星々の軌跡


その1・残された道



 ファーアーム・スター・クラスター、アーム帝国に属し、8つの星系がマリーゲートネットワークで結ばれた開拓地である。
8つの星系とは、ファーアームを統治している公妃アベンスターの住居のあるデネブ星系。
ヒアスラ皇帝付のオレリアン氏を司令官とするヒアスラ・スターベースのあるカロノス星系。
豊富な資源を誇るグリフォン星系。
帝国艦隊の輝ける法のシンボル、航空母艦コスが常駐しているアークチュラス星系。
帝国内で最も純度の高いチタニウムを産出しているナーシー星系。
フリーギルドの拓殖地であるバスルチ星系。
環状の自治拓殖地シギュア星系。
そして高名な引力物理学者ゾリア・プロスク博士の研究所のあるゼッド星系である。
宇宙暦2217年、リーディング・エッジ号がシギュア星系のイオン・ストーム内で星系間をそのワームホールで繋ぐ(トンネル状のワープ通路)マリーゲートを発見、その後の調査によりその安全性が確かめられ、また次々と新しいゲートの発見により、短時間での星系間移動が実現可能となった。
現在12のマリーゲートネットワークによりファーアームは繋がっている。


 17歳になったばかりの少女、ニーナ・シャピロは、小型艇のコクピットでじっとメインスクリーンに映る宇宙空間を見つめていた。いや、正確には、彼女の目は何も捕らえていない。今起きたことが信じられず、その思考は停止し、心は空虚に満たされていた。
一瞬にしてマンチー艦に囲まれ、その集中したエネルギー波により消え去った彼女の母船、プリンセス・ブルー号。漂流艇であるこの船に調査のため乗り移った時の二等航海士ジャンからの最後の交信が彼女の頭の中を駆け回っていた。
「Good luck!! 片づいたら一杯やろうぜ。」
が、オープンになったままの無線機からは何も言って来ない。そう、帰るべき船はもうない。そして見習いとして乗船してからずっとかわいがってくれていたクルー達も。
「頑張れよ、ぼうず!」
どじを踏んで落ち込んでいるといつもそう言って誰かが励ましてくれた。
ほんの数分前は確かにいっしょにいたのだ。漂流艇の調査などすぐ終わるはずだった。
そのほんの数分の別れが、まさか一生の別れになるとは、誰が予想しただろう。
「頑張れ!ぼうず!」
ふと、後ろからそう言われたような気がして彼女は振り返る。
が、そこにはいつものように「ぼうずじゃないって言ってるでしょっ!」と言い返す相手はいなかった。
が、どうやら放心状態からは抜け出たらしい。
改めて船内を見渡す。と同時に、彼女は今起きたことの整理をし始めた。異種族ではあるが、マンチーは何故ただの貨物船であるプリンセス・ブルー号などを襲ったのか?交戦的な彼らのこと、何故と言う方がおかしい。だが、あれだけ大群で襲ってくるということは今まで聞いたこともない。それにこの漂流挺、武器庫は空っぽというものの他はどこも故障などなくスターシップとしてりっぱに使えるのに、それを放棄してクルー達はどこへ行ったのか?一体何が起きたのか?
現状では何一つ想像できえぬ事ばかり。彼女に分かっていること・・・それは、ひとりぼっちだということ、ひとりでなんとかして生きていかなくてはならない。
そして、所有者不明の漂流艇は、発見者のものとなるというサルベージ法の適用により、この船の所有を認められるということ、この2点だけだった。
 「とにかく船内をもっと詳しく調べよう。」
ニーナは重い足取りで船内を調べ始めた。

 

<<TO BE CONTINUED>>

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