航海日誌(3) 自己嫌悪

 


 

  Hi!さおりです。只今、OSSの最新鋭艦「アルゴ」は、新ルートを使ってバーナード星系へ直進中です。クルーはと言うと、データ整理してる人もいれば、新兵器なんかの研究をしてる人もいるし、武器のチェックに忙しい人もいる。またある人はエンジンルームからちっとも出て来やしない。でもみんな1日中ふらふらしてるって訳じゃあ勿論ないわよ。個人個人の能力に合わせたトレーニングのカリキュラムがあって、こなさないとドクターリンダにお目玉をくらうんです。もっともみんな自分から進んでそれ以上トレーニングしてるけど。
で、私はっていうと、データ整理は一応済んでいるので、射撃訓練に没頭しています。コーチはもちろんあの『ダグ・ゴジラ』
もう!αケンタウリでの出来事やゴードンからの話なんかで見直したのも束の間。うー、あったまにきちゃう!!でも言い返せない所がまた悲しいっていうか、怒れてくるっていうか。とにかく、射撃の腕をあげなくっては!でもこれってなかなかうまくなんないのよネ。

「もうやめときな、おじょうちゃん、これ以上やっても上手くならないぜ!」
そのダグ・ゴジラの一言でわたしの頭のヒューズはぶっ飛んだ!
「いいかげんにその『おじょうちゃん』っていうのはやめにしてもらえません?私にはちゃんと『宮原さおり』っていう名前があるんですから!!」
「じゃ、さおりじょうちゃん、後はアランにでもみてもらいな。俺はこれ以上お子様のお守りは御免だぜ。」ダグは言い捨てて出ていってしまった!
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なんなのよお!あれは!人がせっかく足を引っ張ってもいけないと思って頭を下げて指導してもらってたのに!キャプテンなんかじゃ訓練にならないでしょお!あの人任務中は確かにピリッとしてて、かっこいいなとも思ったけど、、、でも普段なんか只の軽ーいお兄さんヨッ!キャプテンと2人っきりなんてなったら何されるかわかったもんじゃあないわ!全く!!!・・・・・・・・・・・・・・・・。
でも休憩にしようかな。そう根を詰めても疲れるだけで上達しないし。ン!こういう時は、ガイやアルと話でもしよう!その前に自室に戻ってシャワーを浴びなくっちゃ。汗びっしょり!私はそう決めて、銃を片付け、シューティングルームを後にした。

 それぞれ与えられているキャビンはどの部屋もだいたい同じ。奥にバスルームとベッドルームがあり、あとはサイドテーブルにイス、ちょっとした料理もできるようになっている。でもほとんど食事は自動調理に頼ってしまっている。だってメニューを選んでスイッチを押すだけだから。飲み物だって同じ。
そうだそうだ、私、もう喉がカラカラなんだ。何にしようかな。ダイニングルームまでいけばもっと種類があるんだけど、キャビンのは限られているのよね。レスカでいいや。
「ピッ、ピッ」とスイッチを押す、、、
「コロロロロ」もう出てきた。私は一気に飲み干すと、アルやガイのいるブリッジへ行った。『ガイ』はコンピュータ、自室でコンタクトはとれるんだけど、私はアンドロイドのパイロット、『アル』が気に入ってるの。
結構ユーモラスなところがあってダグ・ゴジラなんかよりずっと人間っぽい。ああ、また変なこと思い出しちゃった。

 「シューン」ブリッジのドアが開くと、目の前にはメインスクリーンの大画面。
うーん、好きだなあ、こういうのって。私はスクリーンに向かって左側の自分の席に着いた。ガイがいる。と言ってもコンピュータだけど。
「アレ?サオリ、データセイリハ オワッタンジャ ナカッタンデスカ?」
アルが私の方を振り向いた。
「ええ、でもちょっとネ。」
「ブレイクタイムニ ブリッジヘハ、メッタニ ダレモ コナイノニ、ドウシタンデスカ。アッ、ベツニ ジャマニシテルンジャ アリマセン。ワタシハ ダイカンゲイデスヨ。トクニ サオリハ。」
なーんて、お世辞まで言っちゃって。人型だけど淡いブルーメタリックのボディー、合成音の声はちょっといただけないけど、気軽に話し掛けれるアルが私は大好き。ほとんどブリッジの操縦席に座っている。

