星々の軌跡


その22・恐怖の生命体




ニーナは、バスルチのマイコン3へ来ていた。
ポートには船1隻もない。
静まり返った周囲には警報と録音されたメッセージが響きわたっている。
『バスルチ採掘ステーションは、人命に関わる危険が発生した為、閉鎖されて います。旅行者のみなさんは、近づかないで下さい。』

ニーナは船から出れなかった。どうしようか、と迷っていた。
ゼッドを後にしてから、何人も知り合いに一緒にくるように頼んでみた。公妃 様にもお願いしようと会いに行ってみた。しかし、答はみんな同じだった。
「できない。」
ケールにもただ呆れられただけで、本当の理由も言えないニーナ は、誰1人として助け手を得ることはできなかった。

「ふんだ、そりゃー、公妃様の立場も分かるけどさあ・・・他人に命令すりゃ いいってもんじゃないよ、全く!!誰か他に兵士はいなかったのかなぁ・・・。」
「いないからニーナに頼んだんでしょ?」
じっと聞いていたリズが、ニーナの言い分にすかさず突っ込んだ。
「多分、どの兵士もコスの息がかかってる危険があってだめなんじゃない?」
「かもしれないけど・・でも・・・」
分かってはいるニーナなのだが、それはそうなのだが、今 回は、未だかつてなく非常に危険なのだ。
(もしかしたら・・・死んでしまうかもしれない。)
そう思うと、足が震えて動けないニーナだった。
(そういえば・・・子どもの頃、リバイバル映画でこんなの見たなぁ・・・。 確か『エイリアン』の・・えっと・・この状況と一番酷似してるのは・・『2』だったっけ? ・・・たった1人で女の子を助けに行くあのヒロインと同じ!あれは、映画だから上手くいったけど・・。 なんで、私がこんな目に会わなくちゃいけないのよお!)
こんな危険なことができるのは、おそらくタルゴン隊長くらいなのだろう、が、今は そのタルゴン隊長の正気を取り戻させるためにしなければならないのだ。代わってやってくれる 人は誰もいない。そして、そうしなければ、事態は何も変わらない。ファーアームは刻一刻と終焉に近づいて いくだけなのだ。それは決して大げさなことではない。目の前の事実なのである。
そして、それは、全てニーナの肩にかかっていることも、事実だった。
「ふ〜〜〜・・・・・」


 数分後、ニーナは、右手には自動小銃を握り、肩にはその弾をぎっしりと詰め たベルトをかけ、ポートに降り立った。
動きは多少鈍くなるが、吐く息で怪物に見つけられてもいけないので、しっかり スペース・スーツを着たまま。怪物の攻撃には何の意味もないらしいが・・。
見上げた船へ乗り込むステップがニーナには、今日はばかに高く感じられた。

「さあ、行くぞお!」
(あのヒロインは聖書の一節を唱えながら、エレベーターで降りて行ったんだよね・・ 何だったっけ、彼女の名前・・・忘れちゃった。)
ニーナは、ごくんと唾を飲み込むと、建物を睨んだ。

−シャ、シャー−
どこかのドアの開く音がした。
(どこからか怪物が出てきたのかな?)
ニーナは、船の影に隠れながら、そおっと建物の方を見てみた。
船体を挟むようにして、真正面にドアがあった。
今は開いていない。ニーナは自分の回りにも気を配った。ドアばかり見てて、 後ろから襲われでもしたら、ひとたまりもないからだ。
緊張のあまり、身体はこわばり、銃を握る手が震えていた。
「よ、よし・・・行くぞ!」
彼女は、自分に言い聞かし、スーツの左腕部分に取り付けた生命探知機を作動させると、 そろそろと歩き始めた。
それは応急だが、リズが作ってくれたものだった。

真正面のではないもう1つのドアの横に身を壁にくっつけて立ち、窓からそっ と中を覗いてみた。
「ここには、いないようだけど・・・・」
彼女は生命探知機も反応していないことを確かめると、ごくんと唾を飲み、ドアから中へ入り、すぐ物陰に隠れ た。
対面には奥への通路に繋がるドアがある。と、そのドアの向こうでずるず ると何かが動いている音がした。探知機は確かに反応を示していた。
「神様、仏様・・た、助けて!」
思わず祈らずにはいられなかった。
部屋を見渡すと、めちゃめちゃに破壊され、そこら中に飛び散った血の跡がつ いている。バイザーを上げれば、多分、血と腐臭の臭いでむせてしまうだろう と思われた。
今更ながら、ニーナは自分がとんでもない事をしているのだ、と感じた。

ドアの向こうの音がしなくなった。探知機も反応を示していない。ニーナは、 恐る恐るそのドアに近づく。
『ドアや角には気を付けろ!奴等が待ち伏せしているかもしれん!』
ティブの声がニーナの頭に響いた。
生命探知機は、反応なしのままだ。だが、ニーナはなかなか決断できずドアの横で立っていた。
「ふうーーっ・・・・!」
いつまでも立っていては、また怪物が来てしまうかもしれな い、いやもしかしたら、その反対かも知れないが、このままでは、いつまでた っても、らちがあかない事だけは確か。
ニーナは大きく深呼吸をするとドアの前に立った。
と・・急に探知機に反応が出た!
(え?!・・そ、そんな・・・)
慌ててドアから離れ、物陰に隠れる。
−シャー・・・−
ドアが開く。
反応があったと思ったらすぐのことだった。相手の移動スピードは、やはり人間より ずっと素早いようだ。
−ふー・・ふー・・・−
怪物の荒い息が聞こえる。目が合ったら最後、怪物の姿を確認するなんてとんでも ないことだ。じっと物陰で小さくなっていた。
(どうか、こっちには来ませんように・・・お願いだから・・・来ませんように・・・)
恐怖に震えながら、心の中で必死に祈っていた。
−シャー−
(ほっ・・・・)
無事見つからず怪物が去り、ニーナはほっと胸をなで下ろした。
が、目的はこれからなのだ。ニーナは、ごくん!と唾を飲み込むと、探知機を 見ながらドアに近づいた。
−シャーー−
タイミングを逃してもいけない。今回はすぐ部屋から出た。
ドアが開くと同時にニーナは通路の両奥を確認する。
視界、探知機ともに異常はなかった。
が、静まり返ったその通路は、静かだからこそ、一層不気味に思 われた。足音のしないように、だが、なるべく早く走り、奥の部屋のドアの横 に立った彼女は、すぐ周囲と部屋の中を確認した。

