Stardust Stargazer
−星屑(ほしくず) 星見人(ほしみびと)−


 
その33・ワープ航路の中で 
 

 「イザム、リオだ。聞こえるか?聞こえたら返事をしてくれ。」
「え?リオ?」
ワープ航行へ入っていたセレスのコクピットにリオの声が響いた。
「セレス?通信チャンネルは全てオフにしたんだよね?」
「その通りだ、マスター。但し、私が制御できるシステム内に限られる。」
「ということは・・この声は他にも通信システムがあるってこと?」
「イザム、誤解しないでくれ。オレは引き戻しに来たんじゃない。」
「引き戻しに来たんじゃないって・・・え?リオ、着いてきてるの?」
「探査船とセレスじゃー、引き離されるだけだが・・・軌跡は残るからついていけるだろう。」
「リオ?どこから通信してるの?」
「切らないと約束してくれるのなら教えるけど?」
しばらくイザムは考えてから答える。
「分かった、ぼくを連れに来たんじゃないって言ったよね。なら切らないよ。」
「OK。キミの約束は絶対だから信じるよ。何かあったときの為に、キミの服のボタンを小型通信機にしておいたんだ。」
「え?」
思わず胸元を見るイザム。
「どれ?」
「ポケットのところの飾りボタンさ。」
「え?・・・こ、これ?カッコいいんで気に入ってたワンポイントだよ?ボタン型通信機の形のボタン・・・・・・」
くすっとリオの笑い声が通信機から聞こえた。
「は、は〜〜ん・・これが灯台もと暗しっていうか、なんていったっけ・・・・同じようなものの中に隠しちゃうという意味のことわざ・・・忘れちゃったけど・・・・」
「なかなかいい趣向だろ?ワンポイントのおもちゃの通信機型ボタンが実は本物の機能を搭載していたってさ?」
「すごいや!さすがエキスパートスパイさん!」
「あはは。ところでぼくが連邦調査部員だってことは、どこまで聞いてる?」
「どこまでって・・・ぼく、その説明してもらったとき、ぼくがマイの犠牲になっちゃったってことがショックで・・・覚えてるのは、艦長の命を狙って潜入してきたんじゃなくって、ぼくとマイの事で、人類の未来がかかってしまったそのことの調査とぼくとマイの保護で来たことくらいしか聞いてないよ。あ、あとは、あらゆる方面でエキスパートの域まで知識と技能を身につけているスーパースパイさんってこと・・かな?」
「あんまり過信しないでくれよ?キミみたいに電子頭脳との交流はできないしね。」
「でも、コックの腕もすごいじゃないの。ハンコック長も目を丸くして談話室で話してたよ?」
「ほんとか?いっつもどなられてばかりだけどな?」
「あはは、そうなんだ?」
「そうだよ。いっつもなんだかんだと怒鳴り散らして・・・・・は、いいとして、本題に入ろう。」
「うん・・・」
何を言われるのか、イザムは思わずごくりと唾を飲み込む。
「今、キミはリカルド船の進路を追ってるんだよね?」
「うん。データはどうしたんだ?」
「セレスに協力して貰って、ヨルムガドのマザーとアクセスして分析データをコピーしてもらったんだ。」
「なるほど。キミとセレスがいればなんでもできそうだ。宇宙を手中に収めることなんか簡単そうだな。」
「ぼく、そんなことしないよ!」
「ああ、分かってる、分かってる!」
真剣に怒りの声で怒鳴ったイザムに、リオは慌てて謝る。
「で、進行方向はいいが、ワープアウトポイントは?把握してるのか?」
「あ・・・・・え、えっと・・・セレス?リカルド船のワープアウトポイントはマザーのデータの中にあった?」
「進行方向及び予測可能なワープスピードのみだ。」
セレスの機械音声が答えた。
「じゃー・・・リカルド船はもうこのワープ航路を出てしまってることも考えられるの?」
「ワープ航路に入った時点のスピードから換算した最短出口の予測はできるが、それ以上となると不可能だ。」
「・・・・・・・」
言葉を失ってしまったイザムにリオはゆっくりと言った。
「オレの得意体質、思念派の感知のことは聞いてるよな?」
「うん。」
「ドクトル特性のコンパクト脳波レーダー(ドクトル命名)を失敬してきてるんだ。それがあればワープアウトポイントの割り出しは可能だ。」
「え?ほんと?」
嬉しいあまりその言葉に飛びつくようにイザムは思わずボタンを手にして話してしまう。
「でも・・・・」
そして、その機器をつけ、思念派を探るということが、レーダーのようにデータ化して抽出する為、相当な負荷がかかることを思い出し、心配顔になる。
「大丈夫なの?今船の操作もしてるんでしょ?」
「ワープ航路は至ってスムーズな事が多い。途中で移動航路に突入してきたモノが障害となったり、攻撃しかけてこなければ、だけど。だから、たぶんオートセットしておけば、船の方は大丈夫だと思う。一応ワープスピードを維持できる限度の低速まで落とすつもりだけど。」
「分かった。まず出口を見つけなくっちゃね。じゃーこっちも速度を落とすから。」
「助かった。探査船と最新鋭戦闘機じゃ最速スピードが違いすぎるから、離されるばかりで焦ってたんだ。戦闘機を失敬してきちゃ世話になったイガラに悪いと思ってさ?」
「あはは、おかしなところで遠慮したんだね、リオも。」
「あはは、そ、そうなるかな?どっちにしろ失敬するには違いないから、戦闘機でもよかったかな?」
「でも、やっぱり一隻にかかる費用が違うよね?」
「イザム・・・どう言いたいんだい?」
「あはは、ごめん、ごめん。」
「とにかく、今から分析を掛けてみる。ちょっと待っていてくれ。」
「うん。」

