Stardust Stargazer
−星屑(ほしくず) 星見人(ほしみびと)−


 
その24・超生命体?謎の会話とクローン復活 
 

 『今回の種のサンプルは、なかなか面白いじゃないか。』
『そのようだ。Aサンプルの少年といい、Bサンプルのその姉といい、予想外の、いや、我々の予想を遙かに上回った展開をみせてくれる。まったく楽しいではないか。』
『姉の方には、我々のサンプル対象となった弟の守護をと命じたのみだが、自分自身もサンプルであるとは、まだ気づいてはおらぬであろう?いや、どちらかというと、弟の方が付属だということを?』

人類が全く持って計り知れない広がりを持つ宇宙。自分たちが知りうる広大と思っているその宇宙が、彼らにとっては宇宙の片隅のほんの一角でしかないほどの無限な広がりを持つ宇宙、その宇宙のへそと呼ばれている聖地の聖域?薄闇に包まれたそこにそんな意識が飛び交っていた。
それは言葉であり言葉ではなく、特定なモノから目的とするモノへと飛ばされたテレパシーでもなかった。が、それでも確かに会話らしきものでもあった。
その飛び交う意識が宇宙を支配する超生命体なのか、それともまた別個のものなのか、それを判断するものさえ、そこにはいない。

『そのはずだ。サンプルBはただ純粋にサンプルAを守り、サンプルAが我々の目にかなった正しき道を歩むようにと、日々努力しておる。』
『彼ら人類の未来がかかっておると言われては、そうするしか他ないだろうが?』
『いや、それも2つのサンプルを選んだその年代だからだろう。これがあのときより数年後に我々と接触があったとしても、ここまで我々が期待するレールの上を進んでくれることもないと思える。』
『純真無垢な年代というものか・・・・しかし、サンプルAはまだまだにしても、サンプルBは、彼らの宇宙内において相当なる力をつけてきたが?』
『問題はそこだ。我々が彼女に弟を守れと言ったのは、実は彼女のその力を最大限に開花させることに目的があった。』
『そうだ。つまりは現状に注視すれば、それは多少なりとも思慮深い者であれば判断できるだろう。彼ら宇宙社会の裏表に彼女の力は伸びている。』
『そこでサンプルBが、宇宙(彼らの)をも動かせるというそのことに気づき、己の利欲のみに走れば・・・』
『そうだ。我々の審判は、サンプルAの成長を待たずして下る。』
『銀河系人類は、抹殺の対象。』
『しかし、サンプルBの思考回路は、その方向へは全くといっていいくらい向かないようだ。これもまた珍しいパターンといえよう。今までの例でいくと、幾ばくかの迷いは生じていいはずだ。』
『純真無垢なサンプルを選択しすぎたか?もっとどん欲に私利私欲をむさぼるように思えた種なのだが?』
『サンプルAもBもひたすらお互いの事に想いを巡らしておる。少し特殊すぎたサンプルだったかもしれぬ。』
『いや、我々とて芽吹いてくる種を全部滅せようと思っているわけではない。そのサンプルから将来性を認められれば、歓迎してもよいではないか。』
『そういうことだ。それに、まだまだ先がある。サンプルBが己の力を認識してからが我々の注視すべきことだ。』
『しかし、あの能力は確かに目を見張るものがある。サンプルB・・・今の彼女の能力に気づき、手に入れれば、片田舎のあの小宇宙は、いとも簡単に手に入るというものだが・・・そこに気づく者はいないのか?』
『一人執拗にサンプルBの本体を追っておる男がおるが・・・・奴に発見できるかどうか?』
『あの小宇宙は、すでにサンプルBのクローンネットワーク下にあるといっても過言ではないだろう。追っている男はそれに気づくのか?』
『サンプルBは、サンプルAを守る為にしかそのネットワークを使いそうもないが?』
『そこが問題だ。ネットワーク先のクローンがあまりにも力をつけ、自我が芽生えれば、本体のその純粋な想いだけに留まるかどうか、本体がクローン独自の自我をどこまで押さえられるかどうか、が問題となってくるであろうな。』
『いずれにしろ、今しばらくは退屈せずにすみそうだ。』
『スイーパー(掃除屋)も注視し始めたらしい。』
『彼らもここしばらく続いておる平和で退屈しているのだろう。しかし、まだ掃除対象とは決定しておらぬ。』
『いずれにしろ、少し刺激が必要だ。我々が懸念している部分を見る為に。』
『賛成だ。サンプルBはあまりにも欲がなさすぎる。』
『隠された部分こそ、我々は把握しなくてはならない。宇宙の恒久平和の為に。』
『その通り。では、サンプルBを追う男に捉えられ死に向かっているクローンの脳の蘇生を。』


ピッピッピ!
リカルドの乗るスターシップのメディカルルーム。
停止したかと思えた培養液に浸されたマイのクローンの脳に取り付けられた機器に反応がよみがえった。

「ドクター?脳が生き返ったって?」
「はい。これを。」
連絡を受け、メディカルルームに走り込んできたリカルドは、それを確信していかにも嬉しそうに微笑む。
「マイ・・素敵だよ、キミの(クローンの)その生命力。でも、少し妬けちゃうよ。だって、脳死判定基準に達した脳に、イザムの情報を流したら復活するなんてさ?弟なんだよ?恋人ってわけじゃないのに、そこまで反応するなんて、ショックだよ?・・ああ、でも、相手が恋人だったらもっとショックだろうな。きっとその恋人を八つ裂きにしてしまう。」
不意にマイの怒った顔がリカルドの脳裏に映り、彼の表情は母親に怒られたいたずらっ子のそれになる。
「大丈夫、キミのイザムにはそんなことはしないよ。キミを怒らせたくないからね。キミの大切な弟なんだから。・・・とにかく、もう少しの辛抱だよ、ぼくが案内人(クローン)を(ぼくの言うことに従順なクローンとして)完璧に蘇生させて、キミ(本体)に会いに行くまで。そうしたらキミは自由さ。弟の保護者から卒業するんだ。」
脳停止したそれに超生命体からの蘇生措置がなされたなとどは思うわけもなく、リカルドは自分の施した処置に満足しつつ、これから先の楽しみに舌なめずりしていた。



イラスト by COSMOSさん



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