星々の軌跡


その21・タルゴン隊長、判明!




 「えらいことになっちゃった・・・でも、やるっきゃないんだよねー。」
「そうそう、ファーアームの為に!!」
船に戻ったニーナは、発進させながら、チーシャの代わりの『リズ』と名付けた修理ロボットと話していた。
「英雄ってのは、みんな、こんな気持ちなのかなぁ・・・。みんな、なりたくて なったんじゃなくってさ、そうするしか道がなかったから・・・そして、それ が上手くいって、結果として英雄になった・・とか?」
やらなくてはならない事とは言え、そのあまりにもの重大さに、ニーナは今まで に味わったことのない、プレッシャーを感じていた。
「上手く行けば、ファーアームの英雄だよ!そうなれば一番の栄誉、『ゴールデ ン・サンバースト勲章』がもらえるよ、きっと!」
「あんたは、気楽でいいよね。私にできると思う?帝国軍きっての軍人が失敗し てるんだよ!」
「雑魚だから、かえって目につかない。」
「簡単に言ってくれるね。」
ニーナは大きくため息をつくと、それもそうかも知 れないと思った。とにかくここまで来てしまった以上、やるしかない。


ニーナは、ロスに立ち寄り、再び整形外科医に会いに行った。
なかなか話さなかったドクターだったが、ニーナのしつこさに根負けして、最後には、ライゾンという 男の手術後の顔を教えてくれた。

そして、ニーナは、チーシャとラックスの様子を覗くとすぐ、ゼッド星系に向か った。
それは、「その男の片目を白いコンタクトレンズで潰れたようにみせかけた。」 というドクターの話から、ニーナはアークチュラスの狂人がタルゴン本人に違い ないと思ったからだ。
ニーナは狂人になってしまったのは、ブラックハンドの女司祭、ビラニーの手 によるものだと直感していた。
どうしてもタルゴンの情報が必要なのだ。そして、 それを聞き出すには、狂人を一時的に治すという、『NSB』を手に入れる必要 があった。
そして、そのためには、今は怪獣もどきの生命体のすみかとなってい る『マイコン3』へ行かなくてはならない。
「とにかく・・研究所のどこに保管してあるかくらいは聞いておかなくっちゃ。 研究所の見取り図と、それと、できたら、化け物の対処方法。」
ニーナはゼッド星系の採掘ステーション、マイコン5にいるという、ただ1人の生存者に 会いに向かっていた。


ゼッド星系の『マイコン5』に着くと、まず最初にニーナはプロスク博士を訪 ね、コスからぶんどった『転換コイル』を渡した。
そして、約束通りその引き換えに、ワームホールでの腐食を無くするという『ヌルダンパー』を船に取り付けてもらった。 そして、幸運にも軍に席をおいていた頃バスルチにいたという博士から、建物の 見取り図を手にいれたのだった。

そして、ニーナはそこの酒場で、とても陽気な坑夫、ティブと知り合った。度が過ぎている くらいの陽気さで、みんなを笑わせる男だった。彼は、見たことのない顔とみる と、相手の気持ちなどお構いなしに、仲間に入れてしまうのだ。ニーナもご多分 に漏れず、酒場に入ると同時にティブと彼が引き入れた仲間の輪に引き込まれてしまった。
冗談を言っては大笑いをする。楽しいのだが、ニーナにはそれが、何となく何か を忘れようとして、わざと陽気に振る舞っているような気もした。ティブ自身では 気づかないうちに。

しばらく世間話に花を咲かし、馬鹿騒ぎしていたのだが、ニーナが一言『バスル チの』と言いかけた途端、彼は頭を抱え込み、身体をこれ以上小さくならないく らいに丸め、ぶるぶる震え始めた。
彼こそがバスルチでのたった1人の生存者、恐怖の地獄から生還した坑夫だった。

彼が奇跡的にバスルチを脱出した後、ドクターが彼の精神を救うために、その 記憶を一応は消したのだが、あまりにも想像を絶する恐怖だった為、完全には消 すことはできず、心の奥に封じ込めたのみにとどまっていたらしい。
そして、数 カ月たった今でも、『バスルチ』がキーワードとなり、彼の精神は、その恐怖で 混乱してしまうらしかった。
常日頃のあまりにもの陽気さは、彼の心の奥の奥にしまいこまれたその恐怖への 反動として、彼自身無意識のうちにとってしまう行動だった。

