Stardust Stargazer
−星屑(ほしくず) 星見人(ほしみびと)−


 
その21・密約  



イラスト by くずは


  

 (な・・なんだ、この感覚は?)
 (なんなの・・・この・・感覚?)
見合ったまま二人は不思議な感覚に囚われていた。
引きつけられるような感覚。不可思議な、まるで魂の神髄からわき出、お互いを引き合うような共鳴感、気の流れがそこにあった。
それは、魂が、それぞれの意識を無視して肉体という殻から抜け出、共に解け合ってまるで一つになろうとしているかのような感覚。

−ザッ!−
「イガラ?」
今ある己の意志さえ御しようとするその感覚に不安とある種の恐怖を覚えたイガラは、その状態から自分自身を解放するため、勢いよく立ち上がる。
と、同時に二人を包んでいたその不思議な感覚は消滅し、表情にこそ出さなかったが、二人ともほっと胸をなで下ろしていた。
「あ、いや・・・」
小さく答えてからイガラは少し早口に付け加える。
「トリックは何もないようだが、どうも落ちつかねー。話があるならさっさと話してくれねーか?」
「そうね。仲良し子よしで顔を会わせている間柄じゃないものね。じゃ、回りくどいことを言うのはやめて、本件に入らせてもわうわ。」
無言の了承をイガラの視線から読み取り、マイレリアは本題に入る。
「イザムを・・そのまま手元に置いておいてほしい。どこへも行かせずに。」
「はん?」
てっきりイザムを返せと言うものだと思っていたイガラは少なからず驚きをみせ、そして、同時にその言葉を発したマイレリアもその表情に驚きがあることに、イガラは気づく。
「あ・・・」
「どうした?まるであんたの意志に反し、口が勝手にしゃべったみたいだが?」
そのことを読み取られ、マイレリアは軽く苦笑すると、ため息をつき、一拍置いてから重そうに口をひらいた。
「なぜ・・かしら・・・・・イザムはこちらが保護するから渡して欲しいと言うつもりだったのよ。」
「さっきの感覚が言わせたのか?」
「さっきの・・感覚?」
「感じなかったとは言わせねー。あれは・・・・確かに、オレたちの内から出、お互いを引き寄せたがっていた。」
「イガラ・・・・あなたは女嫌いだと思ってたけど・・まさか、それもよりによって、こんな時に、そんな陳腐なセリフでくどくとは思わなかったわ?」
「ごまかすな!」
ぎっとにらんだイガラの鋭い視線を受け、嘲笑の笑みを浮かべて受け答えしていたマイレリアの表情に緊張が走った。
再び見合ったまま、いや、にらみ合ったまま、しばらく時が過ぎていた。


ふっと小さく笑い、その緊張を破ってマイレリアが立ち上がった。
「予定変更よ。さっきの感覚も気になるわ。納得しないことはとことん追求することにしてるのよ。」
「ほう。で?」
「あなたの船に乗せてくれない?」
「刺客をそばに置けってか?」
「あら、現状だってそんなようなものでしょ?」
「しかし、あんたみたいにはっきりした敵じゃーない。」
「はっきりした・・・ね?」
ふふっと軽く笑い、マイレリアは続ける。
「はっきりしてれば、用心もしやすいでしょ?」
水面下に隠れているより、というそれに続く言葉を読み取りイガラはにやっと笑った。
「だが、あんたはあいつの姉とそっくりなんだが・・・変装か?それともそれが本当の顔か?」
「ふふ。どっちだと思う?それに目的はあなたじゃないのよ。あくまでイザムよ。」
「ほう。」
余裕の笑みをみせるマイレリアをイガラはしばし見つめ、そして再びにやっと笑う。
「あの坊主に関しちゃ、オレも興味がある。なにやら奥が深そうだ。それにオレも、納得しないことをそのままにするのは好きじゃーねー。が・・・あんたはやっぱりオレにとっちゃ危険すぎる。軍特殊秘密調査部の諜報員の中でもスペシャリストだ。謎多き人物なんだぜ、あんたは?」
「分かったわ。じゃ、こう言えばいい?私のすべての行動の発端は、イザムの保護。彼を真っ直ぐ導く必要があるの。彼が他の影響に左右されない自我を形成するまで。」
「そうまでする意味は?」
「乗せてくれるのなら、おいおい話すわ。あなたという人物を見定めつつ、少しずつね。」
イガラはあごに手をあて、苦笑のような嘲笑を見せる。
「まー、いい。刺客をそばに置くのはあんたも同じだ。言っておくが、クルーたちも馬鹿じゃーない。あんたはこれまでもあちこちで暗躍している。だが、常に背後で部下を操り、決して表面上には出てこない。が、それなりに裏社会にゃ名前もおおよその人物像も通ってるんだ。たとえはっきり顔は割れてなくてもな。それに、その種の人物に関しちゃ、うちのクルーたちは、非常によく鼻が利くんだ。そして、あいつらは自分の感を最優先して行動を取る。ばれた日にゃ、命はねーぜ?」
「この世界に足を踏み入れた時から、私にとってはそれが日常なのよ。」
「・・・・日常・・か・・・・」
マイレリアのその言葉に共鳴感を覚えた自分を嘲笑しているもう一人の自分を感じつつ、イガラは、ドアに向かって歩き始めていた。
「イガラ?」
返事は?と言う言葉を乗せたマイレリアのその声に、イガラは振り向きもせず答えた。
「オレの船は、少数精鋭。クルーは今現在間に合ってる。それでも乗り込もうってんなら、オレにぞっこん惚れきった女にでも扮して出航間際にポートへ来るんだな。オレも男だ。甘い誘惑と心底からの情熱には流されないとも限らねーぜ?」
「は?」
「任務遂行の為なら、何でもできるんだろ?」
明らかにその大きな背中いっぱいにマイレリアに対する挑戦と嘲笑を見せつつ、イガラは部屋から出て行った。




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