外伝(1) 思いがけない告白

 


 

  ステーションR23、Aポートカフェテラス。人のざわめきが心地よい。たわいもない話、笑い声、子供たちのはしゃぐ声。今までは人混みの中にいるのは好きじゃなかった。それがここ半年ばかり、宇宙空間と戦闘ばかりだったので何故だかとっても懐かしく聞こえる。ああ、帰って来たんだ、という実感がわく。

ユリアから戻って2週間がたった。ここはアルゴの母港でもあり、OSSの本拠地でもある。ステーションの半分はOSSの本部や養成所、研究所等、いろんな施設があり、もう半分は居住区である。その居住区の住民の殆どはOSSと関係している。
帰港してからというもの、目まぐるしい忙しさだった。帰途データの整理はほとんどやり終わったというものの、お偉方や軍への報告とか、各有力団体の歓迎レセプションに出席だとか、あちこち引っ張り出されて1人でゆっくりなんて全くなかった。毎日毎日OSSの宿舎に戻るとバタンキュウ、自分が自分でないような、何してたか分からない状態だった。

多分それは他のクルーも一緒なんだと思う。特にダグなんかうんざりしてた様だった。
キャプテンは結構楽しんでたみたいだけど。えっ、どうしてって?つまり、レセプションっていうのは結構女性も多いっていう事。分かったでしょ!
リンダも「あれはほとんど病気だから治らない。」って諦めてたわ。
ゴードンも結構もてるんだけど、「ああ」とか「そうだね」くらいしか言わないものだから、そのうち誰も相手をしなくなっちゃって。その方が気楽そうだったけど。やっぱり彼と話をするには、エンジニアの知識でもないと駄目みたい。そっち方面の話でもしない限り、絶対、話しにはのってはこないわ。これも病気の一種かしら。

とにかくそんな大騒ぎも終わり、クルー全員、1ヵ月の特別休暇をもらってそれぞれ思い思いの事をするみたい。ダグはどうやらタロス星へ行くみたいだ。そう、恋人の眠る所。「休暇はいつもそうなんだ。」とゴードンは言ってからハッとしたようにあわてて口をつむったけど。(ははは、そんなに気にしなくってもいいのに。私には関係ないのに、ネッ。)タロス星のあの凶暴なオルタンも今では完全に家畜化されてて安全なコロニーの一つとなっている。加えて気候も温暖で住みやすいので結構移住者が多いみたいだ。

私はっていうと、ここからでる最終便でアリタスラ星に帰ろうかと思っている。アリタスラは星一つ丸ごとが大学で、もちろん科学アカデミーもそこにある。一般に宇宙大学と呼ばれていてそこに入るのは至難の技だ。私はOSSの正規の調査員ではないのでおそらく、もうここへは戻って来ないと思う。アカデミーに戻れば手に入れた山ほどの新データの分析や、学会への報告でまた忙しくなるだろうし、助教授のポストを用意しておくからなんて事も、出発前に恩師であり宇宙生物学の教授であるラカルト博士が言ってた。私は研究ができればポストなんてどうでもいいけど。でも調査旅行は魅力的だ!
またいつか機会があったら是非行きたいと思っている。今度の調査で宇宙には無限の可
能性があるって身を持って感じたから。
OSSはバーナードの復興にも手を貸すだろう、あの人達にもまた会ってみたいし、うん!いつか絶対行こう!

 気がつくとカフェテラスにはチラホラとしか客がいなくなっていた。従業員も人からアンドロイドに代わっている。もうそろそろ最終便が入港してくるだろう。30分後に出発だ。ここともアルゴともお別れ。ここは一般ポート、アルゴは反対側のOSS専用のポートに繋がれているのでここからではその雄姿を見ることはできない。私は急にアルゴが見たくなり、反対側のポートへ向かった。

 こっちのポートにもカフェテラスがある。でも一般と違って頻繁に便が入るわけではない。それに時間ももう遅い。シーンとして私の歩く音だけが辺りに響いていた。もちろんOSSのメンバーとしてのIDはもうないからゲートまでは行けない。無人のカフェテラスで窓越しにじっとアルゴを見ていた。
「そう、ここだったわ、最初にダグと会ったのは・・・。」
何故だかすごく懐かしく、
そして遠い昔のような気がした。
「あの時もこうしてアルゴを見てたんだっけ。」

