〆〆 その4・殺るしかない! 〆〆

 いろんな考えが私の頭の中でぐるぐる回っていた。何が現実で何が夢なのかもう分からなくなってしまった。ホトがつねってくれた手はまだ真っ赤でずきずきしている。
(夢なら痛くないはずよね・・・。)
自分で自分に聞いてみる。
(じゃあ、これは、現実?でも、これはゲームのはずよ。有り得ない世界よ!なんで私はここにいるの?・・どういう事よお、いったい?!もういいから、夢なら覚めてよお!お願い!!!)
歩きながら自分の頬をつねってみた。確かに痛い。目は覚めそうもない・・。誰でもいいから説明して!)
叫びたくなってきた。でもそんな事すればまたターマンに睨まれるに決まっている。
「生け贄のために召喚されたんじゃ・・」
ホトの言葉が甦ってくる。何がなんだかもう分からない!!
(とにかく、お荷物にならないように、ついていかなくっちゃ、どんな呪文があったっけ、1つでも多く思いださなっくっては!気持ち悪いなんて甘いこと、もう言っていられない!理由なんて、訳なんてもうどうでもいい!これが現実なら、私は、私の世界に戻りたい!・・・生きて・・・。)
覚悟を決めた私は、記憶を手繰り思い起こせる限りの呪文を確認した。
「誰か階段の先にいるようですよ。上っていく足音が聞こえます。それにほら、パン屑が落ちています。」
先頭を歩いていたハートレーが、まだそんなにかさかさになって いないパン屑を拾い上げ私達の方を見た。
「モンスターなら襲って来るはずだ、来ないとこみると・・この城を探検してる やつか?足音からして1人だな。もしかしたら俺たちが仲間に入れるべき魔法使いなのかもな。」
ちらっと私を見るとターマンは階段を上がり始めた。
(ここは確か南東の塔、んー、あっそうだ!思い出した!彼はル・モンテス、そうだ、そうだ、ぬいぐるみの名前を言わなくっちゃ絶対ドアを開けてくれないわ。でも何だったっけ・・・ああん、思い出せないっ!さっきのターマンのいやみったらしい顔、言わない方がいいみたい。)
夢にせよ現実にせよ、とにかく今はみんなと探検を続けるしかない、と今一度自分に言い聞かせ、私は後を追った。
そこは塔の上。やはり彼はしっかり内側から鍵を掛け開けそうもない。仕方無いから北東の塔に登ることにしてそこを離れる。

 さてと、北東の塔か、ここは何があったっけ・・あーあ、あんまり覚えてないな。
「ツェナ、置いてくよっ」
私の心配をよそにみんなは階段を上がり始めていた。
「あ・・はーい!」
私は笑い掛けてくれているホトに駆け寄る。
「何ぼんやりしてたんだい?」
「ごめん、ごめん、ちょっとね、でももう大丈夫だから。」
「じゃ、行こ!」
「ん!」
自分を奮い立たせるように元気良く答えると、私はホトと一緒に階段を上り始 めた。

北東の塔と北西の塔には途中に格子のドアがある。でも開かない。それと北東の塔には鍵の掛かったドアが1つ。それは、何回か魔法を掛けてようやくの事で開いたけど、収穫はこれといったものはない。只北東の塔で、「SHORT BOW」と「ELM ARROW」を見つけ、スタッフよりましかなと思い私の背中に掛かっている。(使えこなせるようになるには、時間がかかりそうだけど。)
北西の塔では途中で梁が落ちてきてコルピッツが少し怪我をした。みんなをかばってくれたから。それ以外はモンスターもあまり出ず 順調にいった。で、お次は、2階。

 鍵の掛かってない部屋で『スペードの鍵』を見つけた。書庫ではワイヤーを引っ張ったら宝箱が出てきて、中にあった『王の日記』と『黄金の鍵』を手に入れた。
それからもう言うだけでも私なんか恥ずかしくなってきてしまうんだけど、王妃の部屋があって、そこの宝箱にはなんと『BULLWHIP』と『STUD−CUIR BRA+2』なんてものが出てきた。全くどういう王妃なんだろう?!夫婦揃ってろくな事していない!変態夫婦!
王の私室では隠しボタンを見つけ、なんとそこから奴隷少女の部屋に行ってたことが分かった。
噂では、王は壁を抜けれるとかなんとか言われていたけど、実際はそうじゃなかったことが分かった。隠し通路だなんて・・・ごく簡単なトリックじゃないの!
別の部屋の押しボタンを押すとその先に門が2つあり、骸骨の喉にひっかかってた鍵で開いた。
小部屋の宝箱では『ヤギの仮面』と『雄羊のダガー』。なんかいわくあり げな物で、なんとなく気持ちの悪いものだったのでロードであるハートレーが彼のバッグにしまい込む。身につけない方がいいとか言って。確かに見ただけで、なにかぞっとするものを感じた。

