Stardust Stargazer
−星屑(ほしくず) 星見人(ほしみびと)−


 
その26・共同戦線 
 

 「だから、今私がこうしているのも、この職業についているのも全ては人類の未来をかけたサンプルとなってしまったイザムの・・・・・・・」
立て続けに話していたのを不意に止め、はっとしたように言葉を飲み込んだマイレリアにイガラは意味深な笑みを見せる。
「眉唾な話とは思ったが・・・堰ききったように話していたのを不意に止めたのは我に返ったからか?」
「・・・・・・」
返答に困りマイレリアはただイガラを見つめていた。本当にさわりを話すだけのつもりがいつのまにか熱弁してしまっていたのだ。つまり洗いざらい話してしまっていた。
「これもオレたちが初めてあの地下であったときの不思議な感覚のなせる技か?何か・・そうだな・・魂レベルでオレたちはなんらかのつながりがあった、もしくは、ある、ということなのか?」
「・・さあ?どうだか?」
話してしまったことは今更どうしようもない。腹をくくりマイレリアは肩をすぼめて苦笑する。
「眉唾な話をあなたは信用するの?」
さぐるようにマイレリアはイガラを見つめる。
「初めはそう思ってたが、不意に口を閉ざしたあんたの表情から、まんざら嘘でもなさそうだと確信したが?」
「確信ね。ばかに簡単に信じたのね?それも私のお芝居だとしたら?」
「それならそれでいい。ただオレはオレの感を信じることにしてるんでな。」
「あなたの・・感・・・ね?」
「そうだ。しかし、腑に落ちんことも・・ある。」
「腑に落ちないこと?信じたんじゃないの?」
「話は信じたが、その超生命体だかその使いだか知らんが、奴らが言った言葉が、だ。」
「彼らの言葉が?」
「ああ。つまり、あんた・・でいいよな?マイレリア本体とあんたは1つだ?」
軽く頭を振って頷くマイレリアを見るとイガラは話を続けた。
「あんたは頭っから奴らの言葉を信用したらしいが、オレには裏があるように思える。」
「裏が?」
「そうだ。つまりだ・・・・そうだな、あんたが初めてこのことを聞かされたときは、まだハイスクール生だった。鵜呑みにするのも分かる。しかし、それからあんたは、特に、あんたは裏の裏といえる社会へ飛び込んだ。そのための特性、才能を強調、調整されたクローンだとしても、いろいろ苦労があっただろう。」
「まさかあなたにねぎらいの言葉をかけられるとは思わなかったわ。」
「ま、一般論だ。今は敵対してるようでもないんでな。」
「それで?」
「それで、だ・・・考えてもみないか?いや、あんたなら少し考えれば分かるはずだ。」
「何が?」
「何が・・と来たか。わざと考えようにしてるのか、それとも本体からの指令か?」
「・・・・・・」
その先を言わずじっと自分を見つめるイガラが何を言いたいのか、マイレリアもまたイガラを凝視していた。

「・・・・・サンプルは・・・・・・・・・イザムだけじゃ・・ない?」
そして、禁句を口にするかのように、自分の言葉を噛みしめるようにマイレリアは言った。
「彼らの観察対象は・・・・私・・も?」
イガラは目でそうだと答えると口を開く。
「もしくは、坊主は付属、というか、きっかけか?あんたの力を完全に開化させるためのな。そして、あんたのそれからの行動が彼らの観察対象。」
「私の・・・・」
マイレリアは考える。確かにそうかもしれない。イザムが人類の未来を左右する特殊な才能を秘めているから間違った道を選ばないよう守れと言われたが、彼女の才能もまた特殊中の特種だと改めて感じてもいた。PCとの一体化、精神の融合、そして、自分の分身とはいえ、遙か離れた場所にいるクローンに飛ばす指令。・・・指令とは少し違うとも思えたが、そう言っても過言ではないようにも取れた。
そして自分の今の立場。彼女はそれまで主に星間または宇宙間戦争や紛争を未然に防ぐ
為に、あらゆる手段を用いた活動をしてきていたが、もし、その組織力を自分、もしくは特定な機関あるいは人物の利益の為だけに使おうとすれば・・・・・それは十分今現在の宇宙連邦を動かすことができる立場にいることに改めて気づく。良きに付け悪しきに付け、確かにできうる事だ。