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 「あれがOSSの誇る最新鋭宇宙航行艦『アルゴ号』なのね。」
私はポートカフェテリアの窓から私が乗ることになるだろう船を期待と不安で胸を一杯にし、じっと見つめていた。まだ他のクルーにも会っていない。どんな人達なんだろう。上手くやっていけるかしら?みんな今まで何度も調査に出かけていて実績もあり有能な人ばかりだって聞いてるけど。確か、私のほか4人いて1人は女の人だった。ま、今から行くOSS本部で会えるだろうけど。
それはそれとして、、、アルゴ号か、、、うーん、これは趣味の世界!今までの実用性ばっかり重視した船とはひと味もふた味も違う。あれに乗れるなんて夢みたい!緊張していた顔が知らず知らず緩んできていたようだ。

「おじょうちゃん、こんな所で何してるんだ?」
後ろからいきなり声をかけられてはっとして振り向いた。2m以上あるかしらと思うような大男が立っていた。背にあるのはバズーカ砲?がっしりした身体つき、浅黒い肌、鋭い目、太い声。いかにも戦闘員といった風貌。
「・・・・。」
私は足がすくんでしまい声も出なかった。
「ここはOSS専用のポートなんだぜ。おじょうちゃんのような子供が来るとこじゃない。一般は向こうのAポートだ。」
「あ、あの、、、私、、、あの、、、」
「ん?なんだ?なんだったら俺が連れて行ってやろうか?」
彼は手を差し出してきた。ひとひねりで私など、殺せてしまいそうな大きくてごつい手を。
「ヒェー!パパ助けてェ!」
私は心の中でそう叫ぶと窓にピッタリくっついてしまっていた。
「あーはっはっは!」
私の恰好がよほどおかしかったんだろう、その人は延ばしてきた手を引っ込めるとポート中に聞こえるかと思うくらい大声で笑った。
「はっはっは!おじょうちゃん、俺があんたを食ってしまうとでも思ったのかい?」
声もでない私はブンブン首を振った。
「まあ、いい、早く帰っておしっこでもして寝るんだナ。はっはっはっ!」
そう言ってくるっと向きを変えるとカフェテリアを出ていった。

私は怖かったのに加えて最後の台詞で頭にきたのとで暫く身動きもできなかった。
「な、な、な、なにーー、あれ?」
ようやく窓から離れ、声もでるようになった私はそうつぶやいていた。足がまだ震えている。なんだったんだ、今の怪物は?!と出て行った所をじっと見ていた。少しずつ落ち着いてきて私は今更のように恥ずかしくなった。
幸い、ここがOSS専用で、誰もいなかったので恥をさらさずにすんだけど、もし、見てた人がいたら、面白かっただろうな。あれが蛇に睨まれた蛙っていうんだわ。ああ、かっこ悪い!くやしいっ!何か1つ言ってやれば良かったのに、だめだなあ。

「ふー。」
私は大きな溜め息をついた。とそのとき、ポン!と誰かが私の肩を軽く叩いた。
私は、ビクッ!として振り向いた。
「ああ、ごめん、おどかしちゃったかな?」
やさしそうな笑顔。ふんわりと波うっている金髪、青い目、さっきの人とは大違い。
「あっ、い、いえ。」
「君、もしかしてアルゴに乗るっていう科学者?」
言い方もソフトでいかにもやさしそうな感じ。
「ええ、そうですけど、あなたは?」
「立ち話もなんだから、どお、お茶でも?」
そう言いながら肩に手を回してきた。
「あ、あの私、急いでますから。」
私は彼の手を振りほどくとあわてて通路へ飛び出した。
なんという日なんだろう。せっかくのアルゴとの対面もぶち壊しじゃない!最初が怪物
で次が軽薄そうなお兄さん。怪物もだけれどああいうプレイボーイ風のお調子者も大っ
嫌い!いかにも自分がもてるんだぞって感じで。自意識過剰なのよ!
もう最悪!ステーションに着くなりこんなんじゃ先が思いやられるわ。ぶつぶつ怒りながら私はOSS本部へと向かった。

 「やあ、さおり、久し振りだね。暫く見ないうちに美人になったな。こりゃ科学アカデミーでも男たちがほっとかなかっただろ?」
5年ぶりに会うOSSの理事長であり、私の父の親友であるコンラッド氏が握手をしながら言った。
「もう、お世辞がうまいんだから、おじさまは。でも、ありがとう。」
「ははは、私はお世辞は言わない主義なんだがね。ところでさおり、君は、本当にこの調査に同行するつもりなのかい?」
少し心配そうに聞いてきた。
「はい、向こうで戦闘訓練も受けて来ましたし、なんといっても未確認星域です。宇宙生命学者としては、こんないいチャンスを逃す手はありません。」
私はきっぱりと言い切った。
「アカデミーが君を推してきた時もまさかと思ったんだが、、、その負けん気の強さは宮原ゆずりだな。」
もちろん宮原っていうのは私のパパのこと。
「いまさら言っても仕方無いだろう。ミーティングルームにアルゴのメンバーが集まっているはずだ。来たまえ。紹介しておこう。」
「はい。」
私はコンラッド理事の後について行った。