もう1つの門の先は悪魔のような像がある巨大な石の祭壇がある広い部屋に出た。そこには泉が2つあり、向かって右側が体力、魔法力両方回復できる泉で、左側のは毒水。
そして、この部屋を囲むようにぐるっとアーチがあり入口の両隣の階段から上がれるようになっていた。
(なーんちゃって、ここまでのことはだいたい覚えてたことだけど)
もう少しでその毒水を飲むところだったピアースを私は慌てて止めたの。
祭壇の部屋の中央にあるスイッチのようなシンボルが3つ、これは押す順番を覚えてなくって・・。地下にこれについて書かれていた本があったはずだということを、私が言うと当然のように、じゃあ行こうかということになる。決まりきった事で私が覚えてないと言うとターマンがそのきつい視線で私をじろっと睨み、ホトとピアースがその都度庇ってくれた。
でも、このころになると、私も、度胸がついてきたのか、そんなに全部覚えていられるわけないじゃない!!と開き直るようになってきていた。

さーて地下は・・と。確かクイークエグがいた。いらない物を売って武器などの強化をしなくては。それからそれから私がパーティーのレベルアップに利用した大蛇、。もちろんHP、MP共に泉で回復してからでないと! と言っても、それはみんなの場合のことで、私にはあまり当てはまらない。
そう、私は未だモンスターにでさえ攻撃はできなかった。というより、戦闘シーンの直視さえ、まだできない。離れた所かドアの外でリュートを弾いて、子守歌を奏でてるくらい。 あきれ果てて文句を言う気にもならないのか、ターマンももうそのことについては、何も言わない。きっと言うだけ無駄だと思ってるんだろう。
でも、ここに来るまでに補助魔法は随分(前と比べれば)使えるようになってきていた・・。
呪文を思い出しただけでは、早々使えないけど、精神集中とイメージで、『眠り』は勿論、『魅惑』『石化』『麻痺』などの呪文も使えるようになってきていた。
・・でも、そのうちそれだけじゃ済まなくなるとは分かってる。敵はどんどん強くなってくるし・・確か地下では海賊が襲って来るはずだから・・・。 ああ・・私ももうすぐ立派な(?)殺人者(?!)
でも、ターマンじゃないけど、殺らなきゃ殺られる・・・最も私の場合、ほとんど魔法での攻撃だから、なんとかできるかもしれないけど。これが剣で斬るなんて言ったら・・・できるわけない・・。
持たせてもらった弓もまだ一度も引いたことがないし。
でも、気持ちを入れ替えて、まあなんとかなるんじゃない?という希望も湧いてきていた。そう、ゲームなんだ!殺してもいいんだ!と私は自分に言い聞かせ続けてきている。
ゲームじゃないみたいだけど・・ゲームなんだから!・・ここはゲームの世界なんだから!・・と。多分クリアすれば帰れる。そして、そのためには、倒さなければならない!
でも・・ホントは目が醒めてくれないかな?と思ってる自分もいることは確か。
確かに魔法が使えるってとっても気持ちがいい!あり得ない事が実現するって、本当に気分がいいのよね!・・でも、攻撃魔法は・・ゲームならいざ知らず、現実に、しかも目の前で自分の魔法で 、たとえモンスターだったとしても・・丸焦げになっていくなんて・・・考えただけでもぞっとすることも確か・・・。」
できれば、そんなこと必要にならないうちに目が醒めてくれるといいんだけど・・その可能性は、どうやら低そう・・・。
ああ・・おなか一杯あったかくって美味しいものを食べたい!!お風呂に入りたい!!ふかふかのベッド(私のはそうでもないけど、ここの石の床で寝ると比べたら天と地の差)で眠りたい!!

 


〆〆to be continued〆〆



前ページへ 目次へ 次ページへ