星々の軌跡


その7・九死に一生



 −フィ−ン!フィ−ン!フィ−ン!−
警報ブザーは、まるでニーナを急かしているように感じられた。
ニーナにとっては始めてのスクランブル・・緊張するのも無理もなかった。

TACのデータ・モードでそのスクリーンに相手の状態を表示させる。
そこには敵の船影とデータが表示されていた。
船  名 ワスプ
RAN(距離) 3250
TAC(戦略分析) CLOSE
ARM(アーマー) 180
SYS(搭載システム) e/b/m
 

「なるほどね〜・・、ワスプとの距離が3250。敵の作戦は、至近距離からの攻撃。で、そのため、現在急速に接近中・・か。アーマーは180、搭載システムのエンジン、ビーム砲、ミサイル、全て良好・・・。ふむふむ〜〜〜・・・。」
とため息をついている場合ではない。こうしている間も急速に接近してきている。
メインスクリーンを素早く確認すると、ニーナは続いて自分の船の状態を表示させる。
船  名サンレーサー
ARM(アーマー) 280
SYS(搭載システム) f/e/b/

グリフォン星系には、修理する工場がない。アーマーは、来た時ワームホールの腐食性ガスによって下がった数値のままだ。
『f』は、前部シールド、『e』は、エンジン、『b』は、ビーム砲、『m』は、ミサイル発射筒の状態を表している。それぞれダメージを受け、故障すると文字が反転するようになっている。そして、現在、『m』が反転文字で現れていた。つまりミサイル発射筒が破壊されたということを意味していた。

それまで、マンチーに遭わずにきたこと事態が、おかしいと言っていいほどの幸運なのだ。勿論、海賊船とは、すれちがった事もあったが、サー・エルドにもらった『スティルス・ボックス』のおかげで、向こうのPCが同じ海賊船と判断する為、攻撃を仕掛けられた事はなかった。

「よーーーし、コンディションオールグリーン!やってやろうじゃないの?!」
と、やる気満々、気合いを入れた時だった・・・。
−ズガガガーーーン!−
ものすごい音共にシートから放りだされるかと思うくらいの激しい衝撃が彼女を襲った。
「きゃあっ!」
が、シートベルトを装備しているため、それはない。が、思わず声が出てしまった。
「な・・何?・・急に・・こ、こんな・・・」
慌ててメインスクリーンを見る。が、ワスプの姿はどこにも見えない。
「え・・?ど、どこにいるの?」
−ズガガーーン!−
きょろきょろしている内に第2波が彼女を襲った。
「と、とにかく敵の位置を把握しないと・・・」
戦闘は初めての彼女。とにかく落ち着くよう自分に言い聞かせ、TACビューが示す敵船の位置を正面に据えるべく奮闘を開始した。
「迎撃開始〜!」
頼れるのは己の腕・・・と敵のミス?・・とにかく、機敏性を誇るマンチーのワスプ。
右からと思えば左へ、左から接近してくると思えば、後ろから、前から上から下から・・・まるで彼女をからかって遊んでいるように近づいては離れ、離れては、接近してくる。どこからともなく・・異常なほどの猛スピードで。
一応船内の一室にトレーニングルームがある。彼女も今まで何度となく訓練してきた。
が、そんなもの単なるシューティングのお遊びだったと思えるほどの攻撃だった。
確かに、ビーム砲が破壊されてなかったのは、彼女にとって本当に幸運だった。
実のところ、ミサイル庫はまだ空のままだったし、第一照準が合わせづらい。まだまだ現在のニーナの腕では、使いこなせそうもなかった。が、ビーム砲の方は、既に、ガーネット・レーザーからより強力なサファイア・レーザーにグレードアップさせてあったし、照準も発射するタイミングもこちらの方がずっと合わせやすいのである。
というのに、相手のスピードにまったく追いつけなかった。
スクリーンにその船影を捕らえたかと思うと、一瞬にして消え去るのだ。
しかもその方向は様々で、完全に予測不可能。
必死の思いで、コントロール・パネルのボタンを操作していたニーナだったが、ついに切れた・・・。
「わかったわよぉ・・・・やってやろうじゃん!ここで負けたら、元も子もないんだからね!」
すうっと大きく息を吸うと、今一度レーザー砲が無事なことを確認し、迎撃に移った。
「下手な鉄砲も数打ちゃ当たるーーーっ!」
−ビイイイイイイイイイイイイイイーーーー!−
−ビイイイイイイイイイイイイイイーーーー!−
−ビイイイイイイイイイイイイイイーーーー!−
船を旋回させながら、ビーム砲をうち続けるという、やけっぱちな戦法・・・。
もはや、彼女にはこれしか思い浮かばなかった・・・。
それでもからかうかの如く飛び続けるワスプ。
−ガガーーン!−
「やったーっ!当たったーっ!」
と喜びを味わっている間など到底ない・・彼女は、ただひたすらメインスクリーンとTACビュー、そしてワスプの残存アーマーを示すインジケーターを交互に見続けていた。
ロジャー号の残存アーマーなど確認している暇は・・・・ない・・・。

