「おい、合言葉だってよ、どうする?」
手を引っ込めてピアースがみんなの方を振り向く。
「・・・・・・」
誰も分かるはずがない。お互い黙って顔を見合わせた。
「やま!」
いきなりホトが叫ぶ。
「そいつはぁ、ちがうぜ!とっととうせな、うすのろ野郎!」
薄ら笑いを含んだドスの利いた声が響く。
「誰がうすのろだって?」
売り言葉に買い言葉、その言葉に頭にきたホトが、勢いよくドアノブを引っぱる。
が、ドアはもうしっかりと閉まっていてびくともしなかった。
「合言葉って言えば、『山』と『川』って聞いたことがあるんだけどさ、違っちゃった
ね。」
ふん!とドアを蹴ってから、ホトはエヘヘヘヘと照れ笑いする。
「どうしましょう、この階はあとこの部屋だけなんですが・・・。」
ハートレーがみんなを見回しながら言った。
「先に他へ行きますか?」
「ちょっと待って・・・」
何かが頭に浮かぶような気がして私はそう叫んでいた。何か重要な事があるような・・。えーと、えーと・・
みんなが私に注目している。思い出さなくては!
「確か・・クイークエグが知ってたような・・・。」
確信はなかったけど、なんとなくそんなような気がした私は、小声で言った。
「じゃ、もう一度彼に会いに行こうぜ。」
確信をつかもうと、頭をかかえて一生懸命考えている私にウィンクすると、無理するなとでも言うようにピアースは明るく微笑んだ。
「そうしようよ。同じ階にいるんだ。知ってるかも・・ネっ?」
ホトはそう決めると、早くも1人さっさと歩き出していた。
「こんちはっ!また来たよ。」
明るく言いながらホトは勢いよくドアを開ける。
「こんにちは。神秘の油を買う気になったのかな?」
クイークエグは部屋の奥に座っていた。
「絶対損はさせないぜ。」
「ごめーーーーん、そんな大金ないんだよぉ、お宝をもっと見つけたら・・ねっ!そ
れよりさぁ、向こうの部屋なんだけど・・『合言葉』知ってる?」
「向こうの部屋・・・?合言葉・・・?ああ、そうか・・『船長のねぐら』だな。あん
なとこ入らない方がいいぜ。」
ぶっきらぼうに言うクイークエグ。
「そんなこと言わないでさぁ・・教えてくれたっていいだろぉ?減るもんじゃなし・・
お金がたまったらまた買うからさぁ。」
ホトが耳をピクピクしながら、彼に顔を近づけた。
「わ・・分かった、わかった。」
案外と純情なのかクイークエグは、後ずさりしながらホトがそれ以上顔を近づけるのを止めた。
「そうだなぁ、だがただで教えるわけにぁ、いかんな・・んーー・・そうだ!船長の宝の隠し場所を教えてくれたら・・・な。」
「『船長の宝?』そんなもん分かるわけないよぉ。」
ふくれっ面してホトはそこに座り込んでしまった。みんなも困った顔をしている。
「どの辺に隠したか大体の場所さえわかりゃいいんだ。」
ごそごぞと品物を奥から出しながらクイークエグはにたにた笑っている。
「でなくっちゃ教えれないな。ギブアンドテイクでいこうぜ。」
「へーへー、分かったよっ!おい、行こうぜ。こんなとこにいたって仕方無いぜ。他を
当たろうぜ。」
ピアースはバタンとドアを開けるとさっさと出ていってしまった。
「そうですね。もし分かりましたらお教えするとしましょう・・それまでは他を見
てくるとしましょうか。」
ハートレーがそう言うと他の人達も仕方無いかというようにクイークエグに背を向け歩き始めた。
部屋を出た私達は仕方がないので、地下2階へと向かう。
地下2階の1つ目の門には合う鍵はなかった。2つ目のは2階で手に入れた『金の鍵』で開けることができた。
門の中へ入るとまたしてもドアがあった。
「隠しボタン?」
左側の壁にボタンを見つけた私は押してみた。
でも、別に変化なし。何も起こらないみたい。
ドアは鍵がかかってなくて、何事もなく入ることができたし・・。何の為のボタンだったんだろうか?という疑問が残る。
「なぁに、この部屋・・・?」
その部屋に入るなり、私は思わず声が出てしまった。
ガラーンとした部屋。・・・何もない。
でもその床には3つ穴が開いてるけど・・・。何なんだろ?
