Stardust Stargazer
−星屑(ほしくず) 星見人(ほしみびと)−


 
その25・宇宙岩石亀狩り 
 

 「艦長、リオです。」
「入れ。」
リオが乗船してから1月が経っていた。その日、夕食の後かたづけを終え、自室に戻ってリラックスしていた(それとも諜報活動の準備をしていた?)リオは、イガラに呼ばれ船長室を訪れる。
クルーたちはいざしらず、イガラには最初からばれてはいるだろうと思ってはいた。それ故すぐにでも呼び出されると思っていたリオは、まるっきり無視された感じで拍子抜けしていた。が、やはり現実に呼び出されると緊張する。
「失礼します、艦長。」
開いたドアの中に、努めて平然とした表情でマイレリアは入った。

「まー、今更だ。ここで芝居はいらねーぜ。」
館長室、つまりイガラの部屋は完璧にイガラ自身によって管理されている。盗聴器の類も100%なければ、室外へ声がもれるようなことも絶対ない。室内の様子を伺うことは不可能なのである。
あごでソファに座るようにと指示されたマイレリアは苦笑しつつ、すすめられたソファに座った。
「ま、騙しきれてるとはつゆほども思ってなかったけど。」
「乗船前のあの接触がなかったら、オレでもだまされていたかもしれないがな?」
「・・・それはどうも。褒め言葉としていただいておくわ。で?話というのは、やっぱりイザムの詳細?」
「他に何があるってんだ?ああ、リオをオレのツバメにするっていう話になら乗らないこともないぞ?」
「・・・あなたからそんな冗談が出るとは思わなかったわ。」
「いや、あのくそ度胸が気に入ってな。中身があんただと分かってなかったら、わからないぞ?」
「・・・・・・・・」
にまりと、さも愉快そうだといいたげに口の端をあげて笑うイガラを、マイレリアは思わずにらんでいた。


「艦長!」
と、そのとき、インカムのコール音が聞こえたと同時に航海士フェムーンの声が部屋に飛び込んだ。
「どうした?」
すっと立ち上がり、イガラはインカムのボタンを押す。
「ブラックホールとイオンストームのツーショット攻撃を避けるのに、ちょこ〜っとコース間違えてしまったみたいで・・・」
「珍しいな、で、わざわざ間違えたと報告してくるからには、特別な事があるんだろうな?」
「それが、間違えて出てしまったNスペースエリアというのが、宇宙岩石亀の移動コースの流れの中だったわけで。」
「ほう・・・・フェム、間違えて出た・・・・とは?、そっちの方がおもしろい話だが?オレのクルーにそんな間違えをおかすような奴がいたとは初耳だぞ?」
「艦長・・・あの・・・・・」
「ははは♪フェム、お前も甘いがオレも甘いな。」
「じゃ、艦長?」
「ああ、だが、船に穴を開かせたり傷つけたりしたらどうなるか分かってるんだろうな?」
「アイ、サー!」
「ったく・・・オレを謀るとはいい度胸だ、フェム。今度ゆっくりサシで話をつけようじゃないか?」
「か、艦長ぉ〜〜・・・・・・」
バチっ!とわざと音を出すように荒くインカムをオフにしたイガラにマイレリアは苦笑を送る。
「聞くと実際会うとずいぶん違うのね。」
「何がだ?」
「あなたよ、イガラ。血も涙もない殺戮者で通ってるあなたが、クルーには、どうやらそんなこともなさそう。」
「世間の評価なんてものは当てにはならんさ。」
「そうね。で?宇宙岩石亀の移動コースの流れの中に出たって?」
「ああ、今頃イザムが目を輝かせて出撃してるだろ?」
「なるほどね。フェム、ううん、ひょっとして他のクルーたちの何人かもそうかしら?イザムに遊ばせてやろうとしてわざとコースを間違えた?」
「おそらくそんなところだろう。ま、単に遊びだけじゃーない。セレスの性能、イザムとのコンビネーション、精神の融合度など測定するにはちょうどいい材料だ。」
「でも、あなたに相談なく、が気に入らないって顔をしてるわね?」
「勝手に思っておけ!」
じろっとマイレリアに少しきつい視線を流すと、イガラは机の上にあるパネルの中のサイドスクリーンのスイッチを入れた。

