星々の軌跡

 

その2・ヒアスラスターベース



バーキリの怪しげな?商人(兼情報屋)イチキ
COSMOSさんからいただきました。いつもありがとうございますm(__)m


 ニーナ・シャピロの乗った船『ジョリー・ロジャー号』はサンレーサータイプ。つまり偵察挺だった。オーナーズ・マニュアルを見つけるとニーナは早速目を通し始めた。
*全長12m
*排水量14t
*アーマー超電導セラミック製・300ユニット

 「・・ふーーんそっかぁ・・衝突や熱によるダメージを構造全体に均等に広げるんだ。何々?500ユニットまでグレードアップ可能・・か。」
*ビーム砲:ガーネット・レーザー(10mw/ns)
     (オプションでグレードアップ可能)
*ミサイル:スタンダード発射筒

 「でも今武器庫は空っぽなんだよね。それに・・ガーネット・レーザーじゃ、心細いな。フォースシールドは前面のみ・・・か・・後ろにも必要ね。ECM(Electroniccoutermeasure)レーダー妨害装置(敵のミサイルのエネルギー探知機妨害装置)はオプションかー。」
*推進力:ラジオニクス冷却溶解炉 無原子炉ドライブ
*加 速:0.20G標準(ターボ・ブースターへのグレードアップ可)
*積荷用ポッド:4基(8基まで増設可)

 「うーん、グレードアップしたい物ばっかり・・で、結局お金なのよねー。手元には・・1500クレジットしかない。ミサイルも必要だし・・。とにかく稼がなくっちゃ。え〜と、」
マップを見ながら一人でぶつぶつ言いながら考え込むニーナ。
 「よし!一番手っ取り早い方法、貿易商でもしていこう。あまり儲からないかもしれないけど。海賊なんてなる気はないし、その反対のハンターも、ちょっと私じゃ無理があるみたいだから・・。やられちゃうのがおちだろうしねー。ということでっと・・まずは、ここヒアスラ・スターベースかな?通商組合の会員証は持っているから、後は正式なスターパイロットのライセンスと、商売がやりやすいように通関手続き申請書よね?確かヒアスラで発行してるって聞いたっけ・・。」

 艦の操縦方法もマニュアルで理解したニーナはナビゲーション・コントロールに移るとヒアスラ・スターベースを目標にセットした。多分6日くらいで到着するだろう。自動操縦にまかせてニーナは少し休むことに決めた。途中もし攻撃を受けるようなことがあればALARTがなり自動的に航行を停止する仕組みになっている。
そのようなことがありませんようにと祈りつつ彼女は眠りについた。


 そして、ニーナは幸運にも何事も起こらず無事ヒアスラ・スターベースのセクターに着くことができた。が、問題が1つあった。それは、スターベースへのドッキング。プリンセス・ブルー号で見習いとしていろいろ経験を積んではいたのだが、未だにステーションへのドッキングは体験してなかった。自動航行から手動に切り換えたニ−ナはまず、TACを起動させ、艦のいるセクター内の探索をした。スターベースまでの距離は2,037mと表示されている。が、メインスクリーンには、宇宙空間が写っているだけ。
どうやら艦は反対方向を向いているらしい。彼女はレバーを引くとTACの指示通りに向きを変える。そしてなんとかメインスクリーンにスターベースが映し出される位置に移動完了した。
巨大なそのスターベースは宇宙空間に築かれた先進都市である。緑色のピラミッドが2つ、真ん中の白く輝く支柱を挟むような形に造られたベ−スだ。
「よーし、これで後は、上手くポートのナビゲート・ポイントにドッキングすればいいわけなんだけど。ドッキングさえすれば後は自動誘導システムに任せておけばいいんだし・・。確か、スターベースのナビ・ポイントは、真ん中の白いところだったよね。それと、スピードを落として・・と。」
彼女は大きく深呼吸をすると操作を開始した。レバーを握る手に力が入ってくる。目はスクリーンにくぎづけ。少しずつ近づいてくるヒアスラ。計器の音しかしないコクピットに、彼女の心臓の音が響き渡っているのではないかと思うくらいだった。
(あと、600・・450・・200・・ナビ・ポイントから外れないように!)彼女は祈る思いでレバーの操作をし続けた。と、その途端、カーブしたときの慣性で頭に描いた進路からそれてしまった。

