航海日誌(4) ひょっとして私、死ぬの?

 


 

 アルゴは「バーナード星系」に着いていた。ここは、アルゴのブリッジ。クルー全員がメインスクリーンいっぱいに写し出された星々を見ていた。人類未到達の星系。でも感慨にふけってばかりもいられない。ここへ来た目的を考えると、おそらく相当な困難が待ち受けているに違いない。墜落した無人探査船「ガイア303」から発信されていた信号は確かにこの星系に向かっていた。ガイアのメモリデータを書き換えれるということは、そうとう科学が発達しているはず。敵か味方か、はたまた人類なのか、それ以外の知的生命体なのか。私、宮原さおりは期待と不安でめいっぱい興奮しています。

−ピピッ!−
アルゴのメインコンピュータ『ガイ』に、各惑星に放たれた小型探査船がそのデータを送り始めてきた。さて私の出番。少しでも早くデータをまとめなければ。
他のクルーもそれを知ってか私の方に注目している。・・・。

 「データ集積の結果がでました。メインスクリーンに写し出します。」
私は興奮を抑え、なるべく冷静に務めて言った。
−ピッ!−
メインスクリーンに星系全体のマップ。
「この星系は恒星1つ、惑星7つで構成されている通常形の太陽系です。知的生命体が存在した痕跡が3つの惑星で認められます。しかし3つの惑星全てに戦争があったような破壊ぶりで、生命反応をキャッチすることはできません。第1惑星は水素ガスで表面がおおわれている為降下不可能。第2惑星と第6惑星は大気が高熱の為、又第4惑星は重力が強すぎてやはり降下不可能です。」
「では、残る第3、第5、第7惑星は降下可能というわけだな。」
「はい、キャプテン。現在それらの惑星のもう少し詳しいデータを集めているところです。」私は次々に送られてくるデータに目を通した。
−ピッ!ピー!ピピッ!ピピピピピ!−
これで以上ね。見落としは無し、と。
「分析結果がでました。まず第3惑星ですが、破壊された建造物が存在、地上ほぼ全面に渡って破壊されています。が、一部の地下道が残されています。又、動力が微かに残されているようです。従って、地下道へなら降下可能です。・・・次に第5惑星、第3惑星とほぼ同じ結果がでています。しかしここでは微弱ながら生命反応をもキャッチしました。」
「生命反応を?ということは人類か、もしくは別の生命体と対面できるわけね。」
メインスクリーンの前面に立っているリンダが私の方を振り向いた。
「はい、おそらく地下のシェルターかと思われます。最後に第7惑星です。ここも第5惑星と同じ結果がでています。加えて、エネルギー鉱石、つまりユリジストの鉱脈があるのか、その反応が非常に大きくでています。」
「では、生命反応があるのは第5と第7惑星か。どちらにしても転送可能な地下道に一旦降り、そこから調査するしかないな。」
この前のキャプテンとうって代わってすごーくシリアス!同一人物とは思えない!いかにも頼れるっていう感じ。
「さおり、一番近い惑星は?」
「あっ、はい!」
バカバカ!ぼやっとしてちゃダメだぞ!とまたしても自分を叱りつけデータを見た。
「第3惑星です。ワープ10で現コースを維持して約5時間かかります。あと第5と第7惑星は、ここからですとそれぞれ約10時間と推定されます。」
「生命反応が気になるが、みんなの意見は?」
キャプテンにしては珍しく聞いてきた。
「やはり、生命反応のある惑星の方を先に調査した方が良いのでは。」
リンダがスクリーンからみんなの方に向き直した。みんなも同感といった顔をしている。
「この調査はどうやら長引きそうな気がする。地下道もかなり深く続いているようだ。アルゴにも俺たちの生命維持装置にも充分なエネルギーが必要となりそうだ。俺としては、エネルギー鉱石の反応もある第7惑星を最初に調査したいんだが。」
とゴードンが言った。
「他に意見は?」
キャプテンがみんなを見渡す。反対意見はない。
「いいようだな。では第7惑星と決定する。」
「よし、各自持ち場に着け!」
私達は全員それぞれのシートについた。メインスクリーンをもとに戻す。

「アル、軌道修正!目標、第7惑星にセット!エンジン、フルパワー! スピード、ワープ10!」
「リョウカイ。キドウシュウセイ。モクヒョウ、ダイ7ワクセイ。エンジン フルパワー、・・・・ワープカウント、5、4、3、2、1、ワープ1、ワープ2、ワープ3、4、5、6、7、8、9、ワープ10!、フルスピード、デス。」
「エンジン異状なし。」
エンジンの様子を写しているサイドスクリーンを見ながらゴードンが言った。
そう、わざわざエンジンルームへ行かなくてもブリッジで様子は見れるわけ、なのにゴードンはいつもエンジンルームにいるんだから。今はまだここにいるけど、そのうち行くに決まってる。

「さおり、第7惑星に到着する正確な時間は?」
「はい、キャプテン、正確には9時間46分27秒です。」
「O.K、全員9時間30分後にブリッジに集合。以上、解散。」
「リンダ、ちょっと来てくれ。」
「はい。」
リンダとキャプテンがブリッジを出て行った。
たぶん調査の打合せか、武器のことだな。ゴードンもいつもの通りエンジンルーム行き。ダグ・ゴジラは、武器庫かトレーニングルームだろう。

