星々の軌跡


その8・航海日誌発見


 グリフォン星系のコンベック・イースト社の採掘ステーションでも、慣れてくるに従って顔見知りも増えてきた。最初はなかなか馴染めなかった彼女だが、ヒアスラのバーの主人を知っているという坑夫、マシュ−と知り合ってから、少しずつ慣れてきて、荒くれ者に見えた坑夫達も、結構気さくないい人が多いと言うことが分かったニーナだった。
そのマシューと知り合ったのは、ニーナが不潔酒場の片隅で、酔っぱらいの坑夫に絡まれていたときだった。そのブルータスという坑夫は、商人にだまされたとかで、同じ、商人だということだけで、関係ないニーナに文句を言っていた。
どうやら一儲けしようと、商人に採取した鉱石を運んでもらったらしいのだ。それが彼の予期しない低速船だったとかで、全て被災してしまい、金にならなかったばかりか、その賠償金をも請求されているらしかった。怒る気も分からないではなかったニーナだったのだが、あまりにもくどいので、どうしてその場を離れようかと、算段していた時、マシューが助け船を出してくれたというわけだ。

マシューにはステーション内をいろいろ案内してもらった。採掘場に降りていく手前の教会には、少し頭がおかしくなっていないかと思われるような牧師さんもいた。彼は、会う人毎に、「破滅・・・カオス・・・君には見えないかね?」と言っていた。
彼の名は、オマス・タイランと言い、何でも『マリーの知恵』と呼ばれているのだ、と言った。
その瞳は、迷える人々を導こうと熱意に燃えているのだが、どうもその話の内容となると、今一つ、理解できない。一旦話し出したらもう止まらない。彼は延々と『カオスに打ち勝つには』とか、マリーとかいう種族の事、または、その種族が最後には『サイオニクス』をマスターし、思考を使ってバリアを張ることを学び、物資に捕らわれることがなくなり、全てを捨て純粋な魂となるために旅立った、とか話すのである。
そして、決まったように、最後には、『何世紀かかるか分からないが、人間が、物質の殻を脱ぎ捨て、マリーに参加すれば、カオスは我々を解き放ち、破滅から救われるだろう。救済の道はそれしかない!』で、締めくくるのだ。
でも、説法をし始めるとわけの分からない事ばかり話すが、そうでないときには、とても温厚な人だった。両親を亡くしたのがきっかけで、宇宙に出たニーナには、そうした彼に父の面影も感じていた。
そして、彼の話からニーナは1つ発見をした。それは、真偽のほどは、定かではないが、とにかく、マリー・ゲート、及びワームホールは、どうやらその『誇り高きマリー一族』が造ったものだと考えられた。
「奴の話など、本気にするんじゃないぜ。」とマシューは否定的だったが。

今回もニーナはヒアスラからの荷を降ろすと、マシューと共に彼の所にやってきた。なんだかんだ言っていてもマシューもちょくちょく来ているらしい。
「坑道に潜ってばかりいるとよう、時々このまま、暗闇に吸い込まれちまうんじゃないか、って思っちまってよう、たまにゃー、牧師さんの話も聞いておかなくっちゃって思う時があるんだ。」
天涯孤独な彼もまた、ニーナと同じように、オマスに父親的存在を感じているらしい。

「こんにちは、オマス牧師!」
元気良く教会に入って行ったニーナを迎えたオマスは、その日なんとなく元気がなかった。
「牧師さんよう、どうしたんだい?」
マシューも不思議そうに顔を覗き込んだ。その顔はいつになく険しく、そして悲しそうだった。
「ああ・・・君たちか・・・・。」
オマスはちらっと2人の顔を見ただけで、再びうなだれる。
「どうしたんですか?」
ニーナも慌ててオマスに駆け寄る。
「間違いだったんだよ!」
オマスの叫んだ声は絶望的な響きがあった。
「サイオニクスは、危険性をはらんだ道具だったのだ。どうしてそんなことが分からなかったんだろう?私は、彼らと一緒に自分の妻をなくしてしまった。」
彼は、頭をかきむしり、自分を罵った。
「奥さんをなくしたって?」
こんなオマスを見るのは、初めてだった。
「そう、彼女は、サイオニクスの師を見つけるために出かけていった。それから何の連絡もないが、風の便りにブラックハンドに入っているということを聞いた。もし、それが本当なら、私にとって、もはや、妻は死んだも同然だ。」

