〆〆 その6・記憶喪失 〆〆

 「ツェナ・・・ ナ・・・・ツェナってば!!」
私は頬を叩かれ目を開けた。頭がぼーっとしてて何が何なのかさっぱりわからない。
「ツェナ、大丈夫?」
可愛らしい顔をした、猫と人間とのあいのこのような女の子が覗き込んでいる。
「え、ええーと・・あのぉ・・・・?」
私は言葉に困った。
「ツェナ、どうしたんだい?まだ寝ぼけてるのかい?」
私は一生懸命考えていた。どうやらツェナとは私のことらしいのだけれど・・・。
「おいおい、大丈夫か?・・・まさか記憶をなくしたんじゃ?」
忍者の姿をした金髪の青年ががさっきの女の子の代わりに覗き込んだ。
耳がとがっている!・・そっか、エルフなんだ、と私は1人納得する。
「わ、私・・・えと、えと・・・分からない!何にも分からないわっ!!」
が、他は全く判断不能だった。私は頭が割れるかと思うような酷い頭痛がして思わず頭を押さえた。
「どうやらそうらしいな、なんとか魔法も少しは使えるようになったと思ったんだが、 また振出しに戻ったわけだな。もっともお荷物であることには変わりないが。」
エルフの後ろで怖い顔をした男が掃き捨てるように言った。
「あんたは黙ってなよ!」
さっきの女の子は男を睨むとまた私を覗き込んだ。
「ちょっとやりすぎちゃったようだね、まだあの呪文はあんたにはちょっと無理だった みたいだ。でもそのうち使えるようになるよ。」
「呪文?」
頭痛が少し薄らいできた私は彼女の顔を見つめた。
「どうやら記憶喪失に間違いないみたいだね。」
溜め息をつくと彼女は振り向いた。
「どうせみんなも休憩が必要だろ?」
気付くとさっきの人やエルフ以外にも犬のような人(?)やドラゴンまでいる。
「そうですね、もう少し休んでいた方がよさそうですから。」

「あたいの名前はホト。いい?ツェナ、あたいもあんたのことはあんまりよく知らないんだけど・・・」
他の人達から無言の了承を得ると、彼女は仲間の紹介と今までの経緯を話してくれた。
仲間の事、このお城で 出会った事、このお城を探索中だという事、私が忘れてしまった魔法の事等。今は地下 1階のクイークエグの部屋にいるという事。
「で、この部屋のすぐ前の部屋に入ったとたん海賊たちがどっと襲ってきて、で、あん たがなんと『ASPHYXIATION』なんかを唱えたもんだから、まだ力不足でバ ックファイアしちゃったんだよ!」
「AS・・なんだっけ?えーと、バックファイア?」
「ASPHYXIATION!敵を窒息死させる呪文だ!力もないくせに高等呪文を唱 えるからだ。俺達だってやばかったんだぞ!!最悪の場合、パーティー全員死んじまっ てるゾ。」
「・・・・・・・。」
顔つきからして怖いと言うのに、その上、勢いよく、まるで罵倒されているように言われ、 私はその場に小さくなってしまった。
「うるさいんだってば!いいだろ?ツェナ1人が被ったんだからさ!だいたいターマンは何でそ うツェナにきつくあたるんだい?ツェナはいつも一生懸命なんだ。あんたに文句を言わ れる筋合いはないよっ!」
ホトはそう言ってから、私に向きを変え、微笑む。
「まぁ、気楽にいきなよ、そのうち全部思い出すってば!」
結局自分が何なのか分から ず困惑している私に彼女はそう言って肩をポンと叩いた。そういえば何度かこう して励まされたことがあるような気がした。
「う・・うん。」
「まぁ魔法が使えれば当面邪魔にはしないだろうしね。」
ターマンをちょっと睨みながらホトはそう言った。
「とにかく腹ごしらえしとこうよ、腹がへっては戦ができぬってね。」
彼女の言う通りだ、考え込んでも始まらない。私は頷くとみんなと一緒に食べ始めた。頭の 中でホトに教えてもらった私が使えるという呪文を唱えながら。

 「さてと、そろそろ行くとしましょうか?」
ラウルフ族のハートレーがこちらを見てからみんなを促す。
「何処行こうか?ツェナが覚えてないから、順番に行くしかないねぇ・・さっきの部屋 まだよく奥の方調べてなかっただろ?その前にここでもう少し防具を整えようよ。武器 はこれで充分だけどさ。」
ホトはそう言うとスピアを手に取りながら立ち上がった。
「そうですね、また海賊共に襲われるとも限りませんから。」
そう言うとハートレーはクイークエグとの交渉にかかった。

「ツェナ、これに着替えてください。」
私にローブの上下を渡してくれた。
「いいんですか?」
「ええ、その布シャツではあまり防御力はありませんので、この方が少しはいいか と思いますよ。あなたに鎧は無理でしょうからね。」
「すみません。」
ハートレーににこっと笑いかけると私は急いでローブを身に付けた。
そして、他の人も準備を整え再び探索開始となった。

 クイークエグのいる部屋の向かい側の部屋、そう私が一度死んだとこ・・・そこには まだ海賊の死体が転がっていた。気持ちが悪いのでなるべく見ないようにして奥へと進む。
小部屋で隠しボタンを見つけそのまた奥の部屋に入っていった。
「な何だ、こりゃ?ほこりだらけじゃないか。」
ピアースがほこりを払いキャンバスの布をそっと取ってみた。
「おい、鎧と楯だぜ。まだ使えそうだ。」
部屋の他の箇所を調べていたみんながピアースの方を向く。
「なかなかよさそうだが、俺には無理のよう だ。装備できるのはファイターくらいだろう。クイークエグに売れば、まあまあの金に はなるんじゃないか?」
他には何も見つからなかったので、売りに行くことにする。
部屋を出たところの通路を北に行くとまた両側にドアがある。私たちは 鎧と楯をクイークエグに売ってから、まずそこの右側に入った。ほこりだらけの部屋。 ここにもローグがいたが難無く片づけた。
そう、私もじゃんじゃん魔法を唱えた。ホトから聞いた時は、半信半疑だったけど、 いざ使ってみると、面白いように決まる。
最も、決まった後見てるのはなんとなく気持ち悪く、後退して隠れるようにして見ていたけど。
一番見ても大丈夫な冷凍の細切れにしても、やっぱりあんまりいい気分がしないというのに、 麻痺させただけでみんなに斬り刻まれた死体は、目も当てられない・・。勿論、斬られていく 過程もだけどね。・・鮮血のシャワーと飛び出す内臓や脳髄・・。骨まで切断され、勢いよく 宙を飛ぶ手足・・骨は砕かれ、頼みの綱である皮膚だけでぶらさがっている腕・・・などや、 火だるま、あるいは酸で冒され、焼けただれて崩れていくのも・・・正視するには耐えられない。
え?それにしては、よく観察してるって?・・だって・・嫌でも目に飛び込んでくるから・・・。
で、目を背けるという具合なんだけど・・・。
慣れてるからとはいえ、よくみんなは平気だな、と私はつくづく思っていた。
ホトは、「記憶を失くしてもそれだけは変わんないんだね。」とか言って笑っていた。
私もそのうち慣れるんだろうか?
そして、そこの探索を終えると、反対側の部屋へと向かった。
ドアノブに手をかけ、そっと引こうとした時、それより先に小さな隙間が開く。
と同時に、部屋の中からドスの利いた気持ちの悪い声が響いた。
「兄弟ぇ、合言葉を言ってくんなぁ。」




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