−シューン−
ミーティングルームのドアが開く。
「遅くなってすまなかった。」
コンラッド理事が先に入っていき、その後についてドキドキしながら入った。
そこにいたのは、、、、ついさっきカフェテリアで会ったあの『怪物』と『軽薄なお兄さん』だった!
そうとは知らない理事は私を紹介しだした。
「こちらが科学アカデミーから派遣されてきたさおり・宮原だ。こう見えても宇宙生物学や宇宙考古学等においては彼女の右に出るものはいない。故宮原悟博士のおじょうさんでもある。ま、とにかくよろしくたのむ。さおり、右からキャプテンのアラン・カート、サブ・キャップのリンダ・A・ウォーレス、エンジニアのゴードン・川島、そして戦闘員のダグラス・マッコーラムだ。全員OSSの誇る優秀なメンバーだ。じゃあ、さおり、私はこれから会議があるから行かなくてはならないが、何かあったらリンダに言ってくれ。リンダ、たのむぞ。」
「はい、わかりました。」
リンダが答えると理事は出て行ってしまった。
「俺は先に行ってるぞ。」
理事が出ていくとすぐダグラスはみんなに言うと私を全く無視して出て行った。
「気にしなくていいわよ、さおり。ダグはいつも無愛想だけど悪い人じゃないのよ。」
私が怖がっているのが分かったのか、リンダがやさしく笑いながらそう言った。
「は、はい、よろしくお願いします。」
私はリンダと握手をした。
「分からないことや困ったことがあったら私に遠慮なく言ってね。」
「はい、ありがとうございます。」
「よろしく、さおり。」
キャプテンも手を差し出してきた。一瞬迷ったけどしないわけにはいかないので握手をした。
「こちらこそよろしくお願いします、キャプテン。」
「アランでいいよ。」
言いながら手に力を加えてきた。放そうと思っても放してくれない。あーん、どうしよう、と思っていたらゴードンが「よろしくな。」と言って手を差し出してくれたので、キャプテンは渋々私の手を放した。
「こちらこそ。」
私はその助け船にほっとしながらゴードンと握手をした。

でも本当に前途多難。まともな人はリンダとゴードンだけみたい。(あーあ、お先真っ暗。これでこの調査大丈夫なんだろうか。心配になってきちゃった。特にあのダグラス、まさにゴジラって感じ。えっ、顔?んー、顔はそんなに悪くないんだけど、雰囲気が、、、ネッ!敵などが現れれば頼りになるかもしれないけど、あんまり関わりたくないわ。それとキャプテンも。あれでキャプテンがつとまるのかしら。どっちにしろ、触らぬ神にたたりなしだ、なるべくリンダ達と一緒にいることにしよう。)と私は自分に言い聞かせた。

「さおり、聞いてる?」
いけない!リンダの声だ。(もう、さおりったらよそごと考えてちゃだめじゃない!)
「すみません、ちょっと・・・」
「しっかりしてね。アルゴの一員としての自覚を持ってちょうだい。宇宙にでれば失敗は許されないのよ。」
溜め息をついてからリンダはそう言った。
「いきなりからそんなにきついことを言わなくても・・・。」
キャプテンが口をはさんだ。
「いいえ、私が悪かったんです。気をつけます。すみませんでした。」
「いいのよ。私もちょっと言い過ぎたわ。宿舎へ行ってから話すわ。行きましょう。」
ゴードンが頑張れよとでも言うようににこっと私に笑いかけるとして先に出ていった。
私はキャプテンが私に何か言おうとするのを無視して二人の後を追った。

 まだアルゴは最終チェックをしていて乗船できない。2、3日は宿舎泊まりだ。リンダとは2時間程話しただろうか。最後に私にOSSのIDカードを渡すと出て行った。
私はどっと疲れが出てそのまま寝てしまった。