−ウィーン・・・−
風景画をほどこしたタペストリーが両サイドにたたみ込まれ、そこに宇宙空間を映した画面が現れる。

「イザム・・・大丈夫かしら?」
「なんならサポートに出るか?まさかスターシップの操縦ができない・・なんてこたぁねーよな?」
「そうね、時には追撃戦もあるしね。でも・・・・・イザムとセレスなら大丈夫そうよ。下手に出ていかない方がいいみたい。リズが横でサポートしてるでしょうから。」
「そうだな。危なくなりゃ、セレスは他の船が回収する。イザムは、リズが抱いて転移してくるだろう。」
「リズが?」
「ポータブル転送装置を装備してる。」
「なるほど・・・・さすがリズね。ありとあらゆる過程を予測していざというときの備えってわけね。」
「褒めてもあんたにうちのクルーは譲らねーぜ?」
「そんなこと言ったらこっちの命がないわ。ここにいるからリズもリズでいられる。アンドロイドだってことを気にせず自由にね。それは彼女自身が一番分かってるんじゃないかしら?トップハントしようとしても断られるのがオチよ。その前に軍諜報部員だなんて分かればその瞬間、心臓をあのバズーカで射抜かれそうよ?」
マイレリアの苦笑と言葉をイガラは無表情のまま肯定する。
「軍は相変わらず人間優位だからな。」
「ま・・ね・・・・アンドロイドは単なる道具としてしか見てない人たちがほとんどよ。私だって、ここに来て、初めて知ったわ。彼女は、私たち人間より人間らしく人生をエンジョイしてる。」
「そうだな。」
「あなたもリズがついているから、まだ幼いイザムにでも危ないことをさせられるんでしょ?艦長のあなたが信じてるんだから、私がわざわざ出る事はないわ。それに、セレスの飛行にはついていけないわ。」
「そうだな。あれはやはり船と乗り手の心が一体化してるからできる航行だろう。」
「でも、あなた、本当にイガラ?ほんの子供でしかないイザムに甘すぎない?」
「さ〜?自分でもなぜ坊主に関しては甘くなるのか・・・全く分からん。1つ分かってるのは、坊主を囲む状況に興味があるということだけだが?」
「状況ね・・・・・」
さて、どこまで話そう?どこまで話してもいいのか、とマイはイガラと鋭い視線を交わしつつ、考えていた。


「ひゃっほ〜〜〜〜〜!!!!!!」
船外では、イザムが楽しそうに宇宙岩石亀の捕獲を楽しんでいた。
彼ら、宇宙岩石亀は、餌となる小隕石群を探しては、群れをなして移動する、宇宙という広大な海に住む生物なのである。
その甲羅はダイヤモンドより硬く、分厚い皮膚は古の伝説の生き物、竜のそれより固く丈夫であり、そして後尾にゆらめく尻尾の毛は、これまた炎をよせつけない極上な織物となる。捕獲すれば高価な値で売れるが、彼らの捕獲には命をかけなくてはならない。
小型スターシップとほぼ同じ大きさの彼ら。移動時にはものすごいスピードで宇宙空間を進む。その身体の硬度とスピードで激突されたらひとたまりもない。大型戦艦でさえ悪くすれば穴が開く。通常スターシップの周囲、つまり、前後左右はシールドによって保護はされている。が、彼らの激突はあたかもシールドなどないかのように直に響いてくる。隕石群が飛来してくる方がいいというものだ。

「イザム、気を抜いちゃだめよ?彼らの体当たりをまともに受けたらセレスだってたまったもんじゃないわ!」
「わかってるよ、リズ。あんなごつごつの岩石をセレスに受けさせるようなことしないよ!もちろん本船にもね!」
「そのいきよ、イザム!海賊船ヨルムガドを守って岩石亀の川を渡りきれれば、イザムとセレスの名前は宇宙中に知れ渡るわよ!」
「そうしたら、マイのところにも情報が入る?ぼくが無事だってこと、マイに分かるよね?」
「・・・・・あ、そ、そうね。きっとね。」
楽しそうにしていても、やっぱり姉マイレリアの事は忘れていない、一日でも早く探しに行きたい気持ちをおさえてるんだ・・・イザムの言葉からそれを感じ、リズの言葉は少し出遅れていた。
「よーーし、ぼく頑張るっ!セレス、行くよっ!」
イザムは飛ぶ。宇宙空間を宇宙岩石亀の群れの勢いよく流れる飛行の間を縫うように、素早くそして優雅に。



イラスト by COSMOSさん



-INDEX- BackNext