航海日誌(7) もしかしてあたしって・・・?

 


 

  巨大戦闘惑星「リゴン」・・・・・。メインスクリーンに写っているのは今まで見たこともないような巨大な惑星だった。周りには攻撃衛星もあり、識別信号とパスワードを入手してなかったらひとたまりもなかっただろう。

 「つまりこの惑星の中心地にある『動力源』を破壊すればいいって訳だな。」
ゴードンが、じっとリゴンを睨みながら独り言のようにつぶやいた。
「そのユリアにはいわゆるロボット3原則というのはなかったのかしら?」
リンダもじっと見ている。
「ロボット3原則?」
他の人と同じようにじっとリゴンを見ていたダグが口を開いた。
「第1条『ロボットは人間に危害を加えてはならない、またその危険を看過することによって人間に危害を及ぼしてはならない。』、第2条『ロボットは人間によって与えられた命令に服従しなくてはならない。但し、与えられた命令が第1条に反する場合はこの限りではない。』、第3条『ロボットは前に上げた第1条及び第2条に反するおそれのない限り自己を守らねばならない』これがアシモフの『ロボット3原則』よ。」
私が答えた。
「そんなものもあったナ。だが、人間の幸福の為に人間を支配するって事も考えられるぜ。確か、古典SFにもあった。完全なストッパーにはならないんじゃないか?ロボットが人間の為にそうするべきだと判断してしまった場合、だな。」
ダグはリゴンから目を離し私の方を向いた。
「だからあんまり頼り過ぎるのも問題なんだ。彼らがそう判断すればあり得る事だ。」
ゴードンもダグの意見に賛成のようだ。
「ということは、ガイや、アルもその可能性があるって事だな。」
ダグは彼らを信じ切っている私に問い掛けるように見ている。
「でもそれは人間の方に原因があって、やむを得ずそういう行動をとるんじゃないんですか?それとも、誰かが故意にそういう風にプログラムした、とか。私達はそんな事はないわよね、アル。」
私は操縦席に座っているアンドロイドのアルに言った。
「ソウデス。ワタシトガイニ カギッテ ソノヨウナ コトハ アリエマセン。」
「使う方の人間に原因・・・か。たぶん、ユリア人はそこのところをはき違えたんだろう。過信しすぎたって事もあり得る。」
「そうね、アラン。私達はユリア人の二の舞をしないようにしなくては。」
いつのまにかリンダやアランもスクリーンから目を離しこちらを見ている。
「まっ、とにかく、その前にこの大仕事を片付けなくっちゃな。」ダグのその一言で、
クルー全員、無言で目の前の戦闘惑星「リゴン」を見つめ直していた。

−ピピピピピ!−
探査船がデータを送ってきた。私は素早くデータに目を通す。
「キャプテン、リゴンも地下都市形態のようです。しかし妨害電波のせいで何も分かりません。降下後、艦との通信及び転送の類は無理かと思われます。降下可能場所は中心にあるただ1つの宙港だけです。」
「となると、今までのようにビーム・アップは無理ということだな・・・・。」
相当な困難が予想される。今までユリアで武器をもらいここまで来た人達が帰って来なかったのもうなずける。ビーム・アップができないということは、最悪の場合、それは 『死』を意味する。
「おもしろい。」
ダグが独り言のように言った。
(『おもしろい』ですってぇー?!どういう感覚なのかしら、私には分からないわ!)私は憤慨した。
「とにかく、行くしかないんだ。、、、全員上陸準備!30分後シャトルに集合!」
キャプテンの意を決したような命令で私達はブリッジを出、上陸準備にかかった。

 私達は今、リゴンの宙港(スペース・ポート)にいる。誰もいない。ここまでは例の識別信号とパスワードで難無く入りこめた。
−キュキュキュッ!−
キャプテンが通信機を、ゴードンが探知機を試してみた。
「やはり、だめだ...探知機はどうだ、ゴードン?」
「だめだ、アラン、手探りで行くしかないな。」
「なんとかなるさ!さあ、行こうぜ!」
ダグがみんなの不安を吹き消すかのように少しおどけるように言った。

 ドアが7つ。中心部へのドアはどれなのか。とにかく片っ端から調べていくしか方法はない。まず、シャトルから右のドアから調査を始めた。
−プシュー−
ドアが開く。
!!!ロボット兵の大群が!
でも誰も慌てない。何故って言うと、ロボット兵はドアを1兵づつしか通れない。こちらは4人。根気が要ったけど、1兵づつ倒していった。
「おいおい、まだいるのか?」
いいかげん嫌になってきたダグは少し呆れ顔になっていた。
「もうそろそろ最後だろ。」
キャプテンも慎重だ。決して急いで部屋には入らない。最後の1兵を倒してから内部の調査に移った。1部屋また1部屋と同じようにロボット兵と戦いながら調査を進めていった。ほとんどの部屋にユリジストがあり、今後の事を考え、多少荷物にはなったが、持って行くことにした。武器もたまには手に入った。それも、とびっきり強力なのが、と言ってもユリアでもらったアンチリゴン・レーザー程ではないけど。私達が今持っている武器よりかなり強力だ。

