〆〆 その1・ウィザードリィの世界へ 〆〆

「う、うーん、身体中が痛いなあ。またベッドから落ちたまま寝てたんだろうか?」
そう思いながら目を開けた。真っ暗で何も見えない。
「ええと、スイッチは・・」
明かりをつけようと壁を手探りで探す。
「あれ?」
壁が、ううん、部屋全体がなんかおかしい!ここ、私の部屋じゃない!冷たい石の壁、床。
暗闇に目が慣れてくるにつれて様子が分かってきた。ベッドも机もなーんにもない!ここは・・何処かの廃墟の一室?ちょっと待って!ええと、確か昨日の夜は・・12時頃までゲームをやってて、お父さん達に散々怒られて、そうだ!ふてくされてPCの前で宿題をし始めたんだ。それで・・そのまま寝ちゃったんだ。
んー、つまりこれはぁ、『夢!』なんだな、きっと。ん、そうだ、そうだ。ゲームのやりすぎで夢にまで見てるんだ。ということは・・この部屋からして、もしかして『ウィザードリィ』かな?なかなかGOODな夢じゃん!ではでは、目が覚めるまで探検するとしましょうか。あっ、でもモンスターが襲ってきたらどうしよう。魔法なんて使えないし、武器もないし。
まあ、いいか、どうせ夢なんだ、いざという時は武器も手にしてるだろうし、魔法だって使えるだろうから。なんといっても見ている人に悪いようにはならないよね、なっても目が覚めるだろうし。
それに、もしかしたらハンサムな勇者が助けに来てくれるかも!ん、そうだ、どうせならそういう展開じゃなきゃ夢を見てる甲斐がない。期待しよう!
でもこう暗くっちゃ何にも見えないな。
「えーと・・・。」
私は暗闇に幾分慣れてきた瞳を凝らして改めて部屋を眺める。どうやらここは塔の部屋らしい。狭いし窓もない。ドアが1つあるだけ。「やったね!宝箱見っけ!・・レザーキラスだ。」
さっそく着てみる。
「んー、大きくてだめ。でも、一応持っていこう。」
他には何もないようだし、では部屋を出てみるとしますか・・ワクワク、ドキドキ)

ギ、ギギィー、とドアが開く。気持ちの悪い音。でもこのお城には合っているけどネ。
そこは間違いなく塔。部屋を囲むようにぐるっと通路があり、塔の回りに出れるアーチが6ヵ所、つまり角々3ヵ所にある。多分向こうのもう1つの角の向側には階段があるんだと思う。
部屋から出て右手のアーチをくぐって塔の回りに出てみた。
「間違いない、ウィザードリイのベイン・オブ・ザ・コズミック・フォージの世界だ!お願いだから、いい所で目が覚めませんように、こんな夢滅多に見られないんだから!それもすっごく現実的!」
私はもう有頂天!
胸を踊らせて周囲を見ていた。
壁に沿って右に歩くと前方に塔が見える。角を曲がったその先にも1つある。ここからじゃ見えないけどその前の方にも塔があるはず。つまりこの塔は南西の塔ってとこかな。目の前のおそらく北西の塔の向こうに山が見える。あれはジャイアントマウンテン、とするとあの向こうにアマズール族の住むピラミッドがあるんだ。ジャイアントマウンテンの麓のあの辺りが採掘場かな。なんか不気味な雰囲気。とすると死者の川も沼地も魔法の森も雄羊の寺院もあり、コズミック・フォージも!!わー、どこまで見れるかな、この夢?いつまでも覚めないといいな。
さてと・・でも1人じゃ心細いなあ。誰かいないかな?
私はアーチをくぐり、階段の方へ歩いていった。