「セレス、後方の探査船までバックできる?できたらすぐ横に付いて平行飛行したいんだけど。」
レーダーで探査船の船影を確認するとイザムはセレスに命じ・・いや、いつものことで頼んだ。
「了解、マスター。」


そして、数十分後。
「OK、出口が判明した。データを送るからヨルムガド専用通信チャンネルをオープンにしてくれないか?」
「OK、いいよ。」
通信パネルを操作し、データをセレスに記憶させる。
「これで出口は分かったわけだが、Nスペースに出てからは分かっていない。」
「うん。」
「連邦エリアからはずいぶん離れた辺境宇宙だから、宇宙海図もない。」
「うん。」
「それは向こうも同じだろう。一気に連邦エリアまでワープするということもないだろうからな。何しろあの惑星の調査に戻らなければならないことは向こうも同じだ。」
「うん。」
「出口を出たら目の前に奴の船があるかもしれない。」
「うん。」
「総攻撃を受けるかもしれない。」
「うん。」
「・・・それでもいくか?」
「うん!」
力一杯、元気いっぱい返事をしたイザムに、リオは思わず口元をほころばす。
「OK、じゃ、まずはオレが先頭でワープアウトするから後についてきてくれ。」
「え?」
「これでも調理だけじゃなくって、戦闘経験も豊富にあるんだぞ?」
「あ・・あはは・・・・そ、そうだね、エキスパートスパイさんだったね。」
「ワープアウトした時の状況は、いくらセレスがついているとはいえ、オレの方が的確にでき、且つ指示できると思う。」
「そうだね。リオに任せるよ。」
「おっけー♪じゃ、ともかくポイントまで仲良く飛行といこっか?」
「おっけー♪」
データ抽出後は30分ほどの絶対安静が必要なほど、精神的に負荷がかかっているリオだが、現状ではそんな事も言っていられない。ともすればグレイアウトしてしまいそうな自分を阻止する為に、強力な精神活力剤を3本ほど自分に打つと、目と心に渇を入れ、前方を見つめた。



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