〆〆 その2・開け〜、ゴマ!! 〆〆

 「だけどなんであんな所に1人でいたんだい?」
ホトが耳をピクピクしながら聞いてきた。
まさかこれは私の夢なんだ、とは言えないよね。
「わかんないんだけど、気がついたらあそこにいたのよ。」
「フーン、」
前に向き直し考え込むように彼女は話し始めた。
「じゃあ、もしかしたらあんた、ここの城主への生け贄に召還でもされたのかもしんな いよ。」
「えー?!」
ホトは、驚いて立ち止まってしまった私の方を向いた。
「だってそうだろ?ここの王様は奴隷少女をよく買ってたんだろ?で、崇拝していた邪 神に捧げたとかおもちゃにしていたとか、『災厄の王』って言われてたんだから。死に きれないでその辺をうろうろしてるんじゃないかい?なんでも悪魔の娘と関係があった とかなんとか言われてるし。ろくなもんじゃないよ、全く!」
青くなって黙り込んでいる私を見て彼女は笑った。
「はははっ!大丈夫だよっ!あたいたちがついてるよっ!」
ボン!と私の背中を叩いた。
(そうだよね。それに夢なんだし、でもちょっとこれって現実的すぎない?) 私は少し不安になってきた。リアルすぎて少し怖くなってきた。

 でも、何事もなく1階まで来た。
「さてと、どこから調べましょうかね?入口から入ってすぐの所に確かアーチがありま したよね。その部屋からにしますか?」
コルピッツが私の方を振り向くと同意を求めるように言った。他の人も私を見ている。
「そうですね、それでいいと思います。」
ドアを開けアーチを目指す。アーチは2つある。
「どっちでも同じなんだな。」
みんな手前のアーチから入ったのにピアースだけわざと向こうのから入った。薄暗い部 屋には一応明かりが灯っている。
「宝箱がありますよ。なになに、『これを最初に開けよ』だそうです。」
ハートレーが箱のあちこちを見ている。
「こっちにもあるが、『これを2番目に開けよ』とあるから、まずそっちからだな。こ ういうのは素直に従った方がいいんだ。」
部屋の反対側でピアースの声がし、こっちへ近づいてきた。
「おい、罠があるかもしれないぞ。」
ハートレーが開けようとするのを見てピアースは慌てたように言う。
「大丈夫です。鍵もかかってないし、罠もないと思いますよ。」
カチャっと開いた。中にはアミュレットとポーションが入っていた。
「あたいが持ってるよ。」
ホトが自分のバッグに詰め込んだ。
「で、こっちのは・・・と」
反対側のをピアースが開けた。罠も鍵もかかっていない。
お金とソードそれにスクロールが1つ。
「『用心せよ、心の中の、狭き回廊を』だとさ。誰か覚えとけよ。こんなの持ってたっ てしょうがないだろ?」
そのスクロールを箱へ戻すとピアースはお金は自分のバッグに入れ、ソードをハートレ ーに渡した。
「で、お次は何処へ?」

「この辺に回復の泉があるはずなんだけど。」
私は部屋を歩き回った。と、暗闇の中で何か光っているものが数個。
「キ、キー!」
「ギー!」
「わー、ね、ねずみの目だったんだ!」
一斉に襲ってくる彼らに、私は頭を抱えて座り込んだ。
「危ないっ!」
ホトの声。
「シュッ!」
スピアが空を切る。

「全く、しょうがない。手のかかるやつだ。」
静かになってから顔を上げた私の目の前にターマンが立っている。その鋭い目で私をじ っと睨んでいる。右手に刀、左手には脇差し。両方とも血糊がべっとりついている。 「自分の身も満足に守れないなら、うろうろするな!」
「す、すみません。」
彼が怖くて消えそうな声で私はそう言うのがやっと。
「またターマンはツェナを苛める。よせってば!女の子を泣かすもんじゃないぜ。」
ピアースが小さくうずくまってしまっている私を抱き起こしてくれた。
「気にするなって。俺様がついてるから、なっ!」