「キ、キー!ギーッ!」
突然蝙蝠が襲ってきた!
「キャーッ!」
頭を抱えながら部屋へ駆け込む。
「ちょっと、どうしたらいいのよお。あんなのがいちゃ下へ下りれないわよお。」
私は息が切れ、ペタンと床に座り込んでしまった。
しばらくして、ドアの向こうが何かしら騒がしくなった。ドアに耳をあててじっと聞いてみる。剣の音、蝙蝠の飛び交う羽音、鳴き声、そして人の声!
「やったね!さすが夢!ちょうどいい所に勇者様の登場かな?」
私は胸を弾ませた。
じっと待つこと数分間、シーンと静まってから私は恐る恐るドアを開けた。
「ヨッ!大丈夫だったか?」
後ろで束ねた長い金髪、尖った耳、おそらくエルフなんだろう、なかなかハンサムであり、気さくな感じのするお兄さんだ。
「え、ええ。」
もう危険はないようなので通路へ出る。
「俺、ピアースってんだ、一応忍者だぜ。で、あのドラコンがコルピッツ、モンクさ。奴の後ろにいるラウルフがハートレー、ロードだ。その横のヒューマンが侍のターマンだ。」
彼は、1人ずつ紹介してくれた。
「で、あたいがフェルプール族のホト、ヴァルキリーだよ。あんた、魔法使いだろう?名前は何ていうんだい?」
ピアースの頭をグイっと押さえ、上にのるように私をじっと見ている。その猫のような目をクリクリし、これまた猫そのものの耳をピクピクして。
なかなか可愛い女の子だ。ヴァルキリーなんて信じられない。でも手には長いスピアがある。その先はさっきの蝙蝠の血のりが。
「え、えーと、私・・・」
(なんて言うべきなんだろう、夢なんだから本当の名前じゃなくてもいいよ。ピアース、コルピッツ、ハートレー、ターマン、それにホトとくればもうこれは・・!よし、決ーめたっと!)
「私、ツェナっていうの。助けてくれてありがとう。」
差し出した私の手を握ったのはホトではなく、彼女を退けたピアースだった。
「どういたしまして、困った時はお互い様さ!1人じゃなんだろ?俺たちと一緒に来ないか?魔法使いが1人いると助かるんだがな。」
じっと私の顔を覗き込んできた。
「え?まあ、行きたいのはやま々なんだけど・・・」
(私、魔法使いじゃないし・・?どうしよう?)
「よしっ!決まりっ!村の長老が言ってたとおりだ。魔法使いが1人もう城に入ってるって聞たんだ。半信半疑だったけど、面倒臭くて探さずに来ちゃったから魔法使いがいないんだ。これで探検の準備O.Kってとこだな。」
どう言ったらいいのか迷っている私を無視してピアースは1人で決めてウインクしている。
「ちょっと待った!役に立たない者を連れていってもしょうがないぞ。」
割り込むようにしてターマンが目の前に立った。がっしりした身体、少し茶色かかった短い髪と黒い目。じっと私を睨んでいる。
「なんでだよう?魔法使いが1人ほしいってあんたも言ってただろ?」
ピアースがむっとした表情でターマンに言った。
「魔法が使えるならさっきの蝙蝠なんかやっつけれるんじゃないか?」
私を馬鹿にしたように見下ろしてる。それもそうだというようにピアースも私を見つめ直した。
「なんだ、あんた魔法使いじゃないの?」
ホトが言った。
「あ、あの・・一応、呪文は知ってるんだけど・・あの・・その、」
(どうしよう、このままじゃ置いていかれちゃう。いくら夢でも1人じゃこのお城の探検は無理だと思うし、でも、使えないってばれると怖いし・・)
「まあまあ、ターマン、そうむきになることもないじゃないですか。女の子をそう責めるものじゃありませんよ。魔法が使えないのなら尚更いっしょに連れていってあげるべきですよ。こんなところ、女の子1人でいる所じゃありませんからね。」
ハートレーが青くなっている私にやさしく微笑んでくれた。彼はラウルフ族、先祖は犬か、狼か。人間大の犬が2本足で立っているという感じ。とても優しそうな目をしている。
「しかし、この城は普通じゃないんだ。足手まといに・・」
言いかけたターマンを制してコルピッツが壁にもたれたまま低くそして辺りに響くような声で言った。
「呪文を知ってるんなら訓練すればいい。私達だって最初から使えた訳じゃないし、それにその子くらい守ってやれるでしょう?それともターマン、あなたはその自信がないのですか?」
偉大なる龍族と人間との両方の血を引いているドラコン族、姿形は恐ろしいようなドラゴンそのもの、でもそれで判断してはいけないみたい。とても紳士的。
「なまやさしい城とは思えないんだがな、死んでから後悔しても遅いんだぞ。」
舌打ちをし、ちらっと私を見るとターマンはアーチの外に目をやり溜め息をつくと、壁にもたれ掛かった。
「まっいいじゃない。とにかく仲良くやっていこうヨ。」
決まりだねとでも言うようにホトが私に手を差し出した。
「ありがとう、よろしく。」
ホトの手をしっかり握った。
「そう、そう、あんた、楽器なんかどう?少しは扱える?」
「ええ、少しは、」
(音楽は5なんだ!何と言ってもブラスバンド部だったもんね、それに楽器は大好きだし。)
「じゃあ、これ、少しは役に立つはずだよ。」
彼女はリュートを渡してくれた。
「スリープの効果があるんだ。効き目はあんたの集中力しだいだけど。」
「いいの?」
「あたいにはこれがあるからね。」
そう言うとホトはスピアを高く上げる。
「もしかして、バードから転職したの?」
「ん、そう。だから攻撃魔法も少しは使えるよ。弾き方教えたげるから早く覚えなよ。魔法もリュートも要はどれだけ精神の集中力を高められるかって事なんだから。もたもたしてるとターマンに殺されかねないからね。」
ターマンの方をちらっと見ると声を低くして私にそっと言ってくれた。そして顔を見合せ二人でクスッと笑った。
「ありがとう、それにね、1つ自信があることがあるんだ。」
「何?」
彼女の耳がまたピクピクしている。
「ん、多分、道案内できると思うの。」
私は自信たっぷりに言った。
(だってあのB.C.Fならクリアしたもんね。エンディングもしっかり4つとも見たし。大丈夫だろう!)
「おいおい、それホントか?」
ピアースがまた首を突っ込んできた。
「まかせてっ!魔法は効くかどうかわかんないけど、そっちなら、ネッ!」
「少しは守ってやる甲斐があるわけかな?」
ターマンがこっちを見た。
「まだ他には何処も行ってないんですよ。さっそくですが案内願えますかな?その荷物は私が持ちましょう。」
「あ・・はい。」
近づいてくるとコルピッツは私が握っているレザーキラスを取り、自分のバッグに入れた。
「よし、じゃ行こうぜ。」
ピアースが言うのを待つまでもなくコルピッツ、ハートレーそしてターマンは階段に向かって歩き始めていた。ピアースも彼らに続き、その後をホトと私がついて行く。
(いよいよ冒険の始まりだ。ああ、夢よ、クリアするまで覚めないで!どうか全て順調にいきますように!)
私は祈りながら階段を下り始めた。




〆〆to be continued〆〆

 

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