Stardust Stargazer
−星屑(ほしくず) 星見人(ほしみびと)−


 
その20・密会・イガラと諜報員マイ  



  

 カツン、コツンと足音だけが暗い通路に響いていた。
そこはイーガルス星にあるガシャラ炭坑の一角にある坑道への通路の一つ。
現在閉鎖も間近か?と噂されるそこは、それでも慣れた仕事場からなかなか離れられない坑夫たちとその家族、そして同じ思いでその坑夫らを相手に商売をしている雑貨屋と酒場とで、それでも細々とそこに生活の灯りがあった。
辺境地でもあり、特にこれといった特産物も観光資源もなく、鉱石もほとんど取り尽くしたと言われているそこには、滅多に旅行者もやってこないが、だからこそイガラのような流れ者たちが後ろ暗い取引をするのには格好の場所ともなっていた。
もちろん、こんな辺境地にわざわざ連邦軍の正規兵士によるそういった取り調べも行われないからでもある。
一昔前は、行き交う坑夫たちでにぎやかだったそこも、閉鎖エリアとなってからは、入口も封鎖されていることもあり、誰一人として通る者もなく、しーんと静まりかえっていた。
それでも、まだ電気系統の配線は切られてないらしい。通路を照らす灯りが、まるでその人物を追っているかのように、照らしていた。
 
 


イラスト by くずは

 
 「時間通りね、イガラ。」
その人物が立ち止まると、不意に女の声が通路に響いた。
「ふん。ここはいつから軍事基地になったんだ?」
「あら、あなたがその情報を得てないなんて思わなかったわ、海賊イガラ。軍事情報など筒抜けなんでしょ?裏の裏まで?」
「抜かせ!オレはおめーらとは違う。興味のねーことまで手指は延ばさん。」
「あら、そう。まー、そうでしょうね、ここが軍施設になろうがなるまいが、こっちが無法者や闇取引に知らん顔してる限り、関係ないものね。」
挑発するようなその言葉には応えず、男はぐいっと女に睨みをきかせて、彼女の前に立つ。
そう、それは、明らかにイガラであり、そして女の方は意外にも諜報部員マイレリアだった。
「でも、安心して。正規の軍施設じゃないわ。」
「なるほどな。秘密裏の施設か?また何をたくらんでいるんだ、軍の裏組織は?他の通路と一見変わりねーが、あんたたちのやることだ、入口からずっとオレを見張ってたんだろう?その気なら一瞬にして息の根も止められたはずだ。」
「そうと分かってて、ここまで来るあなたもさすがね。」
「血も涙もねー海賊イガラに招待状をよこすあんたも、な?一人か?」
「そうよ。一対一でないと失礼でしょ?」
「ほう。」
にやりと口の端をあげ、イガラはマイレリアをじっと見つめる。
普通なら真っ青になって硬直してもおかしくないイガラの睨みを軽く笑みで流すその気丈さに、イガラも一応の敬意を表すことにしたらしい。
「で、イザムのことだったな?」
「ええ。」
気後れはしてはいない。が、一応緊張した表情もそこに浮かべたマイレリアは、くいっとあごを通路脇にあるドアに向け、イガラを誘ってから、彼に背を向け、先に立って彼女はドアに歩み寄っていく。
(ふん、小娘にしちゃー、なかなかのくそ度胸だな。ま、オレが自分に危害を受けないと確信している限り、背後からは撃ちもしねーと確信してるわけか。)
誘われたイガラは無言のままそんな彼女についてドアの中へと入った。

「コーヒー?紅茶?それともお酒の方がいいかしら?」
「いや、何もいらん。」
「そう。」
パパパっと照明がつき、中央にテーブルを挟んだソファが2つあるのみのがらんとした小部屋であることは一見して分かった。そこに他の諜報部員が息を潜めて見張っている気配もどこにもない。
が、どこかにあるボタン一つで、その何もない空間が一瞬にして変化するということも十分考えられる。
「ちょいと殺風景すぎないか?」
「あなたと話すのに、他に何が必要?」
下手な小細工は警戒心を呼び起こすだけ。そんなものは必要ないとでもいうような軽い笑みを見せたマイレリアに苦笑を見せ、イガラは勧められたソファに浅く腰を落とした。
それは、いわば敵地であるここでは、いついかなる事態になろうとも瞬時にしてそれに対応できる体勢でいることが必要な為である。

「で?イザムとあんたとの関係は?あ、いや、今でこそ身分を捨て、戸籍まで抹消して秘密調査員などしているが、実はあいつの実の姉、ドーシュ家の現当主だなどというふざけた答えはいらねーぜ?」
マイレリアがテーブルを挟んだソファにゆったりと腰を落としたことを確認すると、イガラは改めて深く座り直し、ソファの背にそのがっしりとした筋肉質の両腕をもたれさせる。

二人のその態度とは反対に、狭い小部屋の空気は、ぴんと張った琴の糸のように張りつめ、イガラとマイレリアは、互いの思惑を読み取るかのように微動だにせず、ただ静かに見合っていた。




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