星々の軌跡


その28・救世主ニーナ(完)




 ニーナは、フリー・ギルドのガットを尋ね、卵をどうやってマンチーに返すのか相談 していた。
「すれ違うマンチー艇に渡すことは不可能だからなぁ・・。言葉が通じないんだ から、話しのつけようがないし・・。」
ガットもその方法を思いつかず、困っていた。
「やはり、直接持っていくしか、ないだろう。」
「でも・・マンチーの領域までは、ずいぶんかかるんでしょう?」
「ああ、18カ月くらい・・な。」
「そんなことしてたら、先にマンチーが攻め込んで来ちゃうよ。」
「ああ、わかってるさ、そんなことは!・・だが、マリーゲートはないしな。」
しばらく考え込んでいたガットは、突然思い出したように叫んだ。
「ワープだ!そうい えば、どこかの博士がワープ装置の研究を進めているとか、聞いたことがある。」
「そう!ゼッドのプロスク博士だ!」
ニーナも思い出した。彼女はその最後の部品を博士に渡したのだ。おそらくもう完成も間近なはずだ。
「よし、博士に頼んでみてくれ。私にできることは、ゼッドに着くまで、君の船を守る ことだけだ。それ以上何もできないが、頑張ってくれたまえ!ファーアームの為に!」

ニーナはガットと固く握手をすると、フリーギルドを出港した、ゼッドに向けて。

途中、マンチー艇の襲撃はあったものの、海賊船が守ってくれていて、戦闘は彼らに任 せ、ひたすらマイコン5へと急いだ。


「博士!!ワープドライブは?」
ニーナはマイコン5に着くと、息を切らせて博士の研究所に駆け込んだ。
「ああ、ニーナ君か。あとテスト飛行なのだが・・どうしたんだ?」
博士は例のごとく研究室兼工場で機械の中に埋まっていた。
ニーナは手身近にコスの計画や卵のことを博士に話した。

「そいつは大変だ!」
博士は手を休めてしばらく考えていた。
「もはやテストをしている余裕はなさそうだ。いいかね、君の船を私の ワープ・ドライブの最初のテストケースにしよう!直接マンチー星系に ワープさせるのだ!それ以外方法はない!」
「は・・はい!」
真剣な博士の眼差しにニーナはそれに賭けてみることにした。
失敗を恐れたり、躊躇している時間はもう残されていない。

ワープドライブをジョリーロジャー号に取り付ける為、時があわただしく過ぎ去っ た。
「よし、いいぞ、ニーナ君。」
全ての用意が整った。博士はコクピットで最後の調整を行う。
「ワープは片道しか使えないことを覚えておきたまえ。帰りは通常のNスペー スを通って来なくてはならない。」
「はい、博士。」
ニーナは操縦席に座ると、シートベルトを固くしめた。その横には、リズもシートベルト を付けて、座っている。勿論卵の入ったカプセルも。
「よし、それではマンチー系の銀河座標を教えてくれ。ハイパースペース・コンピュー タにインプットせにゃならんのでな。」
「GC、3409です。」
ニーナは、イチキから聞いたマンチー本国のある星系『ジャ・カーン』の座標を博士に教えた。
「よし、これでいい。成功を祈る!」
博士はそう言うと、ニーナと握手し、急いで下船した。

「ググググググググゥゥゥゥゥゥゥ・・・」
エネルギーが空気を引き裂き、船が細かく振動を始めた。
最初は小さく、そして徐々に激しくなり、さらに、激しくなっていった・・。
ジョリーロジャー号が爆発する?!・・そう思ったとき・・・
一瞬、空間が歪み、
そして、船の振動は収まり、スクリーンには、宇宙空間が写っていた。

「やった!!成功だ!!」
「やったね、ニーナ!!」
「うん!」
喜んでばかりもいられない。これからが大変なのだから、何しろマンチー圏内にいると いうことは、いつ襲撃があっても不思議ではないからだ。そしてその数は、おそらく、 1隻や2隻ではないだろう。
「ええーと、マンチー星は・・・」
ニーナは、急いでイチキからもらったマップを、TACに読み出し進路をセットした。
(どうか、無事に着きますように。)

−フィーン、フィーン、フィーン!−
あと少しでマンチー星というところだった。警報ブザーが船内に鳴り響いた。
「ええっ、バルチャーが5隻、ワスプが3隻?そ・・そんなぁ・・・。」
いくら戦闘に慣れてきたとは言え、どう考えても突破は不可能だった。
もっともここまで全く遭遇せずに来たことも奇跡的なことだが。
とにかく、なんとかして切り抜けなければ未来はない、とニーナは自分を 奮い立たせ、迎撃に入った。


「ああ・・もうだめ!!」
いくら頑張っても片づけれる数ではない。ジョリーロジャー号は次々と故障箇所を増やしていった。
ミサイルは底をつき、ビーム砲も破壊されてしまった。
それに、アーマーはもう100を切っている。リズも、もうお手上げ状態。
加えて、敵艦はどんどん増えてきている。
「ここまで来たのに!もう!!あんたたちの王女様を乗せてんのよ!分かってんの?」
聞こえるはずのない彼らに、ニーナは叫んでいた。
勿論、彼らが、攻撃を中止するはずもなく、アーマー計は赤く点滅し始めた。
『アーマー残量・・・50』計器は無慈悲にも絶望的な数値を表示していた。
「何とかしてよぉ、、卵の中の王女様ぁ!!」
その時だった、ニーナの頭の中にかわいらしい、そして凛とした声が響いた。
『わたくしは、ここにいます。』
その途端、マンチー艇の攻撃が止んだ!
ニーナの必死の叫びが、卵の中の王女に届き、それに応えてくれたらしかった。
そして、その声は確実にマンチー艇にも届いたようだ。


