外伝(2) 出航(旅立ち)

 


 

   「2枚って、どういう事?」
さおりは訳がわからなくって、ダグに聞いた。ダグは黙っている。
「方向が違うんだからあったってしょうがないでしょ!それに切符は買ってあるのよ!」
いけないと思ってはいるのだが、イライラしてますます噛みつくような言い方になってくる。
(はっきりしないダグがいけないんだ。)とさおりは勝手に決めつけ睨むようにダグをを見た。(言いたいことがあるなら早く言ってよっ!)と喉元までその台詞がでてきていた。
「だから・・、」
と言いながらダグは溜め息をつくとさおりの方へ歩み寄った。
(ゴードンの言った通りさおりはこの方面に関してはそうとう鈍いな。)とダグは思った。彼は普段話すのも苦手だ。愛の告白などもってのほかである。結局彼は、実力行使しかないという結論をだした。
「さおり、、、」
ダグが彼女の頬に手を伸ばしてきた。
(えっ?)
予期しなかったダグの行動に、さおりはびっくりして声も出なかった。
(えっ、何?、何?、何よう?)
ドキッ、ドキッ、心臓の鼓動が耳に聞こえるほど大きくなってくる。
「、、、愛してる、、、」
少し照れているように、だが、真剣な眼差しのダグ。
(えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?)ただでさえ大きなさおりの目が一段と大きくなった。心臓が破裂しそう!
(ちょ、ちょっと待って!頭が混乱している!ダグは私のことなんか嫌いだった、、はずよね、、、だってどうしようもないお荷物で、、、ガキで、、、それで、それで、、、ダグにはディーティアさんが、、、)
考えれば考えるほどさおりの頭はゴチャゴチャになっていった。
「さおり、、、」
ダグはもう一度言うと、がっしりしたもう一方の腕でさおりを抱きしめようとした。
「な、なによう、ダグッ! か、からかうのはいい加減にしてっ!」
真っ赤になりながらそう言うとさおりはダグの腕から逃れ、後ろに下がった。彼女の感情はますます高ぶっていく、もうセーブなんかできそうもない。頭の中では言うべきじゃないと分かっていても、それまで胸につかえていたものが次々と口から出てきた。
「わ、私、知っているんだから。ダグには、ダグの心の中には、ディーティアさんがいて、それで、、、私が、、、。私は、私は彼女じゃないっ!彼女の代わりなんてなれないっ!!」
さおりは興奮のあまり今にも泣き出しそうだ。それまでやさしくさおりを包んでいたダグの目が悲しみの色に染まっていった。
(私、なんてことを言ってしまったんだろう。)
さおりは今更ながらダグの心を傷つけた事を悔やんだ。だが一度放ってしまった矢はもう戻らない。さおりはほかの言葉も見つからず、黙ってダグを見ていた。
ダグは大きく溜め息をつくとゲートの手すりにもたれかかった。
(普段の悪い行いのツケがこういう時に回って来るんだな。)
ダグは、いつもさおりをからかってばかりいた事を思い出していた。
ポートの天井は全て透明になっている。ダグは宇宙(ソラ)を見上げ、どうしたものかと思案した。さおりはまるで魔法にでもかかったかのように身動ぎもせずダグをじっと見ていた。