この『アルゴ』はOSS自慢の最新鋭艦、操縦もほとんど自動。目的地をセットするだけであとは寝てても大丈夫!よほどの宇宙嵐か攻撃でもされない限り。だから非常ベルが鳴らない限りほとんどクルーは自由行動してる。まあ、一旦任務地に降りるとハード極まりないから、せめてここにいるうちはリラックスしてなくっちゃネ。あっ、でもするべき事はみんな最優先でしていますよ。いつ何が起きるか分からないのが宇宙だから。

「ここにいたのかー、さ・お・り・ちゃん。」
ギクッ、キャプテンだ!
「は、はい、キャプテン。」
とあわてて振り向いた。
「銃のてほどきでもしてあげようかと思ったのにいなかったから、君のキャビンまで見に行ったんだよ。」
「すみません、ちょっと気になった事があったものですから。」
「気になったこと?」
「あ、いえ、個人的な事です。」
「ふーん。」
キャプテンは私の前のデスクに片方の手をつき、もう一方の手をシートの背にかけて私を覗き込むようにしてきた。わー、わー、キャプテンの顔、こんなに近くで見たのは初めて!ギリシャ彫刻のように端正整ってて。彫りの深い顔立ち、真っ青な目、柔らかそうでちょっとカールしてる金髪。、、、がだんだん近づいてきて、、、。
私は思わず上体をそっていった。とと、シートの背が邪魔してこれ以上それないっ!
「キャ、キャプテン、何か急用なんですか?」
「アランでいいよ。」
「で、でもキャプテンはキャプテンです。」
彼は何も応えない、その代わりいっそう近づいてくる。ちょ、ちょっとちょっと(誰か!SOS!)と私は心の中で叫んでいた。
(もうだめだ。)と思った丁度その時、シューンとドアが開いた。
キャプテンがとっさにそっちを見た。
助かった!入って来たのはリンダだった。雰囲気で、それとも女の感(?)で分かったらしい。
「キャプテン、さおりをあまりからかわないで下さい。」
いつもよりいやに口調がきつい。
「イヤ、別にそういう訳じゃ、、じゃ、さおり、また後で射撃指導してあげるから。」
慌てたように言うとキャプテンはブリッジから出ていった。

なんか気まずい雰囲気。いつもならリンダはアランって呼んでるのに。とそこまで考えると私は重大な発見をしたことに気付いた。(つまりそれって、、ん、そうなんだ。)
私は慌ててイスをひき、ガイのスイッチを入れ何もなかったかのように画面のデータを見続けた。本当に何もなかったんだけど、耳たぶまで真っ赤になっていくのが自分自身でもわかった。もちろんデータなんて読んでいるわけない。でも今ブリッジを出ていくのもおかしいような気もするし。(あーんもう、キャプテンのバカー!)私は二度とキャプテンの側には寄らないぞと決心した。

 2、3時間後、私は自分のキャビンにいた。あの後、リンダは何も言わなかったけどそういうのが一番きついんだよね。思い出しただけでも赤くなる。別に今までボーイフレンドもいなかったなんてことないんだけど。どうもあの手の人って苦手。なんでリンダはあんな人がいいんだろう。まあ、ハンサムっていうのは認めるけど。どっちかっていうと私はゴードンの方が、!!!何言ってるのかしら私!もう今日は寝よう!

 「おはようございます。」
次の日の朝、と言っても宇宙空間だから別に明るくなる訳でもないけど。ちょっと勇気が必要だったけど、いつものとおり私はダイニングルームに入っていった。自室でも食事は取れるんだけど、一応ここで取るのが決まりのようになっている。特に朝食は。昼食や夕食はみんなやってることが違うのでそうとは決まっていない。
「おはよう。」
キャプテン、リンダ、ゴードンがいた。よかった、いつものとおりだ。
まあ、あんな事をいつまでも気にしてても仕方無いし、ネッ!
「バーナードまであと2日よ。再チェックしておいてネ、さおり。」
「はい、リンダ。」
さーて、いよいよ次の目的地だ。がんばらなくては!
「あれっ?ダグラスはまだなんですか?」
「たぶん武器の最終チェックでもしてて来ないんじゃあないかな。」
ゴードンが私に朝食を運んできてくれた。なるほど、戦闘員らしい。いない方が私はいいけど。せっかくの食事がまずくなってしまうから。そう思いながら、ゴードンから食事を受け取った。
「すみません。」
「ついでだからな。」