「エレベーターだ!」
キャプテンが叫んだ。いくつ目の部屋だったかとにかく地下へのエレベーターを見つけた。私達はロボット兵の執拗な追跡をかわし、エレベーターに駆け込んだ。

地下1階。エレベーターで下りると広いホールのようなところに出た。
1歩進む。と、「ガー」と何処かで音がした。と思った途端、そのホールの両サイドの小部屋からぞろぞろとロボット兵が出てきた。どうやら兵舎のドアのスイッチを、踏んでしまったらしい。
「走れ!」と言うキャプテンの声と同時にとにかく私達は真っ直ぐ奥に走った。無茶だと思ったが、そうするしかない。
「通路だ!急げ!」囲まれてはひとたまりもない。行く手を阻もうとするロボット兵を蹴散らしてひたすら走り続けた。

 通路の向こう。そこも同じだった。次々出てくるロボット兵。
「きりがないぞ!どっちに行ったらいいんだ?」ダグも焦ってきた。キャプテンもゴードンも必死だ。一瞬の油断が命取りになる。私も、もうこうなるとさっきの冷静さは何処へやら。もう、無我夢中!攻撃を避け、敵を撃つ。そして隙を見て道を探しながら走る。
「あん、もうこれじゃ命がいくつあっても足りそうも無いわ!」
レーザーを持つ手もだんだん重くなる。
「さおり、こっちだ!」
ダグの声にはっとし、私はダグの方を見た。通路への入口の手前にいる。キャプテンとゴードンも向かっている。
「急げ!援護する!」
私は走った。できる限り速く!
「もう少しだ!」と思った時、ダグの背後から敵兵が・・・!ダグは気付いていない!
「ダグっ!危ないっ!!」
私はあらん限りの力を振り絞ってダグに突進した!
−ドスン!−
ダグを突き飛ばした。
びぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!
「!」
「さおりーっ!」
ロボットを倒したダグが駆け寄ってくる。
「ダグ、良かった・・・。」
「何で俺なんか助けるんだっ!しっかりしろっ!死んだらしょうちしないぞっ!」
私を抱き上げてくれる。
「ダグの胸って・・・あったかい・・、」
私はクスッと笑った、、
「だめだな、私って。これで2回目・・、」
「さおりっ!」


キャプテンとゴードンがさおりに駆け寄る。
「ダグ、さおりは?」
首を振るだけのダグ。
「俺は、、俺は、、、」
声にもならず、震える手でしっかりとさおりを抱き締め動こうとしない。
「いい加減にしろっ!この間にも奴らはこっちに向かってきているんだぞ!とにかくそ
この通路へ!」
ゴードンもたしなめる。
「ダグ!」
アランがダグの襟元をつかむと言った。
「隙を見てシャトルまで戻るんだ。さおりを助けるんだ!」
「そうだ、さおりを、さおりを1人だけで逝かせはしない。」
そう言うと、ダグは抱いていたさおりをゴードンに渡した。
「ダグ?」
急にさおりを手渡されたゴードンはけげんそうにダグを見た。
「ウォー!!」
アンチプラトン・レーザーを構え直すと、ダグは通路と反対のロボット群の中へ突進していった。
「無茶だ、ダグ!」
叫ぶアラン。
さおりを通路の隅に横たえながらゴードンが言った、
「だめだ。聞こえてない・・・行こうぜ、アラン。」
目と目を合わせると2人共ダグのあとに続いた。

 どのくらい戦ったのか。気がつくと周りはロボットの残骸の山また山。ようやく正気
に戻ったダグはさおりを抱えると来た道を引き返し始めた。アランもゴードンも何も言
わない。
「くそー、まただ。」
エレベーターで上がっていくと、またしてもロボット群が近づいてきた。
「強硬突破だ!ダグ、真っ直ぐ行んだ!奴らは俺たちに任せておけ!!」
アランが叫んだ。
「よし、行くぞ!」
アランの声で力の限り走り始める。さおりを抱く腕の感覚がなくなってくる。
「放しはしない。たとえ腕がどうなろうとも。」
心の中でそう叫ぶとダグは走った。ただひたすらに。

