星々の軌跡


その14・破損に次ぐ破損




 ジョリー・ロジャー号はゼッド星系に来ていた。ここには、小惑星『リトラ』にマイコン社の第4採掘ステーション、マイコン4があり、そこには、有名な引力物理学者のゾリア・プロスク博士がいる。
デネブプライムの酒場の主人から、博士がどうやらワープドライブを発明したらしい事を聞いた時から、ニーナは、本当かどうか確かめたいできるなら、体験してみたい、と思っていた。
それと、もしかしたら、博士が以前発明した、ワームホールでの腐食を防ぐという『ヌルダンパー』を手に入れることができるかも知れない、そう思ったからだった。

1月10日
海賊は、まだ賞金も制定されないうちからマンチーを襲った・・・・・何故?

ここのマップにもやはりメッセージは残されていた。
「ふーん・・・そう言うわけだったの?」
それまでの経緯をニーナから聞いたチーシャは、それまでの航海日誌を読みながら言った。
「フリー・ギルドにいると色々な情報が、それこそ、ありとあらゆる情報が入ってくるのよ。あたしもいろいろ耳にしたけど・・。このことだけは、どうもわからないわ。」
「まだまだ、情報不足よね。」
ニーナは自分自身に言い聞かせるように言った。
「あまり気を落とさないで、いつか、道が開けるわ・・そう、あたしと、ラックスのように。ねっ!」
「ん。」
そう言いかけた時だった、敵の攻撃を知らせる警報がなった。
−フィンフィンフィン!−
「行くわよ!!」
自動航行から手動に切り換えると共に、ニーナは迎撃態勢に移った。
TACを起動させる。
「バルチャーだ!!」
TACスクリーンはマンチーの大型戦闘艦であるバルチャーを写していた。
「修理ならまかせて!がんばって!!」
チーシャは、ウインクするとコクピットを離れ、エンジンルームに向かう。
「オッケー!」
久しぶりの戦闘、今まで幸運すぎた。ニーナは緊張しながらも必死で攻防に入った。

「むむ、こ、こいつはぁ・・・」
敵の攻撃を避けながら、ビ−ム砲やミサイルを発射する。
バルチャ−はワスプと違って動きは少し遅いが、その分防御力もある、敵のECMでミサイルもなかなか命中しない。
ワスプとの戦いは何度か経験し、だいたいのこつは掴んだニ−ナだったが、バルチャ−はそうはさせてくれないらしい。
ナビスクリ−ンとTACスクリ−ンを交互に見続け、攻撃する。
「げげーっ!!前部シ−ルドが破壊されたあ!!」
「くそぉっ!!」
必死で攻防するニ−ナ。
TACは無情にも次々とダメ−ジを受けたことを表す。
「『ECM破損』・・『後部シ−ルド破損』・・・『ビーム砲破損』ちょっと、ちょっと、少しは手加減してくれたって・・・ああーん、ビ−ム砲が使えないなんてー。」
土台無理なお願いである。
「やったー!『敵ECM破壊』とでた!よーし、こうなったらミサイルで!!」
ミサイルは例え敵のECMを破壊しても、命中させるのには技術が必要だ。それにこの船には10発しか乗せられない。
「残りあと7発・・・何とか命中して、お願い!!」
ニーナは祈るような気持ちでひたすら攻防を繰り返していた。
「え?『エンジン破損』・・・ええっ〜!?」
画面を見たニ−ナはもう真っ青だった。でも戦うしかない!
「ちょっと、いくらあたしでも一度に直せる限度があるんだよ!」
インターフォンからのチーシャの声は、明らかに焦って、そして、頭にきている。その口調は、フリーギルドにいたときの強い口調に戻っている。
「あんたに懸けたんだからね。もっと身を引き締めてやんな!!」
「うるさいっ!やってるわよっ!!」
人の愚痴を聞いている場合じゃない、本人の方がよほど焦っているのである。
(こんなところで宇宙の藻屑になりたくないわよっ!)
辺境のそのまた辺境のゼッド星系、味方の援助はまずもって期待できない。
ニーナは決死の覚悟で操作を続けた。