ブラックハンドとは、シギュア星系の拓殖基地、トローシャルに本部を置く、得体の知れない秘密結社だ。なんでも、そのメンバーは、他人の心の中を読めるとか、そのマインド・コントロールは遠く離れている人にでもおよび、人を狂わせることもできる、とか、ニーナは、聞いたことがあった。とにかく、恐ろしい殺人集団として、ファーアームでは知れ渡っている。勿論、帝国側はそのような団体はないと否定してはいる。が、ファーアーム内で起こった不可思議な殺人事件のほとんどは、ブラックハンドの手によるものだと、もっぱら評判なのである。
「何か、私にできることはありませんか?」
あまりにも落胆しているオマスにニーナには、そういう以外、他の言葉が見つからなかった。
ニーナは、オマスから彼の奥さんの立体写真を自分の手帳にコピーすると、彼女の捜索を約束した。そしてマシューにオマスの事を頼み、グリフォン星系を後にした。心当たりも自信も全くなかったが、そうせずにはいられなかった。

彼女は、一旦、カロノス星系のヒアスラに戻ると商品を仕入れ、グリフォンへ。そして、今回は、オマスのいるステーションには立ち寄らず、次なるアークチュラス星系に繋がるマリーゲートに向かった。
オマスとの約束の為でもあったが、2つの星系を自動航行で往復しているうちに、ニーナは偶然、ジョリー・ロジャー号の前の持ち主の航海日誌を見つけたのだ。それは、ナビゲーション・コントロールのスクリーン上のマップに、巧妙に隠されていた。
自動航行で、ニーナが暇を持て余し、スクリーンに写っている航行中の星系内を片っ端からスキャンしていた時に、見つけたのだ。
但し、航行中以外の星系のマップは、そのスクリーンには、写らないので、どうしても他の星系に行かなければならない。
少しでも情報を入手する為には、そうすることが必要だった。

アークチュラス星系には、小惑星『エイグハム』にマイコン社の第2採掘ステーションであるマイコン2と、輝ける法のシンボル、帝国の誇る航空母艦『ISSコス』が常駐している。
その呼称は、先の連星間戦争で帝国を勝利に導いた海軍提督の名前にちなんでつけられたものだ。
エイグハムには修理施設はない、当然、修理は、コスでやってもらうことになる。
「別に悪いことはしてないけど・・あんまり気が進まないわよね。軍人さんって・・・。」
マイコン2では、鉱石が嘘みたいに安く仕入れることができる。
コスで修理をし、ハイテク商品を売って鉱石を仕入れ、それをカロノスへ、という予定をたてていた。
もっとも、それには、2つのマリーゲートを通らなければならないが、カロノスからデネブへ行くゲートを通るよりはずっと楽のはずだった。なんと言っても距離が違いすぎる。

「な・・何?・・・一応話には聞いてたけど・・こんなに酷いの?」
アークチュラスへのマリーゲートのあるエリアに到着したニーナは、目を見張った・・・。
マリーゲートは、小惑星地帯のど真ん中。
「し、小惑星ね・・粉々に砕かれた巨大な岩石の集団じゃないのぉ?!・・早いとこマリーゲートに入っちゃわなきゃ、船がぼこぼこになって穴が開いちゃう!」
極力衝突を避けるように注意を払っているとはいうものの、グシーン!ドスン!とシールドに当たる音やその振動に青くなりながら、ニーナはいつになく焦り気味で操縦していた。
マリーゲートに入る必要スピードは維持しなくてはならない、そして、コースも・・・。
避けてばかりいると、とてもではないがゲートに入れそうもない。
ニーナは、シールドが破壊されないことを祈りつつ、マリーゲートに向けて突き進んだ。


<<TO BE CONTINUED>>


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