「今までそのことには気づきもしなかったといいたげだな?」
「イガラ・・・・」
「しかし・・超生命体の審判か。面白そうだ。興味が沸いた。」
「審判に?」
「ああそうだ。だが、単に一方的に審判を受けるなんざ面白くねー。」
「というと?」
なにやら危険信号がマイレリアの脳裏を走った。
「超生命体だか神だか知らんが、オレたちの未来はオレたちで築く。オレたちの手で開いてこそオレたちの未来だ。人類のな。たとえ未来が闇であろうとなんだろうと、自分の足で歩まんでどうする?そんな第三者に決定権を与えるこたぁねーぜ?」
「あなたの言うこともわからないでもないけど・・でも・・」
と反論しようとしたとき、マイレリアの心の奥底に、イガラに対してではない危険信号、いや、どす黒い心情が走った。
「どうした?」
その瞬間マイレリアの顔が強ばったのをイガラは見逃さなかった。
「・・・今・・・・・・・」
「本体からの信号か?あるいは他のクローンからのものか?どちらにしろあまり良くないものらしいが?」
彼女が答えに躊躇している間にイガラにそれを言い当てられ、マイレリアは薄ら笑いを浮かべているイガラを軽く睨んでから自嘲の笑みをみせた。
「ほんとにあなたって人はなんでこうなの?1を話せば10にして取ってくれる・・・。いいわ、ここまで洗いざらい話しちゃったんだから、これ以上隠し事もする必要はないわよね。しても仕方ないっていうか?」
マイレリアは今心の奥底でなにやらどす黒く濁った悪意が走ったことをイガラに伝えた。
「ふむ。本体からじゃーねーな?」
「もちろんよ。」
「とするとどこかで悪い方向の自我に芽生えたクローンか?」
「そうね。考えられるとすれば・・・」
2人は目で1つの可能性を確信しあって頷く。
現在クローンは、イガラの目の前にいるマイレリアとそして生死は定かではなかったが、リカルドにとらえられているだろうクローンの2体。
「奴らが真っ先にすることと言ゃー・・・」
イガラはマイレリアの合意を得る前に立ち上がってインカムのボタンを押す。
「ドクトル、オレの部屋へ来てくれ。至急だ。」
「はい、艦長。」
インカムの向こうで、ドクトル・ミーナの落ち着き払った声が聞こえた。


「イガラ?」
「彼らは精神の奥底でつながっている軌跡を辿って本体の居場所を探ろうとするだろう。とすれば、オレたちも遅れを取るわけにはいかねー。そうだろ?」
「それはそうだけど・・・」
「大丈夫だ。ドクトルの口の堅さは折り紙つきだ。それにそういう事はやはり専門家に任すのが一番だ。なに、イザムはなかなかしっかりしてるぞ。まだガキだが、人の意見に左右されるようなことはない。よほどしっかり教育されたんだろう。三つ子の魂百までもってな?あの真っ直ぐな正義感は、簡単には打ち破れねーぜ?」
「・・・そう・・・かしら?」
「母親がてめーの子供のことをいつまでもガキ扱いするのと同じか?あんたもクローンの域から今1歩足を進めてみたらどうだ?」
「クローンの域から?」
「そうだ。もっとも敵に回られると怖い存在だがな。だから本体がそれを許可しないのかもしれんが?」
「私は・・・・」
マイレリアはしばらく目を閉じて考えていた。
「私は・・・・・・・やっぱり人としての道を外れることはできないわ。今の私が私の意志よ。」
「そうか。ま、それはそれでいいとして、この際本体もこの船にご招待といこうじゃないか?」
「本体も?」
「そうだ。イザムを守るというならここで一緒に守ろうじゃないか。海賊船ヨルムガド、自分で言うのもなんだが、これ以上ない鉄壁な要塞だ。」
その言葉にはマイレリアも素直に納得し頷く。
「イザムは自分の足で歩いていける。そのイザムが一番今欲しているのは姉のマイレリアとの再会だ。そして、子供心にも感じてるんじゃーねーかな?なぜこういう状況にあるのか、そしてあったのか、聞きてーんじゃねーか?」
「・・・・でも、なぜ見ず知らずの私たちにそこまで肩入れしてくれるの?」
「面白いとは思わねーか?」
「面白い?」
「到底適いそうもないと思える強敵に立ち向かえるなんざ、滅多にない面白いシチュエーションだぜ?」
「イガラ、あなた・・・超生命体と喧嘩するつもり?・・ううん、神に喧嘩を売るとでもいうの?」
「悪いか?」
にまりと笑ったイガラを、マイレリアはあきれ果てた表情で見つめていた。


「艦長」
と、その時、ドアフォンを通しドクトル・ミーナの声が聞こえた。
「ドクトルか、入れ。」
誰がなんと言おうが変更はないといった表情でイガラはマイレリアを見据える。
もっともマイレリアの方も今更である。反対する意志はない。数種の懸念はあるが。
「さて、本体の保護作戦を練ろうじゃないか。向こうに先を越されんうちにな。」
向こう、つまりリカルドの陣営・・もう1体のクローン。
そのことに思いを馳せた瞬間、マイレリアの全身をぞっとする悪寒が駆け抜けた。




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