航海日誌(6) 人工生命体の暴走

 


 

  第5惑星、地下4階、ようやくの思いで私達はシェルターに辿り着いた。が、ドアの横で暫く動けなかった。中には幽霊?のように無表情な人達がいた。
 「これは・・・。」
キャプテンも言葉が途切れてしまった。あまりにも無表情。彼らにとっては見たこともない侵入者である私達だ。なのに彼らは虚ろな目をしてただ座っているだけ。いや、何も見えてない、見ていないのだ。
「これが人類が最初にであった異文明の姿なのか。」
キャプテンも落胆の表情を隠せない。
「本当に地上の文明の痕跡を造った人達なのか。」
信じられないと言った表情のゴードンだった。何を聞いても応えてはくれない。ただ虚ろな目で空を見ている。

「だれか一人でもいい。話のできる人は・・・・・。」
私達は生ける屍のような人達の間を奥へと入って行った。と、奥から老人風の声がした。
「ちみちかちかちみにくち しらみちかちまちみち?」
「さおり、ことばが分かるか?」
「はい、キャプテン、今アルゴに送って解析している所です。」
私はシェルターのコンピュータからとったデータをアルゴに送った。
−ピピピピ!−
「OKです。同時通訳できます。それとここのデータはガイア303から採取したものと共通しています。」
「あなたがたは、どなたじゃな?外宇宙から来なすったのか?」
「はい。」
キャプテンが静かに言った。
すると老人は首を振った。
「悪いことは言わん。今すぐここを出なさい。」
「なぜですか?我々は『道(ルート)』の調査に来たのです。あなたがたが道を作ったのではないのですか?」
その長老と思われる老人はキャプテンの言っている事には耳も貸さずに話し続けた。
「やつらは外宇宙からやって来た。それというのも若いやつらが道を発見し、その欲求のおもむくまま出て行ったからじゃ。やつらは『道』を作り文明を見つけると滅ぼすのじゃ。帰りなさい。やつらに見つからないうちに。そして道へなど出ないことじゃ。」
「しかしそういう訳にはいかないんです。これが我々の任務なのです。」
「・・・・・・・・。」
老人はじっと考えていた。暫くしてゆっくりと立ち上がると奥の部屋に入って行った。
「これをお持ちなさるといい。」
奥の部屋から持ってきてくれたのは1枚のディスク。
「これには昔作った安全な航路図が入っておる。ここからならベアトリクス星系が良いじゃろう。」
「ありがとうございます。」
「聖なるユリアの光りがあなたがたを導きますように。」
老人は奥の部屋に戻って行った。
私達はまだいろいろ聞きたかった。でも老人は二度と出てこなかったし、他の人々は相変わらず座っているだけ
。 「よし!アルゴに帰還だ!」
ともかく次の目的地はできた。私達は一旦そこを離れることにした。


 私達は老人の示してくれた『ベアトリクス星系』へと向かった。そこには小要塞惑星があった。当然、全ての惑星は破壊の限りをし尽くされたあとだった。
その内の第5惑星の地下で識別信号とパスワードを入手していたので容易に要塞惑星へ潜入することができた。
しかし調査は困難極まりなかった。迷路の様な内部。戦闘要塞だけあってロボット兵の多さと強さに悩まされ、何度となく帰還し持ち帰ったデータや武器などを修理してからまた降下するという事の繰り返しだった。
そしてそこで入手したデータにより、彼らロボット生命体の恐れているものがたった1つあることが判明した。
それはこの星系から延びている道の先にある1つの惑星『ユリア』。
現状では彼らと『ユリア』と、どの様な関係があるのか不明だ。しかし彼らがユリアを要注意惑星としている事は確かなのだ。
バーナードの長老も『ユリア』なる言葉を発していた。それが何なのか確かめなくてはならない。それも早急に。いつ私達の連邦にもロボット兵が攻めてくるかもしれないからだ。