 アルゴのブリッジ、アランとゴードンそしてアルがいる。
−シューン−
リンダが入ってきた。アランは待ちかねたように聞いた。
「リンダ、さおりの様子は?」
「ええ、一応治療は済みました。あとはさおりの精神力だけです。」
「ダグはどうしてる?」
「食事も取らないでさおりの側についています。」
「そうか、、確かαケンタウリでさおりが襲われた時もいつもの冷静さがなかったが、何かあるのか?。」
「ソレガ コイトイウモノデハ アリマセンカ?」
急にアルが口をはさんだ。
「おいおい!言ってる意味が分かってんのか?」
ゴードンが驚いて聞いた。
「イイエ、 デモ ワタシノ メモリバンクニハ ソウイッタモノダ トアリマス。」
「はん、なるほどね。しかし、それはそうとしてもあれは普通じゃないぞ。」
ゴードンが仕方無いか、というようにゆっくりと話し出した。
「実は、ダグには昔恋人がいて、、タロス星で彼をかばってオルタンに殺されたんだ。しかも彼の目の前で。」
「タロス星のオルタン?あの凶暴な?」
リンダもびっくりしたように言った、
「あの星域は確か民間が開発したんだったわね。目先の利益ばかり気にして十分な調査もせず一般公開したんだったわ。」
「そうだ、それから以後、ルートの開発は、一切OSSでなければならないとされたんだ。」キャプテンも考え込むように言った。
ゴードンが続ける、
「その上、さおりはその人にうりふたつなんだ。ダグとしちゃたまらないだろ、二度もおいてきぼりをくわされるようで。」
「そう、それでなの。」
リンダも納得したようだ。
「ダイジョウブ。サオリハ ツヨイ。ゼッタイニ シニマセン。キガツキマス。」
「そうだな。大丈夫だな。死神もダグを怖がって連れて行きはしないだろう。バーナードの時も大丈夫だったからな。」
「死神なんてまた古いことを言うのね、ゴードン。でもその通りだと思うわ。」
リンダが笑いながら言った。
「ダグが怒ったら死神だって殺されるわよ。」
「すでに死んでるんじゃないか、死神って?」
キャプテンがおどけたように言う。
「あら・・そうだったかしら?」
「ハハハハハ!」
その笑いで少しだけ空気が和んだようだった。

 メディカルルーム。さおりのそばでダグがじっと座っている。
「ん?」
さおりが頭をほんの少し動かした。
「さおり!」
かすかに声がしたと思ったダグは思わず顔を覗き込んだ。
「空耳だったのか?」
とつぶやきながらそのまま見つめていた。



「うーん、、、きゃあっ!」
「『きゃあ』はないだろ、さおり。」
「あっ、ごめんなさい。だって目を開けたらいきなりダグの顔なんだもの、びっくりしちゃって。」
「・・・もう、いいのか?」
「はい、もう大丈夫です。ダグは?」
「俺は何ともない。」
適当な言葉が口にでてこない。暫くじっと見つめ合っていた。
ようやく言葉を見つけたようにダグが口を開いた、
「いいか、さおり、俺はあんな事じゃ死にゃあしない。俺をかばうなんて100年早いぜ!自分の身を守ることを考えてればいいんだ。分かったか?」
「・・・はい、ダグラス上官殿!」
私はわざとそう言うとクスッと笑った。ダグもほっとしたのか少し笑っている。
「じゃあ、みんなも心配してるだろうから俺は知らせてくる。」
ダグはベッドを離れるとメディカルルームを出ていった。
インターフォンならそこにあるのに。ダグの後ろ姿を見ていてなんだか胸がキュンとなった。
「ダグ・・・。」
私は暫くぼーっとしていた。
「今度はパパもママも来てくれなかったな。真っ暗だった事だけ覚えている。でも全然怖くなかった。なぜだかとっても暖かくって、安心していられた。あれは・・・ダグの・・・。」
そう考えてて私はふと気がついた。
「ああ、そうか、そうなんだ。・・・私、ダグの事、 『ダグ・ゴジラ』とか 『鬼』とか 『戦闘マシーン』とか言って嫌ってたけど、でもいつの間にか好きになっちゃってたんだ。あーあ!けっさくだわ!ダグは、ダグは、私と死んだ恋人を重ねて見ているだけなのに、、、。彼のやさしさは私のものじゃないわ。彼の心の中には今もそしていつもその人がいるんだわ。私じゃ・・・ない・・・。」
考えれば考えるほど悲しくなってきた。
「!もう、さおり!今はそんな事言ってる時じゃないでしょ!リゴンを破壊しなくちゃ何も始まらないんだ。」
そう、今は少しでも早く回復する事。それだけ!
「忘れよう、ダグのあったかさを。忘れなくっちゃ。そして任務遂行の事だけを考えなくては!」
私は無理やり自分にそう言い聞かせるとまた眠りについた。
   

 


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