「これが回復の泉ってやつですか?」
少し奥でコルピッツの声がする。
全身の力が抜けてしまった私はピアースに抱えられるようにして歩いていった。他の人 も泉の方に行く。
「そう、多分間違いないわ。体力が回復するはずよ。」
私は手に水をすくい飲んだ。スーとして、味は無いけど、元気が沸いてくるような感じ がする。
「ありがとう、もう大丈夫。」
心配そうにしてまだ私を支えているピアースに微笑みかけた。
「よかった。じゃ、俺も一口。」
全員泉の水を飲んだ。元気は出たけど代わりに空腹を感じた。お腹はふくれないんだ。
みんなも同じだったみたいで、泉を囲んで床に座りそこで食事を取ることになった。
食事はフランスパンよりもっと固いようなパンと干し葡萄や野菜、肉などだった。貰っ て食べるんだから文句は言えないけど、干し肉か、初めて食べるなあ、あまり美味しく ない。
「ヒューマンって、もっと女の子を大事にすると思ったんだけどな。」
モグモグしながらピアースが話し始める。
ターマンはそんなピアースを無視して刀の手入れに専念している。
「女の子を守るのは俺たち紳士の義務だと思うんだけどな。」
「誰が紳士だって?」
ホトが吹き出しそうにしている。
「俺様の事に決まってんだろ!なっ、ツェナ!」
ぐっ、ここで笑ってはいけない!
「うん、そう・・ね。」
「それみろ!ツェナには分かってるんだよ。ツェナみたいなか弱い子は特にね、守って やらなきゃ。」
「どうせ、あたいはおてんばだよっ!」
にこにこして私を見ているピアースにホトがくってかかった。
「そんな事言ってないだろ?」
「はん!言ってるのも同じじゃないか!」
「まあまあまあ、ホトもピアースも、」
ソードを手入れしながらじっと聞いていたハートレーが2人をたしなめた。
「僕はホトのその活発な所が好きですよ。とっても明るくって。」
「ラウルフに言ってもらっても嬉しくも何ともないよっ!!」
ちょっと顔を赤くし彼女はそっぽを向いた。そっか、犬族と猫族だもんね。やっぱり仲 が悪いのかなあ?でもそれは遠い祖先の事で、でも、やっぱり多少は残っているんだろ うか?
そんな事を考えている私に急にホトが近寄ってきた。
「ツェナ、リュートの使い方教えてやるよ。今のままじゃ、これから先困るよ。貸して みな。」
ホトは、私が渡したリュートを持つと、実際に弾きながら説明してくれた。
「簡単なんだ。ここをこう持って、と、それでこう弾くんだ。いいかい、前にも言った けど、要は集中力。心を無にして奏でるんだ。相手のモンスターのみイメージして。弾 き方なんてどうでもいいからね。ああ、でもツェナの場合、その前にしっかりと相手を 見据えること。逃げ腰じゃだめだよ。戦わなくっちゃ。ピアースはああ言ったけどこの 城は普通じゃないんだ。せめて自分の身ぐらい守らなきゃね。モンスターが強くなって くれば他人の事などかまえなくなっちゃうからね。」
返事の代わりに私は頷き、リュートを手にした。

 「さてと、そろそろどうですか?」
暫くしてコルピッツが立ち上がった。
「上に行く階段が2つ、左右にドアが1つずつ、泉の後ろにドアが1つ。どれにしまし ょうか?」
「まず、左右のドアからでどうだ?最初に右のドアだ。」
反対意見が無いとみるとターマンは私の方を向いた。
「ツェナ、精神力の訓練だ。鍵を魔法で開けろ。そのくらいの魔法は知っているだろう ?」
「ちょ、ちょっと待てよ。そんな事、俺様がこの指でチョチョイと。」
ピアースがドアへ歩み寄った。
ターマンは私をじっと見たままだ。なんか怖いムード、開けないと切り殺されそう。
「待って、ピアース、私、やってみる!」
「大丈夫か?」
ピアースが私の方を振り向く。
「うん。」
「よし、じゃ、やってみろ。但し、2、3回かけて駄目だったら、俺に回すんだぞ。何 回もかけて呪文が絡んじゃってからじゃ、如何に俺様が器用だといっても、無理だから な。」
「へん!その反対もあるだろ?ツェナ、あたいでもそのくらいの呪文は使えるから気楽 におやりよ。」
ホトが笑っている。
「うるっせーんだよ!俺様に開けれないものがあるもんか!」
ホトを睨んでから私に優しく笑いかけた。
「とにかくやってみな、ツェナ。自信を持つんだ。絶対開くって!」
私は無言でドアの前に立った。やらなくちゃ、でも開くのかな?ええい、女は度胸だ! 愛嬌なんて言ってられない!

手をドアノブにかけ、精神をその一点に集中する。みんなが私に注目しているのが、よく分かった。緊 張して身体がガチガチ。
(私に魔法が使えますように。お願い、開いて!魔法よ、効いて!)
(あっ、そうじゃないんだ!・・絶対に開く!私は世界一の魔法使いだ!!何でも来い ってんだ!(ちょっと、乗り過ぎかな?)『オープン、セサミ』だーっ!!)
そして勢い良く私は叫んだ・・
「KNOCK−KNOCK!!」
(開けーー・・ゴマぁーー!)




〆〆to be continued〆〆


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