 次の日、私はアルゴを見にポートへ行った。IDがあるから入れるはずだ。
わー、すごい!最終チェックもほとんど終わっているみたい。もうすぐこれに乗って調査に出れるんだ。
そう思うとはやる気持ちを抑えられなかった。
「来ていたのか、さおり。」
振り向くとゴードンがいた。
「ええ、じっとしてられなかったものですから。」
「そうだろうな、俺もだ。エンジンルーム見に行かないか?」
「はい。」
どっちかと言うとブリッジに行きたかったんだけど、黙ってゴードンについて行った。もうそこで彼の話すこと、話すこと。こんなにおしゃべりだったっけ、と思ったほどだ。よほど気に入っているんだわ、アルゴが。とてもうれしそうに話してくれた。私も専門は違ってても一応科学者のはしくれ、なんとか彼の話についていけた。やさしい兄貴という感じで雰囲気がちょっとパパに似てるような気がした。

どのくらい話をしていただろう、「俺はもう少しここにいるから。」と言うゴードンをおいて私はブリッジを覗いてみた。
メインスクリーンには宇宙が写っている。両サイドのスクリーンはそれぞれ船の状態を表している。これらを見るだけでアルゴの状態は一見して分かるようになっている。
ドアから入ってすぐの中央、少し大きめなシートがある。これはキャプテンのシート。
で、その少し斜め後ろ、左側、ここが私ので反対側のが例のダグラスのだ。
そしてキャプテンのシートの前、そこには操縦席があり、左側は確かアルゴ専用のアンドロイド、『アル』の、右側はゴードンのシート。その右側の少し前、リンダのシートがある。
私の前にもシートが1つあるけど別に誰とは決まってないみたい。
私のデスクにはコンピュータがある。もちろんアルゴのメインコンピュータに繋がっている。私は勝手に彼を『ガイ』と名付けた。(んー、なかなか相性も良さそう。とっても使いやすい。)私はあちこち見て回っていた。

「コンニチハ、サオリ。」
後ろから声がした。アンドロイドのアルだ。
「こんにちは、アル、、でしょう?」
人型、全身が淡いブルーメタリック。声から判断して男性かな?
「ハイソウデス、ヨロシク。」
「こちらこそ宜しくね。」
そう言い握手をした。アルとはとても気が合った。私は暫く彼と話してからポートへ戻った。

 カフェテリアの窓際のテーブルにつき、私はレモンティーを飲みながらアルゴを見ていた。うーん、私もゴードンみたいにアルゴに首っ丈になりそう。早く乗って出港したいなあ。
と、突然、後ろから太い声がした、
「おじょうちゃん、君の乗る船は向こうのポートだよ。」
振り向くとやっぱりまたダグ・ゴジラ。でも前の時みたいにはもう驚かないぞ。
「私は科学アカデミーから派遣されてきたんです。私の乗る船はアルゴです。」
ときっぱりと言い返した。
「いいか、おじょうちゃん、考え直すなら今のうちだ。遊びに行くんじゃないんだ。帰って来れないかもしれないんだぜ。まあ、アカデミーで尻尾を振ってついてくる男どもと遊んでた方がいいぞ。」
私の頭のヒューズがぶっ飛んだ!!!
「そ、そんな事とっくに覚悟してます!それにアカデミーはそんなとこじゃありません!」
思いっきり怒った言い方をしたと思うのだけれど、ダグラスは私の言うことなんか少しも聞いていないようだった!
「宮原博士のおじょうさんだか何だか知らないが、身のほど知らずもいいとこだ。一度乗ったら帰りたくっても帰れないんだぜ。みんなの足を引っ張らないうちに帰んな、、お・じょ・う・ちゃん!」馬鹿にしたようにそう言うとさっさとゲートの方へ歩いて行ってしまった。言いたい文句が山ほどあったのに!

