星々の軌跡


その27・マンチークイーンの卵




 ニーナが拓殖基地、トローシャルにドッキングするやいなや、約束通り海賊の一群が 基地を襲撃してきた。
基地中に警報ブザーが鳴り響き、警備兵は迎撃体制に移る。勿 論、基地内の警備は手薄となっている。
ニーナは、ひたすらビラニーの部屋を探し回った。
ようやくのことで見つけた彼女の部屋は、基地全体を覆う、異様な重苦しい空気 が、一段と強まっていた。
常に見張られているような気配。
が、そんなことを気にし ている暇はないニーナは、ビラニーの隙を狙おうと、ドアの外で身構えていた。
警備兵 はいないとは言え、マインド・コントロールができるビラニーがいては、すぐに入るわ けにもいかず、困っていた。

「何故じゃ、何故海賊どもが襲って来なくてはならないのじゃ!」
しわがれた老婆のよ うな声がしたかと思うと、いきなりドアが開き、ビラニーと思われる女司祭が出ていった。
「チャンスだ!」
ドアで思いきり顔をぶつけられたニーナだったが、その痛みを堪え、 そっと、部屋の中に足を忍ばせた。
誰もいないその部屋は静まり返っていた。
ニーナはガットに教えてもらった通り、金庫 のある奥の小部屋へと真っ直ぐに向かった。
が、その部屋のドアには鍵が掛かっていた。ニーナの持っているキー・カードでは開か ない!
彼女は焦った。いつビラニーが戻るか分からない。
いろいろ試しても開く気配がない、壊せそうにもなかった。
「ニーナ!」
小さな声だが、急に後ろで名前を呼ばれ、びくっとして、彼女は振り向い た。
が、そこにいたのは、修理ロボットのリズだった。その手には何か小さな機械のような 物が乗っていた。
「これを使ってみて。」
それは、オプトマグネティックのロックメカだった。
さっそく ニーナはそれをノブにセットし、引っ張ってみた。すると、開きそうもなかったのが、 嘘のように、カチっと音がして、簡単に開いた。
急いで中に入り、金庫の反対側にあったロッカーから卵の入ったカプセルを取り出した。
後は、見つからずに、無事ここから出るのみ。まだビラニーは帰ってきた気配ない。
ニーナとリズは慎重に足を運んだ。
金庫の部屋から出て、もう少しで廊下に出れるという時だった、ドアがバタンと開き、ビラニ ーが入って来た。
ニーナとリズは慌てて、それぞれ目に付いた家具の陰に隠れた。
「そこにいるのは、誰じゃ?」
見えないはずなのに、本棚の横に隠れていたニーナを指 し、ビラニーは言った。
ニーナはその言葉に引き寄せられるようにして、ビラニーの前に姿を現す。
私は女司祭、ビラニーじゃ。お前は何者じゃ?ここで、何をしていたのじゃ?」
腰が曲がり、弱々しく見えたその老女は、その風貌とは相反して、突き刺すような赤い 白子の瞳を持っていた。そして、それは鉄のような厳しさに燃えていた。
 

COSMOSさんからいただきました。
いつもありがとうございます。


「テストをしに来たのか?」
「い、いいえ。」
「それでは、何か別の目的があるのじゃな。」
ニーナは答に困った。後ろに隠し持っている卵が気になった。
(見つからなければいいけど。)
「しゃべらなくとも良い。私はお前の思念を読むことができる。」
ビラニーは瞼の下からすくい上げるように、ニーナを見た。
彼女の冷たい視線は、ニーナの心を凍らせてしまうかのように思われた。
が、突然ビラニーが、いらだたしげに叫んだ。
「テレパシー・シールドだね。不信心者めが!今すぐそれを外しなさい!」
ニーナは、オマス牧師からもらった『サイオニクス・シールド』のおかげで、ビラニー のテレパシーを遮ることができていたのだ。
ニーナは答える代わりに、ビラニーを睨み続けていた。
「愚かな奴め。シールドで私の力は防げても、ここの兵隊達を防ぐ事はできまい。」
ビラニーが、壁のブザーを押そうと手を伸ばした隙に、ニーナは、身体を少し移動させ た。
「そ・・それは・・・おのれ、それが目的か!!だが、このビラニー様の目を盗 むことはできぬ。さあ、それを返すのじゃ!」
カプセルを見つけたビラニーは叫んだ。
ビラニーの目は、ニーナの目を捕らえて放さない。サイオニクス・シールドをしているとはいえ、 ビラニーの精神波はニーナの精神を圧迫していった。
ニーナは卵の入ったカプセルをしっかと抱えつつ、自分に言い聞かせていた。「負けるもんか!」
ビラニーの白く濁った目が赤く光っているかのように見えた。
(飲み込まれそうだ・・だけど、ここで負けては・・・)
ニーナの脳裏に狂人となってしまったタルゴンの姿が浮かんだ。
「ええい、いまいましい、シールドめ!」
自分の意の通りにならないニーナにしびれを切らしたビラニーは、再び壁の警報ブザーに手を伸ば した。
と、その時、ビラニーに突進した小さな影があった。
「リズ!!」
「ニーナ!今のうちだよ!!」
2人は、倒れて「警備兵!警備兵!」と叫ぶビラニーが、なかなか起きあがれないでい るうちに、さっさと逃げ出した。


「サイオニクス・シールド・・すっごい物だったんだね。」
無事トローシャルを出たニーナはリズと話をしていた。
「ん、そうだね。もしそれがなかったら・・。」
「今頃、自分から、宇宙に身を投げてたってとこだね。」
「もしくは、タルゴン隊長みたいに・・。」
「ん。・・でもさぁ、リズがロックメカを作って持ってきてくれて、助かったよ。ど うにも開かなくって困ってたんだ。」
「多分そうじゃないかと思ってさ!あり合わせのパーツだけど、急いで組み立てたんだ。」
リズは得意そうに胸を張って威張ってみせた。
「それくらい気づかなくっちゃ!」
「はいはい、リズ、様々です。」
ははははは!!2人して大笑いをした。
「さて、一旦ガット氏に会ってから、どうするか決めよう。」

ニーナは、セクター内の海賊船に挨拶を送ると、自動航行に切り替え、横に置いたカプセルに目をやった。
「さあ、王女様、帰りますよ!!」




<<TO BE CONTINUED>>


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