「ふーーーーー、」
数十分後、ぼろぼろになりながらも、何とか敵を破壊し、ジョリーロジャー号は再び自動航行に移っていた。
チ−シャはまだ修理を続けている。
「ごめんね、チーシャ。」
インターフォンから彼女に話し掛けるニ−ナ。
「気にしない、気にしない!あたしは、この為に乗ってきたんだから。」
喉元過ぎれば何とやら・・・、戦闘中のきつい言い方はお互い無くなっていた。

そして、無事にリトラのマイコン4に到着。と言ってもリトラは、小惑星地帯にある為、周りの宇宙空間には、巨大な瓦礫や氷の塊が飛んでいて、ドッキングには相当苦労した。
ロースピードで避けながら進んできたのだが、結構ダメ−ジも受けてしまったのだ。
もっともそれまでにシールドやエンジンはチーシャが直してくれていたので、随分助かった。チーシャが乗っていなかったら・・・考えたくもない事だった。


2人は、ゾリア・プロスク博士の研究所を聞いてまわった。
元帝国科学技術研究所のあるプロジェクトのチーフだったというプロスク博士。
彼は、自分自身、一人で自由に研究をする為、ある日突然辞職し、研究所へ引き戻そうと帝国が差し向けた追っ手の追跡を振り切って、ファーアームの中でも辺境中の辺境であるゼット星系まで流れてきたのである。
そういう経緯もあり、科学者と聞くと頭脳明晰だが軟弱な人物をイメージする人が多いが、博士は違っていた。

COSMOSさんからいただきました。
いつもありがとうございます。


博士を捜し回ること数日間。
もう諦めようと、ポート近くのバーで飲んでいたニーナの横のイスに、不意に腰掛けた男がいた。
「オレを探し回ってるっていうのは、あんたか?」
「え?」
驚いて横を見たそこにごつい顔をした大男がいた。
「帝国の犬か?」
「あ・・いえ・・・あ、あたし・・・・」
ぎろっと睨んだその迫力に、ニーナは寒気を覚える。
「ん?男じゃないのか?・・・・軍の手先でも・・なさそうだな?」
博士はニーナのつま先から頭の先まで観察し、最後にするどく視線を会わせた結果、そう判断する。
「じゃ、なぜオレの事を探っているんだ?」
「え?・・・オレの事って・・・・・ひょっとして、ひょっとしたら・・・・あなたが・・・」
そのごつい体格と顔つき、一応博士が軍から追われていることを知っているニーナは本人ではなく用心棒か何かだろうと思いこんでいた。



「わっはっはっは♪たいしたもんだ!見習いがいきなりスターシップの船長か?しかもこんな辺境地まで来るとはな!」
ニーナが軍からの回し者ではないと分かると、博士は気軽に世間話を始めた。
そして、ニーナの話にも相づちを打ちながら耳を傾けてくれたのである。
いろいろ話し相手になってくれ、すっかりうち解けたのだが、肝心のワープドライブは、最後の1つの部品が手に入らなくて未完成ということだった。
最近特にマンチーの襲撃が激しくなってきており、帝国からの貿易船が全く来ない状態が続いている為だ。
そして、お人好しのニーナはまたしても頼まれ事を引き受けてしまった。ファーアーム内にあるかどうかも分からない『転換コイル』を入手してくることを。
そしてそれまでには、『ヌルダンパー』を作っておく、という交換条件で。
「こんなことケ−ルに話したら大笑いされるな。ううん、怒られる・・だろうな?」

ニーナは、ワームホールでの腐食や敵の攻撃、隕石などがぶつかった衝撃で下がってしまったアーマーを修理してもらうと、マイコン4を後にした。
(アーマーはチーシャでは直せない為。)
「さて、一旦バスルチに戻り、次はシギュアね。」
チーシャが確認した。
「ん。お世話になります。」
ニーナは深々と彼女に頭を下げた。
「いいえー、こちらこそ。」
チーシャも頭を下げた。




<<TO BE CONTINUED>>

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