−−ズッガァァァァン!!−−
見事にスターベースのシールドにヒット!
「し、しまったぁー!」
叫んだ時はもう遅い。が、幸いダメージは少なくアーマーが少し落ちただけだった。航行には支障がない。
「ふ〜〜〜・・」
彼女はため息をつくと再び挑戦する。
2回、3回・・失敗が続く。
ヒアスラから約800mのところで彼女は一旦船を停止させると大きく息を吸い込んだ。
「ここで諦めたら何も始まらない。このまま燃料の尽きるのを待ち宇宙の藻屑となるか、それとも僚船かベースに救助信号を出すか、なんだけど・・そんな恥をかくわけにはいかない!これでもスターパイロットの端くれなんだから!それに、それにどうあってもみんなの仇をとらなきゃ!」
彼女はレバーをぐっと握りしめ、今一度ヒアスラを睨み付ける。
「もういい加減失敗は許されない。これ以上のダメージはもう受けられない。」
「よーーーーーしっ!」
700・・400・・・150・・・、
「やったぁー、ドッキングできたぁっ!」
今までのような衝撃もなく、船は静かに誘導されていった。

 数分後、船は無事ヒアスラのポートに着いた。積み荷も何もないので下船許可はすぐおりた。
慣れない操縦による悪戦苦闘の為か、はたまた極度の緊張の為か、おそらく両方なのだろうが、彼女は喉がからからだった。そこで彼女は、ポートを離れるとまずバーを探した。バーの案内板はすぐ彼女の目に止まった。
『ヒアスラの居酒屋、トゥエルブ・スラスターにようこそ!!』
ドアを開けると彼女は真っ直ぐカウンターに向かって歩いた。

その彼女にフードをすっぽりとかぶった男が声をかけた。
「これは、これは。人間の方ですね。初めまして。私は貿易商を営んでおりますバーキリのイチキと申します。ここへは初めて立ち寄られたんでしょうか?」
「えっ?は、はい、そうですけど・・」
彼は、160cmほどの彼女より一回りも小さく痩せている。顔は人間のもののようともは虫類がかかったようなものとも言えるが、目は、まさに猫のギョロ目である。丁寧にお辞儀をし、再び顔を上げにやっとしたようにニーナを見た。その何一つ見逃さないぞとでも言っているような目が光る。
「私の売り物は知識です。重大な秘密や正確で非常に有益な知識を売っております。何かお知りになりたいことはございませんでしょうか?」
言葉とは対照的にへへへと下品に薄ら笑いを浮かべイチキは手を揉んだ。
「うーん・・聞きたいことはあるけど・・」
「あるけど?」イチキの目が一段と光った。
「クレジットが足りるかどうか、それに今あるのは私の商売の資本金ってとこだから、あんまり使うわけにはいかないのよ。」
「では、誠に残念ではございますが、今回は取引なしということで。」
彼の目はあくまで取引しないと損だよと言っているようである。
「ちょ、ちょっと、待って。せっかくなんだしぃ・・。」
慌ててニーナは彼を引き留める。
「けっこう、けっこう。」
イチキはしてやったりというように目を細めながらにやっと笑った。
「で、あなたはどのようなことを知りたいのですか?」
「じゃぁ、まず、ジョリー・ロジャー号の事について」
彼女は今自分が乗っている船について聞いてみることにした。疑問だらけには違いないから。
「申し訳ありませんが、それについては、取り引きできるような情報を持っておりません。」
少しも申し訳なさそうな顔はしていない。
「なんでも知っているんじゃないの?」
ニーナの口調が無意識に強くなった。
「さほど重要と思われないようなことには感知しておりませんので。それはごく個人的な事かと思われますので。はい。」
そのにやっと笑うイチキにニーナは異様な恐怖心を抱いた。
「じゃ、じゃぁ、マンチーの事は?」
彼女の母船を一瞬にして消し去った異種族マンチー、謎とともに決して忘れることのできない、いわば仇なのだ。両親のいない彼女にとって家族同然のいやそれ以上だったのだ、プリンセス・ブルー号のクルー達は。それを、ただの貨物船にすぎないブルー号を寄って集って一瞬にして消し去ったのだ。たとえ、帝国と反目しているとは言え、普通では考えられない事なのだ。その理由、たとえ小さなヒントでもいい、彼女はほしかった。
彼はひょいとおじぎをすると満足げに話し出した。
「マンチー、マンチーですか、彼らはうちのお得意さまです。私はマンチー星に行った事もあるくらいです。確かに貴重な情報です。これはクレジットではお譲りすることはできません。珍しい品物とならお取り替えいたしまし
ょう。何か持っておられますか?」
「何かって言われても、珍しい物どころか身の回りの物さえもなくって・・。」
今彼女の手元にあるのは、ジョリー・ロジャー号とその船内にあった備品だけだ。クルーの服以外自分自身の衣服さえない状態なのだ。そしてわずか1500クレジットのお金。
彼は揉み手を止め、一瞥するといんぎんに言った。
「では仕方ありませんね。この取り引きはなかったという事で。」
彼女が何か言おうとしている間にイチキはさっさとバーを出ていってしまった。

