Stardust Stargazer
−星屑(ほしくず) 星見人(ほしみびと)−


 
その23・どさくさまぎれの危機回避 
 

 (っとと、いけない、いけない、こんなことくらいで動揺してちゃ、泣く子も黙る秘密諜報部員の名が廃るわ<え?)
ほんの数秒、イガラを見つめたままだったマイ、リオだったが、すぐ我に返る。このくらいの危機は危機のうちに入らない。後ろめたい商売(笑)にどっぷり使ってる彼女、いや、彼(笑)にとっては、日常茶飯事感覚?。これくらいで、しっぽをだすようでは、とっくの昔に首になってるか、あの世へ逝ってるだろう。
(相手がイガラだってことで緊張しすぎね?)
ふっと軽く自嘲の笑みを浮かべると、リオはくるっと向きをかえた。

「おい!どこへ行く?」
「どこって?コックが行く先は決まってるだろ?調理場さ?」
「は?」
すたすたとイガラの前から歩き去ろうとしたリオに詰問するように声をかけたクルーの一人が拍子抜けしたような声をだす。
そして、数分後、調理場から、大皿に特大の真っ赤に熟れたイチゴをのせた皿を持って出てきたリオに、再びクルーたちは目を丸くする。
さすがのハンもリオの行動の意味がわからず唖然として見つめ続けている。

「はい、練乳をたっぷりかけた特大イチゴのデザートだ♪脚気になんないようビタミンはたっぷり取ろうな。それから、イライラ度には糖分とカルシウムの補給だな。新入りはまず疑ってかかるのが基本だろうけどさ?天下の不死身の大海賊イガラが、せこせこ自分の身を案じるなんざ似合わねーぜ?」
「おい!」
聞き捨てならない!とでも言うように、クルーの一人が、リオのその言葉に反応して声を荒げた。
「バカでかいイチゴだが、まさか遺伝子培養モンじゃーねーだろうな?」
が、それも涼しい顔でイチゴに視線を移しつつ、口をきいたイガラの行動によって、今にもリオに飛びかかりそうだったクルーは、その先の行動を遮られたことになった。
「美食家が揃ってるこの船に、そんなもん仕入れちゃ、ハンコック長の顔に泥を塗ることになっちまうよ!ガラノッサ星、ハーマン農場のヘビイチゴとカラカス牧場のカウシープの乳で作った練乳さ。」
「なるほど・・ガラノッサのハーマン農場か・・・・よく市場に出回っていたな?こんな上等なやつが?」
「ははは♪ヨルムガドの名前をだしたら、気前よく(ほんとか?)売ってくれたぜ?」
(断って宇宙で襲われたりしたらたまったもんじゃない、ってことだろうな、たぶん)
肩をすくめて答えたリオの視線から、口には出ない言葉を読み取ると、イガラは笑った。
「ははは!なかなか度胸もありそうだ。いいだろう。ハン!」
「へ、へいっ!」
「船の味をしっかりと身にたたき込んでやるんだな。それから、各人の好みもな。オレにはイチゴでもアルコールをかけろとな!」
そう言いつつ、それでも、イガラは練乳のかかったイチゴをぽいっと口に放り込むと、席を立って食堂を出て行った。
「え?・・・ってことは?」
「合格だとよ!」
ばん!とハンがリオの肩を勢いよく叩いた。
「まったく、このド心臓が!」
「そうか?」
「そりゃそうだろ?親父にあんなセリフを吐ける奴なんざ、いねーぜ?」
「一つ間違や、首が飛んでたぜ?」
「今日は親父、よほど機嫌がいいのか?席を立つとき目が笑ってたぞ?(ほんの少しだが)」
口々にリオに話しかけるクルーたちに、つい今し方の冷たい視線はなくなっていた。
「ほんと珍しいわ。イガラがあんな甘いものを口にするなんて。よほどあなたの事が気に入ったのかしら?」
「あ?ははは・・・・お、おやじは・・・そっちの毛はない・・はずだよね?」
意味ありげに含み笑いをしながら言ったドクトル・ミーナに少し焦りの色を浮かべた苦笑をリオは返す。
「さあ?わからないわよ?女っ毛もないから・・・ひょっとするとひょっとするかも?」
「ええーー・・・ドクトル、そ、そうなんすかあ?オレ、やっぱ、船下りようかな?」
「今下りたら宇宙空間だよ?」
「う”・・・・・」
「ま、覚悟してコック修行するんだな。身の危険を感じたらいつでも操舵室へ逃げてこい!」
「そっちも危なさそうよ?どうせならメディカルルームへいらっしゃいな。」
「おーい、ドクトル、若いつばめはイザム坊やだけにしておけよ!」
「え?ぼくのこと?若いつばめって?・・・ぼくつばめじゃないよ?」
ぎゃははははは!
一時、食堂内にクルー全員の笑いが響き渡った後、思い出したように、一人のクルーがリオに言った。
「で、超高級イチゴは親父にだけか?」
「大丈夫、みんなの分もあるよ。ちょっと待っててくれ。」
「あ!ぼく、ミルクたっぷりがいい!」
「おっけー♪」

イガラにはばればれのような気を受けながらも、それでも、助け船?を出してくれたことに感謝し、とはいえ、この先に不安がないわけではないが、ともかく今は練乳かけイチゴを盛ったお皿を片手に、リオは明るくクルーたちの間を配って歩いていた。

 


@お絵かき掲示板/^^;
上のはイチゴ部分だけをトリミングしてお皿をパスで描きました(w



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