遠巻きに航行するマンチー艇に挟まれて、ジョリーロジャー号は、無事マンチー星に 到着した。
周回軌道に乗ると同時に、地上からの誘導電波により、ジョリーロジャー号はゆっく りと降下していった。

初めてみるマンチー星。それは、海と緑豊かな土地の美しい星だった。船はどんどん降 下し、地下都市のポートへと導かれていった。
卵の入ったカプセルを大事そうに抱え、船から降りたニーナを待っていたのは、バーキ リの貿易商だった。
『セチ』と名乗ったその貿易商は、ニーナとマンチー人との通訳を買 って出たのだった。
蟻の進化したマンチー人が囲む中、卵を抱えたニーナはセチに案内され ホバーカーで地上へ上がって行った。
出たところは、荘厳な宮殿が建つ森の中の湖のほとりだった。


「そなたが、わたくしの子どもを取り戻して下さったのですか?」
蟻の姿をした異形の女王は、ニーナに、にっこりと笑った。(ように見えた。)
  

COSMOSさんからいただきました。
いつもありがとうございます。

  
「は・・はい。」
セチにそう通訳されたニーナは、その高貴さと威厳に恐縮していた。
女王自らニーナに近寄ると、卵の入ったカプセルを受け取り、カプセルから取り出し、 玉座の横の虹色に輝く台の上に卵をそっと乗せた。
卵は台の輝きと共鳴するかのように、呼吸をするように、輝き始めた。
「もう大丈夫です。」
王座に戻ると女王は、やさしくニーナを見つめた。
ニーナは、再びセチに通訳してもらい、これまでのいきさつを話して戦争を止めるよう 頼んだ。
勿論、女王は快く引き受けてくれた。
「これで、ファーアームも、そして、このマンチー国も救われる。きっとプリンセス・ ブルー号のみんなも喜んでくれている。」
運悪く卵を奪っていった船を追跡していたマンチー艦と遭遇し、集中攻撃されて宇宙に散ったプリンセス・ ブルー。誤解がさらなる誤解を呼んだ悲劇。
が、これからは大丈夫だろう。もうあの悲劇は繰り返されないはず。
ニーナは心からそう思った。


ジョリーロジャー号が直るまで、ニーナは、マンチー国で歓待を受けた。
帝国との休戦は、バーキリの貿易商を通して締結され、全てが丸く収まった。
ただ、コス提督とビラニーは、その情報が入ると同時に、姿をくらましてしまったらしい。
が、今は素直にこの平和をかみしめる。


そうして、ニーナは18カ月のNスペース間の航海を終え、無事帝国へと帰り 着いた。
その彼女を待っていたのは、帝国を上げての歓待だった。
本国の宮廷で、皇帝はニーナに生者に与えられる最高の名誉、『ゴールデン・サンバー スト勲章』を与え、その功績を褒め称えた。
「そちは、余の命ばかりでなく、帝国を、いやマンチー国も含めて、全宇宙を救ったのだ。余は、そちの勇気 と知恵に感謝する。」
「あなたは運命に流されず、強く生きていける方です。あなたの未来は、栄光に輝いて います。」
ニーナの首に勲章をかけるアベンスター公妃が、やさしく言った。
「わーっ!」
謁見の間の外から大歓声が聞こえた。
公妃に導かれるままバルコニーに立ったニーナの目に移ったのは、宮殿の中庭に集まっ た人々の笑顔だった。
ニーナには、その中にプリンセス・ブルー号のクルー達の姿をも 見えるような気がした。
彼女の両頬を熱い滴が幾筋も伝っていく。
「ジャン、ピエール、キャプテン、テリー、ロイ、ディック、サミー、ガーシー・・」
ニーナが涙を拭う事も忘れて、ゴールデン・サンバースト勲章を高く掲げると、より一 層高く歓声がわき起こった。


マンチー国とはその後、幾度か条約を締結し、戦争は起こらなかった。
アベンスター公妃も再びファーアームに戻り、ニーナのよき話し相手となっている。
そして、ニーナにとって何よりも嬉しかったのは、ファーアームのみんなが以前と変わ らない態度をとってくれたことだ。
最も『英雄のお通りだ』とか『勇者、ニーナ様のご帰還』 とか、時にはからかわれたりもするが・・。


そうして、『全宇宙の救世主、ニーナ・シャピロ』(命名は、ヒアスラ皇帝である。) の名は、宇宙に広く、後世に長く、伝えられていく。
カッコ良く美化されたエピソード と共に。


・・・しかし・・・・その実体は・・・・・


「げろげろぉーーーー、・・また積み荷が台無しになってるぅ!!」
「あんなに長くイオンストームの中を飛んでるからだよ、ニーナ。」
「んなこと言ってもぉ・・・近道なんだって事は、リズも知ってるじゃない!?」
「急がば回れって言うよ?!」
「ああ、もう破産だ!・・・イオンストームの、ぶわっかやろうーーーーっ!!」




<<THE END>>


【星々の輝き】
(星々の軌跡・エピローグ)

【さすらいのスターシップ】
(星々の軌跡・もう1人のニーナ[1匹狼])


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