星々の軌跡


その6・集合有機生物(?)



 あれから2ヶ月もカロノス星系で、こつこつと頑張っていたニーナは、ようやくのこと船のアーマーも最高の500ユニットまであげ、再びジャンプに挑戦していた。
そして、失敗すること2回・・3度目の挑戦・・・・
 「やったっ!抜けたっー!!」
まだ幾分震えの残る手を上げ、ニーナはばんざいをしていた。
右へ左へ、下降気味、上昇気味、そら90度・・今度は45度・・散々ワームホールに翻弄されての結果だった。
最後には船自体をも回転させて。目が回り、また駄目か、と思ったとき、船は最後の輪をくぐり抜け、無事、グリフォン星系へと出ていた。
メインスクリーンには、漆黒の宇宙空間に静かに光放つ星々とマリーゲートが映っていた。
「ふーーーーー・・・。」
今一度大きく深呼吸すると、ニーナはまだ震えている手でナビゲーション・コントロールのスクリーンにマップを写し出し、エリアを確認する。
そして、間違いなく自分がグリフォン星系にいると確信し、胸をなで下ろす。
「アーマーは300と少し・・・か。なるべくなら敵に遭いませんように。」
祈るように呟くとニーナはグリフォン星系でただ1つのステーション、コンベック・イースト社の採掘ステーションのある小惑星『ファントム』にコースをセットした。

 惑星上の採掘ステーションも、自動誘導で着陸できるようになっている。今、ジョリー・ロジャー号のスクリーンには、小惑星ファントムが写し出されている。ニーナはその周回軌道に乗ると、ステーションと連絡を取り、大気圏突入の準備に入る。といっても地球型と違って大気は薄い。ドーム内でないととてもではないが、呼吸は困難だ。
船は、ゆっくりとステーションに引き寄せられていく・・・。

ファーアーム内の資源が豊富な小惑星に建設された採掘ステーションは、何処でも同じ造りである。透明なドームに守られたごく小規模な、そして簡素なステーションだ。
ここ、コンベック・イースト社の採掘ステーションも例外ではない。その豊富な資源の採掘に多くの坑夫がそこで働いているが、観光的な物は何もない為、星間旅行者も滅多に立ち寄らない。ニーナの様な、いやもっと柄の悪い商人が立ち寄るのみである。

 観光地とは到底言えないが、ここの「不潔酒場」は有名なのである。名前からして、どうも気が進まなかったが、種々多様な人種がいるということは、その分情報もそうなのだ、と思い直し、スーパーコンピュータを仕入値の2倍で売って、ほくほくのニーナはとにかく、酒場を覗いてみることにした。

 『不潔酒場』の名の通り、そこは小汚い酒場だった。煙草の煙とアルコ−ル、食べ物の臭いそして男たちの臭いが充満していた。坑夫に商人、それに、お尋ね者のような、うさんくさい奴、加えて、人間以外の知的生物で賑わっていた。
何か情報をと思い、ここへ来たニーナだったが、その異様な雰囲気に圧倒されて、なるべくかかわり合いにならないように、と目立たないようにカウンターに座った。