「どうやら中にはいないみたいね。」
(後少し・・アーメン!)
別にクリスチャンではないニーナだが、唱えられずにはいられい。
部屋に入り、金庫を探す・・・
「あったっ!」
ニーナは小声で叫んだ。ティブの言った通り、その横にはロッカ ーがある。
彼女はそこに走り寄るとロッカーを開けた。
ニーナはNSブースターを鷲掴みにすると急いでバッグにしまう。そして、 再び目と探知機で周囲を確認する。
「何とか手に入れたんだ。どうか出ませんように・・・。」
彼女は祈った。心臓は破裂するかと思うくらい大きく打っている。銃を握る手が両足が極度の恐怖と緊張で震 えている。
「ここで、急いでしまって、怪物に出くわしたら元も子もない、慎重に、慎重 に。」
彼女はともすると、走り出したくなる自分に言い聞かせながら、ゆっく りと出口へと向かった。

「あと少し・・・よーし、通路はO.K・・・」
来たときとは反対に進むニーナ。
「ほーーぅ・・ドアの向こう、O.K」
彼女には時を刻むのが、とてつもなく遅く感じられた。もう少しで基地から出れる、そう思った時だった。探知機が その外側に生命反応があることを示した。
「あと、ちょっとなのにぃ・・・。」
ドアを開けようとしていたニーナは慌てて物陰に隠れた。
−シャ、シャー−
そのドアが開いた。確かにドアの向こう、建物の外にいたのだ、怪物が。
しかし、幸運にも怪物はニーナのいる所には入って来ず、そのまま外を歩いて 行った。
「入って来ないのは、いいけど・・外にいられちゃ、船に戻れないよお。」
(お願い、神様っ!)
ニーナは必死に祈っていた。1分が1時間、いや、それ以上に思えた。
このままここにいても、また別の怪物が入ってくるとも限らないのだ。

−シャーー・・−
しばらくするとニーナの目の前のドアではないドアが開く音がした。
探知機で外にいないのを確認し、ニーナはそっとドアに近づき、外に出る。

「助かった、向こうのドアから入ってくれたんだ。」
そう思いながら、後は、ただ一目散に船へと走った。今はもう、前方を確認しているだけだった。彼女 の目は、ただ『ジョリーロジャー号』だけを捕らえていた。

「もう少しでステップだ!」
そう思った時、背後でドアが開く音がした。が、彼女には振り向く余裕はない、ひたすら走り続ける。
ステップに上がる手すりを握り、上がり始める。船のドアを開ける。
彼女が無事船の中に入り、そのドアを閉めようとした時、彼女の視界には、世 にも恐ろしい姿をした怪物が、船のステップを上ろうとしているのが入った。
それと比べるとナーシー星系で会ったシシャザーンなどは、かわいいものであ る。シシャと同じように爬虫類系のように思えたが、耳まで裂けた大きな口には、 ものすごく長く鋭い牙がある。目は退化してしまっているかのように、小さな ものが耳のすぐ横にあった。金属かとも思われる光沢のある皮膚は真っ黒、そして、その細長い骨 と皮だけのような手が・・するどい爪がニーナの目の前に伸びてきていた。
−バシューーッ!−
彼女は急いでドアを閉めると慌てて船を発進させた。
船のサイドを写すサブスクリーンには、ドアをこじあけようとしている怪物が、はっ きりと写っていた。
「ええーーーい、お前なんか落っこちてしまえーっ!!」
「発っ進ーっ!」
−ウィィィィィーーーーーーーー・・・・−


「ふーーーーーっ・・・」
怪物も無事振り切ることが出来、ニーナは危機一髪で、NSBを手に入れ、バスルチを後にすることができた。
「まるで、幸運の星の元に生まれたみたいだねー、ニーナは。」
基地を発進し、周回軌道に乗ったジョリーロジャー号を操縦する手がまだ震 えているニーナにリズが言った。
「喉がもうカラカラよ。お水ちょうだい。」
極度の緊張から、喉が乾ききっていた彼女は、リズから受け取ったコップの水を一気に飲み干した。
「お代わり!」
「ふーーーーー」
2杯、3杯、4杯と立て続けに飲んでようやく乾きと震えが 収まってきた。
「大丈夫?」
コップを片づけながらリズが聞いた。
「うん・・もう、大丈夫!」
そう言った彼女の声はまだまだ震えている。
「さあ、自動航行の間、ちょっと一休みして、それから、アークチュラスにま っしぐらだ!!」
デネブ星系に繋がるマリーゲートに目的地をセットすると、ニーナはシートを 倒し、眠りに入った。
ついさっきの悪夢を見ないよう祈って・・・


COSMOSさんからいただきました。
いつもありがとうございます。




<<TO BE CONTINUED>>


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