星々の軌跡


その5・ジャンプ失敗
 


 豪華なキャンドルの炎に近づく蛾のように、巨大なオレンジ色に脈打つエネルギーの炎の中心にジョリー・ロジャー号は引き寄せられていく。コントロール・パネルを操作するニーナの手は、緊張のため震えていた。
彼女は、スピード・メーターを見て、21m/secを切ってないことを今一度確認する。
「大丈夫、ホールに突中できるはず!」
そう思った瞬間、スクリーンに写る景色が変わった。
オレンジ色の炎がその明滅を止め、一瞬後、かき消ると共に、真っ暗な空間に虹色に輝く巨大な輪の連なり、ワームホールが現れた。
「ス、スピードを落とさないと!」
ニーナは、慌ててスピードダウンする。今の彼女の腕では21m/secでホール通過は無理な話だった。
その間もホールを進んでいる、一瞬でも気が抜けない。彼女はジャンプ失敗することもなく、9m/secまで落とすことに成功すると、ほっと胸をなで下ろした。が、まだまだ緊張を解くわけにはいかない。
ちょうど輪くぐりをするように、ジョリー・ロジャー号は、螺旋状になった管の中を進んでいく。
見ている分には、綺麗な輪が並んでいる。が、今は、自分自身で、そのほぼ中心位置をキープし、船を進ませていかなければならない彼女には、みとれている余裕は全くない。輪から少しでも逸れると、入ったゲート付近に、はじき飛ばされてしまうこの三次元航路、慎重さが最も必要とされた。が、かといって慎重にしすぎてロースピードで進むのも考え物だ。腐食性ガスも怖かい。まだまだ溶けてなくなりたくはない。そして、あまりスピードを上げると操縦を誤って輪の外に出てしまうこともある。大丈夫と判断した彼女は、アーマー計も見ながら、少しスピードを上げ、10m/secを維持することにした。

カロノス星系からグリフォン星系までのこのワームホールは、簡単な方なのだ。距離も比較的短いし、その曲がり具合も。かと言って、厳密には長さも曲がり具合も常に一緒ではない。入る度に異なってくるそれらは、熟練者でも気を抜けない理由である。
が、とにかくここを無事通り抜けれないようなら、他のホールはまずもって無理である。さしずめ、命を懸けた練習場というところだろうか。他の星系へ行く為にも彼女はここを無事通り抜けなくてはならなかった。
無事通り抜けられれば、ホール内での操縦を完全に身につけるため、しばらくカロノス星系とグリフォン星系間で商売をするつもりの彼女だった。グリフォンには、ヒアスラで安く仕入れたハイテク商品を、ヒアスラには、グリフォンで安価で手に入る鉱石を、と言った具合である。加えて、星系間ジャンプにも慣れる手はずだ。まさに一石二鳥とはこのことをいうのだろう。が・・・果たして彼女の構想通り上手くいくか、が問題である。とにかく、今は必死にメインスクリーンに映る輪を目で追い、船を操っている彼女だった。
「ちょ、ちょっと・・・10m/secでも曲がりきれないっ!!ああっ、神様っ!」
自分の腕の未熟さを呪いつつ、ニーナは次々と変化するワームホールのカーブと悪戦苦闘していた。スピードを下げても一時も息を抜けない。右へ、左へ、上へ、下へ、・・様々に変化するカーブ。アーマーは少しずつだが、確実に下がってきている。
(間に合わないかもしれない。今のスピードでは、無事向こうに出る前にアーマーが・・・。)
ニーナはなかなか見えない出口に、焦りを覚え、ついついスピードを上げた。
運悪く、それまで大きく右にカーブを描いていたワームホールは、急に左へとカーブしていた。しかも上昇気味で。
(しまったっ!)
と思ったときはすでに遅く、輪から外れたジョリー・ロジャー号は、次の瞬間元の空間、カロノス星系のマリーゲートの見える所にはじき飛ばされていた。
「いっけないっ、アーマーが100を切ってる!!」
ニーナはアーマー残量計を見るなり叫んでしまった。
「あーあ・・・」
ため息をつくと、ニーナは恨めしげにスクリーンに大写しになっているマリーゲートを見つめる。
「修理してもらってからもう1回、やり直しだ。向こうで海賊やマンチーと遭うといけないから。でも、もう少しこつこつここで稼いで、アーマーを上げた方がいいかも・・・。うーーん・・。そうよね、向こうに出たとき、減っていてアーマーが300あれば、たとえ、マンチーの攻撃挺や海賊と出くわしても、大丈夫だろうから。・・多分だけど・・撃墜されない限りは・・・。急がば回れって言うし・・。」
彼女はしばし考え込む。
「でも、親父さんに会わす顔がないなぁ・・・まっ、溶けてなくなったよりは・・いいよねー・・・。」
彼女は、バーの親父さんに笑われるのを覚悟して、目的地をヒアスラにセットして自動航行に移った。


<<TO BE CONTINUED>>


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