 ふと気づくと隣のイスに、鈍く光るオレンジ色の肌をした変な生き物がいた。たくさんの触覚が頭に付いていて、チューチューと音をたててビールをすすっている。目は12個もある。初めて人類以外の知的生命体を見た彼女は、失礼だとは思いつつ、じろじろ見てしまっていた。
 「こんにちは、ヒューマン、我々と一緒にいっぱいいかがですか?」
ニーナの視線に気づいたのか、彼女の方を向くと、話しかけてきた。
「我々?」
イスには1人しか座ってないのに、と思い彼女は聞き返した。
「そうです、我々はアーセラスと言います。12の部分からなる集合有機体で、成長すると互いに1つに合体して生活します。これが、我ら種族の生き方なんです。ビールはいかがですか?」
12で1つの彼らは、その12の目でニーナを観察しているようである。
「い、いただきます。」
有無を言わさない雰囲気にのまれて、ニーナはついそう答えてしまった。
「ヴェーダと呼んで下さい。ところで、ご存じですか、ヒューマン。」
ヴェーダはニーナにジョッキを渡しながら言った。
「我々アーセラスはバイオプロダクトの専門家なのです。生きた組織を使って様々な種類の便利な品を創り上げるのです。1つお目にかけましょうか?」
「どんなものなんですか?」
(生きた組織を使って?そんなことができるのかな?)
ニーナはくねくねうねる彼らの触覚に半分気を取られながら聞いた。
(もう少し太かったら、まるでメデューサの蛇みたい・・・色は違うけど・・)
「これは、『アメーバ・コンタクトレンズ』で、強い光から目を守るのに有効です。新星を観察するときなど大変便利です。強い光を浴びると、アメーバが目の神経組織に潜り込むので、受容体が閉ざされ、結果的に目が守られるわけです。250クレジットにまけておきますが・・・。」
ヴェーダはカバンから小さなカプセルを取り出すと、ニーナに見せる。
「う〜〜ん・・もらっておこうかな?」
中は見えないし、アメーバが目の神経組織に潜り込むなんて気持ちも悪い。
が、12個の目は催眠波でも出しているのか、どうも彼らにのまれてしまったようで、買わないと悪い気になっていた。
ヴェーダは、嬉しそうにカプセルを開けると、ごく小さな燐光色のディスクを2枚取り出し、それをニーナの耳に入れた。その前に手に取って見てみようとするニーナにお構いなしに・・・。
有無を言わさずとは正にこのことだ。ニーナはアメーバが神経組織に潜り込む際の奇妙な吸われるような感覚(ヴェーダによると)を味わった。そして、視界が急に薄暗くなり、このまま見えなくなるのでは、とニーナの頭を心配が過ぎった時、彼女の目は再び通常通り普通に周りの景色を写していた。
「それじゃ、そろそろ行くとしよう。さよなら、ヒューマン。」
ヴェーダはニーナから代金を受け取るとご機嫌よく酒場を出ていった。
初めのおかしな感じさえなければ、どこも変わったとこがない。ニーナはだまされた様な気もしていた。
どうもこの酒場の雰囲気は肌が合わないようで落ち着かない。
彼女はヴェーダにおごってもらったまだ手も付けていなかったビールを一気に飲み干すと、酒場を後にした。
 ステーション内のポートから一番遠いところに坑夫の宿舎がある。その向こうが採掘場なのだが、知り合いもいないニーナはそこへ行くことは止め、仲買人から鉱石『ディリシウム』を買うと再びカロノス星系のヒアスラへ向かうべく、マリーゲートを目指した。

  −フィ−ン!フィ−ン!フィ−ン!−
「スクランブルだっ!」
コクピットで仮眠を取っていたニ−ナは、けたたましい警報機の音で目が覚める。
コンソール右のトラフィック・ディスプレイがオレンジ色に点滅している。それは、何者かによる攻撃を意味している。
「あと少しでマリーゲートだったのに。」
慌ててTACを起動させ、コンソールの中央、メインスクリーンの真下のTACスクリーンにセクター内の探索可能なターゲットを写し出させる。

「ワスプだ!!」
帝国と敵対している異種族、マンチーの戦闘挺である。ニーナにとっては忘れもしない、プリンセス・ブルー号を消滅させた仇でもある。彼らは、理由も何もなく例え商船だろうとおかまいなしに襲ってくる。ワスプは、同じマンチーの戦闘挺でも重装備のバルチャーとは異なり、シールドもない小型の戦艦だが、その驚異的な速さと機動性は、目を見張るものがある。
こちらから来ると思えばあちらから、いや、真後ろから・・といった具合で、その攻撃パターンを予期することも捕捉することさえも困難なのだ。加えて彼らは、好戦的ときている。そのカミカゼ作戦は、例え、瀕死の状態になっても逃げることを知らず、又、こちらの降伏に応じるなんてことも絶対に有り得ない。
とにかく、破壊してしまうか、破壊されるか・・それまで戦闘終了はない。一瞬たりとも息は抜けない。
(みんなの為にも生き抜かなくっちゃ!)
そう思ったニ−ナは、全身を駆け抜ける緊張感と共に、すぐさま迎撃体制に移った。



<<TO BE CONTINUED>>


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