うーん、第7惑星か、、、。それにしても星系全体が戦争のあとなんて、この星系内の戦争なのか、それとも星系外からやってきた侵略者かなんかに攻撃されたのか。地下の生命反応は、戦争から避難した人達なんだろうか。たぶんそうだと思う。そして救助を待ってる、とか。とにかくどっちが敵でどっちが味方か分からない。両方敵という場合も考えられる。キャプテンが慎重になるのも分かる。あと約10時間、私もシールドや生命維持装置の改良を急いだ方が良さそうだ。イヤやらなくては! なんとなく悪い予感がする。・・・


 第7惑星、そこはあまりにも無残な姿をさらしていた。地上の建造物はことごとく破壊され、不気味なまでの静けさが漂っている。全てが死の世界のように。ただ一部地下には何かが活動しているようだった。かすかな動力反応。今にも消えそうな生命反応。何かがいる、何かが、、、。

 「O.K、リンダ、転送してくれ。」
アルゴの転送ルーム、キャプテンのアランが上陸班全員転送装置に乗るのを確認してから言った。
「転送します!」
リンダがスイッチをいれる。
「Good luck!!」
−ヴィ、ヴィ、ヴィ、ヴィ、ーーーーーーーーーーーン−
2秒後、上陸班は第7惑星の地下道につながる一室にいた。そこは地上の静けさを受け継いでいた。
カツーン、カツーンと上陸班の足音だけが辺りに響いている。照明はあまり無く、ぼんやりと薄暗い部屋の様子が見えた。
−キュキュキュッ−
キャプテンが探知機を取り出し、調べ始めた。
「鉱石ユリジストの反応はずっと奥だ。おそらく採掘場でもあるのだろう。問題は生命反応だが、、、。」
生命反応はすごく弱々しい。
「とにかく調査を始めよう。のんびりしてはいられない事は確かだ。俺とダグが先に行く。ゴードンはさおりと後をついてきてくれ。あまり離れないように。」
「了解。」
ゴードンと同時に私は緊張して言った。
ドアのスイッチを押す。
−ウィーン−
ドアが開き薄暗い地下道が見える。しばらく行くと、道は二手に別れていた。
「まず、真っ直ぐに行ってみよう。」
と言うキャプテンに従って進む。ドアがある。何かいるかも知れない。全員銃に手を掛けドアを開ける。
−ウィーン−
どうやら何もいない。しかし一応中へ入って調べることにした。
「ユリジストだ。」
部屋の奥の方を調べていたゴードンが言った。それほど大きい結晶ではないが足しにはなる。鉱石をしまい、もう一方の道を進んだ。

「熱反応だ!!こっちに向かっている!」
キャプテンが叫んだ。私たちは、戦闘体制を取り前方を見守る。
−キュィーン、キュィーン−
現れたのは通路一杯の大きさの戦車の上に一つ目の頭を付けたようなロボットだった。それは、いきなり攻撃をしてきた。
もちろんこちらもすかさず応戦する。
「だめだ!このミサイルでは効果がないっ!」
キャプテンが叫ぶ。
「レーザーもほとんど効かない。」
ゴードンも叫ぶように言った。
「気にいらんがひとまず退却した方がよさそうだぜ、アラン!」
ダグが叫んだ。
言われる迄もなくキャプテンもそのつもりだったらしい。私も戦闘経験が余りないとはいえ、そのくらいは分かる。このまま続ければ、突破できるかもしれない。でも他のロボット兵が現れないという保証はどこにもない。いや、どちらかといえば出てきて当たり前だ。パワード・スーツを着て周りにシールドを張っているとはいっても100%衝撃が防げるわけではない。それに、シールドやミサイルも限度がある。シールドが切れればパワード・スーツの生命維持措置にも直接衝撃を受けるようになる。そうなればもうひとたまりもない。何よりももっと強力な武器が必要だ。

「さっきの部屋まで後退するぞ。」
キャプテンの命令で、私たちは応戦しながらすきをみて後退する。もう無我夢中だ。
よし!今だ!と私とゴードンは角を曲がりかけた。
−バシュッ!バシュッ!−
別のロボット兵がそこで待ち受けていた!避ける間もなくロボット兵の弾は私の生命維持装置に命中した!
「いけないっ!生命維持装置がっ!!」
−ガガガガガガガッ!−
「グッ!・・えっ?!また新手なの?!」
攻撃してきた方向を見た。なんだか蛸みたいで、頭は透明、その中に機械類が見える。へんなロボット・・・、あれ?私、おかしい、動けない、何やってるんだったっけ・・・。
「くそーっ!!」
ゴードンの声がした。
「さおりっ!」
ゴードンが私に何か言っている。キャプテンやダグも何か叫んでいる。
飛び交うレーザー光線やロケット砲や銃の音、みんなの声、なぜか遠くに聞こえる。・・・頭の中が真っ白だ。・・・だんだん意識が遠くなっていく・・・、そして闇がまるでベールがゆっくり下りるように少しずつ私を包み込んできていた・・・。
・・・ああ、そっか・・、わたし・・・、死ぬんだ・・・・・。

 


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