「落とし穴にしちゃぁ、ぬけてるんじゃないかぁ?」
中を覗き込みながら独り言を言うピアース。
「抜けててて当たり前か・・・落とし穴だもんな。」
「ん?」
ピアースの言葉が理解できなくて私はきょとんとしていた。
「なーにを1人でぼけとつっこみしてるだよっ、寒いんだって!!」
そんなピアースをちょっと馬鹿にしたような目で見ながらホトも近づいて行く。
そうか・・もし、落とし穴だったら、初めから穴が見えてて、ばればれだから、抜けてるってことなんだ。」
ようやく私は意味を理解した。・・でも、ホント寒い・・・。
「本当になんなのでしょうね、この部屋は?」
ハートレーも慎重に辺りを調べている。
壁に沿って歩いていたコルピッツが静かに言った。
「ここにも隠しボタンがありますよ。」
少しもためらわず彼はそのボタンを押す。
−ダン!ダン!ダン!−
仕掛けが作動し、左右の落とし穴が塞がった!残っているのは正面の穴だけ。
恐る恐る穴が塞がった所を踏んで確認するピアース。
「あなたは少し慎重すぎるんですよ。私が乗って大丈夫なら間違いないでしょう。」
ドラゴンとヒューマン両方の血を引いているドラコン族であるコルピッツである。身体つきは
完全なるドラゴンのもの。彼が乗って大丈夫なら絶対間違いなし!というわけで、率
先して試してくれた。怖そうに見えるけど、なかなか紳士的なんだ。
そして、そこを通り、アーチで区切られた小部屋に入り調べ始めた。
「宝箱があるぅ!」
喜びながら、ホトが落とし穴のところの壁に身を乗り出した。
「危ないっ!ホト!!」
多分、ホトは手が届くと判断して身を乗り出したんだろうけど、ほんと少し足らなかった。
バランスを崩し穴の中に落ちそうになったホトに私は思わず手を延ばす。
が、同じようにバランスを崩してしまった。
「きゃあっ!」
「ホトッ!ツェナッ!」
その声とともにピアースが身体を引っ張ってくれたような気がした。
「痛ぁーっ!」
が、その甲斐もなく、そして次々と助けようとして結局全員が落ちてしまった。
「大丈夫ですか?」
「いってぇーなぁ・・上に乗ったまま言ってんじゃないよ!早くどけってば!」
コルピッツに下敷きにされた恰好でピアースが怒鳴っていた。
「どうも、どうも、失礼致しました。」
コルピッツはすっと立ち上がるとピアースの手を取り彼を起こす。
「全く・・どうせなら、ツェナちゃんの方が・・・。」
ぶつぶつ言いながら起き上がるとぐるっと見渡した。
ターマンやハートレーはどうやらコルピッツをジャンプ台にしたらしく平然としていた。
「怪我は?」
ハートレーはやさしく私とホトを引き起こしてくれた。
「ちょっとお尻が痛いだけだよ。」
ホトは何ともないよとでも言うように立ち上がるが早いか彼の手を振り払った。
「手を焼かせるなよ、全く!」
相変わらずターマンは私を睨み付けている。
じゃ、わざわざ飛び込まなくてもいいのに・・・。私は、面と向かっては言えないので、小声で文句を言っていた。
「どうやらそんな事を言ってる場合じゃないようですよ。」
コルピッツがアーチの方をじっと見つめている。
彼の視線の先を見た私の背中をなにか冷たい物が走った。
(ギ、ギャアーーーッ!)
ターマンの手前叫ぶわけにはいかず、私は、必死に叫び声をこらえていた。
アーチの奥には、天井まで届くかという巨大な蛇がとぐろを巻いていた。
さっと戦闘体制をとる仲間達。侍のターマンは右手に刀、左手に脇差し。ハートレーは
ブロードソードとショートソード、ホトはその長いスピアを構えた。
モンクのコルピッツはその手と足が武器となり、ピアースは相手の油断を狙って攻撃できるように隠れ身
の術でその身を隠してた。
おどおどしてるのは私だけ。蛇はそんな私を狙うようにして襲いかかってきた。
−シャアアアアア!−
見ただけで凍ってしまうような巨大な蛇、その大きな口をいっぱい開けて私をめがけて
滑るように近づいてくる!
そして、その蛇を恐れもせず仲間たちは向かっていく。
私・・・私は・・・じっとしてちゃいけないと思えば思うほど頭が混乱・・・じゃなくて恐怖で思考回路も凍って
しまったようだった。でもこんなことじゃまたターマンに何を言われるか・・そう思い私は勇気を奮い
起こした。
私の使える呪文で一番強力なのは・・っと・・・。
そう考えているうちにも蛇の口は近づいてくる。ホトが、ターマンが、みんなが向かっていく。
が、その分厚くぬるぬるの皮は、みんなの直接攻撃などものともしない。その上、その強靱な尾を振りみんなを叩き飛ばしてしまう。
その大きな2本の牙は明らかに毒牙だろう、間違いなく私を狙っている。早く、早く、
呪文を唱えなきゃ、えとえと、そうだ!『ASPHYXIATION』だ!
