Stardust Stargazer
−星屑(ほしくず) 星見人(ほしみびと)−


 
その34・イザム一人 
 
イラストbyくずは

 「ねー、リオ、ぼく思ったんだけど・・・」
「なんだ?」
ワープアウトポイントに向かう途中、イザムはふと気になったことを口にした。
「リオって鋭い犬の嗅覚みたいに、特定の人の思念派を感じることができるんだったよね?」
「あ?ああ・・・ただしのほほんとしたもんじゃだめだぜ?なんか、こう・・・特別鋭いというか深いっていうか・・・それだけ際だってオレの気をひいてくれるようなものでないとな。」
「そうだよね、思念派なんてきっと空間にはたっくさん流れてるよね?セレスたちの電磁波みたいに?」
「ま・・・霊魂はその辺りにいっぱいいると言う人もいるから、そんなもんなのかも。感じる人には分かるけど、そうでない人には何もない空間でしかないってね。」
「うん。」
「で、それで?」
「あ、このワンポイントボタンからの通信は大丈夫なの?」
「その点は大丈夫さ。連邦諜報部で使ってる特殊なチャンネルだよ。」
「そっか。」
「で?」
「あのね、リオが感じるその思念派の持ち主は、リオを感じるってこと・・ないの?」
「ああ・・そのことか。そうだな・・・その人物によると思うけど。つまり、自分のある特別な思念を誰かが受けていると感じるとか?」
「それで、リカルドの船に捕まってるマイはどうなの?」
「彼女は・・・」
そう思った瞬間、おぼろげだが、リオの脳裏にどす黒い敵意むき出しのマイの顔が写った。ぞっとするようなその感覚は、明らかにお互いの思念派がつながっていることを意味していた。
「たぶん、こっちを感じてるんじゃないかな・・・」
「じゃーさ・・じゃー・・ぼくたちがワープアウトするポイントも出る時間もリカルドに分かっちゃうんじゃない?」
「・・・そう・・・・・つまりは、一番心配してる”ワープアウトと同時に敵船とご対面”あるいは、奴らの待ち伏せが待っている可能性が高いってことだね。」
「だから、リオがぼくの盾になってくれるの?」
「イザム?」
イザムの口調に悲痛な叫びのような声を聞いたようなきがし、リオは聞き返した。
「ぼく、そんなのイヤだ!もう誰もぼくの犠牲になってほしくない!だから、だから、ぼく一人でいく!」
「ダメだ!攻撃されると分かってるのに、キミ一人を行かせられないよ!」
「大丈夫だと思うよ。」
「大丈夫って、何が?」
「だって、リカルドもマイの本体を探してるんだ。だからきっとぼくは殺さない。マイの気をひくためっていうか、ぼくを殺せばマイはきっと絶対リカルドのことを許さないだろうから・・・だから、きっとぼくは大丈夫。そりゃ少しは攻撃されるかもしれないけど、向こうの誘導の通りにすれば、きっと何もしてこないと思うよ。」
「・・・・」
確かにそれはリオも分かっていた。
「でも、リオは明らかに敵だ。邪魔者でしかないから、だから・・殺られちゃうよ?」
「連邦エリート諜報部員の腕を信用しないのか?」
「それは信用してる。でも、多勢に無勢だよ?戦闘が長く続けば続く程、無理だよ。」
「・・・難しい言葉も知ってるんだね?確かに多勢に無勢だけど、負けるとは限らない、そうだろ?」
「そうだけど・・・でも、やっぱりぼくだけで行くよ!」
「イザム!?」
「ぼくだけならきっとすんなり船に入れてもらえる。マイにも会わせてもらえる。」
リオははっとした。焦っていたのだろうか、その当たり前のようなことが全く思いつけなかった。
「そうしたらね・・ぼく・・・・」
「油断してる時を見計らって、セレスと協力し、奴の船のシステムを操作して、オレの船の探知をできないような状態にして、貨物庫のドアでも開けて迎え入れてくれるってか?」
「うん、そうだよ!ね、いけるんじゃない?」
「・・まー・・・可能性はあるが・・・」
「大丈夫、うまくリカルドに取り入るから。」
「取り入るって・・・・」
「本物のマイとのキューピッドになってあげるとか言えば喜ぶんじゃない?ぼくは味方だって思いこませちゃう!」
「・・・イザム・・お前ってやつは・・・・」
どこをそう押したらそんな悪知恵が出たのだろう、とリオは思わずため息をつく。
「決まりだね!そうと決まったら一人で行かせてよね。リオはこのままワープで少し離れたところまで行って一時待避してて。」
「そうだな、じゃー、任せていいか?」
「う、うん・・・もっちろん!」
「声が震えてるぞ?」
「き、緊張してるだけだよ!」
「そっか。」
幼いイザムが恐怖をこらえ決意している。不安はあったが、リオはイザムの計画にかけることに決めた。
それは確かに危険性も孕んではいるが、最上の策でもあった。
「オレは、奴らにキミの船の位置を明らかにする為にもワープアウトは一緒にしよう。」
「え?」
「オレがいなきゃ、向こうのマイのレーダーも働かないよ?」
「あ・・そっか。」
「で、オレはすぐワープするから、あとは・・一人だぞ?いいのか?」
「う、うん。大丈夫。巧くいったら連絡するから、そうしたらなるべく早く来てね。」
「了解♪あ、1つ質問していいか?」
「なに?」
「オレの思念派を読み取り、潜入しようとしていることにマイが気づいたら?」
「マイが気づいてもリカルドや船のクルーにそのことを知らせなければいいんだよね。だからその間、マイと二人っきりになれるようになんとかするよ。そうすれば、リカルドがマイからその情報を引き出すこともできないし、リオたちが言うように、もしもマイがリカルドの言うとおりになってたとしても、2人が離れていれば、マイも教えられないでしょ?」
「そうだな。」
・・・海賊船での学習の成果か?・・・リオは思わず苦笑した。
「で、探知機でぼくたちがいる場所を見つけてくれれば、あとは一緒に逃げるだけさ!」
言うは易し・・・そうこっちが思った通りに展開してくれればいいが、と思いつつも、他に手段はない。それに一度決意したその心に火がついたイザムはリオの言うことには耳を貸しそうもなかった。