「ご、ごめん、ティブ・・しっかりして!!」
ニーナは彼の肩を掴むと揺すった。
が彼はただ、震えるばかりだった。
「だめだぜ、こうなっちまうと当分の間は、正気には戻らねえぞ。」
ニーナは肩 をぽんと叩かれて振り向いた。そこには、つい今しがたまでいっしょになって話 していたピクスがいた。他のみんなもぞろぞろとドアに向かっている。誰しも事 件のことは知っている。みんな悲しそうな顔をしながら出ていった。

「ティブ・・・ねぇ、しっかりしてよぉ!」
ニーナは再び彼の肩を激しく揺すり続けると、なんとかティブは我に返った。
「ねぇ、ティブ、教えて!『NSB』はどこにしまってあるの?」
聞くのも気の毒に思った彼女だが、聞かないわけにはいかない。ティブに申し訳ないと思いながら 彼女は聞いてみた。
「NSB・・ああ・・NSブースターか・・・あれは・・・・」
そう言いかけ時、再び恐怖が彼を襲った。
「あああ・・人間の身体が・・・めちゃくちゃに引き裂かれて・・・壁に血 が飛び散り・・い、いや、もう辺り一面血と臓物の海に・・・・」
ティブの顔は恐怖でひきつっていた。
「ティブ!!しっかりして!!」
ティブは目を見開き、両手で顔を押さえている。その口からは今にも叫び声が出て来そうだった。
「ティブっ!!」
(ごめん、ティブ)
心の中で謝りながらニーナは思いきり彼の頬を叩いた。
「あ・・ああ・・、」
少しは落ちつきを取り戻したティブは、ゆっくりと続きを話し始めた。
「NSブースターは・・・・あれは、恐怖の始まる前、ステーションについ たんだ。確か・・奥の部屋にしまってあったと思う。金庫の隣のロッカーの 中だ。俺は、持ってこなくちゃと思ったんだが、そんな場合じゃなかった、 ・・奴等が・・・奴等が・・!!ああああああああああ!」
ティブは必死に恐怖と戦っていた。何とか堪えて自分を見失わずにいた。
「どこ、どこの部屋?」
ニーナは電子手帳を出し、博士からコピーさせてもらった見 取り図を画面にだした。
「ここ・・そう、確かにここだ。」
ティブは震える指でその位置を示した。
「ここ、ね。ありがとう。」
ニーナは地図にチェックを入れておいた。
「取りに行く気なのかい?よしな、よしな・・命が幾つあっても足らないぞ。 奴等はいきなり飛びかかってくるんだ。そして、そしたら、もう・・次の瞬 間にゃ・・引き裂かれてるんだ。」
「どうやったら奴等に殺られない?」
「奴等はすばやいから、見たと思ったらすぐ襲ってくるんだ。次の瞬間 にゃ、奴はもうすぐ側にいやがるんだ。そして、それと同時に・・・。
角を曲がる時は、 恐ろしかった・・・そこにいやしないかと思って。・・・そうだ!奴等は 少し頭が足りないんだった。そう!物陰に隠れるんだ。そうすると、そのうちにゃい なくなる。でもすぐ現れるかもしれん・・。どっから出てくるかわからん。天 井からかもしれん・・。物陰に隠れながら走って移動するんだ。右へ左へと。それしか・・手段はない 。俺は単にラッキーだっただけだ。助かったのが不思議くらいだ。」
「ティブ・・・・」
ニーナはティブの苦悩に満ちた顔から目が離せなかった。
「さあ、もういいだろう。」
ティブはそう言って震える手でジョッキに残っていた ビールを一気に飲むと、もう一杯注文した。
ニーナは、そんな彼に謝り、お礼を言うとポートへ向かった。


怪獣それも凶暴極まりない怪獣・・果たしてそんな危険地帯へ無事に何事もなく 行って来れるだろうか?ニーナの心は沈んでいた。
「でも・・・そうするしかない・・・・。」
バスルチ星系へと向かう船の中、出来る限りのことをしようとリズと作戦を練っていた。




<<TO BE CONTINUED>>


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