Stardust Stargazer
−星屑(ほしくず) 星見人(ほしみびと)−


 
その19・イザムと海賊船クルーたち  

イラスト by COSMOSさん


  

 「ねー、リズー!!おかしなところ、分かる?」
「ちょっと待ってねー。いくら自由自在に伸縮可能なラバースーツだからって、やっぱり宇宙空間は動きにくいのよ。」

深刻さ、シリアスさ溢れる向こうと(向こうってどっち?)違い(笑)、海賊船は明るかった。(いいのか?海賊船だろ?)
イザムは最終チェック段階に入ったセレスに乗り、母船である海賊船から宇宙空間に出ていた。そして、セレスが言う所の、微妙なボルトのズレとかジョイントのズレや閉まり具合などを、船外活動が得意のリズに修正してもらっているのである。

そのスーツは、リズの春の新作・・・・というわけではないが、ともかくできたてのほやほや。柔軟度の違うゴム素材を使って、適合適所にそれらを配置して作った、船内外兼用可のラバースーツである。
元がアンドロイドのリズ。そのまま宇宙空間も可なのだが、そこはやっぱりアンドロイドでも女の子(え?
新作は着てみたいのが人情(人、ではないが)なのである。もっとも感情論だけでなく、着心地や耐久性などのチェックする為でもある。

「きゃっ!」
「リズっ!!」
セレスの中から見ていたイザムは、リズがうっかり手を滑らせて宇宙へ飛んでいったその瞬間を見て思わず大声を上げる。


「ごめんね、心配かけちゃった?大丈夫よ、命綱は切れてないし、脚を滑らせたその勢いで、ちょっと方向違いに飛んでいっちゃただけ。」
左腕につけたマジックハンドを伸ばして、セレスの尾翼に掴まって戻ってきたリズは、にっこりと窓越しにイザムに笑いかける。
「”だけ”って、リズ・・・ぼく、びっくりしちゃったよ。そういえば、命綱してたんだったよね。ワイヤーがあんまり細くて目に見えてないから、忘れちゃってたよ。」
「宇宙空間では油断と過信は禁物よ。備えあれば憂いなし!いくらあたしがアンドロイドで、このマジックハンドがあるからって、命綱なしなんて無謀なことはしないわ。たとえ・・」
『なくても大丈夫!』
「の自信があってもね!・・あ、あら・・・」
「あはは!」
”なくても大丈夫!”のところをハモった2人は共に愉快そうに笑い声をあげた。


イザムはすっかりクルーの中にうち解けていた。というよりマスコット的な存在となっていたと言ったほうがいいかもしれない。
なんでも真剣に聞き、真っ正直で、ちょっと?一本気。一日でも早く姉のマイを助けにいきたいくせに、ぐっとそれを口にするのもこらえ、言われた仕事を一つ一つきちんとこなしていく。血も涙もないと恐れられている海賊イガラのクルーであっても人の子である。そんなイザムの後ろ姿は一様に胸にじんとくるものがあった。
そんなわけで、いつの間にかイザムにとって、海賊船に身をよせたことは、周囲に最高の教師を持つ環境のところへ身を寄せたと言ってよかった。クルー一人一人、誰をとっても、その道のエキスパートばかりである。


航海士のフェムーン、通称フェムからは、宇宙マップの見方、操縦方法の基礎などを学び、戦闘員兼通信士であるシルビア(ジル)からは、その両方を教えてもらっている。
その他にも、セレスとの同調時には、まだまだドクトル・ミーナのアドバイスと、体調管理などのサポートは不可欠だったし、セレスの細部調整には、前述の通り、リズの協力なくしてはなかなかかゆいところまで手が届かない。
例え低速であろうと航行中のスターシップの船外で待機し、おかしなところがあったら、即修理するなんてことができるのは、世界、いや、宇宙広しといえど、そして、いくらアンドロイドといえど、リズだからこそできる、いや、やってくれることだとイザムも思っていた。
それはとりもなおさず、リズにそこまで肩を入れさせるイザムの功績でもある。姉思いのけなげな少年。プラス、それには、何やらとんでもなく重大事項がバックボーンにあるような気配。それはリズでなくても、イガラも、そして他のクルーも感じ、興味を持った原因でもある。


「あの丸っこかったぼんぼんも、だいぶしまってりりしくなってきたようだな。」
「ええ、一日でも早く、一人前になりたいんでしょうね。何をやるにも真剣で・・・いじらしいくらいよ。」
「はは。ドクトルがそこまで肩入れするなんざ、珍しいな?人間嫌いじゃなかったのか?」
「イザムは別よ。機械思考との同調なんて、すごい能力よ?あの子にはまだまだ他の特殊能力がありそうだと睨んでるの。」
「ドクトルにかかっちゃぼうずもテストケースか?」
「あら、人聞きの悪い事言わないで。そりゃ興味はあるけど、テストケースだなんて思ってないわ。あなたこそどうなの、イガラ?普通なら例え子供だろうと赤ん坊だろうと、情けなんかかけないはずよ?それをわざわざ爆発直前に転送収用までして、億単位の修理費をかけてセレスを復元してやったり・・・あなた、ホントにイガラ?」
「はは、ま、オレの場合は単なる気まぐれだ。荒らし回るのもちょいと飽きがきてたからな。坊主を手駒に持ってりゃ、面白い事が向こうからやってきそうな気がしないか?」
「まーね、それはみんなも感じてるみたい。」
ミーナは訳ありげな笑みを見せイガラを見つめると言った。
「それと姉のマイ?」
多少焦りの色がイガラの顔に出たと感じたのは、ミーナの気のせいだけだろうか。
イガラの答えはいつもより気持ち早口だった。
「ん?なぜそうなる?」
「あら♪だってあの耳の効く猫族のフェムにさえ聞こえなかったのに、聞こえたんでしょ?可憐な女性の声が?」
「ドクトル?」
「きっかけはどうあれ、いいんじゃない?この船は、あなたが規則であり舵なんですもの。誰も反対しないわ。とってもいい子だし。ね?」
ぎろっと睨んだイガラの耳に、明るい笑い声を残しミーナは立ち去って行った。

(ったく・・・フェムの野郎、クルー全員に吹聴しやがったな?)
苦虫を噛み潰した表情のイガラの脳裏に、その時の声がよみがえっていた。
『・・助けて・・・お願い・・弟を・・・・イザムを・・・助け・・て・・・』
(なぜ声がいつまでも残るんだ?・・・オレは泣く子も黙る血も涙もない海賊だぞ?連邦艦隊大型艦でさえ尻尾を巻いて逃げる大海賊だぞ?それが・・どうしたんだ、オレは?あの坊主の事となると、無意識のうちに動いてしまう。それに・・記憶に残らないあの夢は・・・・・)

イザムの波紋はクルーたちだけでなく、イガラの忘れ去った心の奥底の記憶にまで浸透してきていた。



海賊船でもまれ、りりしくなってきたイザム



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