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 Bポート、ゲート前、ダグラス・マッコーラムはタロス経由、地球行きの船に乗るため胸ポケットから搭乗券と自分のIDカードを出そうとしていた。ゲート横のチェッカーにそれらを差し込めばゲートインでき、船に乗ることができる。
「ダグ!」と後ろからゴードンの声がした。彼が振り向くとゴードンとアランがそこにいた。
「どうしたんだ?珍しいこともあるもんだ。見送ってくれるのか?こりゃあ、宇宙嵐が来るな。」
「馬鹿言え!お前なんか見送ってもしょうがないだろ!今、さおりを見送ろうと思ってAポートへ行ったんだ。だが彼女の姿がみえない。どうしたんだろうと思っているところへ、アルからさおりがアルゴのポートにいるから、何かあったのかって言ってきたんだ。」
ゴードンが腕の通信機を指しながら笑って言った。
「さおりも今日発つんだったのか?」
少し驚いたようにダグが聞いた。
「あれ?お前には連絡がなかったのか?」
ああ、とでも言うようにダグがうなずく。
ゴードンが続ける、
「ああ、暫くゆっくりする、なんて言ってたが、ちょっと前、宿舎に帰ったら今日の最終便で帰る、なんてメッセージが入ってたんだ。それで、ちょうど帰ってきたアランと慌てて来たってわけだ。多分、彼女のことだから、アルゴでも見てて遅れたんじゃないかなと思うんだが。」
「それと俺とどう関係があるんだ?」
訝しげにいうダグにゴードンは1枚の搭乗券を差し出た、
「持ってけよ。」
ダグは理解しかねて手を出さずにいる。ゴードンは溜め息をついた。
「意地を張るのもいいかげんにしろ!もう分かっているんだろ?ここでさおりを捕まえておかなかったら一生後悔するぜ。アリタスラへ帰ればアカデミーは多分もうさおりを出さないだろう。あんな頭の固いじーさん達の中に置いておくつもりか?」
ダグは黙ってつったっている。
「言うのが照れ臭いってんならこいつを黙って差し出すといい。もっともさおりはこっち方面に関しちゃ意外と鈍いから分からないかもしれないな・・・。」
少し笑いながらゴードンがダグの目の前に券をつきだした。
「ダグがいやだってんなら俺がさおりを口説こうかな。感傷に浸ってる女の子は落としやす・・」
そこまでアランが言った時ダグの右腕が肩に伸びて、そしてもう片方の拳がアランの鳩尾に一発入る。
「ウグッ!」
「長い付き合いだが、お前たちがこんなにお節介だったとは知らなかったぜ。仕方がない、ありがたく受け取ってやるぜ。」
そう言うとゴードンからピッと券を取りダグは出口へと歩いていった。
「全く、図体ばっかり大きくなりゃがって、ィテテテ、あのやろう加減てもんを知らないな。」
アランは鳩尾を押さえながらダグの方を見た。
「全くだ。世話のやけるやろうだぜ。」
ゴードンもダグの方を見ながら呆れた顔をしている。
少したって入れ代わりにリンダがポートに入ってくる。
「おい、お前にもお迎えが来たぜ、アラン。」
「はん?」
振り向くアラン。リンダが走ってくる。
「ああ、アラン、ここにいたの。さおりを見送りに来たんだけどもう船は出ちゃってて間に合わなかったわ。さおりもみずくさいんだから。昼間本部で会った時言えばいいのに、宿舎に帰ったらメッセージが入ってたのよ。」
「ああ、俺達にもだ。」
ようやく痛みがなくなってきたアランがリンダを見て答えた。
「それで、ダグはどうしたの?確かダグも、今日だったわよね。もう乗船してしまったの?」
「いや、お迎えに、、ナッ!」
アランは微笑みながらウィンクをした。ゴードンもああというように微笑んだ。
「誰の?」
「さおり・の・・・。」



 「文句が山ほどあったのに」・・か・・、あれってダグなりに心配して言ってくれたんのよね。ふと時計を見るとあれから30分以上もたっている。いけないっ!急いで荷物をかかえると私はAポートへ走っていった。
「あ−!出ちゃったー!」
船はポートを離れ宇宙へと向かっていた。
「あーん、もう!さおりのドジ!!」
「おじょうちゃん、君の乗る船は向こうのポートだぜ。」
「えっ?」
意外な人の声がして振り向いた。そこにいたのはダグだった。
制服かパワード・スーツ姿しか見てない私にダグのジーンズとシャツ姿は新鮮に思え、ダグのラフな恰好もなかなかいけると思ってしまった。でもそんな事を思ったなんて知られるわけにはいかない、私はわざとぶっきらぼうに言った。
「ダグ、どうしてこんな所にいるの?」
そう、確かダグはタロス星に行くはずだ。恋人の眠っている星へ。
ダグは少し笑いながら言った、
「ドジなおじょうちゃんの事だからひょっとして乗り遅れたんじゃあないかな、と思ったのさ。」
「ダグッ!」
私はキッと彼を睨みつけた。
「はっはっは。悪い悪い、さおり、そう怒るな!」
「だって!それに何故向こうのポートのわけ?私はアリタスラに帰るのよ。」
「俺の乗る船が向こうのBポートからもうすぐ出港するんだ。」
「だから何なの?」
どうもダグと話すと口調がきつくなっちゃっていけない。
「つまり・・・」
そう言ったままダグは黙って私を見てる。気のせいかダグは少し照れているみたい。もうダグらしくない、何が言いたいんだろ。
「つまり・・・」
ようやく腹を決めたかのように咳払いをするとダグは言った。
「切符は2枚あるんだ・・・。」
   


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