「じゃ、ぼく行くよ?」
「あ、ああ・・・気を付けて行けよ!無理はするなよ?もしも予定通りに運ばなかったとしても、おとなしくして待ってるんだぞ、絶対助けに行くから!」
「うん!」


そうしてリオは断腸の思いで、イザム一人をリカルド船がいるだろうと思われる宇宙空間へ飛び立たさせた。


・・・オレを巧く丸め込んだつもりか?分かってるんだぞ?一人でマイを助けるつもりだろ?さっきの考えでいけば、それも十分可能だという結論をはじき出してるはずだ。通信でオレを呼んでる間に、マイを連れてさっさと逃げてしまえばいいんだからな。探知オフにしておけばオレの船が近づくこともセレスで逃げることも同じだからな。・・・・ただ、オレが心配してるのは、あの船にいるマイが、イザムを育ててくれたマイのままのマイでいるかどうかだ。

悪意と憎悪・・・彼女から受けた思念派から、リオはリカルドに捕まる前のマイであるはずがないと確信していた。
が、どちらにしろイザムに手を出すようなことはないだろう、それも確信のあることだった。

・・・彼女が前のマイのままで、2人して逃げ出して来られるのならそれでいい。
でも、もしも違っていたら・・・ううん、同じマイであるはずがないのよ。
・・イザム・・・行かせるべきじゃなかったかもしれない・・・・。ほんとに言い出したら聞かないんだから。誰もが、もう元のマイじゃないだろうから無視しろって言うのに・・助けるって聞かないんだから・・・・。元のマイじゃなくなってても、助ければきっと元に戻るからって・・・イザム・・・・・本当に意固地なんだから・・・・・。

それでも、そう・・・たとえどんなに困難な状況になろうとも、必ず助け出すから・・イザム、無茶はしないでね・・・おとなしくしてさえいれば、あなたはきっと大丈夫だから・・・(おとなしくしていそうもないから心配でしかたないのよ・・・)

リオ(マリノーラ)は、前方を飛ぶセレスを悲痛な表情でじっと見つめていた。



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