 食事を済ませてから、キャビンでデータと上陸用必需品の再チェックをした。
「ポーン」ドアのインターフォンの音。
「さおり、いるか?」
「はい、います。」
げー、ダグ・ゴジラだ!
「シューン」とドアが開く。
「新しいレーザー銃が完成した。慣らしておいてくれ。」
「はい、やっておきます。」
俺はもうつきあわないゾとでも言うように彼は銃を渡してくれるとすぐに出ていった。銃は前のより少し大きめだけれど軽い。一人でやっても上達してるのかわからないから、ゴードンに頼もうかな、と思い、私はエンジンルームに行った。

 ゴードンはたいていエンジンルームにいる。別にいなくても支障はきたさないのに。でも彼に言わせると、何もかもコンピュータ任せはよくないんだって。アルゴの完璧なまでの自動操縦もあまり気に入らないみたい。「ある程度の自動制御は俺たちの負担を軽くするからいいんだ。だが、それ以上機械に頼り過ぎるといつか手痛い目に会うだろう。それにエンジニアとしては何もしないってのは寂しいもんだ。」
っていうのが彼の口癖。それでいつもエンジンルームでアルゴの監視?してる訳。

−シューン−
ドアが開くとそこはエンジンルーム。
一昔前エンジンルームなんてのはものすごくうるさかったんだそうです。でも今では、特にこのアルゴは、すっごく静か。耳を澄ませるとかすかに「コーンコーン」と音が聞こえる。
「彼女(アルゴの事)の声を聞いてる時が一番落ち着くんだ。」
とかゴードンは、言ってたことあるけど、私には理解不能だ。
(ええと、ゴードンは、、あっ、いたいた。なーにあれ!寝てるんじゃあないの!もうほんとにい!子守歌にでも聞こえるのかしら?ちょっと幻滅!)
こんなところだけ見ていると本当に頼り無いみたいだけど、何かあった場合はどんな些細な異常も見逃さない。いつも一番早く見つけている。それだけアルゴを大事に思っているんだと私は思っている。航海士にとって自分の船は恋人だなんて聞いた事あるけど、エンジニアもそうなのかと改めて思った。(でも、アルゴにやきもち焼いても始まらない。敵は強敵だ。)と、そこまで考えて私はハタと気がついた。何を考えてるのかしら、昨日から私、少し変!(もうこんなんじゃダメだぞ!)と自分を叱りつけ私はエンジンルームをあとにした。

 「もう少し右!銃身が傾いてる!!」
、、、結局一番きびしいリンダに頼む事になってしまった。(ダグ・ゴジラは別)かれこれ1時間。もう手がしびれてきちゃった。
「O.K!今日はこの辺にしておきましょう。あまり続けても疲れるだけだわ。」
「はい、ありがとうございました。」
「でもさおりも随分上達したわね。、、、ねえ、さおり、あなたはアランのこと、、」
「はい?」
私は最後の方が聞き取れなくて聞き返した。
「ううん、何でもないの。シャワーでも浴びて食事にしましょう。」
リンダはサッサと片づけ始めた。何を聞きたかったのかな。なんか気になるけど、、、。
「さおり、ぼーっとしてないで!」
「あっ、はい。」
そそくさと片づけてキャビンに戻り、シャワーを浴びた。各トレーニングルームにもシャワールームは付いているんだけど自室の方が落ち着くので私はいつもこっちのを使っている。

 ダイニングでみんなといっしょに夕食。めずらしく全員揃っている。
「これ私が作ったの。」とリンダがだしてくれたデザート。
うーん、おいしい!いつも自動調理のオールマイティーな味ばかりだったから、こんなに美味しいものあったんだ!なんて思ってしまった。リンダってこんな事もできるんだ。うう、同じ女の子としてはちょっとジェラシーを感じてしまった。それと自己嫌悪。私ってこういう事何にもできないの。
・・・もう、何だか知らないけどアルゴに乗ってから落ち込むことばかり!何やってんのよう!科学アカデミー始まって以来の天才と言われてきたあなたでしょ!どうも調子が狂ってる。なんとか自己調整しなくては!バーナードも近いんだ!

 


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