情報を的確に素早く読みとり、その瞬間に分析とそれに見合った行動。
それがこれほと過酷なこととは、この時、始めて知った。
両手にじっとりと吹き出てくる汗、一瞬の気も抜けない状態が小一時間ほど続いただろうか。
−バシューンッ!−
幸運にも粉々に砕け散り、宇宙の塵と化したのは、ジョリー・ロジャー号でなく、ワスプの方だった。
「ふーーーーーー・・・・」
メインスクリーンに粉々に砕け散ったワスプの残骸を補足し、そして、TACシステムでエリア内に敵のいないことを確認するとようやく彼女は緊張を解き、ほっとした。
「う・・アーマー130・・・」

とにかくヒアスラに帰らなければならない。気を抜くには、無事ワームホールを抜けてから・・・いや、スターベースについてからだ!
ともすれば、今の戦闘で気力を使い切ってしまったため、脱力感に襲われそうなニーナだったが、そんな甘い事を言ってもいられない。
今一度、自分を奮い立たせると、彼女は、マリーゲートに目標をセットした。
「どうかもう何も出ませんように・・・・」
自動航行に入ったというのに、いつものように、眠る気にもならず、彼女は祈るようにメインスクリーンを見つめていた。
そして、なんとか、残りのアーマーでワームホールを通過、無事ヒアスラ・スターベースに着くことができた。
「アーマー、50か・・・ぼろぼろね、これじゃあ。・・九死に一生ってところじゃないの・・。よく帰って来れたものねー・・・。」
自分ながらつくづく感心していた。戦闘中、何度もうダメだと思ったことか。
そして、もしかしたらホール内で溶けてなくなるかもしれない、という不安と恐怖。
その不安は、どうにか当たらずにすんだが・・・ずたぼろになったのは、愛挺ジョリー・ロジャー号のみでなく、ニーナ自身も、心身共に疲れ切り、ずたぼろになっていた。

せっかく、グリフォンで儲けたお金も修理代やら何やらで吹っ飛んでしまった。
ワスプ撃退の賞金である、64クレジットなどは、無いよりまし、焼け石に水、といったところ。
(でも、ないよりいいし、命あっての物種っていうから、また儲ければいいよね。)
そう思い直して、再び奮起する彼女だった。
「あの戦闘から生き残れたんだ・・これくらい何ともないって!」

が、しばらくマンチーはいらないと、少し懲りてしまった彼女は、船が直ってからも暫くは同じ星系内のそれまで何度か行った小惑星地帯にあるマイコン1拓殖基地との貿易に専念した。
マイコン1で商品を売ってすぐUターン、再び、その繰り返し。


マイコン1にも酒場がある。が、彼女は、どうもそこへは、入りづらい気がしていた。
主人と懇意になったヒアスラのバーは別格なのだ。

それにマイコン1の酒場では、最初入った時、元宮廷音楽師とかいう男に、いい情報を教えてやるからとか言われて、散々おごらせられ、結局山ほどの愚痴を聞かされただけ、という苦い体験がある。
彼女はそう感じてもないようだが、それが起因の1つのようでもあった。
とにかく、その元宮廷音楽師は、ずっとそこに住み着いているらしく、酒場を訪れる人毎に、うまいこと話を持ちかけてはおごらせているらしい。
もっとも、各ステーションの酒場に置いてある、『ハイブ』とかいうゲームのBGMがうるさいだけで、気に入らない、という彼の意見には、賛成の彼女だったが。

そうして、再びグリフォンとヒアスラ間の貿易も始めたニーナは、結構儲け、船の装備もどんどん充実していった。ビーム砲も一番強力な『粒子ビーム』にし、前部シールドを補強、後部にもシールドを取りつけた。
それに、相手のミサイルをかく乱させる『ECM』(Electroniccoutermeasure)』も取りつけた。それは、X線の陰極のテクノロジーを応用し、敵のレーダーを妨害する装置であり、敵のミサイルのエネルギー探知機を邪魔する物だ。レベルは、25%、50%それに75%の3段階がある。これは、ミサイルを妨害し、避けることができる成功率を表している。破格の値段なので、ひとまずニーナは50%のECMを取りつけた。
過信は禁物だが、これで幾分星間飛行が楽になったはずだ。

彼女は、TACのシステム欄に『c/f/a/e/b/m』と表示されているのを、満足気に見ていた。
そこには、ECMを表す『c』後部シールドを表す『a』が追加表示されている。まだまだ全て最高といったわけではないが、最初の頃に比べれば、数段の違いだ。
「さあ、もっと、もっと、頑張るわよ、ロジャー!」
コントロールパネルを操作するニーナの手が軽やかに踊る。
(そろそろブルー号のみんなの仇を取るための情報収集も始めないと・・。)
そう思いついたその瞬間、彼女の手は踊りを止め、瞳はスクリーンに映る宇宙空間の中にやさしかったクルーの面影を見つけていた。


<<TO BE CONTINUED>>


Back】 Index】 【Next】