「ディーティア、、か、、、」
しばらくたってダグが独り言のように話しだした。
「ディーは、、ディーは俺より2才年上だった。俺とディーの家は家族同様の付き合いで、俺たちは姉弟のように育った。俺はディーの行く所なら何処でもついて行った、ディーも連れていってくれた。小さい頃、俺がいじめっ子に苛められているといつも助けてくれた。俺は大きくなったらディーを守れる男になりたいと思ったもんだ、、、。」
「ははは」
ダグは弱々しく自嘲するとまた話を続けた。
「結局、、なれなかったんだがナ。忘れもしない、いや、忘れれる訳がない、、あの時、俺がもっとしっかりしていたら、、イヤ、今更言っても仕方がないが、、あの時俺は目の前のオルタンが怖くて金縛りにでもあったように動けなかったんだ。身体中がガタガタ震え、声を出すこともできずにしりもちをついていた。奴が俺めがけて飛び掛かってくる!もうダメだ!と俺は目を瞑った。その直後だった、「ダグッ!」というディーの声と銃声が聞こえた。俺は恐る恐る目を開けてみた。俺の目に写ったのは、、手負いとなり凶暴さが増した奴がディーに向かっていくところだった、、、あとは、、、まるでスローモーションを見ているようだった、、、ディーが奴の隙を見て銃を撃つ、奴がディーを襲う、、俺は、、、動けなかった!情けない事に全く動けなかったんだ!」
「ダグ・・・」
ぐっと握られたダグの両拳がこきざみに震えていた。さおりはまるで自分の胸を締め付けられているように感じた。
「・・・俺が正気に戻ったのは親父に両頬をおもいっきり叩かれてからだ。悪夢だと思いたかった。だが、俺の目の前には奴の死骸と、、ディーの、、ズタズタに引き裂かれた無残な姿があった。俺は気が狂いそうだった。俺さえしっかりしていれば、、、イヤ、俺さえいなければあんな事もなかったかもしれないと、、、。そして、俺はいてもたってもいられずOSSに入った。強くなる、誰にも負けない男になる、と決心した。俺はがむしゃらに訓練を受けた。危険な任務も買ってでた。だが、どうしたってディーは帰っては来ない。忘れれるはずもない、、、一生俺の心の中にいるだろう。」
ふと、ダグはさおりの方を見た。自嘲と悲しみの混ざった顔だった。
さおりは引き寄せられるようにしてダグの前に歩み寄った。何と言ったらいいのか分からない、さおりは只黙ってダグと見つめあっていた。
「俺はいつも死ぬことを考えていたのかもしれん。」
ダグは視線を他に移すと再び話し始めた。
「そんな毎日を送っていた時、さおりに出会った。ディーの生まれ変わりか、とも思えるほどよく似ていた。最初の頃、俺はさおりを見るにつけ、ディーの姿をそこに重ねていた。何度抱き締めようとしたか、そして何度ディーではない、と自分に言い聞かせたか。もっともあの頃のディーより多少幼い感じがしたが、しかし負けん気の強さはディーといい勝負だと思った。ちょっとからかうと俺にくってかかってくる、面白かった、気が紛れた、イヤ、気が和んだんだ。いつ頃だっただろうか、俺の中のディーがいつの間にか、さおりと代わってしまっていると気付いたのは、、、いや、決してディーを忘れたわけじゃない。そうじゃないが、いつ頃からだったか、いつも思っているのはさおりの事だった。ようやくディーの代わりに俺の守るべき人が見つかったと、、思ったんだ。」
ダグは再びさおりの方を見た。
「さおりはディーじゃない。彼女の代わりにしようなんて俺は思っちゃいない。さおりはさおり、俺が、、、今愛しているのは、、、さおり、お前だけだ。」
ダグはじっとさおりを見つめた。さおりもダグから視線を離せないでいた。でも何を言ったらいいのか分からなかった。只黙って2人ともじっと見つめあっていた。
さおりの頬を涙が伝う。
ダグは彼女を抱き締めようとさおりの右手を取り、そっと引き寄せた。片腕をさおりの背に回し抱き締める。もう片方の手でそっとさおりの涙を拭う。さおりはダグの気持ちが痛いほど分かっていた。
「ダグ、、、」
そう小さく呟くと彼女は目を閉じた。
ダグの腕がさおりを包み込む。その大きくて温かいダグの胸には覚えがあった。
(そう、確かリゴンでだった。あの時もとても温かくて、死にそうだったのに少しも不安じゃなかった。)
「さおり、、、愛してる。」
ダグは自分の腕の中で小刻みに震えて目を閉じているさおりがとても愛しく思えた。自分の唇をさおりの唇にあわせる。いつの間にかさおりもダグの背に手を回していた。
(ダグ、、私も愛してる。)
2人の心が1つになった、、、と、ダグがふっとさおりの身体を放した。
さおりは何故だか急に心細くなり、ダグがそこにいないような気がしておそるおそる目を開けた。
「乗り遅れるぞ。」
ダグはさおりの荷物を拾い上げると笑みいっぱいの顔をさおりに向けて言った。
「はい!」
さおりも微笑んで答えた。その顔にもう迷いはない。
「行くぞ。」
差し出されたダグの大きな手をさおりはぎゅっと握りしめた。ダグもそれに答えるかのように握る手に力を込めた。(さおりの手がこわれない程度に)

 、、、、、出航(旅立ち)!





 「なんとかうまくいったようね。」
ここは、Aポートカフェテラス。リンダとアランそしてゴードンがポートの見える窓際にいる。
「ああ、全く世話のやける2人だせ。」
ゴードンも嬉しそうに微笑んでいる。
「全くだ。2人共気を揉ませてくれて、、。ようやく肩の荷が下りたような気がする。さてと、、、俺たちも帰るとするか。」
微笑みながらアランがリンダに言った。
「ええ。」
にこやかに答えるリンダの肩を抱き、アランはカフェテラスをあとにした。
1人残るゴードン。
「なんだ?俺1人貧乏くじか?、、、まあいいや。アルゴにでも行って一眠りするか。」
ゴードンは、舌打ちすると歩き始めた。もちろんアルゴのエンジンルーム行きに決まっている。

                ・・・・アルゴのクルーに幸いあれ!・・・・・

   


実は、一旦ここで『完』としたのですが
・・・・・勢いにのって書いてしまい、
しかも書き終わったら恋愛物になっていたという・・・。(爆


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