「ははははは、ぼうず、やつに見切られたな。」
気さくそうなバーの主人がカウンター越しに笑いながら話しかけた。ちょっと太り気味の気のよさそうな中年の男。
彼の声につられるように彼女はカウンターのイスに座った。
「よく来るんですか、あの人?」
視線をイチキが出ていったドアから、主人の方に移しながら彼女は聞いた。
「そうだな、ちょくちょく来るよ。なんといってもヒアスラはカロノス星系一の基地だからな。それなりの情報も入りゃ、お客さんも多いからな。ところで喉が乾いてるようじゃないかね、何か呑むかい?俺のとこはアーム帝国一のビールが置いてあるんだよ。」
「ビ、ビールですか、あのぉ・・アルコールじゃないのはないんですか?ミルクとかジュースとか、それともコーヒーとか紅茶、なんてあるわけない・・ですよね?・・あはははは。」
ニーナの声はだんだん消えそうな声になっていった。
「おいおい、ぼうず、このファーアームじゃぁ、酒くらい呑めなきゃやってけないぞ!見たとこまだ若いようだが、いけるんだろ?」
「呑めないってことはないんですが・・・。」
今はアルコールより普通の飲み物の方がいいなと思った彼女だった。
「それでこそファーアームの星々を渡り歩くスターパイロットってもんだ!グリーンヘッドとブラッブライト、それにリゲリアンがお薦めだが。どれにする?」
困惑顔のニーナには全く構わず主人はメニューを彼女の目の前に差し出した。
「じ、じゃぁ、グリーンヘッドっていうのを。」
「よっ、なかなか目が利くじゃないか、ほらよ。」
コポコポコポコポと気持ちのいい音をさせながらグラス注いだ。
「さぁ、ぐいっといきな。大丈夫だって。これは軽い方なんだから。喉がすっきりするよ。」
言われるまま彼女はグラスを持つと、乾いていたせいもあったのか一気に飲み干してしまった。
「ふーーーっ・・」
確かに口当たりもよく、喉の通りもとてもよかった。
「なんだ、なんだ、いける口じゃぁないか。もう一杯どうだ?その呑みっぷりに惚れたねぇ。気に入ったぜ、こいつは俺のおごりだ。」
返事を待たず主人はなみ々とグラスに注いだ。
「さぁ、ぐ、ぐっといきな。」
彼女は一瞬ためらったものの主人の気迫に押されまたグラスを干した。
「ん、おいしいね、これ。私気に入っちゃった。」
「そうだろ?」
主人も嬉しそうに、お代わりを一気に呑んでいる彼女を見ている。
「ん、ホント、おいしいよ。ホント、ホント。」
3杯、4杯・・彼女は次第に舌が回らなくなってきた。
「おっかわりぃーーー・・」
「おいおい、ぼうず、そろそろそのへんにしておいた方が・・?」
酔いがまわってきたニーナを心配して主人が止めた。このままではどのくらい呑むか検討もつかないように思えた。それにそろそろ閉店の時間でもある。他の客はもう誰もいなくなっている。
「なぬ?呑めって言ったのはそっちの方だろぉ?・・注いでよったら、注いでよぉ・・むにゃむにゃ・・・」
「参ったなぁ、酔いつぶれちゃったよ。・・まさかこんなになるとは・・。」
主人は少し後悔しながらため息をついた。
いくら揺すっても起きようともしないニーナ。仕方なく主人はニーナを起こすことを諦め、毛布を掛けてやると、戸締まりをして店の奥に入って行った。
電気も消されたバーのカウンターで彼女は一人夢を見続けていた。


<<TO BE CONTINUED>>

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