 惑星ユリア。そこは過去は地球と同じ様だったと推測される。しかし現在では全て氷で覆われている。たった1つ生き残っている地下都市。おそらくそこに答えはあるのだろう。私達は今度こそという思いで調査に降り立った。

 「キャプテン、また行き止まりです。」
何度目かの行き止まりで私は苛立ちを抑え切れず溜め息と共に報告した。ロボット兵も出てこない。ここにはもう何も無いのか。また振出しに戻ってしまったんだろうか。キャプテン達も焦り始めている。
「仕方がない、一旦アルゴに戻ろう。少し気分転換が必要だ。焦ってばかりいては見つけれる物も見つけれない。」
「ああ、そうだな。チェスでもやるか。」
ゴードンはもうその気になっているようだ。
チェスよりもエンジンルームで寝るんじゃない?と私は思ったのだけど。
「それとも将棋か?」
ダグが私の方を振り向いた。
「挟み将棋なんかおじょうちゃんには丁度いいと思うんだがな。」
な、な、何ですってぇー!
ここのところ私をからかう事も無かったから頭にくることもなかったけど。
チェスぐらいできますよ!アカデミーの研究室の中で私にかなう人はいなかったのを知らないな、ダグ・ゴジラ!
「おいおい、いい加減にさおりをからかうのは止めたらどうだ、ダグ?」
キャプテンが私の気持ちを察してかダグの肩をポンと叩きながら言った。
「それともさおりの気を引くためだったら逆効果だぞ。見ろ、さおりの顔、茹でダコみたいだ。後が怖いぞ。」
や、やだー。私そんな顔してるのかしら。それになんで私がダグ・ゴジラなんか!
「キャプテンっ!」
私は思わず怒鳴ってしまった。
「ははは、それだけ元気があればいいな。調査を続行するぞ!」
えっ?えっ?なあに?私、キャプテンにまでからかわれていたの?気分転換だっていうの?これが?!
「まあ、そう怒るなよ、さおり。君のおかげでみんな気分がさっぱりしたんだから。いらいらなんか忘れただろう。」
キャプテンは笑いながら言った。
そういえばそうだけど、でもやっぱり頭にくる。
「はは、あやまるよ、さおり。君は、もう立派なアルゴのメンバーさ。なくてはならない、な。」
ダグにあやまれるとこれ以上怒るに怒れない。
「もう、いいです。調査を続けましょう。」
まだにやにやしているみんなを少し睨んでしまった私だった。キャプテンたちはにやっと私を見てから私の肩をぽんと叩くと今来た道をまた戻りだした。

それから数分とたたないうちにゴードンが隠しぼたんを見つけていた。

「さおりの御陰だな。」
なんてゴードンは言いながらドアのスイッチをいれた。行き止まりと思えた通路の先の壁が開く。と、途端にロボット兵がまるで待っていたかのように現れた。
でも私ももう慌てるような事はない。難無く倒し先に進む。
その先はまたしても行き止まりばかりだった。でも、隠しドアが必ずどこかにあるはずだ。
私達は奥まで見えるような通路でも丹念に調べた。
下へ下りる階段は破壊されてしまったのか、それとも故意にしたのか、とにかく下の階に行くにはトラップにかかるしかなかったようだ。
トラップのドキューンという音がして、しまった!と思った瞬間別の部屋にいるのだった。おかげで私達はいったいどこにいるのか全く分からなくなっていた。
そのトラップによる移動の4回目、気が付くと広い部屋にいた。
その中央には何か丸い機械がある。ホログラフィ?私達は注意深く近づいていった。

