星々の軌跡


その15・妖しげな宗教団体




 シギュア星系には、殺人集団と言われている宗教団体、ブラックハンドの本拠地である拓殖基地トローシャルがある。
そのメンバー全員がテレパシーを使え、その長たる女司祭、ビラニーのその力はどんなに離れた異星系にでもおよぶという。
そして、シギュアのマップにあった航海日誌には、そのビラニーと何かまずいことがあった事を示していた。

2月14日
トローシャルでトラブル発生。
ビラニーは俺を見張っているようだ。

「これってやっぱ、やばいよね。相手が悪すぎるよ。」
ニーナはチーシャ言った。
「そうね・・・帝国もこういう変な集団をもっと取り締まってくれなくちゃね。」
チーシャも同感だった。
会って確認できる事でもないし、増して、ビラニーと敵対していたのならなおさらである。
それこそ、下手をすればこっちの命まで危ぶまれる。
「多分、この船の元の持ち主は、ブラックハンドに殺されたんじゃないかしら?」
「ん・・・今までの情報を整理すると、そうしか考えられないけど。でも一体何をしてたんだろ、その人?」
ニーナは今までのいろんな情報を整理したファイルを読みながら考え込んでいた。
「海賊に潜入とか・・公妃様に報告とか・・ううーーーん・・・」
まだまだクロスワードパズルは解けそうになかった。
ただ、何となくとんでもなくやばいことに首を突っ込んでしまったらしい、ということは分かっていた。
「今更後戻りはできないし・・・これが本当の『乗りかかった船』だねー。」
「何を他人事みたいに言ってるの、ニーナ?」
チーシャがため息まじりに言った。
「だって・・・、はーあ。」
ニーナも大きなため息が出てしまった。
「ゼッドにあった日記の『賞金をかける前にすでに海賊はマンチーを攻撃していた。』ってこともだけど、訳分かんないことばかりで。少しも日記と日記の共通性がないのよねー。」
「そうねー・・・。どこかで繋がっていると思うんだけど・・・。」
2人になりいつもなら自動航行中は眠ってることが多いニーナも、あれこれ話しながら時を過ごしていた。
1人で考え込んでいたときよりもずっと楽しかった。・・・話題は決して楽しい物ではないが・・。


 そして、ここでの目的地である、拓殖基地トローシャル。その姿が見えたとき、ニーナはできれば戻りたい、と思ってしまった。
でも、そうもいかない、オマー牧師との約束もある。もしかしたら、ここに奥さんがいるかもしれない。
−シューーン−
「行ってらっしゃい、ニーナ。気を付けてね。」
いつものごとく自動ナビによりポートに到着する。そしてすぐ下船の準備に取りかかるニーナ。
メイドの格好はしていないというものの、どこにハンターの目があるとも限らないので、チーシャは船を下りるわけにはいかない。
彼女は心配そうな顔をしながらニーナを見送った。
「大丈夫、私たちのような雑魚には、気にもとめてないよ、きっと。じゃ、行ってくるね。」
と言いつつ、ニーナは自分が極度に緊張しているのがよく分かった。
(落ちつかなくちゃ、少しでも怪しまれたらおしまいだ。)

ニーナは、誰とも話さず、基地内を歩き回った。
そうしているうちに、中庭のようなところにでた。
しーんと静まり返ったその場所は、草木も生えており、景色だけは、憩いの場所のような感じにも思えた。
が、少し静かすぎるし、それに空気がいやに重苦しく、とてもいやな気分になってくる。
ふとニーナが木陰の方に目をやると、修道女のような格好をした人が立っているのが見えた。
彼女は両手を前で合わせ頭を垂れていた。まるで瞑想でもしているようだった。
「まさか、ビラニーじゃないよね。」
ニーナは恐る恐る近づいてみる。
−パキン!−
落ちていた小枝を踏んでしまい、ニーナは、自分でびっくりしてどきっとする。
勿論、その音でその女性も顔を上げた。
「あ?!」
その顔を見て、ニーナは小さく叫び声を上げた。
彼女は頭巾を後ろにはねると、ニーナをじっと見つめる。
「私は・・・」
そう言いかけてまた目を閉じた。そして、再び目を開けると言った。
「あなたは、もうすでに私の名を知っているという気がします。違いますか?」
静かでそして、どことなく暗い声だった。
そう、彼女はニーナがここへ来るまでに何度も見て確かめた、オマス牧師の奥さんにそっくりだった。
ただ一点、その無表情さをのぞけば。
が、多分そうに違いないと一目彼女を見たときからニーナはそう思った。
「間違いがなければ、多分私は知っていると思います。・・」
心を読まれていると感じたニーナは、言葉だけでなく、心の中でも祈るようにオマス牧師のことを話した。
そして、戻るようにどんなに彼が待っているか、と。
ニーナがオマス牧師の話をしているとき、彼女がわずかだったが、その顔に少し表情が浮かんだような気がした。が、すぐに元の無表情な顔に戻ってしまう。
そして、ニーナの話が終わると、無表情のまま淡々と彼女は話した。
「はい、彼は以前私の夫でした。でも私はもう彼を必要としていません。ブラックハンドが私の家族なのです。彼にそう伝えて下さい。」
冷たい声でそう言った彼女は手を上げ、拳をニーナに見せた。
そこには、瞼のない黒い瞳の入れ墨があった。それはブラックハンドの印だった。
そして、何か意味不明な言葉を呟くとまたしても深い瞑想へと戻っていった。
「あ、あの・・・」
ニーナは彼女のその雰囲気に威圧され、それ以上何も言うことができず、そこを後にした。

「どうだった?」
船に戻ったニーナにチーシャが小声で聞いた。ニーナの顔つきでだいたいの予想はついたが。
それに最初から希望はないようなものだった。
「最低よ。彼女はもう普通の人間じゃなくなってるよ。」
ニーナは一言だけそう言うと、出発準備にかかった。
チーシャも何も聞かず、出向準備に取りかかった彼女を見守っていた。


「ああっ、しまったっ!アーマーを修理してくるのを忘れた!!」
警報がなり、戦闘態勢に入って初めてニーナはそのことに気が付いた。
トローシャルでのあまりにも重い空気に気が滅入り、少しでも早くそこを離れたいと思いすぎ、修理のことをすっかり忘れてしまった。
「あ、あたしも・・・。」
チーシャも同じだった。
「残存アーマー350か・・・運がよけりゃ、大丈夫だろう!」
ニーナは相手がワスプ一隻だったので、何とかなるだろうと判断した。
実際、ワスプとの戦闘はずいぶん慣れてきていた。
「いくよ!!」
「オッケー!」
チーシャとのコンビネーションも抜群!
「さあ、おいでおいで・・・」
引き寄せてミサイルで撃ち落とす作戦。
「いい子だねぇ・・・それ一発!!」
・・・・−ズッガーーーーン!!−
「当たぁりぃ!・・・さあ、あと、2発あげるよ!」

ワスプの攻撃を上手く交わしながら、残りの2発も順調にお見舞いできた。
「はい、終わりっち!」
直ちに自動航行に移る。
「さすが、ニーナちゃん!!」
船の後部で、もしもの時の修理のためスタンバイしていたチーシャがコクピットに入ってくるなり言った。
「何にも出ないよ。」
得意げに言うニーナ。
「けちっ!」
ニーナにあかんべーをするチーシャ。
2人は昔からのつき合いのようにすっかり意気投合していた。
別れはもうすぐそこまで来ていたのだが・・・。





<<TO BE CONTINUED>>



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