大蛇の巨大な口がズームアップ!
頭から呑み込まれるっ!
目の前に迫った大蛇の牙、口!思わず瞼に力を入れてぎゅっと瞑ると私は、思いっきり叫んだ!!
『ASPHYXIATIONー!!』
そして、次の瞬間・・・恐るおそる目を開けた私の前には、もう少しで私を飲み込むところだったあの巨大な蛇が、その太く長い胴体を横たえていた。
「やったね、ツェナ!」
ホトがにこにこしてその横に立っている。
「すごいぞ、ツェナちゃん!最高呪文成功したじゃん!」
ピアースも少しオーバーと思えるくらい大げさに目を丸くして微笑んでいる。
「う・・うん・・ありがと・・。」
私はちらっとターマンを見る・・彼は、素知らぬ顔をして、壁にかかっていた金具などを調べていた。
そして、その部屋には何もなく、出口さえなかったので、私達は蛇が出てきたアーチの中に入ってみる。
行き止まりだと思われたがそこに入った途端、ふっと景色が変わり、私たちは上のドアのところに立っていることに気付いた。
そう、落とし穴のあった部屋のドアのところ。
確認のため、再びドアを開けて中へ入る。
2つの穴を塞いでから、すぐ残りの穴に落ちてしまったので、まだ
この部屋は調べてない。
落っこちた原因の宝箱は、後回しにして左側を調べていると、ボタンを発見した。
「な、なによーーー、馬鹿にされたみたい・・・。」
ホトがため息混じりに呟く。
え?なんでかって?それは、そのボタンを押したら、宝箱の前の床が塞がったから。
「ぶう・・・」
ホトはふくれっ面をしながら宝箱の蓋を開けていた。
勿論罠が仕掛けてあったんだけど、ピアースが簡単に見破ってくれたから、どおってことはない。
中には『雄羊の書』『ANOINTED CLOAK』『AMULETofNIGHT』と『RESURRECTION(スクロール)』が入
っていた。ANOINTED CLOAKは攻撃が和らぐというので私がもらった。
それぞれアイテムを分け持つと、ハートレーが、何やら怪しげな感じのする雄羊の書を開いた。
一夜目に雄羊
次ぎなるもまた雄羊
祭壇の上、輝く光りに
三なるものを求め
四なる夜の杖
五つに再び魔の光り
これ祭壇を地に沈め
夜に花開かん! |
「これって、もしかしたら、2階にあったあの祭壇のこと・・・かな?」
ハートレーの後ろから覗いていたホトは私の方に向き直して言った。
「うーーん・・・」
今までのことを一応は聞いたものの記憶と繋がらない私は判断しかねていた。
「・・・祭壇って書いてあるから、多分そうなんじゃないかと思う・・けど・・・」
「私も多分そうだと思いますよ。」
ハートレーが助け船をだしてくれた。
「とにかく行きましょう。」
雄羊の書をしまいターマン、コルピッツを促すとハートレーは早速ドアを開ける。
「そうだな、他にはなにもないようだし・・奥のドアは空きそうもないし。そこへ
行くか。」
先に部屋から出て通路の奥を調べていたピアースが肩をすくめながら戻って来た。
「奥にまだドアがあっのか?」
来た道を戻りかけたターマンは振り返ってピアースを見る。
「ああ、気持ちの悪いされこうべのドアがあるだけだ。多分両目になにかはめると開く
んだろうな。今のところそれらしきものは手に入れてないし・・・まぁ、上に行くしかないと
思うな。」
「お前がそういうならそうなんだろうな。」
どうやらターマンはピアースの仕掛けを見破るとか隠してあるものを見つけるという能力は認めているらしい。性格は合わない
みたいだけど。
「何してるんだい、早くいこっ!」
さっさと先を歩き始めていたホトがみんなを催促する。
「この門も開かないんだっけ。」
通路を進みながら、開けれなかった門をちらっと見、彼女はまた歩き始める。
走って彼女のところに行った私を横に見ると、彼女はにこっとしてウィンクした。
私もウィンクを返し、彼女といっしょに通路を進む。
途中スライムやラビットラットなど襲ってきたけど、巨大蛇との戦いの後では、もの足
りなさも感じたりした余裕の戦いだった。そうして再び2階へと来た。あの気持ちの悪い
祭壇の前に・・・。
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