 予想は当たっていた。近づいて行くと突然光りだし、長い髪の女の人の姿が映し出された。
「な、なんだ・・・・・?」
突然の事でさすがのダグも驚いたようだ。
「きれい。」
と私は思わず言ってしまった。身体全体がエメラルドブルー。顔ははっきりと見えないけど優しそうな雰囲気をかもし出していた。
「これが・・・ユリア人?」
キャプテンもその美しさに圧倒されているようだ。顔ははっきりしないのに微笑んでいるようにみえる。
その人はにっこり笑うと話だした。
「よくここまで来れましたね。私達はあなたたちに希望を持っても良いのでしょうか?」
「どういう事ですか?」
キャプテンが聞く。
「あなたたちが今まで戦ってきたのは、私達ユリア人が作成した人工生命体なのです。彼らは私達から独立し、自らの手で戦闘惑星をも造り、宇宙への好奇心のままに侵攻を繰り返していったのです。文明という文明を破壊しながら。私達はそれ以上過ちを繰り返さないよう、私達の文明を封印してしまいました。今思えばそれが間違いのもとだったようです。彼らを止めれなかったのは私達の罪です。」
私達は暫くどう答えたら良いか分からず黙ったままだった。
「そうです。あなた達は何としても彼らを止めなくてはならなかったのです。」
キャプテンの声が重々しく聞こえた。
「そのとおりです。」
ユリア人も悲しそうに答えた。
「しかしもう私達にその力はありません。私達は待っていたのです。彼らを止められる者の到着を。宇宙の未来を託せる者を。」
「それが我々だと?」
キャプテンの、いや、全員の顔はこわばっていた。
「・・・・それはちょっとヘビーだね。」
ダグもいつもの調子を無くしているようだ。
「宇宙の未来・・・・・か。」
それだけをようやくの思いで口にするとゴードンも押し黙ってしまった。もちろん私に言葉が見つかるはずはなく、ただ黙って彼女を見ていただけだった。
彼女もまた何も言わず、重苦しい空気が、部屋一杯に満ちているようだった。

暫く空を見つめるようにしていたキャプテンが改めて彼女を見つめるとゆっくりと言った。
「やるしかないな。」
「彼ら、リゴン人に対抗できるだけの武器をお渡ししましょう。隣の部屋にあります。どうぞお持ち下さい。ただもう1組しかありませんが。」
彼女が指し示した方向を見ると今までドアなど無かったと思われた所が開いた。
「対リゴン用レーザーとパワード・スーツ、それに生命維持装置です。ユリアの聖なる光があなた達の行く道を照らしますように。」
「ちょっと待ってくれ。」
ただでさえそうなのにより一層険しい顔をしたダグが彼女を見つめていた。
「『もう1組しか』って事は、俺たち以外にも、ここに辿り着い奴がいる、という訳か?」
ドアに目がいっていた私達もダグの言葉で彼女を見つめなおしていた。彼女もまたじっとダグを見つめている。
「・・・・・・。」
「そうです。」
ようやく口を開けたユリア人はどこか悲しそうだった。
「つまり奴らはリゴン人を阻止出来なかった、という事だな。あんた達の尻拭いに行って死んだんだ。」
そうダグに言われ、ふとその悲しそうな目を閉じた彼女は再びダグを見つめなおすと口を開いた。
「そう言われると何も申し上げることはありません。結果的にはそういう事になるでしょう。しかし、私達にはもう何も出来ないのです。こうして、お願いするしか、、、、、。」
「いい気なもんだな。そうやって言いたいことを言って待っているだけだろ?そして俺たちは保証のない戦いに出るって訳だ。」
「・・・・・・・・。」
「ダグ、もうよせ!お前らしくないぞ。」
キャプテンがダグをたしなめた。
「ああ・・・、分かってる・・・・やるしかないんだ。」
そう言うとダグは小部屋に入り武器と装備を運び出して来た。
「よし、いいな。帰還する!」
私達は今一度ユリア人と目を合わせるとアルゴへと帰還した。


 そうして私達は最終目的であろう、そのロボット生命体の本拠地、巨大戦闘惑星『リゴン』へと向かう事になった。
時、宇宙暦74.0807、私達がアルゴで調査に旅立ってから、3ヵ月が過ぎようとしていた。

 


Index Back Next