・ギリギリギリ・・・−
暫くして祭壇がゆっくりと陥没し始めた。歯車の音ともににゆっくりと動いていく。
そして、祭壇の表面が大きく開き、中から暗闇に通じる穴が現れた。
ピアースがそれみろと言うような顔をしてターマンを見た。ターマンはそんなピアース を無視して中を覗く。
「で・・・この中に飛び込めってことか?」
全員黙ったまま覗いていた。
底も見えないほど真っ暗。飛び込むと言っても、底なしだったら・・・と思った途端、 再び寒気がした。地獄まで続いていると言ってもいいような気配。
「それしかないでしょうね、他にはもう行けるところもありませんし・・。」
「もし出口がなかったらどうすんだよ?」
珍しく口を開いたコルピッツにピアースは少し不安気に言う。
「どちらにせよ、出口はないんですから。」
そのコルピッツの言葉で私達全員この城に閉じ込められた状態だったことを思いだした。
「そうだったな、これ以上悪くはならないかもな。行けるところは行くべきだな。行 こうぜ!」
ピアースは苦笑いするとみんなを見回し真先に飛び込んだ。
「ツェナ、行くよっ。」
真っ暗な穴をじっと見たままで動こうとしない私の肩を彼女は勢いよく叩き飛び込んで行った。他のみんなももうすでに飛び込んでいる。
「・・ん、よ〜し!」
1人でいるわけにもいかない。私は自分を奮い立たせるように掛け声をかけると思い切ってホトの後を追った。

「痛ぁっ!」
上手に着地できなかったのでお尻が酷く痛い。こんなどじは私だけだろ うかと周囲を見回してみる。
みんなも少なからずダメージは受けているようで、私は少しほっとしてしまった。
でも、ホトだけはさすがネコ族と言うべきか、上手く着地できたみたい。 でも、何かあるのか門をじっと見つめている。
そのホトのただならぬ雰囲気を感じて全員痛みを忘れ彼女の視線の先を見 た。どうやら門の柵の向こうで何か動いているようだ・・・。

−ギ、ギィィィィ−
門がきしみながらゆっくりと開いた。
その途端、矢のような速さで何かが襲ってきた!
「危ないっ!」
ピアースが私の腕を引っ張った。
「シャァーーーーーッ!」
彼といっしょに転がるように部屋の隅に後退、なんとか攻撃を交わすことができた。
それは、地下2階で出会ったのと同じくらいの大蛇!いや、それよりもひとまわり大きい!!餌を逃し たと思った彼(?)はすかさず方向を変え、再びこちらに向かってきた。
呪文を唱える時間がない!
駄目?と思った時ピアースに抱えられ空を舞っている自分に気付いた。(さすが、忍者!!)
「よっぽどツェナがおいしそうに見えるんだな。」
着地した彼は笑っていた。が、気は許していない。私を離すと再び空を飛んだ。すでに攻撃体制に入っている仲間たちも蛇 の隙を狙っている。私も負けてはいられない。
「ツェナッ!」
ホトが蛇から目を離さず叫んだ。私はその声の意味を、とっさに理解し た。ぼーっとしている場合ではないのだ。
ぬるぬるとした厚い皮は物質的攻撃などものともしない。大蛇はその目標をピアースに 向けていた。
今なら呪文を唱える余裕がある・・・大きく息をすうと精神を集中し、今 にもピアースに飛び掛かろうとしている大蛇に向け呪文を唱えた。
「ASPHYXIATION!!」
一瞬後、大蛇はその長く巨大な身体を横たえていた。
「絶好調だねぇ、ツェナ。」
高等呪文を唱え息を切らしている私にホトは、にこにこしている。
本当にこの呪文には精神力を消耗させられる。何と言っても私にとっては切り札、最高 の攻撃呪文。でも暫くは使えそうもないけど。
「もう文句は言えないよね、ターマン?」
意地悪そうな目をしているホトをターマンは無視して辺りを調べて始めた。

辺りには古い骨の破片が散らばっており、地面には濃い赤色のシミがついている。多分 あの大蛇にやられた犠牲者なんだろう。
『危険地帯、開閉厳禁、常時厳守』
蛇が出てきた門の掛け札にはそう書かれていた。
振り返るともう1つ門があった。が、これは開きそうにもない。門の隙から見るとどうやらここは1階の開かなかった北側の 門の外側らしいことが分かった。門さえ開けば、近かったというわけ。
他に道はないので、(上へ登るはしごはないし。)私達は大蛇が出てきた道を無言で歩き 始めた。
奥からは、何やら異様な気配が漂ってくる。何かがいそうな感じ。それも山ほど・・・。
私は、目一杯緊張しながら、みんなの後を歩いていた。



〆〆to be continued〆〆


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